『ジャガーNO.1』:1979、アメリカ

グランド・ヴァレー。記念塔の爆破を阻止するため、ジャガーのコードルームを持つ諜報員のジョナサン・クロス、クーガーの名を持つブレットの2人が急行した。彼らはケーブルカーで記念塔へ向かう途中、爆弾を仕掛けて降りて来た犯人を目撃する。ジャガーは犯人を追い掛けようとするが、背後からブレットに撃たれて負傷する。その直後、記念塔は大爆発を起こした。諜報組織G6は、行方を眩ましたブレットを死亡したと断定した。
ジョナサンは傷が回復した後も復帰せず、故郷であるコロラドの牧場で先生と共に暮らしていた。そんな彼の元に、G6の部長であるアンナがやって来た。彼女はエル・ハバブで指導者のハッサンがコブリンツという英国人に殺されたこと、中東で1週間に2人の指導者が殺されたことを話し、復帰するよう求めた。ジョナサンが断ると、アンナはエステバンという男が黒幕であること、そのエステバンがブレットの死に関わっていることを話した。
ジョナサンは仕事に復帰することを決め、エル・ハバブへ飛んだ。彼はブレットの義父であるベン・アッシャーと会い、協力を要請した。コブリンツに話を聞こうと考えたジョナサンに、アッシャーは彼が収容されている刑務所の部屋を教えた。「コブリンツが白状したら殺害される」とアッシャーは言い、自分の目を潰したハビシュ刑務所長の名を出して「奴に会ったらワシの名を言え」と告げた。
アッシャーは刑務所に詳しい孫のアーメッドに同行を指示し、ジョナサンを案内させる。深夜、ジョナサンは車にアーメッドを待機させ、刑務所に潜入した。彼はハビシュと看守を叩きのめし、拷問を受けて尋問されていたコブリンツを助ける。ジョナサンはコブリンツを連れて刑務所から脱出し、車で逃亡する。コブリンツはエステバンと面識が無く、フレミングという連絡員しか知らなかった。コブリンツは、フレミングが次にヴィラノバ将軍を狙っていることを話した。
ジョナサンがニューヨークのG6本部に行くと、アンナの部下たちは「ハッサンが麻薬取引を断った。米国が武器供給を保証すればケシ畑を焼ける。ところが米国は軍事援助を中断した。ハッサンは農民に助成金を支払う」「新しい麻薬源が出来るわけだ」「ヴィラノヴァとの協定はどうなる?」「サンタ・フォルツナは阿片を売らない。協定国も取引も無い」「どちらもスイス銀行から大金を受け取っている」「しかし麻薬は出なかった」「それでハッサンが殺された」「エル・ハバブから阿片が積み出されたそうだ」「サンタ・フォルツナからも阿片が運び出されている」などと会話を交わした。
ジョナサンが「エステバンは総元締めだ。新しい連合組織を統率している。極東を含む全ての麻薬原産地を結んでいる」と語ると、アンナはサンタ・フォルツナへ飛ぶよう指示した。ジョナサンが空港に降り立つと、コンスエラという女性が車で待ち受けていた。滞在中の面倒を見るのが仕事だという。ジョナサンが「フレミングはどんなヘマをやらかしたんだ?」と尋ねると、彼女は「ラテン家族の伝統を無視したのよ。将軍の甥を誘拐しようとしたの」と答えた。
「なぜ将軍はフレミングを殺さない?」とジョナサンが訊くと、コンスエラは「ヴィラノヴァは甚振って楽しむのが好きなのよ」と述べた。ジョナサンはコンスエラに教えられたヴィラノヴァの寝室に侵入し、彼を捕まえてフレミングを放すよう要求する。そこへコンスエラが兵士を連れて現れた。コンスエラは将軍の仲間で、寝室にいた男は偽者だった。そこに現れた本物のヴィラノヴァは、エステバンと大きな取り引きを結んだことを話した。ジョナサンは衛兵を倒してヘリコプターを奪い、サンタ・フォルツナから脱出した。
香港に飛んだジョナサンは、現地の情報屋から麻薬に関するネタを入手する。彼は小さな漁船を調べ、リチャーズ船舶会社へ麻薬を運んでいることを突き止めた。G6リオ支部からはリチャーズの船にバナナが積まれた情報が、サンフランスシコ支部からはローマのジーナ・ヴァナコーアに雇われたリチャーズの船がドックを出たという情報が届いた。アンナはジョナサンに、「リチャーズの息子救出の道具として、ヴァナコーアを調べて。リチャーズの息子は3ヶ月前に誘拐されてるわ」と連絡を入れた。
ジョナサンはマドリッドにあるリチャーズの屋敷へ行き、彼と会った。リチャーズはジョナサンに、誘拐犯が息子を返してきたこと、他の子供や孫たちのことを考えて犯人の言いなりになっていること、命令に従って麻薬の移送に船を使わせていることを話した。ジョナサンはリチャーズの息子と話すことを求めるが、彼は返された時点で死体となっていた。屋敷を後にしたジョナサンの元にアンナが現れ、ジーナが誘拐に関与していたことを教えた。
ジョナサンがアンナと話していると、男が狙撃してきた。ジョナサンは男が乗り込んだ車を追い掛け、ボンネットに捕まるが、途中で振り落とされてしまった。ジョナサンはローマへ飛び、大工場を営むジーナと会った。ジョナサンが親玉は誰なのか質問すると、ジーナはアダム・ケインであること、彼がマカオにいることを素直に教えた。彼女は手下のカルロたちに指示し、ジョナサンを襲わせる。しかしジョナサンは軽く蹴散らし、その場を後にした。
マカオに飛んだジョナサンは、昔馴染みのテリーという女から連絡を貰う。テリーはケインから連絡を頼まれたことを話し、彼が東京にいること、すぐに戻って来ることをジョナサンに教えた。尼僧として暮らしているテリーは、教会で面倒を見ている少年に吹き矢を発射させ、ジョナサンを薬で眠らせた。その様子を見ていたテリーにエステバンが近付き、「良くやった。奴はアダム・ケインに会わせる」と告げる。エステバンはジョナサンを箱に詰め、航空便で東京へ送る…。

