『センチメンタル・アドベンチャー』:1982、アメリカ

オクラホマに住む16歳のホイットは、砂塵の被害に苦しむ農家の息子だった。ある日、一台のオンボロ車が敷地に突っ込み、風見鶏の台を破壊して停止した。運転していたレッドは、ホイットの母であるエミーの弟だった。レッドは泥酔しており、車から滑り落ちて眠り込んだ。ホイットの父であるヴァージルや祖父のワゴナーたちがレッドを家に担ぎ込み、ベッドで休ませた。レッドの車に積んである荷物は、一本のギターだけだった。
ヴァージルはレッドが持っていた手紙を読み、彼がナッシュビルで開かれる『グランド・オール・オープリー』のオーディションに参加することを知った。それは有名な公開番組だったので、エミーは興奮した。砂塵の襲来によって、畑の作物は全滅していた。一家は農家を諦めてカリフォルニアへ引っ越すことを検討していたが、新たな仕事が確約されているわけではなかった。目を覚ましたレッドは激しく咳き込み、ウイスキーで喉を潤した。
ホイットの一家は畑に全財産を投入して一文無しとなり、借金もあった。そのことを知ったレッドは、「俺が何とかする。ナッシュビルに着いたら金を送る」と自信を見せた。するとワゴナーは、「テネシー州はワシの生まれ故郷だ。ケインズビルって町さ」と告げる。レッドはギターに興味を示すホイットを連れて行こうと考えるが、旅費は無かった。ワゴナーが「ワシが30ドル出そう」と言うので、レッドは「カリフォルニアへの旅費でしょ」と告げる。するとワゴナーは、「もう年だから故郷で死にたい。連れて行ってくれ」と述べた。
翌日、ホイットがギターを弾こうとしたので、レッドは調弦を教えようとする。しかし彼は急に怒鳴り散らし、ホイットを部屋から追い払った。エミーはホイットに、「病気のせいよ。体が悪い時はイライラするのよ」と説明した。ホイットが昼食を持って行くと、レッドは改めて調弦を教えた。レッドが『ペア・ア・ダイス・カフェ』へ歌いに行く時、エミーはお目付け役としてホイットを同行させた。レッドは店主のルルにホイットを紹介し、ステージでギターを弾きながら歌った。
レッドは不安げなホイットを連れて深夜の養鶏場に侵入し、大量の鶏を盗み出す。しかし大きな音を立てて主人のヴォーゲルに見つかり、慌てて逃亡した。翌朝、通報を受けた警官2名が車に残った証拠を指摘し、レッドを連行した。ホイットは西部劇映画を模倣し、牢屋の壁を破壊してレッドを脱獄させた。農場へ戻ったレッドは熱を出して咳き込むが、エミーに「明朝には発たないといけない」と述べた。彼はワゴナーに、「30ドルでタルサまで行けます。そこで貸した金を取り立てて、残りの旅費に」と話した。
レッドはエミーとヴァージルに、ホイットを連れて行きたいと申し入れた。「運転が上手いのでハンドルを任せたい」というのが一番の理由だったが、それだけでなく彼は「才能があるから、歌手になれるかも」と告げる。ホイットは「綿摘みで終わりたくない。行かせて」と頼むが、ヴァージルは不快感を示した。翌朝、エミーはホイットに「反対だけど、レッドが心配。本当は療養所に入らなきゃいけないの。医者を呼ぶ人が必要よ」と語り、同行を許可した。
ホイットはレッドと祖父を車に乗せ、農場を出発した。レッドは彼に、ロスコーを迂回してイーニドへ向かうよう指示した。そこで貸しのあるアーンスプリガーを見つけるのが目的だ。レッドがギターを弾きながら新曲を考えていると、ホイットが歌詞のアイデアを出した。3人はアーニドに着くが、レッドが聞き込みをしてもアーンスプリガーの居場所は分からなかった。カーラジオからは、ボブ・ウィルスが率いるカントリー・バンドの演奏が聴こえてきた。そこでレッドは、ラジオ局へ行くことにした。
レッドはワゴナーをモーテルへ送り、ホイットと2人でラジオ局へ向かった。ウィルスはレッドが作った歌を演奏しており、2人は友人だった。「興行師のアーンスプリガーを知らないか。ギャラに不渡りを掴まされた」とレッドが言うと、ウィルスは「たぶんミス・モードの売春宿だろう」と教えた。レッドが売春宿へ行くと、女将のモードは「アーンスプリガーは『チュー・チュー・カフェ』で博打をしている」と言う。レッドが「甥は16歳だが、まだ女を知らない。男にしてやってくれ」と頼むと、モードは「未成年だから警察に捕まる」と断った。しかしホイットが一目惚れした売春婦のベルはOKし、彼を男にしてやった。
レッドは『チュー・チュー・カフェ』へ行き、アーンスプリガーに百ドルの返済を要求した。アーンスプリガーが「金は無いんだ」と口にすると、レッドは「作れ」と告げる。するとアーンスプリガーは、「ウェイトレスのマーリーンを借金のカタにしよう」と持ち掛ける。レッドがナッシュビルへ行くことを知ったマーリーンは、「私の夢だ。何だってするよ。歌手志望なんだ。連れて行って」と興奮した様子で話す。しかしレッドは「断る」と冷淡に告げ、マーリーンを下がらせた。
