『スイング・ステート』:2020、アメリカ
2016年に行われたアメリカ大統領選挙の最終討論会で、民主党候補のヒラリー・クリントンと共和党候補のドナルド・トランプは激しい論戦を繰り広げた。民主党選挙参謀のゲイリー・ジマーと共和党選挙参謀のフェイス・ブリュースターは討論会後に囲み取材を受け、2人とも「私は嘘をつく」と堂々とした態度で告げた。11月8日の投票日、ゲイリーは自信満々だったがトランプが勝利を収めた。ゲイリーはコメントを出さず、姿を隠した。
アメリカ中西部の農村地域であるウィスコンシン州のディアラケン。ブラウン町長は町議会に「ウィスコンシンの運転免許か米国市民権が無いと州や自治体の給付制度を受けられない」という決議案を提案し、賛成多数で採択された。そこへ町民である元海兵隊大佐のジャック・ヘイスティングスが乗り込み、移民を排除する決議案を批判した。その様子を撮影した動画はネットにアップされ、ゲイリーはスタッフのエヴァンから知らされた。彼はスタッフのカートやティナたちに、ジャックが未開の土地で勝利するための鍵だと述べた。
農家のジャックは妻を亡くして娘のダイアナと暮らしており、かつては民主党員だった。ゲイリーは民主党の全国委員会に出席し、「自分がウィスコンシン州へ飛び、田舎の友好的メッセージにジャックを利用する」と説明した。ディアラケンに赴いた彼は、デイヴのサルーンで住民のビッグ・マイクやリトル・マイクたちと話した。ゲイリーがジャックを捜していることを話すと、デイヴたちは「彼はスターだ」と語った。デイヴは2階の宿を使うようゲイリーに勧め、妻のトーニャに支度をさせた。
翌朝、ゲイリーが街に出ると、全ての住民が彼の名前を知っていた。コーヒーショップに立ち寄ったゲイリーは、店長のアンからジャックへの配達を頼まれた。ゲイリーはジャックを訪ね、民主党から町長選に出馬するよう持ち掛けた。一度は断ったジャックだが、ゲイリーが仕切る条件で承諾した。ゲイリーは町民のマイケルに手伝ってもらい、ジャックが立候補を表明する様子を撮影した。ゲイリーは選挙活動への協力を引き受けたダイアナやアンたちに、指示を出した。
共和党はディアラケンに資金と増援を送り、ブラウン陣営は立派な選挙事務所を構えて巨大な広告板を出した。アンたちは焦りを見せるが、ゲイリーは共和党の動きが狙い通りだと話す。彼は既にジャックを応援するためのサイトを作成し、寄付を募っていた。ゲイリーは街に来たフェイスと顔を合わせ、互いに挑発の言葉を浴びせ合った。ジャックへの投票を呼び掛ける集会にもフェイスは現れ、マイケルを選挙スタッフとして引き入れていた。
ブラウンの選挙事務所はWi-Fi環境が整っておらず、ゲイリーは苛立ちを覚えた。彼はWi-Fiを利用するため、スタッフと共に高校の駐車場へ赴いた。しかし教員に見つかり、注意を受けて追い出された。ゲイリーは投資のプロであるリチャード・ピーラーのホーム・パーティーにジャックを連れて行き、資金調達のためのスピーチをさせた。ジャックの「私の町には救う価値がある。貴方たちにも救う意味がある。私じゃなく、町のために金を出せるはずだ」というスピーチを聞いて、ゲイリーは感心した。
新たな資金を調達したゲイリーは、調査とモデリング担当のカートや分析論のティナたちを雇い入れた。投票まで2週間となり、ゲイリーは527団体に該当するスタッフ4名を政治行動委員会(スーパーPAC)に移動させて政治活動から遠ざけた。ティナは複数の独身女性が集合する地域を特定し、そこだけに「ブラウンが避妊の医療費を廃止する」と書いたパンフレットを配布した。ゲイリーは脳卒中を患っている億万長者のエルトン・チェンバースを呼び寄せ、支援を取り付けた。
ティナは独身女性が集まる地域に限定し、「大佐が政府に避妊代を支払わせる」と宣伝するチラシを撒いた。だが、その地域は修道会であり、尼僧たちが選挙事務所へ抗議にやって来た。ゲイリーはニュース番組に出演し、ティナと舌戦を繰り広げた。ティナはティアラケンが故郷だと嘘をつき、ゲイリーは怒って否定するが後の祭りだった。彼はダイアナに「このままじゃ彼女には勝てない」と言い、「彼女じゃなくてブラウン町長でしょ」と指摘された。ゲイリーは劣勢に焦りを覚え、スタッフに苛立ちをぶつけた…。脚本&監督はジョン・スチュワート、製作はデデ・ガードナー&ジェレミー・クライナー&ジョン・スチュワート&リラ・ヤコブ、製作総指揮はブラッド・ピット&クリスティーナ・オー、製作協力はキャサリン・ファレル&ケイティー・グレイ、撮影はボビー・ブコウスキー、美術はグレース・ユン、編集はジェイ・ラビノウィッツ&マイク・セレモン、衣装はアレックス・ボヴェイド、音楽はブライス・デスナー。
