『ジャスティス』:2002、アメリカ

1944年、12月16日。トーマス・W・ハート中尉は、ベルギーの連合軍司令部で任務に就いていた。ハートは父親が上院議員で、従軍前は イェール大学で法律を学んでいた御曹司だ。父親の恩恵で中尉の肩書きを与えられた彼は、前線での経験が無かった。ある日、ハートは 師団に戻る上官の運転手を買って出た。何の危険も無い任務のはずだったが、途中で米兵に成り済ましたドイツ軍に襲撃された。上官は 射殺され、ジープで逃げようとしたハートも捕まった。
ハートはドイツ軍のルッツから厳しい拷問を受け、燃料庫の位置を明かすよう脅された。3日目に情報を吐いたハートは、殺害を免れた。 彼は他の捕虜と共に長い行軍を経て、アウクスブルク郊外のドイツ軍捕虜収容所へ到着した。ハート達が到着した時、収容所では脱走を 試みたソ連兵がナチスのヴィッサー大佐によって処刑されていた。アメリカ人捕虜のリーダー格であるウィリアム・A・マクナマラ大佐は 処刑された兵士に向かって敬礼し、ヴィッサーに「我々に劣等民族という区別は無い」と言い放った。
ハートはマクナマラの配下クラリー少佐に声を掛けられ、同日に移送されたロス大尉と共に将校兵舎へ行くよう指示された。ハートが兵舎 に入ると、マクナマラからの事情聴取が待っていた。ハートは拷問が3日だったこと、担当がルッソだったことを証言した。しかし、 「敵は司令部の情報を全て知っていた」と、自分が吐いたことは明かさなかった。
マクナマラはハートに、将校兵舎は満員なので下士官用の第27兵舎に入るよう指示した。第27兵舎を仕切っているのはベッドフォード 2等軍曹で、彼はタバコや靴など様々な物を調達していた。年が明け、1945年が訪れた。朝礼に出たハートは、ソ連兵が靴工場での仕事 から戻ってくるのを見た。だが、その場所は靴工場に偽装しているだけで、実際には爆弾を作らせているのだという。
飛行気乗りの黒人少尉スコットとアーチャーが、新たな捕虜としてやって来た。ベッドフォードは2人を見て、露骨に差別的な発言をした。 ハートはマクナマラに、「どの兵舎に入れるのか皆が注目している」と告げた。「君ならどうする?」と問われたハートは、「自分なら 専用のテントを設置します」と答えた。だが、そんなことは不可能だ。マクナマラは「君の兵舎に入れる。自分の代わりに彼らを監視して くれ」とハートに告げた。スコットとアーチャーが第27兵舎に現われると、ベッドフォードと仲間たちは不快感を露にした。スコットと アーチャーの方が上官だが、お構い無しに見下すような態度を取った。
夜、ドイツ軍のフィーセル少佐らが兵舎に現れ、「守衛テントの杭を抜いていた者がいる」として緊急検査をすると言い出した。ハートは「外出した者はいない」と主張するが、アーチャーのベッドの下から杭が発見された。彼は 「何かの罠だ」と主張するが受け入れられず、即座に射殺された。スコットはベッドフォードの仕業だと激昂し、ハートたちに制止された。 マクナマラは審理無しの処刑を批判するが、ヴィッサーは「ここはジュネーヴではない」と平然と言った。
米軍の空襲があり、一機が墜落して炎上した。火が兵舎にも燃え移ったため、マクナマラの指示で慌てて消火活動が行われた。ハートは ロスに、自分はマクナマラから嫌われているとこぼした。するとロスは「そうじゃない。初日に嘘をついたからだ」と返した。かつて マクナマラはルッソの拷問を受け、1ヶ月に渡って耐え抜いたことがあった。その経験から、マクナマラはハートが嘘をついていると 見抜き、下士官兵舎に回したのだ。
その夜、アメリカ人区画にある劇場の裏で、ベッドフォードの死体が発見された。死体の脇にいたスコットが現場から逃げ出す姿が目撃 され、彼は犯人として捕まった。マクナマラはヴィッサーに対し、軍法会議を要求した。ビッサーは面白がって承諾し、マクナマラを議長 に任命した。マクナマラはハートに、スコットの弁護人を務めるよう命じた。
軍法会議で検事を務めるのは、実際に検事であるシスク大尉と決まった。ハートが面会に行くと、スコットは無実を主張した。だが、 ハートは「ケンカの末の故殺で、殺意は無かったということにしよう」と持ち掛ける。スコットは「殺意は無かったで通じると思って いるのですか」と反発し、判決が最初から決まっているという確信を口にした。
ハートはマクナマラから、スコットが何をしゃべったか報告するよう求められる。守秘義務を盾に断るハートだが、マクナマラは「お前は 本物の弁護士じゃない」と聞く耳を貸さない。そして彼は「スコットが便所の抜け穴から脱出したとドイツ軍の前で証言すれば、他の者 も巻き添えだ」と告げ、ストーブの隙間から出たとスコットに証言させるよう、ハートに命じた。
死体置き場に入ったハートの前にヴィッサーが現れ、何でも協力すると告げた。彼は今回の事件を楽しんでいるらしく、ベッドフォードを 良く知っていた部下に尋問できるよう話を付けるとまで言った。軍法会議が劇場を舞台にして始まり、ドイツ軍のフィーセル少佐は逃げる スコットを目撃したと証言した。さらにアメリカ人捕虜のウェッブ軍曹は、スコットの殺害を目撃したと証言した。「自分の隣にいたので 目撃は不可能だ」とハートは主張するが、マクナマラに却下された。
ハートは犯人が顔にススを塗っていたことを立証し、ベッドフォードを殺したのは白人だったと主張する。だが、検察側から「スコットは ストーブの下をくぐって逃げたと証言した。その際に顔にススが付着したのではないか」と言われ、言葉に窮した。圧倒的に不利な状況の 中、ウェッブ軍曹を尾行したハートは、マクナマラ達がトンネルを掘って脱走を企てていることを知る。彼らは軍法会議にドイツ軍の目を 引き付けておき、その間に脱走する計画なのだ…。