アーンスプリガーは保険金詐欺で稼ぐ計画があることを明かし、強盗を装ってダイナーに乗り込む役目をレッドに提案した。予定では息子のジュニアが担当するはずだったが、それを任せると彼は言う。レッドは承諾し、銃を構えてダイナーに乗り込んだ。しかしジュニアが事前の連絡を怠ったため、レッドは店主のマートルに危うく殺されそうになった。カフェへ戻ったレッドは、仲間とポーカーに興じているアーンスプリガーに銃を突き付けた。レッドはアーンスプリガーと仲間を脅し、金を巻き上げて店を去った。
レッドは車でモーテルへ戻り、ワゴナーを呼びに行く。すると後部座席に隠れていたマーリーンが姿を現し、ホイットに「ナッシュビルに行きたいの。あの人に頼んで。店へ戻れば殺される」と言う。ホイットはトランクに隠れるよう指示し、「遠くまで行けば、見つかっても追い返されない」と述べた。レッドは泥酔しているワゴナーを車に乗せ、ホイットに出発させた。レッドとワゴナーが眠っている間に、ホイットはマーリーンをトランクから出して用を足させた。彼女がレッドに惚れたことを話すと、ホイットは「叔父さんには言わない方がいいよ。余計に話がこじれるから」と助言した。
レッドたちがナッシュビルへ向かっていると、パトカーが停止を求めた。レッドは警官から免許と登録証の提示を求められるが、どちらも持っていなかった。レッドは「無くした財布に入ってた。何とかしますから。今はオープリーに出るので」と釈明し、トランクからギターを出そうとする。そこにマーリーンが隠れていたので、彼はギョッとする。ホイットが慌てて「僕が姉さんを隠れさせたんだ。叔父さんと行きたがったから」と警官に告げ、マーリーンも話を合わせた。
警官は全員を逮捕しようとするが、レッドが10ドルの賄賂を渡すと解放してくれた。レッドはマーリーンに、「次の町にバス・ターミナルがある。そこで降りろ。帰りのバス代はやる」と告げた。車の調子が悪いので、レッドは町の修理工に診てもらう。すると修理工は、部品を取り寄せるのに2日は掛かると説明した。マーリーンは「どうしたら私を好いてくれるの?」とレッドに気持ちをぶつけ、「私の歌を聴けば、連れて行きたくなるわ」と述べた。しかし彼女が音痴だったので、レッドは「プロは諦めろ」と冷淡に突き放した。
レッドたちは壊れた車で先を急ぐが、アーカンソー州ノックスパターの町で限界が訪れた。修理工に車を預けると、「2日は掛かる」と告げられた。メンフィス行きのバスがあると知ったワゴナーは、レッドに「ワシはバスで行く。2日も町に残るのは勿体無い」と告げる。レッドはホイットに、「俺もバスで行く。車が直ったら後から来てくれ」と言い、強引に承諾させる。修理工場の2階で泊めてもらう約束を取り付けたレッドは、ホイットに「あの女はメンフィスへ連れて来るな。バスの切符を渡して追い返せ」と指示した。
バスが到着してワゴナーは乗り込むが、酒場で女と楽しくやっていたレッドは発車時刻に間に合わなかった。翌朝の8時まで次のバスが来ないため、彼は1日の足止めを余儀なくされた。次の朝、バスが来たのでホイットはレッドを起こす。レッドがベッドで目を覚ますと、隣には全裸のマーリーンがいた。マーリーンが「妊娠したわ。分かるの。貴方はお父さんよ」と嬉しそうに言うので、レッドは困惑する。レッドが慌てて出掛ける準備をすると、マーリーンは「行くの?昨日、約束したのに」と口にした。
レッドはマーリーンに「お前はイカれてる」と言い放ち、部屋を出てバスヘ向かう。彼はホイットに金を渡し、「ビール通りのトップ・ハットって店に来い。1人で来いよ」と指示してバスに乗り込んだ。ホイットが『トップ・ハット・クラブ』へ行くと、そこは黒人専用の酒場だった。ステージでは黒人歌手のフロッシーが歌っており、ピアノ奏者としてレッドが参加していた。客もバンドのメンバーも黒人で、レッドとホイットだけが白人だった。
ホイットは客から渡されたマリファナを吸い、意識朦朧となった。ステージを終えたレッドは、ホイットにマーリーンのことを尋ねる。「バス停へ置いて来た。ナッシュビルへ行くと言ってた」とホイットが教えると、レッドは「トラブルになったら助けてくれよ」と告げる。オープリーを開催するWSM局に到着したレッドは、舞台に上がってオーディションを受けた。しかし自作の歌を披露しようとした彼は途中で激しく咳き込み、オーディションを続けられなくなってしまった…。

