『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』:2016、アメリカ

テキサス州のダイナーで喧嘩騒ぎが発生し、駆け付けた保安官助手は1人の男が4人を叩きのめしたことを野次馬から知らされる。まだダイナーに残っていると聞いた保安官助手が目を向けると、ジャック・リーチャーが座っていた。リーチャーは抵抗せず、無言のまま手錠を掛けられた。保安官が連行するよう助手に命じると、リーチャーは「90秒以内に2つのことが起きる。店の電話が鳴り、お前は手錠を掛けられて刑務所に行く」と告げた。その予言を笑った保安官だが、直後に電話が鳴った。
リーチャーは保安官に、電話の相手が陸軍のスーザン・ターナー少佐だと教えた。彼は保安官の犯罪を指摘し、そこへ憲兵隊が駆け付けた。保安官は逮捕され、リーチャーは店を後にした。モーテルへ戻ったリーチャーはスーザンに電話を掛け、礼を述べた。食事を御馳走すると持ち掛けたリーチャーはワシントンへ行き、スーザンに会おうとする。しかし応対したサム・モーガン大佐は、スーザンが逮捕されて軍法会議に掛けられていると話す。スーザンに電話を繋いだリーチと話したリーチャーは、職務を引き継いでいるモーガンからの命令で口止めされていたと釈明する。
リーチはスーザンを信じていると言い、弁護人がモーアクロフト大佐だと明かした。モーアクロフトと会ったリーチャーは、キャンディス・ダットンという女性が軍に対して損害賠償を求めていることを知らされる。キャンディスはリーチャーが娘であるサマンサの父親だと主張していたが、リーチャーは否定した。キャンディスは売春で逮捕歴があり、15歳のサマンサは里親の元を転々としていた。スーザンの容疑についてリーチャーが尋ねると、モーアクロフトは機密情報のハードディスクが自宅で発見されたことを話す。機密漏洩の疑いがあるとモーアクロフトは言うが、リーチャーは無能だと指摘して立ち去った。
尾行している2人組の男に気付いたリーチャーは、1人を気絶させて銃を奪い取る。もう1人を脅しながら身分証を抜き取ったリーチャーは、彼らがパラソース社の人間だと知った。リーチャーはサマンサを尾行し、その行動を観察する。万引きを目撃したリーチャーだが、サマンサに尾行を気付かれる。キャンディスの昔馴染みだとリーチャーが告げるとサマンサは露骨に嫌がり、「一緒に住んでないわ」と告げて立ち去った。そんなリーチャーの様子を、殺し屋が密かにカメラで撮影していた。
翌日、モーアクロフトはリーチャーと会い、資料を見せた。スーザンはアフガニスタンを調査するため、部下のチベッリとミルコヴィッチを派遣した。しかし2人とも近距離から撃たれた遺体で発見され、翌日にスーザンは拘束された。リーチャーは軍事企業のパラソース社が事件に関与していること、スーザンを孤立させるために何者かが部下たちを始末したこと、彼女も命を狙われていることを口にした。モーアクロフトは関わりを避けたがるが、リーチャーは連絡すると告げて去った。
その夜、殺し屋はモーアクロフトを拷問し、情報を吐くよう脅して始末した。翌日、リーチャーはエスピン大尉の訪問を受け、モーガンが呼んでいることを知らされる。モーガンはリーチャーをモーアクロフト殺害容疑で拘束し、弁護人としてサリヴィン中尉を付けた。基地内の拘置所へ連行されたリーチャーは、駐車場にパラソース社の2人組が来るのを目にした。彼はサリヴィンを騙して現金と車のキーを盗み取り、見張り役のエスピンを倒して制服を奪った。
リーチャーはスーザンを始末しようとする連中を退治し、彼女を連れて基地から逃亡した。スーザンはリーチャーに、チベッリたちが軍の支給する弾丸で同僚に殺されたことを話す。アフガンでの任務を問われたスーザンは、軍備縮小で廃棄された大量の武器が輸送機から消失したため、それを調べていたと明かす。スーザンがネットカフェからメールを確認しようとしたため、モーガンたちに居場所を知られた。モーガンは待機させている殺し屋に連絡して2人の居場所を教え、始末するよう命じた。
スーザンはアクセスを拒否され、情報を得ることが出来なかった。ネットカフェを出たリーチャーは殺し屋の尾行に気付き、スーザンと共にレストランの厨房へ避難する。2人は殺し屋に襲われて窮地に陥るが、相手が駆け付けた警官を始末している間に逃げ出した。殺し屋はハークネス将軍に連絡を入れ、「リーチャーのことは上手く対処する」と告げた。リーチャーとスーザンはモーガンの家へ乗り込み、彼を脅してパソコンからデータを抜き取った。
データにはチベッリたちの最終報告書が含まれており、最後に話した武器輸送監督官のプリュードムが姿を消したことが記されていた。リーチャーはリーチに電話を入れ、パラソース社や社員のプリュードムについて調べてほしいと要請した。データの中にサマンサの盗撮写真を見つけたリーチャーは、急いで彼女の住まいへ行く。するとルームメイトは殺されていたが、サマンサは部屋の戸棚に隠れて無事だった。リーチャーは彼女を連れ出し、スーザンは安全のため知人が校長を務める女学校へ一時避難させることにした。サマンサが反発すると、リーチャーは死にたくなければ従うよう要求した。
殺し屋はモーガンの元へ行き、情報を漏らした彼を始末した。スーザンはリーチャーに「携帯は部屋に置き忘れた」と言っていたが、実は隠し持っていた。彼女が携帯を使うのを目撃したリーチャーは、すぐに女学校から連れ出した。リーチからリーチャーの元に電話が入り、パラソース社はアフガニスタンで襲撃されて巨額の契約を失っていたこと、プリュードムは本社のあるニューオーリンズへ戻ったことを話す。さらに彼女は、モーガンが殺されて現場にリーチャーの指紋が付着した凶器が残されていたことも教えた。
リーチャーはスーザン&サマンサと共にニューオーリンズ行きの飛行機に登場し、2人の男たちの尾行に気付く。リーチャーは寝たフリでサマンサがスーザンと話しているのを聞き、父親は元軍人だが母からは名前も教えてもらっていないことを知った。リーチャーは尾行していた2人組を昏倒させ、携帯を奪う。彼は殺し屋に電話を掛け、「お前が差し向けた連中を排除した」と告げる。リーチャーは殺し屋が手下たちを率いて空港で待ち受けていると察知し、スーザン&サマンサを連れて逃亡した。
命を狙われる理由を教えるようサマンサに詰め寄られたリーチャーは、自分の娘だと思われていることを打ち明けた。サマンサが「アンタは私の父親じゃない」と笑うと、リーチャーは「君の母親が軍に対して賠償要求と認知訴訟を起こした」と述べた。するとサマンサは、母が金目当てで訴訟を起こしたことを告げた。リーチャーはホテルにチェックインしてサマンサを就寝させ、スーザンに留まるよう告げてプリュードム夫人の元へ行く。夫人はプリュードムの居場所を知らないと言い、ヘロイン中毒であることを話す。リーチャーは夫人からプリュードムの写真を貰い、その場を去った。
4人組に襲われたリーチャーだが、軽く蹴散らしてホテルへ戻った。殺し屋が物陰から発砲して来るが、リーチャーの反撃を受けると姿を消した。サマンサは気付かれないようホテルを抜け出し、翌朝になって戻った。彼女はリーチャーたちに協力しようと考えて情報を収集し、ホームレスが集まる古い倉庫の存在を突き止めていた。リーチャーとスーザンはサマンサをホテルに残し、倉庫へ赴いてプリュードムを見つけ出す。プリュードムはスーザンに詰問され、アフガンでの出来事を打ち明けた…。

