『ジャックと天空の巨人』:2013、アメリカ

ジャック少年が夜中まで起きていたので、父親は早く寝るよう促した。「巨人に起こされた」とジャックが説明すると、「ただの雷だ」と父は言う。「巨人の足音だって母さんが言ってた」とジャックは告げ、母の形見にあった古い本を広げる。ジャックが続きを読んでほしいと頼むと、父は承諾した。修道士は魔法の豆をサヤから取り出し、神に会おうと蔓を伸ばした。しかし蔓を登った先にあったのは天国ではなく、恐ろしい巨人の国だった。
巨人たちは蔓を伝って地上へ降り、財宝を奪って人間の肉を食らった。エリック王の命令を受けた修道士たちは、闇の魔法で巨人の心を支配した。修道士は巨人の心臓を使い、魔法の王冠を作った。エリック王が王冠を被ると、巨人たちは言いなりになった。エリック王は巨人を天空に戻らせ、蔓を切った。地上に残された魔法の品は、、エリック王が守り続けた。エリック王が死んだ時、魔法の品と豆も棺に入れられた。一方、エリック王の血を受け継ぐイザベル姫も、母から同じ伝説を聞かされていた。
それから10年後、父を亡くしたジャックは叔父に引き取られていた。叔父の家は貧しく、ジャックは市場へ馬を売りに行くよう指示された。叔父から寄り道するなと注意されていたジャックだが、芝居小屋が気になって中に入った。エリック王の芝居が上演される中、ジャックはフードを被って観劇しているイザベルに目を留めた。男たちがイザベルに絡むのを見たジャックは、助けに入った。そこへエルモント団長の率いる騎士団が現れたので、人々は一斉にひれ伏した。イザベルが騎士団の馬に乗るのを見て、ジャックは彼女の素性を悟った。芝居小屋の外に出たジャックは、荷車が無くなっているのに気付いた。
イザベルの許嫁であるロデリック卿は修道士とすれ違った後、自分の部屋が荒らされているのを目にした。慌てて部屋を調べたロデリックは、隠しておいた魔法の王冠が無事だったこと、しかし魔法の豆は盗まれたことを知る。彼は従者のウィックに、城門を閉鎖して兵隊に修道士を見つけさせるよう命じた。逃げ道を塞がれた修道士はジャックが馬を撃っていると知り、「10ペンスで売ってくれ」と持ち掛けた。しかし彼は「今は持っていない。修道院に行けばある」と言い、担保として豆の入った小袋を差し出した。
修道士はジャックに、「ただの豆じゃない。それは聖なる秘宝だ。修道院に届けてくれ。修道長に渡し、アベル修道士の使いだと言え。金をくれるはずだ。その豆は世界を変える力を持っている。絶対に無くすな。そして水に濡らすな」と述べた。アベルは馬で逃げようとするが、すぐに捕まった。家に戻って事情を話したジャックは、叔父から「修道士は金など持っていない。お前は騙されたんだ」と叱られた。叔父は腹を立てて床に小袋を投げ付け、1粒の豆が床に隙間から地面に落ちた。しかしジャックは、そのことに気付かなかった。叔父は「お前の父が病で死んだのは人生最悪の日だった。こんな面倒の種を残してくれて」と吐き捨て、ジャックの父が残した形見を売り払うために市場へ出掛けた。
一方、イザベルは城を勝手に抜け出したことで、父のブラムウェル王から注意された。イザベルが「お父様は男の王がいいんでしょう。どうして私を倍も年上の愛してもいない人と結婚させるの」と言うと、王は「それが嫌で抜け出すのか」と問う。イザベルは「嫌なのは、お父様が私を何も出来なくて弱い女だと思っていることです」と主張し、ちゃんと責任を持てる人間になるために外へ出たいのだと述べた。しかし王は耳を貸さず、「お前は城にいろ。そしてロデリックと結婚するのだ」と命じた。
イザベルは父に反発し、変装して城を抜け出した。一方、ロデリックはアベルを拷問するが、豆のありかを聞き出せなかったので殺害した。イザベルは道に迷い、叔父の帰りを待つジャックの小屋に辿り着いた。2人が話していると、いきなり激しい揺れに見舞われる。そして床下で水を吸っていた豆が発芽し、巨大な蔓が一気に伸びて屋根を突き破った。蔓は小屋を持ち上げ、中に残っていたイザベルを救うためにジャックは蔓を登る。しかしジャックは足を滑らせ、地上へ落下して気絶してしまった。
翌朝、ジャックが目を覚ますと、王や騎士団が取り囲んでいた。イザベルのブレスレット持っていることについて追及されたジャックは、事情を説明した。蔓は天高くそびえ、その先端は見えなくなっていた。王はエルモントに、精鋭部隊を組織して登らせるよう命じた。ロデリックは「イザベルに自分の価値を示したい」と嘘をつき、同行を申し出た。ジャックも同行を希望すると、エルモントは反対する。だがロデリックは「一部始終を見ている。連れて行くべきだ」と主張し、ブラムウェル王も承諾した。エルモントはジャックに、「姫がロデリックとの結婚を免れても、平民との結婚は法で禁じられている」と邪心を抱かないよう釘を刺した。
蔓を登る途中、数名の騎士たちが足を滑らせて宙吊りになった。ロデリックはウィックに命じてロープを切らせ、騎士たちを落下させる。彼はエルモントたちに、「ロープが切れた」と告げた。残った面々が蔓を登って雲の上に出ると、小屋があった。しかしイザベルの姿は無く、エルモントは彼女の足跡を発見する。ロデリックは騎士団の目を盗んでジャックを脅し、豆を奪い取って「他言無用だぞ」と告げる。しかしジャックは、一粒だけ豆を残しておいた。
一行が天空の大地を探検すると、イザベルが付けた目印が残されていた。それを頼りに進んでいると、途中で目印が途絶えていた。周囲の様子を観察したジャックは、イザベルが巨大な何かに拉致されたと推理する。エルモントは騎士のボールドに、ロデリックとウィックを連れて丘へ向かうよう命じた。ジャック、エルモント、騎士のクロウが先へ進むと、巨人が現れた。巨人はエルモントとクロウを見つけて連れ去り、ジャックは後を追うが見失ってしまった。
ロデリックはボールドを始末するが、そこに巨人が現れてウィックを食らった。ロデリックは持参した王冠を見せ付け、巨人を従わせた。牢に入れられたイザベルは、巨人のファロン将軍から「どうやって、ここまで来た?」と質問された。イザベルは「言わないわ。言えばどうなるか分かってる」と返答を拒絶する。イザベルが憎きエリックの末裔であることを、ファロンは匂いで嗅ぎ取っていた。巨人のフィーは、エルモントとクロウを連れて帰還した。ファロンはクロウを尋問し、答えないので食べてしまった。
ジャックは巨人の城に侵入し、イザベルを見つけ出そうとする。ロデリックは城の広間に現れ、王冠の力で巨人たちを従わせた。彼はイザベルやエルモントたちの前で、巨人を使って地上を支配する企みを明かした。ロデリックは巨人たちに、翌朝に出陣するための準備を整えるよう指示した。ジャックはイザベルとエルモントが調理されそうになっているところへ駆け付け、料理担当の巨人を倒した。一方、ブラムウェル王はエンティン将軍に、蔓を切るべきかどうか相談していた。
ロデリックはイザベルたちが逃げたのを知り、1名の巨人を蔓のある場所へ先回りさせることにした。ジャックたちは出口を塞ぐような形で居眠りしている巨人を見つけ、兜の中に蜂の巣を入れる。蜂に刺された巨人が転落し、ジャックとイザベルは蔓へ向かった。するとエルモントは、王冠を取り戻すために留まることを告げる。彼は騎士団の紋章をジャックに渡し、「騎士の仲間入りだ」と告げた。
巨人が地上に降って来たため、ブラムウェル王は蔓を切るようエンティンに命じた。しかしイザベルが戻っていないため、エンティンは動こうとしない。するとブラムウェル王は剣を手に取り、自ら蔓を切り始める。エンティンは兵士たちに、蔓を切るよう命じた。一方、エルモントは一騎打ちでロデリックを倒すが、王冠はファロンの手に渡ってしまう。その頃、蔓は切り落とされたが、ジャックとイザベルは無事に着地した。エルモントも蔓に捕まり、地上へ戻った。だが、ファロンはロデリックの持っていた豆を見つけ、伸びた蔓を地上へ向けた。彼は手下たちを引き連れて蔓を降り、王国を襲撃する…。

