『地獄へつゞく部屋』:1959、アメリカ

その夜、ワトソン・ブリチャードが所有する屋敷ではパーティーが催されることになっていた。フレデリック・ローレンが妻アナベラに 頼まれ、そこを借り受けてパーティーを開くことにしたのだ。その屋敷では、今までにワトソンの兄も含めて7人が死んでいた。ワトソン は幽霊屋敷だと怯えていたが、フレデリックは面白がっていた。彼は「夜明けまでの12時間を屋敷で過ごせば1万ドル差し上げます」と いう条件で、パーティーにゲストを招いた。
アナベラが出したアイデアにより、ゲストは霊柩車で屋敷へやって来た。テスト・パイロットのランス・シュローダーは金が目当てで、 新聞記者ルース・ブリジャーズは記事を書くために訪れた。ワトソンは怖がっているが、命懸けで泊まることにした。精神科医デヴィッド ・トレントは研究のため、ノーラ・マニングは家族を養う金を得るために、それぞれ屋敷へやって来た。
5人が屋敷へ到着すると、シャンデリアが落下してノーラが押し潰されそうになった。フレデリックは2階へ行き、アナベラの部屋に足を 向けた。パーティーはアナベラのアイデアだが、他人をゲストに呼ぶことは予定していなかった。夫婦関係は冷え切っており、アナベラは フレデリックに毒を持ったことさえあった。「パーティーには行かない」と、アナベラは冷淡な態度を取った。
フレデリックは1階へ行き、ゲストが集まった広間に赴いた。ワトソンはパーティーの中止を要請するが、フレデリックは耳を貸さない。 彼は「世話人は深夜に帰宅して我々を閉じ込める。ドアが閉じると出られない。電気も電話も無い。誰も近くに住んでおらず、助けは 来ない。残りたくなければ深夜までに申し出るように」と説明した。ワトソンは「既に7人が殺されている」と怯えるが、トレントは平然 とした態度で「幽霊はヒステリーによるものだ」と述べた。
フレデリックはワトソンに、ゲストの案内を指示した。最初の部屋では、天井に大きな血のシミがあった。そのシミから、ルースの手に血 がポタポタと垂れ落ちてきた。ワトソンによると、そこでは以前に殺人劇があったという。続いて地下室に行くと、ワトソンは「夫が妻を ワイン桶に入れた酸で殺した事件があった」と説明した。そのワイン桶に、未だに酸が入っていた。
ゲストが広間へ戻る中、ランスとノーラだけが地下室に留まった。ランスはノーラに話し掛け、「幽霊は信じない」と告げた。ある部屋に ランスが入った直後、勝手にドアがロックされた。ノーラが振り向くと、部屋の外に不気味な老女が出現し、スーッと遠ざかって消えた。 ノーラは慌てて広間へ行き、「ランスが消えた、幽霊が出た」とフレデリックたちに告げた。
ノーラが皆を連れて地下室に戻ると、ドアのロックは解除されていた。部屋の中では、ランスが倒れていた。立ち上がらせると、「頭を 打ったみたいだ」と口にした。ワトソンはルースに「奴らが殴ったんだ」と呟いた。ノーラは目撃した幽霊について「床に付くほど長い、 黒い服を着ていた」と説明するが、トレントは「それがヒステリーです」と冷静に告げた。
ランスとノーラはロウソクを持って、地下室を調べに戻った。ランスが先程の部屋に入った後、ノーラは再び不気味な老女を見て悲鳴を 上げた。老女はすぐにノーラの前から消えた。ランスが駆け付けると、老女の姿は無い。「幽霊は走らずに浮かんで移動する」とノーラが 説明しても、実際に見ていないランスは信じない。廊下に出たノーラはアナベラと遭遇し、自分の部屋に案内された。
ノーラがトランクを開けると、そこには生首が入っていた。悲鳴を上げて廊下に飛び出した彼女は、不気味な男に捕まった。ノーラは悲鳴 を上げ、男の手をふりほどいて逃亡した。ノーラは皆が集まった広間へ行き、ランスに「もう屋敷にいたくない」と訴えた。そこへ、彼女 が目撃した不気味な老女と男が現れた。するとフレデリックは、その2人が屋敷の世話人だと説明した。
フレデリックがパーティーのルールを説明している間に、世話人2人は玄関のドアをロックして立ち去ってしまった。フレデリックは一同 に拳銃を渡し、寝室へと戻らせた。ノーラはトランクの生首をランスやワトソンに見せようとするが、中身は空っぽだった。ランスは「君 は少し興奮しすぎている」と告げた。しばらくしてランスがノーラの部屋に戻ると、彼女の姿は無く、生首が残されていた。
ノーラを捜していたランスは、アナベラの首吊り死体を発見した。彼はトレントと一緒に死体を下ろした。やって来たフレデリックは、 「自殺だ」と漏らした。2階に戻ったランスの前にノーラが現れ、「私を隠して」と言う。ランスが部屋に入れると、彼女は「首を絞めて 部屋に連れ込んだ、彼は私が死んだと思って出て行った。ミスター・ローレンの仕業よ。暗かったけど彼に違いない」と強張った表情で 語った。ランスはノーラに、アナベラが首を吊った状態で発見されたことを教えた。
フレデリックがランスの部屋に来て、「ミーティングをやろう」と告げた。ランスはノーラを部屋に隠し、広間へ向かった。ワトソンは 一同に「屋敷から出る方法は無い」と告げた。トレントからアナベラ殺害を疑われたフレデリックは、「天井から吊るすほど私はバカじゃ ない」と否定した。ランスとトレントの主導により、「部屋に戻り、誰かが入ってきたら撃つ」という方針が決まった。「無実の人は出る 理由が無い。外に出れば犯人ということになる」というのが、彼らの考えだった。
一同は部屋に戻った。トレントはドアノブを回す音に気付いて外を確認するが、廊下には誰もいなかった。ルースは天井のシミを発見し、 そこから垂れ落ちる血に怯えた。ランスはノーラの元へ行き、彼女を落ち着かせてから廊下に出た。廊下の壁を調べると、隠し扉があった。 ランスが足を進めると、扉は閉じられた。ノーラの足元には、窓からロープがスルスルと伸びてきた。窓の外を見ると、アナベラの姿が 浮かんでいた。足元に巻き付こうとしていたロープは引っ込み、アナベラの姿も消えた。
ノーラが廊下に飛び出すと、そこにはアナベラの首吊り死体があった。背後から何者かの手が伸びてきたので、慌ててノーラは逃げた。 オルガンの鍵盤が自動的に演奏を始めたので、またノーラは悲鳴を上げて走り去った。トレントはフレデリックの部屋をノックし、「妙な 物音がした。私は2階を調べるから、1階と地下室を頼む」と告げた。フレデリックを1階へ行かせた後、トレントはアナベラの死体が 安置されている部屋に向かった。トレントが声を掛けると、アナベラは体を起こした…。