監督はアーネスト・ピントフ、脚本はヤボ・ヤブロンスキー、製作はデレク・ギブソン、製作協力はクイン・ドノヒュー、製作総指揮はサンディー・ハワード、撮影はジョン・カブレラ、編集はアンジェロ・ロス、美術&衣装はロン・タルスキー、音楽はロバート・O・ラグランド。
出演はジョー・ルイス、ジョン・ヒューストン、クリストファー・リー、ドナルド・プレザンス、バーバラ・バック、キャプシーヌ、ジョセフ・ワイズマン、ウディー・ストロード、ガブリエル・メルガー、アンソニー・デ・ロンギス、サリー・フォークナー、ゲイル・グレンジャー、アンソニー・ヒートン、ルイス・プレンデス、サイモン・アンドリュー、ジェームズ・スマイリー、オスカー・ジェームズ他。


世界空手選手権の元チャンピオンであり、チャック・ノリスに勝ったこともあるジョー・ルイスが主演デビューを飾ったアクション映画。
リチャーズをジョン・ヒューストン、ケインをクリストファー・リー、ヴィラノヴァをドナルド・プレザンス、アンナをバーバラ・バック、ジーナをキャプシーヌ、アッシャーをジョセフ・ワイズマン、先生をウディー・ストロード、アーメッドをガブリエル・メルガー、ブレットをアンソニー・デ・ロンギスが演じている。
『黄金銃を持つ男』のクリストファー・リー、『007は二度死ぬ』のドナルド・プレザンス、『007は殺しの番号』のジョゼフ・ワイズマンと、007で悪役を演じた3人が出演しており、さらに『私を愛したスパイ』のボンドガールだったバーバラ・バックも登場。
そしてシリーズではないが、イアン・フレミングの小説を基にしているパロディー映画『007 カジノ・ロワイヤル』を撮った1人であり、M役で出演もしていた演じたジョン・ヒューストンも登場している。
これは明らかに、意図的に集めたキャスティングだ。