監督はブライアン・シンガー、原案はダーレン・レムケ&デヴィッド・ドブキン、脚本はダーレン・レムケ&クリストファー・マッカリー&ダン・スタッドニー、製作はニール・H・モリッツ&デヴィッド・ドブキン&オリ・マーマー&ブライアン・シンガー&パトリック・マコーミック、製作総指揮はトーマス・タル&ジョン・ジャシュニ&アレックス・ガルシア&トビー・エメリッヒ&リチャード・ブレナー&マイケル・ディスコ&ジョン・リカード、製作協力はジョン・オットマン&ジョナサン・ステイン、撮影はニュートン・トーマス・サイジェル、編集はジョン・オットマン&ボブ・ダクセイ、美術はギャヴィン・ボケット、衣装はジョアンナ・ジョンストン、視覚効果監修はホイト・H・イェットマンJr.、音楽はジョン・オットマン。
出演はニコラス・ホルト、エレノア・トムリンソン、ユアン・マクレガー、スタンリー・トゥッチ、イアン・マクシェーン、ビル・ナイ、エディー・マーサン、ユエン・ブレムナー、ラルフ・ブラウン、ジョン・カーサー、ベン・ダニエルズ、クリストファー・フェアバンク、サイモン・ロウ、ミンガス・ジョンストン、ジョイ・マクブリン、クリス・ブレイルスフォード、ワーウィック・デイヴィス、クレイグ・ソールズベリー、ピーター・ボナー、リー・ボードマン、リー・ウィットロック、ジョディー・ハルス、リチャード・ディクソン、クリストファー・ドレイク他。


