『サウスランド』:2020、アメリカ

フロリダで暮らす学生のアリエール・サマーズは、シングルマザーのジャネットが恋人のボビー家に連れ込むことに不満を覚えていた。母がクラブの仕事で出掛けた後、ボビーから「マリファナは?」と言われたアリエールは「持ってても、あげるわけないでしょ」と返した。部屋に入った彼女は、スマホで自分のSNSを確認した。アリエールはネットで有名になりたいと思っているが、フォロワーは49人しかいない。彼女はメールでパーティーに誘われ、すぐに出掛けた。アリエールが男と踊っていると、嫉妬した女に突き飛ばされた。アリエールが反撃して馬乗りになる様子を、パーティー客が一斉にスマホで撮影した。
翌朝、自分の動画が拡散しているのを知ったアリエールは、友人のエマ&ケルシー&ステイシーの前で嘆く。しかしフォロワーが増えたと知って、途端に喜んだ。彼女は近所に引っ越してきたディーン・テイラーに好意を抱き、声を掛けた。アリエールはダイナーで働き、町を出るために金を貯めていた。稼いだ金は缶に入れ、ベッドの下に隠していた。アリエールはエマたちからディーンが前科者だと知らされるが、まるで気にしなかった。
パーティーに参加したアリエールはディーンを見つけ、前科者という噂について確認した。ディーンは武装強盗と暴行罪で刑務所に入っていたことを認め、「仮出所の条件で親と暮らさなきゃいけないが、母は死んでる。だから仕方なく、酒癖の悪い父と住んでる」と語った。アリエールは金が貯まったら町を出て行く考えを話し、ディーンとセックスした。彼女はディーンに、「今は誰も私という人間を気にしてくれない。でも変わる。みんなが私に注目するようになるわ」と自信満々の態度で語った。
ディーンはアリエールに隠し持っている拳銃を見せ、射撃の練習をさせた。アリエールはエマたちからディーンとの関係を心配されるが、反発して「こんな町を出て有名になる」と宣言した。帰宅した彼女は缶の金が無くなっていることに気付き、ボビーが犯人だという証拠を掴んだ。アリエールは激怒してボビーに詰め寄るが、「俺は知らない」と犯行を否定される。ジャネットもボビーを擁護し、アリエールは「2人とも死ねばいい」と吐き捨てて家を飛び出した。
アリエールはディーンに電話を掛けるが、繋がらなかった。彼女がディーンの家に行くと、玄関のドアは開いていた。アリエールが中に足を踏み入れると、ディーンは父のマイケルから暴力を受けていた。アリエールが止めに入ると、マイケルが投げ飛ばした。カッとなったディーンが殴り付けると、マイケルは階段を転げ落ちて死亡した。ディーンが「死体が見つかったら刑務所に逆戻りだ」と頭を抱えると、アリエールは「ここを出れば大丈夫よ」と告げた。
アリエールとディーンは、車で町を出発した。2人は金を手に入れるため、ガソリンスタンドで強盗することにした。ディーンが拳銃で店員を脅して金を奪う様子を、アリエールはスマホで撮影した。翌朝、アリエールは2人のアカウントを作ったこと、動画や写真をアップしてフォロワーが3千人になっていることを嬉しそうに話す。ディーンが「足が付いて警察に捕まる」と言うと、彼女は「ブロックしてるし顔は見せてない。私は有名になりたいの」と堂々と告げた。
ディーンはアリエールに、「大麻薬局なら、たっぷりと現金がある。セキュリティーは緩いし、強盗が入っても警察は気にしない」と話す。アリエールが自分の銃を欲しがったので、ディーンはネットで調べた。2人は大麻薬局に押し入り、今回はアリエールが拳銃で店主を脅して金を奪った。アリエールも売人から拳銃を手に入れ、それ以降は2人で強盗を重ねた。アリエールは強盗の様子をネットにアップし、どんどんフォロワーは増えていった。
テレビのニュースでアリエールとディーンの連続行動事件が報じられ、2人は指名手配されていることを知った。ディーンは「もう終わりだ」と漏らすが、アリエールは「平気よ。これで有名人ね」と何食わぬ顔で言う。ディーンが「大勢の警官が俺たちを追って来るんだぞ」と声を荒らげると、彼女は「捕まらなきゃ問題は無い」と軽く告げる。「有名人だったら捕まらないとでも思っているのか」とディーンが口にすると、アリエールは「セレブは無罪になってる」と平然と言い放った。
ディーンとアリエールは、交通警官にスピード違反での停止を求められた。アリエールは警官を射殺し、ディーンと共に逃走した。2人は空き家に身を隠して過ごすが、投稿するネタが無いのでアリエールは焦りを覚えた。怒りのコメントが届いてフォロワー数も減り、彼女はディーンに不満をぶつける。ディーンは」「殺しは計画に無かった。おとなしくしてろ」と言うが、アリエールは勝手にコンビニを襲う。しかし入って来た客を射殺している間に店主がショットガンを持ち出し、アリエールは撃たれて怪我を負った。彼女は空き家へ逃げ帰り、ディーンと共に車で出発した。
アリエールとディーンはパトカーに追われ、発砲して警官たちを始末した。2人は金の入った鞄を空き家に忘れたことに気付くが、大勢の警官が待ち受けているのは確実なので取りに戻るのは諦めた。アリエールが怪我をスマホで撮影したので、ディーンは呆れた。ディーンはアリエールに、「金が必要だ。オクラホマシティーにムショ仲間のカイルがいる。手を貸してもらえるはずだ」と話す。彼は車を捨てて、隠れ家を探そうとアリエールに提案した。
アリエールとディーンはエルという女性の車をヒッチハイクし、乗せてもらった。エルはアリエールのフォロワーで、家に泊めることも快諾した。ディーンからフォローしている理由を訊かれたエルは、「人生に行き詰まっている時、2人が挑戦する姿に力を貰った」と話す。ディーンは彼女に、「世間が暇潰しのために見ているのが俺たちだ。全ては幻想さ」と告げた。アリエールはディーンはエルの車に乗り、テキサスを脱出した。エルが同行を志願すると、アリエールは「貴方の進む道は別にある」と説いた。彼女はエルとツーショット写真を撮影して別れ、ディーンと共にカイルの元へ向かった…。