監督はエドワード・ズウィック、原作はリー・チャイルド、脚本はリチャード・ウェンク&エドワード・ズウィック&マーシャル・ハースコヴィッツ、製作はトム・クルーズ&ドン・グレンジャー&クリストファー・マッカリー、製作総指揮はポーラ・ワグナー&ハーバート・W・ゲインズ&デヴィッド・エリソン&デイナ・ゴールドバーグ、共同製作はケヴィン・メシック、撮影はオリヴァー・ウッド、美術はクレイ・A・グリフィス、編集はビリー・ウェバー、衣装はリサ・ノラ・ロヴァース、音楽はヘンリー・ジャックマン。
主演はトム・クルーズ、共演はコビー・スマルダーズ、オルディス・ホッジ、ダニカ・ヤロシュ、パトリック・ヒューシンガー、ホルト・マッキャラニー、ロバート・ネッパー、オースティン・ユベール、マダリン・ホーチャー、ロバート・カトリーニ、ジェシカ・ストループ、ジェイソン・ダグラス、ジャド・ロンバード、シャロン・E・スミス、ショーン・ボイド、アンソニー・モリナーリ、テオ・キプリ、テリー・ワイブル、サブリナ・ジェンナリーノ、M・セラーノ、ニコール・バレ、アビー・ゲイル、レイチェル・ヴァレラ、テイラー・フェイ・ラフィン他。