製作&監督はクリント・イーストウッド、原作はクランシー・カーライル、脚本はクランシー・カーライル、製作総指揮はフリッツ・メインズ、撮影はブルース・サーティース、美術はエドワード・カーファグノ、編集はフェリス・ウェブスター&マイケル・ケリー&ジョエル・コックス、音楽はスティーヴ・ドーフ、音楽監修はスナッフ・ギャレット、指揮はスティーヴ・ドーフ。
出演はクリント・イーストウッド、カイル・イーストウッド、ジョン・マッキンタイア、アレクサ・ケニン、ヴァーナ・ブルーム、マット・クラーク、バリー・コービン、ジェリー・ハーディン、ティム・トマーソン、メイコン・マッカルマン、ジョー・レガルブート、ゲイリー・グラブス、レベッカ・クレモンズ、ジョニー・ギンブル、リンダ・ホプキンス、ベット・フォード、ジム・ボエルセン、トレイシー・ウォルター、スーザン・ペレッツ、チャールズ・サイファーズ、マーティー・ロビンス、レイ・プライス、シェリー・ウエスト、デヴィッド・フリッツェル、ポーター・ワゴナー他。


クランシー・カーライルの小説を、彼自身の脚本で映画化した作品。
『ガントレット』『ブロンコ・ビリー』のクリント・イーストウッドが製作&監督&主演を務めている。
ホイットを演じているのは、クリントの息子であるカイル。
祖父をジョン・マッキンタイア、マーリーンをアレクサ・ケニン、エミーをヴァーナ・ブルーム、ヴァージルをマット・クラーク、アーンスプリガーをバリー・コービン、スナッフィーをジェリー・ハーディンが演じている。

主人公がオーディションへ向かうカントリー・ミュージシャンということで、本物の歌手やミュージシャンが何人か出演している。
ボブ・ウィルスを演じるのはフィドル奏者のジョニー・ギンブルで、そのバンドで歌うのはカントリー歌手のレイ・プライス。
バンドのメンバーとしてフィドルのゴードン・テリー、ギターのマール・トラヴィスとトミー・オールサップが参加している。ちなみにボブ・ウィルス&ヒズ・テキサス・ボーイズというのは、実際に活躍していたバンドである。
他に、オープリーのオーディションでレッドの前に歌っているのはカントリー歌手のポーター・ワゴナーで、退場後に歌っているのはデヴィッド・フリッツェル&シェリー・ウエスト。レッドのレコーディングに参加してギターと歌を担当するスモーキー役はマーティー・ロビンスで、ブルース歌手のフロッシーとしてリンダ・ホプキンズも出演している。
カントリーやウエスタンが好きな人からすると、それだけでも大きなセールス・ポイントになる顔触れが揃っている。

国や地域を問わず、「役者が自身の主演作で我が子と共演したくなる病気」ってのは存在する。
例えばシルヴェスター・スタローンは、『ロッキー5 最後のドラマ』で息子のセイジを主人公の息子役で起用した。
ウィル・スミスは夫婦で製作した『アフター・アース』で息子のジェイデンを主演に起用し、自分は父親役で出演した。
子供を愛するのは親として当たり前だし、一緒に仕事をしたくなる、自分の仕事場を見せたくなるってのは理解できる。

ただし、それが小さな役ならともかく主要キャストってことになると、批判や嘲笑の対象にするリスクも抱えている。だから未成年の子供を自分の主演作に起用する時は、慎重に考える必要がある。
だが、時に親の愛は、恋よりも盲目になってしまうことがある。あのクリント・イーストウッドでさえ、その病気を患った時があったのだ。
ちなみにカイル・イーストウッドは俳優を本職にせず、現在はベーシストや映画音楽の作曲家として活動している。
妹のアリソンや異母弟のスコットは、役者の世界で活動している。
言うまでもないだろうが、この2人も父と何度か共演している。