出演はスティーヴ・カレル、ローズ・バーン、クリス・クーパー、マッケンジー・デイヴィス、トファー・グレイス、ナターシャ・リオン、ウィル・サッソー、ブレント・セクストン、C・J・ウィルソン、イヴ・ゴードン、ビル・アーウィン、ケヴィン・メイアー、トム・ケイ、チャールズ・グリーン、アラン・アイゼンバーグ、マット・ルイス、ヴィンス・ピサーニ、カート・ユエ、デニース・モイエ、アンドレ・ロドリゲス二世、ニール・レディー、サーシャ・モーファウ、ケルシー・マカルーソ他。
政治風刺を得意とするコメディアンのジョン・スチュワートが、2014年の『Rosewater』に続いて2度目の監督を務めた作品。
ゲイリーをスティーヴ・カレル、フェイスをローズ・バーン、ジャックをクリス・クーパー、ダイアナをマッケンジー・デイヴィス、カートをトファー・グレイス、ティナをナターシャ・リオン、マイクをウィル・サッソー、ブラウンをブレント・セクストン、デイヴをC・J・ウィルソン、トーニャをイヴ・ゴードン、エルトンをビル・アーウィンが演じている。ハリウッドには民主党びいきの人間が多く、この映画も民主党サイドを描いた作品だ。しかし内容としては、決して民主党を全面的に応援しているわけではない。
だからって共和党の肩を持つわけでもなく、「どっちも同じ穴のムジナ」として揶揄している。
政治の世界に蔓延している腐敗や欺瞞をストレートに非難するのではなく、「政治のために庶民を利用するはずが利用されていた」という形で風刺している。
それに関しては、後から詳しく説明する。ゲイリーにとってディアラーケンの未来とかジャックの政治理念とか、そんなことはどうでもいい。ジャックの人間性に心を打たれ、彼に協力したいと思って町長選への出馬を促したわけではない。
民主党が勝つために利用できると目論み、農民票を取り込むための駒として使いたかっただけだ。
ただ、選挙なんてのは多かれ少なかれ、そういうモノだ。
良くも悪くも当たり前の光景であり、そういう考えで町長候補を見つけたからって、それだけでゲイリーがダメだとは思わない。しかし本作品は、序盤からゲイリーをハッキリとした形で「嫌な奴」として描いている。粗筋では全く触れなかったが、そのための作業が多く用意されている。
ゲイリーから車の手配を指示されたスタッフは、彼の自家用車であるテスラと似ているBMWの7シリーズを用意しようとする。
ゲイリーは「リベラルのクソ野郎だと思われる」と注意し、地味な色のフォードを用意するよう命じる。
しかし本音ではリッチに行きたいので、「もしあれば高級ステレオ装着車を」と注文する。ゲイリーは機内食としてカプレーゼを注文し、飛行機の中でウィキペディアを使ってディアラーケンについて学ぶ。それぐらい、ゲイリーはディアラーケンのことを何も分かっちゃいない状態で出向いている。
彼は宿について「どの部屋でもいい」と言うが、すぐに「上層階でキングベッドにコーヒーメーカーを」と要求する。バドワイザーを注文するが、栓抜きを使わなくても開けられることさえ分かっていない。庶民派を装っても、すぐに金満な本質が漏れてしまうのだ。
サルーンの2階へ向かう時には長い階段に愚痴をこぼし、Wi-Fi環境が無いことに呆れる。翌朝には自分の名前が住民の間に広がっていることに、ウンザリした様子を見せる。
スティーヴ・カレルって、こういう嫌な性格のキャラが良く似合うよね。この手の映画だと、「最初は嫌な奴だったけど、関係者と交流したり一緒に行動したりしている内に少しずつ変化して」みたいな展開になるケースも良くある。しかしゲイリーの場合、最後まで全く揺るがず嫌な奴のままだ。
むしろ情勢が悪化する中、化けの皮を被っている余裕も無くなって、どんどん嫌な部分が強くなっていく。粗筋の最後でも少し触れたが、スタッフへの言動も悪化していく。
そして最終的には、汚い手口を使ってでもブラウンの評判を落とそうと目論む。
化けの皮を被っている時点でも充分に嫌な奴ってのはバレバレなのだが、モロに本性が見えるようになるわけだ。ゲイリーを徹底して嫌な野郎にしておかないと、終盤に待ち受けている「全ては住民たちが一杯食わせるための作戦でした」という事実が明かされた時、その効果に悪影響を及ぼしてしまう。
仮にゲイリーが途中で「民主党のためにジャックやディアラケンの住民を利用することは本当に正しいのか」とか「こんな選挙戦は間違っているんじゃないか」とか罪悪感を覚えたり言動を改めたりしたら、「身勝手な奴を騙してスッキリする」というわけにはいかなくなる。
なので騙される側のゲイリーは、徹底して嫌な奴じゃないと困るのだ。ってなわけで、そろそろ本格的なネタバレに触れていこう。
この映画、実はコン・ゲームが隠されている。
投票はブラウンとジャックに1票ずつしか入らず決着が付かないが、そこにいる全ての住民は満足そうな様子を見せている。実は、全ての住民がグルになっていたのだ。
