『ジェーン』:2015、アメリカ

1871年、ニューメキシコ準州。ジェーン・ハモンドが5歳になる娘のケイティーと一緒に暮らしていると、夫のハムが馬で戻って来た。ケイティーは無邪気に喜ぶが、ハムは馬から崩れるように落下した。ジェーンが慌てて駆け寄ると、彼は背中に何発もの銃弾を浴びていた。ジェーンはハムをベッドに運び、弾丸を摘出して傷口を処置する。ハムの「ビショップの連中が追って来る。許してくれ」という言葉に、ジェーンは顔を強張らせた。
ジェーンは着替えを済ませて拳銃を鞄に入れ、ハムの傍らにも拳銃を置いた。ハムが「お前はケイティーと逃げろ。あの子の安全のためだ。これ以上は子供を失いたくないだろ。戻って来なくていい。覚悟はしてる」と話すと、ジェーンは「馬鹿言わないで」と告げる。彼女はケイティーを近所の婦人に預け、馬を走らせてダン・フロストの牧場を訪ねた。ダンはライフルを構え、「前にもハッキリと言っただろ。ここには来るな」と声を荒らげた。
ジェーンは構わずに家へ上がり込み、助けを求めた。ダンが「自分の亭主に頼め。昔の女を喜ばせている暇は無い」と拒否すると、彼女ははハムが怪我を負ったことを話す。「ビショップたちに追われてる。腕のいいガンマンが必要なの」と彼女が説明すると、ダンは「相手がビショップ一家なら、ガンマンじゃなくて軍隊が必要だ」と冷たく言い放った。「俺がアンタなら、役立たずの亭主を保安官に引き渡す。亭主が吊るされれば連中も満足する」というダンの言葉に腹を立てたジェーンは、「お言葉を返すようだけど、貴方こそ役立たずだわ。ララバイの町で他の人を雇う」と告げて去った。
一味の頭目であるジョン・ビショップは、ハムから毛皮を買い取っている店主を拷問した。彼は手下4人を殺したハムの自宅や妻について尋問し、「北に向かうのを見た」という情報しか知らない男を始末した。町に到着したジェーンは、大量の弾薬を購入した。「ジョン・ビショップ。5千ドル」という賞金首の張り紙を見た彼女は、過去を振り返った。1864年、ミズーリ州。ジェーンは娘のメアリーを伴い、ビショップのキャラバンを訪ねた。用心棒のハムに声を掛けた彼女は、ビショップの弟のヴィクと話すよう指示された。
幌馬車に乗せてほしいというジェーンの頼みを、ヴィクは断った。しかしジェーンに興味を抱いたビショップは彼女を呼び寄せ、事情を聞く。婚約者が南北戦争で死んだことをジェーンが話すと、ビショップは「特別に便宜を図ろう。安全に送り届ける」と告げた。1871年。銃砲店を出たジェーンは、ビショップ一家のフィッチャムに捕まった。男が銃を向けて「ハモンドはどこだ?」と尋問すると、ジェーンは「何年も会ってない」と嘘をついた。
フィッチャムが「だったら家まで案内しろ」と要求すると、ダンが現れてライフルを向けた。フィッチャムは「ハモンドを捕まえるんだ。手を貸すなら仲間に入れる。金も女も山分けしようぜ」と提案すると、ダンは座って話を聞く。ジェーンは油断した男を射殺し、ダンと共に町から逃走した。ジェーンはダンを外で待たせ、家に入ってハムに「応援を呼んだ」と告げる。ダンは待っている間、酒を飲みながら過去を回想する。かつて彼は心配するジェーンを残し、「必ず戻って来る」と約束して戦地へ赴いていた。
家から出て来たジェーンは、ダンに金を渡して用心棒に雇った。ビショップは手下たちに、ハムの徹底的な捜索を命じた。ジェーンはダンに、家へ来る道が1本しか無いこと、裏の崖は登れても下りられないことを話す。そういう場所を探して、彼女とハムは家を建てたのだ。ダンは台所で洗い物を始めたジェーンの姿を外から眺め、過去を振り返った。1866年、ニューメキシコのラファエル。ダンはジェーンの写真を持ち歩き、彼女の行方を捜していた。酒場に入った彼が聞き込みをしている時、たまたまビショップの手下がいた。ビショップは手下からダンのことを聞き、事務所に呼んだ。すると同席していたヴィクが、「ジェーンを見つけたきゃビル・ハモンドを捜せよ」と軽く口にした。
ビショップは仕方ないといった様子で、雇っていたハムがジェーンに惚れて1年以上前に2人で姿を消したことをダンに話す。さらに彼はハムが冷酷非道な男であること、2千ドルの賞金首になっていることを語り、捕まえてくれたら倍額を出すと持ち掛けた。「部下を2人付ける」とビショップは提案するが、ダンは「悪いが、1人で捜したい」と断った。彼が去った後、ビショップはヴィクを睨んで「また余計なことを言ったら舌を切り取るぞ」と凄んだ。
1871年。ダンはジェーンに、敵を迎え撃つ準備として家の中を見ておきたいと告げる。ジェーンは彼を家へ招き入れ、ハムに紹介した。床下の貯蔵庫に幾つもの瓶が保管されていることを知ったダンは、全て空にするようジェーンに指示した。外で作業するダンの姿を眺めたジェーンは、彼と幸せに暮らしていた過去を思い出した。ジェーンはダンが元恋人だと知るハムに、「彼しか頼れる人がいなかった。彼にとっては単なる仕事よ」と告げた。
ジェーンが瓶を空にすると、ダンは「20個には灯油を入れておけ。残りは砕いて、ありったけの釘を集めろ」と指示した。ダンが「俺を待つことに飽きて、お尋ね者に乗り換えた。変わり身の早い女だ」と批判すると、ジェーンは「何も知らないくせに。事情は複雑なの」と反論した。馬に乗ったスロー・ジェレマイアという男が家に近付くと、ダンは彼に話し掛けた。スローがハムを捜していると言うと、ダンは「この辺りでは誰も見ていない」と告げた。
スローがジェーンの姿を確認すると、ダンは発砲して怪我を負わせた。ダンは落馬したスローに歩み寄り、「仲間はどこにいる?」と尋問する。スローが「谷のあちこちにいるぜ」と挑発的に言うと、ダンは彼を始末した。ダンはジェーンに、「戦いは勝たないと意味が無い。恐怖は大切だ。命を守ってくれる」と語る。彼は南軍の捕虜になっていたこと、ジェーンが心の支えになって生き延びたことを話す。解放された彼はジェーンを見つけ出すが、ハムの赤ん坊を抱いていたので絶望して立ち去った。
ダンはハムの元へ行き、拳銃を構えて憎まれ口を叩いた。7年前の1864年、テキサス州。ハムはジェーンに惹かれたことをビショップ兄弟に明かし、結婚するため足を洗いたいと申し入れた。ビショップは「ジェーンには売春宿で働いてもらう。あれは大金を稼げる」と言い、彼の要求を認めなかった。現在。ジェーンはダンに、「馬車を用意した。夜が明けたらハムを乗せて崖を越えましょう」と話した。「娘はどうする?」と質問された彼女は、「落ち着くまで友人の所に預ける」と答えた。
「そろそろ君のことを話してくれ」とダンが告げると、ジェーンは孤独に耐えられずニューメキシコへ移ろうと決めたこと、ビショップに付いて行ったことを語る。しかしビショップは女たちを騙し、売春のための町を作った。そんな中、ハムだけがジェーンを助けようとした。ダンが出征した後、ジェーンは妊娠に気付いてメアリーという娘を出産した。ビショップがジェーンをララバイへ連行した時、ヴィクがメアリーの世話を命じられた。メアリーの姿が見えないので、ハムはヴィクに彼女のことを尋ねた。ヴィクは「あのガキ、手に負えない。泳げねえんだ」と面倒そうに言い、川へ走ったハムはメアリーの靴が浮いているのを発見した。ハムは売春宿の男たちを射殺し、ジェーンを連れて逃亡したのだった…。