監督はグレゴリー・ホブリット、原作はジョン・カッツェンバック、脚本はビリー・レイ&テリー・ジョージ、製作はデヴィッド・ フォスター&グレゴリー・ホブリット&デヴィッド・ラッド&アーノルド・リフキン、製作総指揮はウォルフガング・グラッテス、撮影は アラー・キヴィロ、編集はデヴィッド・ローゼンブルーム、美術はリリー・キルヴァート、衣装はエリザベッタ・ベラルド、音楽は レイチェル・ポートマン。
出演はブルース・ウィリス、コリン・ファレル、テレンス・ハワード、コール・ハウザー、マーセル・ユーレス、ライナス・ローチ、 ヴィセラス・シャノン、モーリー・スターリング、サム・ジェーガー、スコット・マイケル・キャンベル、ローリー・コクラン、 セバスチャン・ティリンガー、リック・ラヴァネロ、エイドリアン・グレニアー、マイケル・ウェストン、ジョナサン・ブランディス、 ジョー・スパーノ、サム・ウォージントン、ブラッド・ハント他。


ジョン・カッツェンバックが父親の収容所生活から着想を得て執筆した小説を基にした作品。
マクナマラをブルース・ウィリス、ハートをコリン・ファレル、スコットをテレンス・ハワード、ベッドフォードをコール・ハウザー、 ヴィッサーをマーセル・ユーレス、ロスをライナス・ローチが演じている。
監督は『悪魔を憐れむ歌』『オーロラの彼方へ』のグレゴリー・ホブリット。

ハートが捕まって拷問を受けるシークエンスは、「そこで彼が情報を漏らすという裏切り行為を犯し、それを抱えて収容所に入る」という 後に繋がるポイントになるべきなのに、全く活用されていない。
情報を敵に渡したことについて、ハートが悔いたり苦悩したりすることは全く無い。拷問で吐いたことが、それ以降のハートの心理や行動 に何の影響も及ぼさないのだ。
そうなると、そのシークエンスそのものが無駄に時間を使っただけということになる。
ハートが情報を敵に渡したのに嘘をついたことで、マクナマラに信用されず下士官兵舎に送られるわけだから、全く無意味になっていると いうわけでもない。
ただし、そこで「その嘘についてハートの考え方がどのように変化し、どうケジメを付けるのか」「ハートに不信を 抱いていたマクナマラの心理が、どう移り変わっていくのか」という部分が全く見えない。