その目的は、政党が選挙戦のために投入した大金を巻き上げることにあった。
当初の目的は学校を継続させるための資金を得ることにあったが、共和党も本気で乗り込んで来るという想定外の事態が起き、遥かに上回る金額が手に入る結果となった。作戦を考えて主導したのはダイアナであり、ジャックが町議会に乗り込んで移民を擁護する様子は用意されたシナリオに基づく芝居だった。
その動画を撮影し、ディアラケンの出身であるエヴァンがゲイリーに教えて、民主党が動くように仕向けたのだ。
騙されたことを知ったゲイリーがディアラケンの住民を批判すると、ダイアナは反論する。
彼女の主張は、「激戦州だからって4年に1度だけ現れて、終わったら消えるくせに。私たちは問題を抱えたまま残され、毎回、口先だけの約束を聞かされる。利用したのは制度よ。そっちは数千万ドルも稼ぐ。この選挙制度で、上前をはねただけ」というモノだ。ダイアナたちが作戦のために利用したのは、「選挙資金法では計上義務が無い」という法律の抜け穴だ。どうやら監督としては、この制度の問題を指摘し、批判しようとする意識がものすごく強かったようだ。
そのせいで、そこの描写が風刺として上手く機能していない。
理由は簡単で、ダイアナたちの作戦について「実は」と明かされた時に、どういうことなのか良く分からないのだ。
そこにあるカラクリが理解できないから、「そうだったのか」と納得できないし、当然のことながらコン・ゲームの気持ち良さも味わえない。粗筋で、「ゲイリーが527団体に該当するスタッフ4名を政治行動委員会(スーパーPAC)に移動させ、政治活動から遠ざけた」と書いた。
でも、これだけで意味を理解できる人が、どれぐらいいるんだろうか。
自分の文章力が優れているとは思っちゃいないが、ここの内容に関しては、ホントに前述した程度の情報しか提示されないのだ。
唐突に「527団体」とか「スーパーPAC」とか言い出して、それに関する説明は何も無いのだ。
でも、これが作戦における重要なポイントになっているのよね。エンドロールの途中で、連邦選挙委員会の元委員長だったトレヴァ・ポッターが登場してコメントする様子が描かれる。彼は映画の内容について、「法律的に可能性はある」と言う。
具体的には、「何者かがスーパーPACや527条団体などの政治組織を作り、多額の資金を集めて別の組織や慈善団体に寄付する。
そして公共の目的に使う。寄贈者の承認は不要だ」ということらしい。
劇中で描かれたダイアナたちの作戦を改めて詳しく説明するような形ではあるのだが、それでもなお分かりにくさは否めない。トレヴァ・ポッターは「問題は制度が全く機能していない点にある」と指摘し、連邦選挙委員会や議会、最高裁判所だけでなく市民にも問題があると話す。
でも、そういうことをエンドロールで連邦選挙委員会の元委員長に喋らせるよりも、先に説明した方が良かったんじゃないかと。
具体的には、騙される側じゃなくて騙す側から話を始める。町が抱える問題を解決するために、ダイアナたちが作戦を考える。
そして「こういう制度があり、こういう問題があり、それを利用すれば町が多額の資金を得ることも出来る」ってことを先に説明して、その上でコン・ゲームを仕掛ける展開に入って行った方が良かったんじゃないかと。前述したような理由で、どうせ本作品はコン・ゲームの醍醐味やドンデン返しの爽快感なんて全く無いのよね。
なので、先に選挙制度や問題点を丁寧に示し、ゲイリーを欺くための手順を解説した上で作戦成功までの道筋を描いた方が良かったんじゃないかと。その方が、分かりやすく達成感や気持ち良さが伝わったんじゃないかと。
ゲイリーの選挙戦略を示して、それをダイアナたちから「狙い通り」ってことで描き、「こんな風に利用すれば」と語らせた方がいいよ。
もしくは、作戦の中身は種明かしまで隠しておいてもいいけど、せめて「なぜゲイリーが527団体に該当するスタッフをスーパーPACに移して政治活動から遠ざけたのか」という理由ぐらいは、ちゃんと登場人物の誰かに喋らせた方がいいでしょ。ともかく、ゲイリー側から物語を描いたことが、大きな失敗だったと感じるのよ。
そもそも、ゲイリーが選挙で勝つために指示する戦略のあれこれにしても、「まあ、そんなモンだろうね」としか思わないし。
もちろん「勝利のためなら手段は選ばず、汚いことも平気でやる」ってのを見せるための手順なんだけど、大抵のことは「選挙戦なんて多かれ少なかれ、そういうモノでしょ」という印象なのよ。意外性や驚きは無い。
政治風刺が目的だからなのか、あまりデタラメな描写は用意していないし。
「選挙の裏側見せます」的な面白さがあるわけでもないしね。(観賞日:2024年5月29日)