監督はギャヴィン・オコナー、原案はブライアン・ダッフィールド、脚本はブライアン・ダッフィールド&アンソニー・タンバキス&ジョエル・エドガートン、製作はナタリー・ポートマン&エイリーン・ケシシアン&ザック・シラー&メアリー・リージェンシー・ボーイズ&スコット・スタインドーフ&スコット・ラスタイティー&テリー・ダガス、製作総指揮はデヴィッド・ボーイズ&ディラン・ラッセル&クリス・コーエン&パリス・ラトシス&ジェイソン・ローズ、製作協力はアンドリュー・メルティン&アイヴァン・J・フォンセカ&ザック・モージェンロス&ジョナサン・コーエン&キム・バートン、共同製作総指揮はスコット・ランバート&ピーター・フラックマン、共同製作はキャサリン・S・チャン&マリサ・ポルヴィーノ&ケイト・コーエン、撮影はマンディー・ウォーカー、美術はティム・グライムズ&ジム・オーバーランダー、編集はアラン・コディー、衣装はキャサリン・ジョージ&テリー・アンダーソン、音楽はリサ・ジェラルド&マルチェロ・デ・フランシスチ。
出演はナタリー・ポートマン、ジョエル・エドガートン、ユアン・マクレガー、ノア・エメリッヒ、ロドリゴ・サントロ、ボイド・ホルブルック、ジェームズ・バーネット、サム・クイン、メイシー・マクマスター、ジェニー・ゲイブリエル、アレックス・マネット、パイパー・シーツ、セリア・ケスラー、リンダ・マーティン、クリステン・ハンセン、ローレン・プール、ジェームズ・キンズファザー、ロブ・ヤノフ、チャド・ブラメット、ブーツ・サウザーランド、ヴィクトリア・デマーセマン、ナッシュ・エドガートン他。