監督&製作はウィリアム・キャッスル、脚本はロブ・ホワイト、製作協力はロブ・ホワイト、撮影はカール・E・ガスリー、編集はロイ・ リヴィングストン、アート・ディレクターはデヴィッド・ミルトン、特殊効果はハーマン・タウンズレイ、音楽はヴォン・デクスター、 テーマ曲『House on Haunted Hill』はリチャード・ケイン&リチャード・ロリング。
主演はヴィンセント・プライス、共演はエリシャ・クック、ジュリー・ミッチャム、キャロル・オーマート、リチャード・ロング、アラン ・マーシャル、キャロリン・クレイグ、レオナ・アンダーソン、ハワード・ホフマン他。


ギミック映画の帝王ウィリアム・キャッスルによるギミック映画3部作(と私が勝手に呼んでいるのだが)の第1作。
ちなみに、その3作は本作品と『ティングラー/背すじに潜む恐怖』と『13ゴースト』。
それまで西部劇や犯罪映画の監督を務めていたキャッスルが初めて製作したのは1958年のスリラー映画『Macabre』で、彼は観客全員に 「映画を見ている最中に死んだら千ドルを支払う」という死亡保険を発行した。それもギミックではあるが、映画館そのものに仕掛けた ギミックではない。
映画館そのものに仕掛けるギミックをキャッスルが使ったのは、本作品が最初だ。
それが何だったのかは後述する。

さて、内容を見ていこう。
冒頭、数名の悲鳴が暗闇の中に響き、それからワトソン・ブリチャードの首から上だけが浮かび上がり、「今夜は幽霊が落ち着きません。 すぐに世界でただ一つの幽霊屋敷をご紹介します。百年前に建てられ、私の兄を含めて7人が殺された。今は私が所有しています。私は 一晩だけ宿泊したが、朝には死に掛けていた」と語る。
その時点で、もうコケ脅しとしては成立していて充分なのに、さらに続いてフレデリックの首が浮かんで、こいつもカメラに向かって ベラベラしゃべるという冗長さ。
しかも、「今夜、この家を借りました。妻のパーティーのため。貴方も招待します。次の12時間をこの家で過ごせば1万ドル差し上げます 」と、こちらはコケ脅しとしての役目を果たすためのモノではなく、単なる説明のためだ。