イギリスの民話『巨人殺しのジャック』(有名な童話『ジャックと豆の木』の類似作品)を基にした作品。
『スーパーマン リターンズ』『ワルキューレ』のブライアン・シンガーが監督を務めている。
ジャックをニコラス・ホルト、イザベルをエレノア・トムリンソン、エルモントをユアン・マクレガー、ロデリックをスタンリー・トゥッチ、ブラムウェルをイアン・マクシェーン、ファロンをビル・ナイ、クロウをエディー・マーサン、ウィックをユエン・ブレムナー、エンティンをラルフ・ブラウン、ファロン将軍の右肩の人面瘡をジョン・カーサー、巨人のファムをベン・ダニエルズ、ジャックの叔父をクリストファー・フェアバンクが演じている。

約2億ドルの製作費が投入された超大作ファンタジー・アクション映画だが、北米市場では約6500万ドルの興行収益しか上げることが出来ず、惨敗に終わっている。
「翌週から公開された『オズ はじまりの戦い』に客を取られた」「主演を務めたニコラス・ホルトの知名度が低かった」など幾つかの要因が挙げられているが、「巨人の外見が無駄に怖くて気持ち悪い」ってのも影響したのではないだろうか。
「無駄に」と書いたのは、もちろん意図的である。
ゴア描写を盛り込んでいるのなら、グロテスクに造形するのも理解できる。しかし、巨人を怖く造形しておきながら、一方で血は全く流れず残酷描写を入れないという健全さが貫かれており、そこにズレを感じてしまうのだ。
ひょっとすると、PG-13やR指定を避けるために残酷描写を入れなかったのかもしれないが、だったら巨人をそこまでグロテスクに描写する意味は何なのかと。もし子供たちにも見てもらいたいのなら、子供たちが敬遠するような造形にしちゃダメでしょ。
この映画の狙っている観客層が良く分からない。

『ジャックと豆の木』では巨人の城に金の卵を産む鶏がいたが、本作品では財宝の設定は用意されていない。
だったら、エリック王が豆を大切に保管している意味が無い。豆を残しておいても、「それを誰かが使って巨人が地上に下りて来たら大変なことになる」というリスクしかな無いからだ。何もメリットが無い物を残しておく必要性はゼロのはずだ。
また、修道士はロデリックの「巨人を使って人々を襲う」という目論見を阻止するために豆を盗み出したのだから、それをジャックに委ねる意味が無い。さっさと使えないように処分すればいいだけだ。
そのように、序盤から設定や展開に大きな粗が目立つ。

ジャックは叔父から「寄り道するな」と言われていたのに芝居小屋に立ち寄り、そのせいで荷車を盗まれてしまう。それどころか彼は、馬を売らずに豆と交換してしまう。
家が貧乏なのは分かっているのに大事な馬を豆と交換したんだから、そりゃあ怒られて当然だ。
それどころか、その豆が水を吸って蔓が伸びたせいで、巨人が地上へ降りるためのルートを作っているのだ。
豆が水を吸ったのはジャックの知らぬ内だが、それでも今回の騒動を招いた責任の一端はジャックにあると言っていいだろう。