リー・チャイルドの小説“ジャック・リーチャー”シリーズを基にした2012年の映画『アウトロー』の続編。
前作は原作シリーズの第9作を基にしていたが、今回は第18作『ネバー・ゴー・バック』を基にしている。
監督は『ラスト サムライ』『完全なるチェックメイト』のエドワード・ズウィック。脚本は『エクスペンダブルズ2』『イコライザー』のリチャード・ウェンク、エドワード・ズウィック監督、『ラスト サムライ』『ラブ&ドラッグ』のマーシャル・ハースコヴィッツによる共同。
前作からの続投はリーチャー役のトム・クルーズだけで、他は総入れ替え。スーザンをコビー・スマルダーズ、エスピンをオルディス・ホッジ、サマンサをダニカ・ヤロシュ、殺し屋をパトリック・ヒューシンガー、モーガンをホルト・マッキャラニー、ハークネスをロバート・ネッパーが演じている。

前作では妙な緩和が入る箇所があって、それは邪魔なだけだと感じた。しかし製作サイドは「それもシリーズの特徴」と考えているのか、今回もコミカルな描写を持ち込んでいる。
しかも今回はコメディー・リリーフ的なキャラを使うのではなく、それをリーチャーに担当させるのである。
これが「本人は至って真剣だが、それが周囲の感覚とズレていることで笑いが生じる」ってことなら、まだ彼が関与する形でも分からなくはない(それもホントは要らないと思うけど)。でも彼自身にユルさを付けちゃってるので、それは違うんじゃないかと。
「サリヴィンの所有している車は黒のセダンだが、駐車場へ行くと全て黒のセダン」というネタなんて、明らかに狙い過ぎだろ。もはやコントの世界だぞ。

クリストファー・マッカリー(今回は製作に回っている)が監督を務めた1作目は、トム・クルーズの「今までは異なるタイプのシリーズを作ろう」という意識が強く感じられる仕上がりになっていた。
原作のリーチャーは髪がブロンドで身長約2メートル&体重約113キロの巨漢という造形だから、トム・クルーズとは似ても似つかない男だ。そんなイメージの違いを無視してでもトム・クルーズがリーチャーを演じたのは、「そのキャラ設定が欲しかったから」ってことだ。
ジャック・リーチャーは「住居を持たず、決まった職に就かず、身分を証明する物は持たない。法律に縛られず、正義のためには手段を選ばないクールな男」という設定であり、それをトム・クルーズは欲しがったのだ。
「まず企画ありき」なら、主演としてトム・クルーズの名前は浮かばない。しかし、「トム・クルーズのスター映画」として作られているので、合うか合わないかという考え方は意味が無い。
そして前作はクラシカルな雰囲気のある地味なアクション映画になっており、『ミッション・インポッシブル』シリーズとの差別化が感じられる出来栄えとなっていた。

正直に言うと、前作の出来がそれほど良かったとは思わない。しかし一般的な評価は高かったし、興行的にも成功した。
だから誰がどう考えたって、その路線を踏襲した方がいいはずだ。
ところが何を勘違いしたのか、製作サイドは2作目において、早くも前作のイメージを変える方針を打ち出した。
トム・クルーズやクリストファー・マッカリーも製作に携わっているので、彼らも納得の上での判断なのだろう。
しかし、その方針には全く賛同できない。

前作のリーチャーは、人と繋がりを持つことを出来る限り避けようとするクールなアウトローだった。
邦題の『アウトロー』はベタすぎると思うが、少なくとも内容には合致していた。
だから続編は『アウトロー2』でいいはずだが、なぜ2作目は原題をそのまま使ったのか良く分からない。
それはさておき、ともかく前作のキャラ造形は、トム・クルーズの「差別化」への意識が分かりやすく出ている部分だったし、それは踏襲した方がいい要素のはずだ。