旅の途中、車を修理工に診てもらい、「部品を取り寄せるのに2日は掛かる」と告げられるシーンがある。しかし、そこでは車を預けずに旅を続け、ノックスパターで限界が訪れる。町の修理工に診てもらうと、やはり「部品を取り寄せるのに2日は掛かる」と言われる。
その手順、2度も重ねる意味があるかね。
1度目のシーンは、まるで要らないでしょ。「車が壊れて動かなくなり、2日の足止めを食らう」という2度目の手順だけで充分でしょ。
1度目のシーンに関しては、その町で休息中にマーリーンが歌を披露して音痴が発覚するという描写があるけど、それは「車の調子が悪いので修理工に診てもらう」という手順が無くても成立させられるし。

「ホイットの目から見たレッド」という描き方で、話を進めて行くわけではない。実質的な主人公をホイットにして、彼の成長物語として話を描いているわけでもない。
ホイットを「旅の道連れ」に配置しておきながら、レッドとの関係を充分に活かし切れているとは思えない。
もっと問題なのはワゴナーだ。彼は旅に出た後、大半のシーンで画面から消えている。そして、これといった存在意義を示さないまま、ノックスパターで別れてしまう。
一応、ホイットに自分の過去を語るシーンは用意されている。ただ、それがホイットの人間形成に大きな影響を与えることは全く無い。
彼の言葉が、ホイットの心に響いている様子も全く感じないしね。

旅の途中、新たな道連れとしてマーリーンが登場するのだが、こちらも上手く活用できていない。
「歌手志望だけど、実際に歌うと音痴だった」ってのは、喜劇としては大して効いていないけど、まあ良しとしよう。「レッドに惚れた」という要素は上手く機能させられているとは思えないが、それも良しとしよう。
ただ、急に「妊娠した。分かるの」と言い出し、「ヤバい女」という扱いにしちゃうのは、いかがなものかと。
しかも、そこでレッド&ホイットと別れて、しばらく退場しちゃうのよね。
そうじゃなくて、レッドが疎んじるキャラにしておくのは別にいいとしても、ずっと旅の道連れとして使った方がいいと思うのよ。

クリント・イーストウッドのジャズ好きは有名だが、他のジャンルにも造詣が深い。歌手としてレコードを発売したこともあるし、主演作で自作の曲を使うこともある。映画で歌声を披露するのも、これが初めてではない。なので吹き替えに頼らず自分で歌うのは、当然のことだろう。
ただし残念ながら、お世辞にも上手いとは言えない。
「売れない歌手という設定だから、歌唱力は無くてもいいんじゃねえか」と思うかもしれないが、そうではない。
「そんなに上手くないから売れなくて当然」ってことじゃなくて、「実力はあるけど売れていない」という形であるべきなのだ。

終盤、レッドはオーディションでは激しく咳き込んで不合格になるが、レコード会社のプロデューサーからスカウトされる。しかしレッドは肺病で体調が悪化する一方で、レコーディングは休憩を取りながら行われることになる。
しかし、とうとう録音の最中に吐血して倒れてしまい、隣でギターを弾いていたスモーキーが歌を引き継ぐ。レッドが復帰できないと見たプロデューサーは、そのままスモーキーの歌を続けさせる。
そこは同じ歌をクリント・イーストウッドとマーティー・ロビンスが順番に歌うので、歌唱力の差が明確に出てしまう。
その結果として、「全てスモーキーが歌った方がいいんじゃないか」という感想になってしまうのだ。

カントリーというジャンルを考えれば、そんなに歌唱力が高くなくても、いわゆる「味」があればいいという捉え方も出来る。
しかし皮肉なことに、前述したようなプロの歌手たちが何人か登場して歌声を披露しているため、その差が歴然としているのだ。
そんなクリント・イーストウッドの歌う主題歌がラストで流れて来るので、どうにも締まりが悪い。
本来なら「余韻を残しつつ、感動的なエンディング」と受け止めたいところなのだが、微妙な歌唱力が映画に浸ることを妨害するのである。

(観賞日:2017年4月2日)


第3回ゴールデン・ラズベリー賞(1982年)

ノミネート:最低オリジナル歌曲賞「No Sweeter Cheater Than You」

 

*ポンコツ映画愛護協会