ハートが捕まって、捕虜生活の中でマクナマラとの関係を軸に人間ドラマを描いていくのかなと思わせる(既に下士官宿舎行きを指示 される時点で「満員という理由は嘘だな」と分かるので、そこでドラマとしての仕掛けは1つある)。
しかし、すぐに差別問題を取り込む。
では人種対立を巡る人間ドラマになるのかと思いきや、事件が発生して法廷劇に移行する。
それでもまだ人種問題は引っ張っているが、さらにマクナマラがトンネルを掘っていることが分かり、さらに話の軸はズレていく。
結局、「マクナマラが密かに脱走計画を企てている」という部分が肝心要の部分なんでしょ。なのに、その計画のための隠れ蓑である 法廷劇に行くまでに映画の半分が過ぎているのだ。
法廷劇の中でハートとマクナマラの心理ドラマが見えてくるってのが、映画のメインになるべきじゃないのかと思うんだが。
で、軍法会議が始まっても、ハートが「マクナマラは何か隠しているのではないか」「法廷劇とは別の目的があるのではないか」と考える ところに、なかなか至らない。で、「そう思い始めてから探りを入れる」という手順はカットして、すぐにトンネル発見へ移る。
計算能力が無かったのかと。
香港映画のように、撮影しながらシナリオを作ったわけでもあるまいし。

脱走計画を知ったハートはスコットに犠牲を強いることを批判し、マクナマラは「工場の秘密を米軍に伝えるには他に手が無い」と反論 する。
で、ハートは「貴方が犠牲を払うべきだ」とベッドフォード殺しの自白を求めるが、マクナマラは「任務の何が分かる」と反論する。
このやり取り、マクナマラに賛同したくなってしまう。
ハートが情報を敵にバラしたことへの悔恨や苦悩を全く見せず、嘘をついたことのケジメも付ける気ゼロなので、「お前は偉そうなことを 言える立場かよ」と思ってしまうのだ。

任務のために真実に目を瞑ろうとするマクナマラに対して、ハートが「真実を選択すべきだ」と主張するのは、その関係性からしても 間違っているわけじゃない。
ただし、任務の大切さと、そのために無実の人間が犠牲を強いられる理不尽を天秤に掛けて、少しは悩むべきじゃないのかと。
なぜ何の躊躇も無く、簡単に「正義と真実こそが大切なんだぜ」と強弁できるのかと。
テメエは嘘をついたままで平然としているくせに。
それと、その犠牲になるスコットは、マクナマラの脱走計画のダシに使われることをハートから教えられても、それで納得しているのよね。
だったら、いっそのこと「最初からスコットは脱走計画を知っていて、犠牲になることも受諾している」ということにしても良かったかも しれない。で、その中でハートが「軍人として、人間として、どういう行動を選択すべきなのか」と悩むという話にしてさ。

『マクナマラは頑固でタフネスで一片の隙も無いような誇り高き職業軍人であり、「劣等民族という意識など我々には無い」と、捕虜で ありながら所長に強く意見する。そんな「曲がったことは大嫌い」に見えたマクナマラが、実は平然と黒人将校を犠牲にするような計画を 企てていた。任務最優先の生き方をしてきた男なので、ハートに指摘されても目的のためなら信念は揺るがないはずだった。しかし強面の 奥にあった義侠心が頭をもたげ、最後の最後で自らが犠牲になる選択をする』と、この映画って、そういう話になるべきだと思うんだよな。
だけど実際には、そのような話には感じられない。
まず「マクナマラが何か裏でゴチャゴチャやっているようだ」と匂わせるのが遅い。
また、前提となる「誇り高き職業軍人」というイメージ付けも足りない。
それと根本的なことを言ってしまうと、ブルース・ウィリスがミスキャスト。まあミスキャストってのはコリン・ファレルの方にも言える ことだけど、ブルース・ウィリスの方が問題は遥かに大きい。エド・ハリスでも呼んで来いよ。

終盤、ハートは「自分が犯人だ」と言い出すのだが、何がしたいんだか良く分からない。それが脱走計画のための時間稼ぎになるわけでは ないし、嘘のケジメと解釈するにしても唐突だ。
唐突と言えば、マクナマラが戻ってくる行動も同様。その行動に至るまでの心理の経緯が全く無いので、急に「いい人」になった感じ。
あと、マクナマラは将校を脱走させず工場を爆破させているんだが、それだと部下は処刑されるよな。その後で脱走したわけでもない だろうし。
そうなると、マクナマラは下士官の命は救ったけど将校を犠牲にしていることになるんだが、あの展開はどう解釈したらいいんだろうか。
ちょっと良く分からなかったな。

(観賞日:2008年4月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会