だが、ジャックが罪悪感を抱くことは全く無い。
姫を助けに行くのも、「彼女が好きだから」というのがモチベーションであり、「自分のせいでイザベルが天空へ連れ去られた」という罪悪感や、「だから自分が助けなきゃ」という責任感は皆無だ。
そこは大いに引っ掛かる。
『ジャックと豆の木』なら、巨人に襲われるのはジャックだけだったから、自業自得で済んだ。しかし本作品の場合、王国が危機に陥っているし、犠牲も出ているのだ。
それでジャックが罪悪感を全く抱かないというのは、とても無責任で不誠実に思える。

ジャックが叔父から叱責されるシーンと、イザベルがブラムウェル王から注意されるシーンは、カットバックで描かれている。
ジャックが叔父から「大人になれ」と言われるとカットが切り替わり、イザベルが王に「城を抜け出すのはよせ」と言われる様子が写る。「お前は母親そっくりだな」と王が言った直後、叔父が「お前は何も出来ない父親そっくりだ」と言うシーンに切り替わる。
そのように、ジャックとイザベルを対比させるための演出として交互に描いているのだが、あまり効果的だとは思えない。
それが「同じような境遇にある2人」ということのアピールになっているならともかく、そうじゃないしね。

ジャックは小屋にイザベルが来た時、ものすごくフランクな態度で接する。
だが、彼は芝居小屋の一件で、相手が姫君だと分かったはずだ。だったら、そこで身分の違いを無視し、フランクな態度を取るのはおかしい。相手はプリンセスなんだから、最大級の経緯を示すべきだろう。
どうやら「相手が身分を明かしていないので、こっちも気付いていないフリをしている」ということのようで、だから「それで僕の家の明かりに辿り着いたわけ、王女様」と言ってから跪いているんだけど、それは行動として変だよ。
相手が王女だと分かっていながらタメ口で喋っていたのなら、それは単に無礼な奴ってことになるでしょうに。そんなの、平民として許される行為じゃないでしょ。
そもそも、タメ口の手順を挟んでいる意味も全く無いし。小屋に入って来た時にジャックが王女だと気付いて跪き、そこから会話劇を展開する流れにしても全く支障は無い。

早い段階で巨人の国へ行かせたいという意図があったのかもしれないが、開始から20分程度で蔓が伸びる展開に入るのは拙速に感じる。もう少し、キャラクター紹介や世界観説明のための時間を取っておきたいところだ。
特に、ジャックとイザベルの関係を深めるための時間が欲しい。
もちろん、巨人の国へ向かったり、巨人と戦ったりする中で、2人の関係を描写することも出来なくはない。しかし両立させるのは簡単じゃないし、この映画では全く描写できていない。
だったら、2人の関係性を深める時間帯を序盤に儲けるべきだ。

そこを雑に済ませているせいで、ジャックが巨人の城へ向かう動機が伝わりにくくなっている。
もちろんイザベルを助けるためなんだけど、「イザベルのために命懸けで戦う」というトコロに動機を用意するには、ジャックとイザベルの恋愛劇がペラペラなのだ。たぶんジャックは芝居小屋で見掛けて一目惚れしたってことなんだろうけど、その関係性からほとんど進展していない内に、イザベルが天空へ連れ去られてしまうのだ。
どうせ早い段階で巨人の国へ行ったところで、本格的なバトルが繰り広げられるのは終盤まで待たねばならないのだ。巨人の国における戦いは、「ジャックが調理担当の巨人を倒す」というだけだ。
だったら巨人の国へ行く手順は、もう少し遅らせても大して支障は無いだろう。
っていうか、そもそもアクション主体の構成にしているはずなのに、「人間vs巨人」のマトモなバトルが終盤まで一度も用意されていないというのは、いかがなものかと思うぞ。それは物足りないと言わざるを得ないんじゃないか。

ロデリックとウィックが丘へ行き、ジャックがエルモントたちと先へ進むことになれば、もうジャックはロデリックに脅されていること、彼が悪党であることを明かせる状況だ。
だが、ジャックは何も知らせない。
ロデリックは「自分は国で人を抹殺できる職務を担当している」と脅しており、立ち去る時には首を斬るポーズを見せているけど、ロデリックの企みは国の危機に関わることだと推測されるのに、それを知らせないってのは納得しかねるぞ。それでも主人公かと言いたくなる。
そこは例えば、「ジャックがロデリックに豆を奪われたことを話すが、エルモントは豆の効力を信じず、ジャックの話も相手にしない」という形にでもすれば良かったんじゃないか。