しかし本作品では、なんと「娘と思わしき少女を登場させて、親子愛のドラマを描こうとしているのである。
いやいや、阿呆なのですかと。
せっかく1作目で「人付き合いを避けたがる男」というキャラを紹介したのに、なんで早々と覆すようなことをやらかすのかと。
そりゃ前作だってヒロインを助けていたけど、あくまでも「協力者だったから」という理由があったわけで。恩義に報いる、礼をするという意味があるから、助けるために行動しても「クールなアウトロー」というキャラを崩壊させることには繋がらなかったわけで。

そもそも冒頭からスーザンと電話で饒舌にお喋りしたり、食事を御馳走する誘いを持ち掛けたり、自分から会いに行ったりしている時点で、「なんか違うぞ」という嫌な予感はあった。
その時点で既に崩壊の序曲と言えなくもないのだが、それどころではなかったのだ。
あと、今回はリーチという協力者もいるので、リーチャーの周囲には3人の女性たちがいるのよね。
そんな状況は、一匹狼というキャラを完全に崩壊させちゃってるでしょ。

これが何作も続いているシリーズで、「マンネリ化を避けるために、そろそろ変化を付けようか」という考えで親子ドラマの要素を持ち込むのなら、それは理解できるのよ
。実際、原作だと第18作であり、そこで初めて変化を付けているわけで。
でも映画だと2作目なので、単純に「主人公のキャラが前作とは違う」ということになるのよ。
せっかく前作でリーチャーにハードボイルドな色付けをしたはずなのに、どういう理由で個性を打ち消すような決定が下されたんだろうか。

サマンサと関わる時には隙が出来てしまうのか、リーチャーは尾行を始めた直後にバレている。
敵が尾行している時は気付かれず接近して軽く叩きのめす能力を見せ付けているのに、なぜテメエが尾行する側に回ったらマヌケなトコを露呈するのかと。
おまけに、殺し屋に写真を撮られていることにも気付かないし。
なぜ尾行の連中には気付いたのに、その時は気付かないのかと。サマンサがホテルから抜け出した時も、まるで気付かないし。
その場その場で、リーチャーの察知する能力が都合良く変化しちゃってんのよね。

しかも厄介なことに、その娘らしきキャラであるサマンサが疎ましいんだよなあ。それは「リーチャーのキャラを殺す原因だから」という意味じゃなくて、ストーリー展開の中で迷惑極まりない存在と化しているのだ。
まだ女学校で携帯を隠し持っていたことが露呈した時は、「リーチャーを信じていなかったから」という理由もあるし、仕方が無いかと思う。勝手にホテルから抜け出して歩き回ったのは手助けしたいという思いから来る行動だから、それも良しとしよう。
しかし終盤、「サマンサが盗んだクレジットカードを使ったせいで居場所がバレる」という展開になった時には、「それはダメだわ」と言いたくなる。
しかも、どうしても必要なことに使うわけじゃなくて、ルームサービスを能天気に利用するためだ。携帯電話がマズいのは分かったはずなのに、なぜカードは無警戒で使うのかと説教したくなる。
ただし、それはサマンサの使い方が雑という問題なのよね。そこはリーチャーに危機を用意し、ホテルへ差し向けられた殺し屋と対決する展開に持ち込むための手順なんだけど、そのためにサマンサを迷惑な奴にしちゃってんのよ。

それと、実はリーチャーがサマンサを助けるための行動って、今回の事件と何の関係も無いんだよね。
一応は「リーチャーを抱き込むための道具」として敵がマークしていたようだけど、そこをバッサリとカットしても、何の問題も無く成立してしまう。極端に言ってしまえば、単なる「旅の道連れ」でしかない。
サマンサがいなくても、どっちみちリーチャーとスーザンは命を狙われるわけだからね。
なので、ますます「要らない子」という印象が強くなってしまう。
とは言え皮肉なことに、リーチャーとターニャの疑似親子ドラマは、そこだけを抽出すれば、それなりに楽しめる部分も多い。なので別の作品だったら、何の問題も無いのよ。
だけど、このシリーズで、しかも2作目でやることではないでしょ。

(観賞日:2018年3月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会