脚本&監督はジョシュア・コールドウェル、製作はコリン・ベイツ&ショーン・サングハーニ&スコット・レヴェンソン&マイケル・ジェファーソン&ソー・ブラッドウェル、製作総指揮はベラ・ソーン&ジョシュア・コールドウェル&ケヴィン・ビア&ドン・トンプソン&スティーヴン・モーゲンスターン&レニック・ウェブ&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&ヘンリー・ウィンタースターン&ベネット・リトウィン&アダム・リトウィン&ジョシュ・スタンフェルド&ネイサン・クリンガー&ウェス・ハル&デイヴ・ルゴ&ギャレット・クレイトン&ケイティー・リアリー、共同製作はモリー・マイユー、共同製作総指揮はアラナ・クロウ&ライアン・ウィンタースターン&イーサン・テラ、撮影はイヴ・コーエン、美術はマーク・バンキンス、編集はウィル・トーベット、衣装はジリアン・バンドリック、音楽はビル・ブラウン。
出演はベラ・ソーン、ジェイク・マンリー、アンバー・ライリー、マイケル・シロー、マリサ・カフラン、アリーヤ・ムハンマド、マディソン・ブリーディー、ローズ・レーン・サンフィリッポ、デイモン・カーニー、ジョーイ・オグレスビー、マイク・ペイジ、リン・アンドリュース、ジェニファー・レイダー、ヘイリー・バージェス、クリス・オズ・マッキントッシュ、シャノン・モリー・スミス、ロバート・ピータース、ビリー・ブレア、トッド・ジェンキンズ、スティーヴン・グッドマン、アンナ・デントン、ミシェル・ゴダード、マイケル・オディアリ、マーク・アダム・ゴフ、デイヴ・クラマー、フィリップ・パズ他。


『ミッドナイト・サン 〜タイヨウのうた〜』のベラ・ソーンが主演と製作総指揮を兼任した作品。
脚本&監督は『ビー★サムバディ カレはアイドル!』のジョシュア・コールドウェル。
アリエールをベラ・ソーン、ディーンをジェイク・マンリー、エルをアンバー・ライリー、カイルをマイケル・シロー、ジャネットをマリサ・カフラン、エマをアリーヤ・ムハンマド、ケルシーをマディソン・ブリーディー、ステイシーをローズ・レーン・サンフィリッポ、マイケルをデイモン・カーニー、ボビーをジョーイ・オグレスビーが演じている。