これが「最初は臆病者だったジャックが冒険の中で成長し、勇気に目覚める」という成長物語として作られているのであれば、ロデリックに脅されたのでビビッってエルモントに事実を明かさないってのは、分からないではない。
しかし、この映画には、そういう成長物語は用意されていない。
そもそも、ジャックはイザベルを救うために蔓を登っているし、彼女を救うために同行を願い出ているんだから、最初から勇気のある若者なのだ。
なので、そこだけ極端に腰が引けた対応になっているのは、意味が無いだけだ。

「早い段階で、ロデリックが悪党なのも、豆を使って何か悪事を企んでいることも明らかになっている。
だったらジャックやエルモントを善玉サイドに据えて、ロデリックとの対立の構図を使って物語を構築すべきだろう。
ところが、ロデリックは残り40分ぐらいの段階で、あえなく命を落としている。それもジャックの知らないところでだ。
そのため、とても中途半端な存在に成り果てている。
途中で始末するぐらいなら、そもそも最初から出さない方がいい。「ジャックたちvs巨人たち」の構図に集中すべきだ。

ただし、ロデリックが消えたことによって、敵として残るのは「ボンクラな巨人たち」だけになってしまう。
巨人の中に知性派キャラがいればいいのだが、総じてオツムが弱いのだ。
ただし、巨人は人間より遥かに体が大きくて戦闘力も高いので、「人間たちが圧倒的に不利だと思われる中で知恵を凝らし、策略を巡らせて対抗する」という戦いにするなら、面白くなる可能性は高いし、アクションとしての深みも出るだろう。
ところが実際には、人間が知略で対抗するような展開は、ほとんど用意されていない。

一応、ジャックが残しておいた豆をファロンの口に放り込み、蔓を伸ばして退治するという手順があるので、そこは知略を使っているとは言えるかもしれない。
だけど、それは「伏線を回収した」という意味合いの方が大きい。それ以外の部分では、ただ普通に武器を使って攻撃するだけなんだよな。
まあ「知略を凝らして巨人に対抗する」という展開を描くには、残り30分しかないので全く時間が足りないんだけどさ。
ってことは、時間配分や話の内容を根本的に見直さないとマズいってことなのね。

そもそも、前半の内に「巨人が王冠の力で従う」というシーンを用意しているため、既にハッキリとした形で弱点が露呈しており、巨人に「強大な脅威」という印象が薄れているのも大きなマイナスだ。
っていうか、そもそも王冠がデウス・エクス・マキナに近いような存在になっているってのも、どうかと思うし。
そんで残り30分ぐらいで開始されるバトルでも、前述したように人間が知略で対抗するような展開が乏しいまま王国が絶体絶命の危機に陥るけど、ジャックが王冠で巨人を降参させちゃうのだ。それって、ちっとも高揚感が無いわ。
例えば、前半でジャックが巨人と戦い、何かしらのラッキーによって何とか倒すことが出来て、その時に弱点に気付くという手順でも用意しておけば、魔法の王冠という都合の良すぎる道具に頼らなくても済んだだろう。
後半のバトルでは、前半で気付いた弱点を突くための作戦をジャックが考えて、それによって巨人軍団を退治するという形にすればいい。その中で「想定外の出来事で作戦が失敗しそうになるが、咄嗟の機転や、誰かの尽力によって問題が解決される」という展開でも用意すれば、そこで盛り上がるだろうし。

巨人軍団がひれ伏した後、ジャックがイザベルと結婚し、双子の子供たちにベッドで物語を聞かせている様子が写し出される。その後、魔法王冠が加工されて歳月が経過し、ロンドン塔に保管されているのを学生たちが見学している様子が写る。そして、どうやらロデリックの末裔らしきロディーという少年が、王冠を見て不気味な笑みを浮かべたところで映画は終わる。
いやいや、アホですか。
そんなホラー映画のラストみたいな余韻を残して、どういうつもりなのかと。
そこに変な捻りは要らないんだよ。そんなラストにしたところで、そこから物語が始まる続編を作れるわけでもないんだし。
そういうのじゃなくて、ベタな王道のファンタジー・アクション映画として終わればいいのよ。
まあブライアン・シンガーに王道をやれと言うのが間違いなのかもしれんけどさ。

(観賞日:2015年2月7日)


2011年度 HIHOはくさいアワード:7位

 

*ポンコツ映画愛護協会