まず冒頭シーンからして、シオシオのパーだ。
ジョー・ルイスという人をアクションスターとしてアピールすべきだろうに、最初に用意されているのが車を運転するシーンで、次は銃を使おうとするシーン。
しかも、使おうとするだけで、すぐに背後から撃たれて、それで終わってしまう。
つまり、この冒頭シーン、主人公であるジョナサン・クロスは、エージェントとしての能力を何一つ見せていない。全く活躍していないのである。

そもそも、犯人を見つけた時に追い掛けようとしている時点で、ちっとも有能ではない。
それよりも、今は爆破を阻止することが先決じゃないのか。冒頭でヘリコプターの男が「記念塔が爆発したら谷が埋まる」と言っているんだし。
ただ、ジョナサンがブレットに撃たれた直後、記念塔は爆発しているんだよな。
ってことは、もう明らかに間に合ってないよな。
しかし、記念塔が大爆発したら、すぐ近くにいるブレットや実行犯だって危ないんじゃないのか。

そんな全く観客の心を掴めないオープニングの後、「ジャガーは回復次第、復帰させる」という声が入り、タイトルロールに入る。
そこではコロラドの山奥で先生(ホントに「センセイ」と呼ばれているのだ)と共に武術の稽古をしているジョナサンの姿が写し出されるが、どうやら復帰しなかったらしい。
で、町に降りた2人はチンピラたちに絡まれるが、最初に戦うのは先生。
いやいや、そこはジョナサンが格闘の強さをアピールすべきであって、先生は戦うにしてもサポートするだけに留めるべきでしょうに。

あと、もうさ、ジョナサンがコロラドで暮らしているシーンから物語を始めればいいんじゃないのかと。
どうせ冒頭シーンでジョナサンは全く活躍していないんだし、山奥での生活シーンから始めて、「実は引退した凄腕諜報員だったので、復帰を要請される」という展開に持って行けばいいんじゃないかと。
そうすると、ブレットとの因縁話が描写できなくなるが、そんなの大した問題じゃないよ。

アンナとの会話で、ジョナサンはブレットに撃たれたと気付いていないことが判明するが、あの状況で、他に誰が撃つんだよ。ジョナサンの後ろにいたのはブレットしかいなかっただろうに。
そんでアンナは「ブレットの死因はエステバンよ」と言うのだが、何故そんなことが言えるのか。
それとさ、「ブレットは死んだとG6は思っている」「ジョナサンはブレットに撃たれたことを知らない」ということで話を進めていくのなら、ブレットがジョナサンを撃ったことを冒頭で観客に見せて、死んでいないのもバレバレの状態になっているというのは、どう考えたって得策じゃないでしょ。
誰がジョナサンを撃ったのかは、分からないようにしておくべきじゃないのか。

そもそも、ジョー・ルイスのデビュー作品であることを考えると、諜報部員という設定からして失敗なんじゃないかと感じるぞ。
何しろ、格闘アクションってのが、そんなに多くないのよね。
コロラドの喧嘩シーンで戦った後、仕事に復帰してからは、なかなかマトモな格闘が無い。刑務所では素手で戦うシーンがあるが、一方的に相手を叩きのめすだけだから、格闘アクションとは言い難い。
その後は、すぐに銃を手に取っている。だからってガンアクションをたっぷりと見せるわけでもなく、すぐに脱出してカーチェイスに移る。
ジョー・ルイスの得意分野が、ちっとも活かされていないのである。