若者のSNS依存症や承認欲求を辛辣に風刺しようとする狙いがあるんだろうってことは、きっと多くの人が簡単に推測できるだろう。
ベラ・ソーンが製作総指揮を兼任していることを考えると、単に風刺したり皮肉ったりするだけでなく、ネットの怖さを理解していない若者に対して警鐘を鳴らそうとする意図があるのかもしれない。
回りくどい方法を取らず、真正面からストレートにメッセージを発信し、テーマを描き出そうとしている。

私は承認欲求が強いZ世代の人間ではないが、SNSに依存してしまう感覚はそれなりに理解しているつもりだ。
そして肌感覚として、それだけで映画を作ろうとするのは、ちょっと古いんじゃないかという気がする。
この映画の公開は2020年だが、ここで取り上げている問題は、もっと以前から指摘されていたはずだ。なので、今さら映画で問題提起されても、「とっくに知ってるから」ってことになる。
なので、それだけを武器にして戦うのは、ものすごく厳しい。

新鮮味の無いテーマを取り扱う時には、新たな切り口や着眼点、あるいは他の要素との組み合わせなど、何かしらの工夫を調理過程に用意しないと、味が薄くてつまらないモノになってしまう。
新鮮味が無いからと言って、必ずしもダメなわけではない。
ただ、この映画は他の部分を見ても、既視感に満ち溢れているんだよね。
「田舎での暮らしに退屈を感じている若者が町を出る」とか、「閉塞感に耐えかねた若者が軌道を外れて暴走する」とか、そういうのは20世紀から何度も使われて来たモチーフだし。

そして実は「承認欲求の強い若者が犯罪に入る」というのも、様々な映画で扱われて来たチーフだ。
なので、「Z世代だからこそ」とか、「SNSが当たり前の時代だからこそ」という話ではないんだよね。
「アリエールがネットに犯罪の動画や写真をアップして有名になろうとする」という部分で、「SNSが普及した時代ならでは」の面白さを出そうとしているんだろう。
ただ、それってザックリ言うと、やってることは「マスコミの取材を積極的に受けて有名になる犯罪者」と大して変わらないんだよね。

あと、描こうとしているテーマからすると、アリエールの行動理由にも大いに引っ掛かるんだよね。
彼女が町を出ようとするのは、「田舎での生活が退屈だから」ってのが理由。実際に町を出るのは、「ディーンが父親を殺し、そのままだと捕まるから」ってのが理由。強盗をするのは、「金が必要だから」ってのが理由だ。
そういうのが、中途半端だと感じるのよね。
彼女の行動は、全てにおいて「ネットで有名になる」が最優先にした方がいいんじゃないかと。
町を出るのも、強盗をするのも、警官を殺すのも、全て「有名になるため」という動機にしちゃった方がいいんじゃないかと。

どうせ強盗も殺人も全く躊躇しないような奴なんだから、「次第に変化していく」ってのをマトモに描くつもりも無いんだろう。
だったら、最初から「有名になる目的のためなら何でもやるイカレた若者」にしておけばいいんじゃないかと。
いっそのこと、前科者のディーンと仲良くなるのも「それでフォロワーを増やそう」という意図がある設定にしてもいいし。
とにかく、「ネットを使って有名になるため」というアリエールのモチベーションを、もっと強く押し出すべきだよ。

ディーンは「ネットで有名になる」という感覚を全く理解できず、フォロワーを増やすためにネタを投稿しようとするアリエールの行動に批判的だ。
でも、むしろディーンはアリエールに協力的で、ノリノリなキャラクターにした方がいい。
仮にSNSを良く理解していないキャラだとしても、有名になることには乗り気な性格にした方がいい。
アリエールに否定的で冷静なキャラを配置したことで、やけに生真面目な雰囲気が漂ってしまう。それによって風刺が効かなくなり、作品のピントもボヤけてしまう。

エルに「無力さを感じている時にアリエールたちを知って力を貰った」などとマジに言わせるのも同様で、こういうシリアスなテイストって邪魔なだけなのよね。
アリエールとディーンは完全なるバカップルにして、もっと能天気なノリにした方がいい。
終盤、アリエールはカイルの命令を無視し、銀行強盗の最中も現場をスマホで撮影する。当たり前だが、すぐに警官隊が銀行へ駆け付ける。そうなってからアリエールは狼狽するんだから、マヌケの極致だ。
でも、そこをシリアスに描くと、面白さを感じられないのよ。
あと、結末はザックリ言うと「遅れて来たニューシネマ」みたいな形でも良かったんじゃないかな。

(観賞日:2023年1月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会