主演のナタリー・ポートマンが製作も兼任した作品。
監督は『プライド&グローリー』『ウォーリアー』のギャヴィン・オコナー。
脚本は『ダイバージェントNEO』のブライアン・ダッフィールド、『ウォーリアー』のアンソニー・タンバキス、『ディスクローザー』『ザ・ギフト』のジョエル・エドガートン。
ジェーンをナタリー・ポートマン、ダンをジョエル・エドガートン、ビショップをユアン・マクレガー、ハムをノア・エメリッヒ、フィッチャムをロドリゴ・サントロ、ヴィクをボイド・ホルブルックが演じている。

この作品、撮影に入るまでには紆余曲折があった。
当初は『モーヴァン』『少年は残酷な弓を射る』のリン・ラムジーが監督を担当し、マイケル・ファスベンダーがダン・フロスト、ジョエル・エドガートンがジョン・ビショップを演じる予定だった。しかしファスベンダーは『X-MEN:フューチャー&パスト』の撮影が遅れて参加できなくなり、エドガートンがダン役に回ってビショップ役にはジュード・ロウが起用された。
この体制で撮影がスタートできるはずだったが、リン・ラムジーがプロデューサーと対立して降板。彼女が監督と聞いてオファーを受けたジュード・ロウも降板した。
ギャヴィン・オコナーが新たな監督に就任し、ジュード・ロウの後釜にブラッドリー・クーパーが起用された。俳優としての格を考えれば充分すぎる代役で、ようやく撮影が始まるはずだった。
ところが今度は『アメリカン・ハッスル』の撮影が延びたため、ブラッドリー・クーパーが降板。ユアン・マクレガーが代役に起用され、ようやく撮影に入ったという次第だ。

ものすごく細かいツッコミかもしれないし、野暮な指摘になるのかもしれないが、どうしても導入部で引っ掛かってしまうことがある。
馬から落下したハムにジェーンが駆け寄った後、シーンが切り替わると「ジェーンがベッドに寝かせたハムの処置をしている」という状況になっていることだ。
つまり、ジェーンは一人でハムをベッドまで運んだってことになる。
でも、あれだけの距離を、そんなに怪力には見えないジェーンが一人だけで運んでベッドに寝かせるってのは、至難の業だよな。
まあ「夫を助けたい」ってことで火事場の馬鹿力が出たと解釈すりゃいいのかもしれないけど、どうしても気になったので、一応は触れておく。

ダンはジェーンが助けを求めると、冷徹に拒絶する。
「他の男に奪われた元カノの頼みを断る」ってのは、キャラの動かし方として決して間違っているわけではない。どうせ「そんなこと言いつつも結局は助ける」という動かし方をすることも、その段階で分かり切っているし、そういう意味でも全く問題は無い。
ただし、「断るにしても、その言い草は何だ」ってのが気になる。ただ冷たいってだけじゃなくて、ジェーンとハムへの侮辱が酷いんだよね。
幾ら後からリカバリーのための行動が待っているにしても、あまりにも好感度の低すぎる段階からのスタートなので、「そこまで下げなくて良くね?」と言いたくなる。
ダンが「心を閉ざしている男」じゃなくて、「拗ねている男」になってんのよ。
それだと度量の大きさが全く違うわけでね。