あと、もう面倒だから一つ一つは触れなかったけど、途中で登場人物たちが語る状況説明のための台詞が、すげえ分かりにくい。それなりに詳しく説明しているつもりなんだけど、何が言いたいのかサッパリだ。
例えば粗筋にも書いた、ジョナサンがニューヨークのG6本部に赴いた時の部員たちの会話なんかも、自分で書いていても、「何が言いたいのか」ってのは全く理解できない。そこに限ったことではなく、他の連中の説明台詞も同様だ。
だから、G6が何を調べようとしているのか、台詞に出てくる連中の相関関係はどうなっているのか、どういう人物なのかを把握するのは至難の業だ。
そもそも、話自体が無駄にややこしいんだよな。ややこしいっていうか、デタラメすぎてグチャグチャになっているっていうか。

サンタ・フォルツナではコンスエラという女の裏切りでジョナサンは捕まるのだが、そもそもコンスエラが味方として振る舞っている時間は数分程度で、あっという間に裏切っちゃうので、「信じていた見方が裏切った」という仕掛けとしてはペラペラだ。
で、ヴィラノヴァはすぐにジョナサンを始末しようとせず、饒舌に余計なことを喋った後で銃殺しようとするので、あっさりと人質に取られる。
しかし、ジョナサンは彼を人質に取ったままヘリまで移動して逃亡を図ればいいのに、すぐに解放してしまう。
だからバルコニーの兵士から発砲を受けるのだが、なぜかヴィラノヴァは殺害指令を出さず、「生け捕りにしろ」と要求する。
どっちもマヌケだ。

そんな状況になる直前、ヴィラノヴァはバイクに乗った3人が広場に到着したのを確認して「お別れの時だ。銃殺隊を紹介しよう」などと言っている。
なので、「銃殺するのにバイクの連中なんか要らんだろ」と思っていたら、その後のアクションシーンで「生け捕りにしろ」とヴィラノヴァが指示した時に、そのバイクメンがジョナサンと戦う展開になる。
ようするに、それをやりたいがために、不自然な形でバイクメンを用意したのね。

ジョナサンが世界各地を飛び回るのは、たぶん007シリーズを意識してのことだろう。
しかし、その場所へ行く理由は、とても薄弱だ。
まだエル・ハバブやサンタ・フォルツナは「関係者がいるから」という名目があるけど、香港に関しては、なぜジョナサンが向かったのか全く分からない。
その直前に彼はアンナへの通信で「エステバンは警戒してる。予想以上に動きが早い。市場拡大のために小さな麻薬屋を吸収する」と話し、そんで「俺は香港へ行く」と言うのだが、だからさ、なぜ香港なのさ。

目的が不鮮明なため、結果として、ジョナサンが世界各地を飛び回るのは「ゲストスターに会いに行く」というのが目的のような状態になっている。
何度か登場するバーバラ・バックは別にして、007シリーズで悪役を演じた面々&キャプシーヌは、ジョナサンが赴いた場所で彼と会い、それでお役目御免という具合なのだ。
ゲストが順番に登場し、顔見世が終われば退場するという構成なのだ。

ジョナサンだけでなく、敵側の動きもデタラメ。
ヴィラノヴァにしろ、ジーナにしろ、ジョナサンが求めている情報を全てベラベラと説明した後で、彼を始末しようとする。でも、さっさと始末すりゃいいでしょ。
テリーにしても、ジョナサンに情報を教えて、子供たちに武術を披露するよう頼んだ後、少年に吹き矢で襲わせるが、明らかに無駄な手間と時間を掛けている。
エステバンがジョナサンを眠らせて東京へ送り込む意味も、全く無い。さっさと始末すりゃいいだけのことだ。

たぶん製作総指揮のサンディー・ハワード(『サイレントフルート』のプロデューサー)は、ジョー・ルイスに新しいアクションスターとしての期待を抱いていたんだろうと思われる。
しかし残念ながらジョー・ルイスは、チャック・ノリスのような存在になることは無かった。
それは本人の華の無さにも少しは原因があるだろうが、何よりも作品の出来栄えが酷過ぎる。
誰が主演したところで、こんな映画でスターになることなんて絶対に不可能だわ。

(観賞日:2013年10月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会