この後も、フレデリックがナレーションでゲストの説明を語っていく。
そういう作業をドラマの中で紹介せず、ナレーションで全て処理してしまおうというのは、手抜き感覚としか思えない。
で、ゲストの説明が終わるとフレデリックは「貴方たちも深夜までに屋敷へ来てください」と述べる。
そのセリフで観客を引き込もうとしているのだろうが、それは無理な相談というものだ。

ワトソンが屋敷の中を案内すると、「ここでは殺人が起きている」「ここで起きた殺人は全て残忍な方法だ」「夫が妻をワイン桶の酸で 殺した」などと説明するのだが、殺人劇を説明してどうすんのかと思ってしまう。
幽霊が人を殺したんじゃねえのかよ。「そういう事件が幾つもあったから、そこで殺された人々が幽霊になった」ということなのかよ。
なんか、しょっぱい設定だなあ。
その後、ノーラが不気味な老女や不気味な男を目撃するが、そのコケ脅しは全く恐怖を煽らず、「何だ、それ?」と呆気に取られてしまう。

この段階で「あれっ、ひょっとして、この映画、ちっとも怖くないんじゃないだろうな?」と不安になった人、それは大正解である。
その後も、全く怖さの無いコケ脅しばかりが続く。
お化け屋敷映画としての怖さは、微塵も感じられずに終わる。
やがて話が進む中で「幽霊は存在せず、フレデリックか、あるいは何者かがアナベラを殺したのでは」というミステリーとしての道筋を 用意するが、「どうでもいいや」と思わせるだけで、一向にテンションは高まらない。
そもそも、アナベラが首吊り死体で発見された時点で、それが少なくとも幽霊の仕業ではないことはバレバレなのである。

ノーラが部屋で一人でいると、窓からロープがスルスルと伸びて足元に巻き付いてくるというシーンがある。
それは幽霊ではなくアナベラの仕業なのだが、どうやっているのかは不明。
で、その時にアナベラは窓の外に浮かんでいたのに、ノーラが廊下に飛び出すと、そこでは首吊り死体になっている。そしてトレントが 部屋に行くと、アナベラは死体のフリでベッドに横たわっている。
どんだけ俊敏な女なんだよ、アナベラってのは。

終盤になって「実はアナベラの自殺は偽装で、トレントと彼女がフレデリックの殺害を計画していて」というネタバラシがあるのだが、 心底から「どうでもいいわ」としか思えない。
大体さ、その殺害計画は「ノーラを怖がらせておき、フレデリックが地下室に現れたら幽霊だと勘違いして発砲するように仕向ける」と いう内容だが、すげえ手間が掛かってる割りには確実性が低すぎるだろ。
で、ノーラがフレデリックを撃って地下室を去った後、そこに現れたトレントが死体をワイン桶に沈めようとするところで暗転する。その 後、アナベラが地下室に来ると、ワイン桶から骸骨が登場して彼女を怖がらせる。
その骸骨が、いかにも操り人形みたいで陳腐だなあと思っていたら、アナベラがワイン桶に落ちた後で奥のドアが開き、フレデリックが 装置を操りながら登場する。
なんと、本当に操り人形だったという設定なのだ。

つまり、「フレデリックはアナベラたちの計画を察知しており、撃たれたのはブランク弾で、死んでいなかった。トレントをワイン桶に 沈めて自分は奥の部屋に入り、自分の骸骨が出て来たように見せ掛けてアナベラをワイン桶に落とした」ということなのだ。
それにしても、ホントに骸骨が操り人形だという設定には唖然とさせられた。こっちの予想の斜め上を行く陳腐さだ。
っていうか結局、幽霊の仕業じゃねえじゃん。
この仕掛けで「実は幽霊なんかいませんでした」というオチは無いだろ。
それは誰も期待しないようなドンデン返しだぞ。
殺人計画があるのは百歩譲って受け入れるにしても、その上で「だけど幽霊も悪さをしますよ」という形にしておけよ。

さて、この映画で使われたギミックについて触れよう。
それは「Emergo」と名付けられた物で、フレデリックが使ったのと同じような操り人形の骸骨だ。
劇中で骸骨が現れた際、スクリーンの横にある箱に隠しておいた骸骨人形を、ワイヤーで吊るして観客の頭上に登場させたのだ。
これは怖がらせるためのギミックだが、実際には爆笑を呼んだらしい。
それと、子供たちがスリングショット(パチンコ)で骸骨人形を狙うようになったため、大半の映画館ではすぐにギミックの使用を中止したらしい。

(観賞日:2010年5月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会