そんなダンは、銃砲店を出たジェーンのピンチに駆け付ける。
ホントはジェーンが自力で解決するのが一番だけど、それだとダンの仕事が無くなるので、助けに来るのは別にいい。
ただ、せっかく助けに来たのなら、それなりの仕事は果たすべきでしょ。フィッチャムが取引を提案したら話をじっと聞いているだけで、その間にジェーンが相手を始末しちゃうのよ。
そりゃあ、ダンと話していて隙が出来たから、ジェーンが殺せたってことではあるのよ。ただ、それだとダンの仕事が半端でしょ。
なぜ彼に射殺させないのかと。
ダンに撃たせないのなら、ジェーンが自力で解決する形にしちゃった方がスッキリするわ。

「どうしようもなくダンがカッコ悪い」ってのは、この映画における大きな欠点と言っていいだろう。
彼は「ジェーンは自分を裏切った」とか、「ハムは卑劣なお尋ね者」と誤解している。だから恨みつらみをグチグチと言いまくるのは、心情としては理解できるのよ。
でも、どういう事情があるにせよ。それは「捨てられた男が元カノに愚痴る」という、ものすごくカッコ悪い行為であって。
ある程度の怒りや苛立ちなら同情心も湧くけど、ダンに対しては「器の小さい男だな」と呆れるだけだ。
ハムが卑劣な悪人じゃないことは最初からバレバレなので、それに気付かずにダンが強い憎しみを抱き続けているのも底抜けの阿呆にしか見えないし。

ダンはジェーンからギャラを受け取って協力する決めたんだから、そこからは「お仕事」と割り切って淡々と作業をすすめりゃいいのよ。
そうしておけば、「ジェーンはダンへの罪悪感を抱いている」という部分を描きやすくなる。
ダンがやたらと愚痴をこぼすので、ジェーンも売り言葉に買い言葉で反発せざるを得なくなる。そうなると、「ジェーンがダンに申し訳ないと思っている」という部分も全く表現できなくなってしまう。
そのせいで、ダンだけじゃなくてジェーンも魅力的とは言い難いキャラになってしまう。

ジェーンはダンから「そろそろ君のことを話してくれ」と言われ、過去を語る。
それまでダンがジェーンを非難するだけで何も話を聞こうとしなかったのに、そのタイミングで「そろそろ」と切り出すのは都合が良すぎるが、それはひとまず置いておくとしよう。
ジェーンは過去の出来事で、メアリーの死についても触れる。ただ、その回想シーンは、「ハムが川へ行ったらメアリーの靴が浮いていた」という形で済ませている。つまり、ジェーンがメアリーの死を確認したわけではないのだ。
ジェーンの回想シーンなのに、「ハムがメアリーの靴を発見した」というだけで済ませるのは、ものすごく引っ掛かる描写だ。

なぜ「メアリーの靴が浮いている」というだけで済ませるのかというと、完全ネタバレだが、後で「実はメアリーが生きていた」という展開が用意されているからだ。
だけど、そもそも「ジェーンがメアリーの靴を発見し、必死で彼女を捜索する」という手順を描いていない時点で、「ホントに母親なら、靴が浮いているだけで諦めるかね」と疑問を抱くのよね。
あと、「メアリーが生きていた」と明かされても、それを素直に喜べないんだよね。もちろん、それはジェーンにとってもダンにとっても喜ばしい出来事なんだけど、あまりに安易で楽天的な展開に「何だかなあ」と言いたくなっちゃうのよね。
そんでハムが死んで、ジェーンは元カレと子供たちに囲まれて幸せになるのよね。それを「ハッピーエンド」として受け入れるほど、ワシは寛大に成り切れないなあ。

終盤、ダンが「君は逃げろ。娘を連れて他の土地へ行け」と告げると、ジェーンは「ずっと逃げてばかり。いつもそうだった。連中が相手だろうと、この家だけは守る。何があろうと、もう二度と逃げないわ」と語る。
力強い言葉だけど、実際にビショップ一家と戦うのはダンの仕事なのよね。ジェーンが「逃げずに自力で敵と戦おうとしている」ってわけではないのよ。
早い段階でダンに頼っておいて、そのくせ「逃げずに家を守る」と偉そうなことを言われても、「どの口が言うのか」とツッコミを入れたくなるわ。
そりゃあダンに協力はしているけど、「勇敢に戦う女性」という印象は乏しい。最後の最後は自分で戦うけど、基本的には元カレに助けてもらう女に過ぎないのよ。
あと、終盤の戦いは、画面が暗くて何がどうなってんのかサッパリ分からんぞ。

(観賞日:2020年3月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会