『60セカンズ』:2000、アメリカ

かつて超高級車ばかりを狙う凄腕の泥棒だったメンフィスだが、今は足を洗い、田舎町で子供相手のにカートレース場を経営している。そんなある日、かつての仲間アトレーがメンフィスの元を訪れ、弟キップが命を狙われていることを告げた。
キップはメンフィスに憧れて自動車泥棒になり、ロングビーチの顔役カリートリーから50台の高級車を盗む仕事を引き受けた。しかしキップは警察に目を付けられ、アジトにあった車を押収されてしまったのだ。カリートリーはメンフィスに、キップの代わりに50台の車を用意しなければ弟を殺すと告げる。車を引き渡す期限は、わずか4日後だ。
メンフィスは弟を救うために仕事を引き受け、かつての仲間を集める。自動車整備工場を営むオットー、教習所教官のドニー、死体安置所で働くスフィンクス、そしてバーテンをしている元恋人スウェイだ。この時点で、タイムミリットは3日に迫っていた。
カリートリーに解放されたキップが、仲間に加えてくれと言い出した。メンフィスは拒否しようとするが、オットーに説得されて承知した。キップの仕事仲間であるミラーマン、トビー、タンブラー、フレッブも計画に参加することになった。
メンフィス達は、下見に1日、仕込みに1日を費やし、最後の1日で50台を一気に盗む計画を立てる。メンフィス達は、指定された高級車に女性の名前を付ける。エレノアと名付けた1967年型シェルビーは、メンフィスが何度挑んでも盗めなかった車だ。
かつてメンフィスを追っていたキャッスルベック刑事は、相棒ドライコフと共に調べ回っていた。メンフィス達の計画を察知した彼らは、大規模な捜査網を敷いて待ち構える。いよいよタイムリミット最後の日となり、メンフィス達は行動を開始した…。

監督はドミニク・セナ、原案はH・B・ハリッキー、脚本はスコット・ローゼンバーグ、製作はジェリー・ブラッカイマー&マイク・ステンソン、製作協力はアリスティデス・マクギャリー&パット・サンドストン、製作総指揮はデニス・シャカリアン・ハリッキー&ジョナサン・ヘンズリー&チャド・オーマン&ロバート・ストーン&ウェブスター・ストーン&バリー・H・ウォルドマン、撮影はポール・キャメロン、編集はロジャー・バートン&クリス・レベンゾン&トム・マルドゥーン、美術はジェフ・マン、衣装はマーレン・スチュワート、音楽はトレヴァー・ラビン。
出演はニコラス・ケイジ、ジョヴァンニ・リビーシ、アンジェリーナ・ジョリー、T・J・クロス、ウィリアム・リー・スコット、スコット・カーン、ジェームズ・デュヴァル、ウィル・パットン、デルロイ・リンド、ティモシー・オリファント、チー・マクブライド、ロバート・デュヴァル、クリストファー・エクルストン、ヴィニー・ジョーンズ、グレイス・ザブリスキー、マイク・オーウェン他。


1974年、スタントマンのH・B・ハリッキーが、監督&原案&脚本&主演&スタントを全てこなして『バニシングIN60"』というB級映画を作った。
それをリメイクしたのが、この映画だ。
ただし、今回はスター俳優を起用し、大金を掛けて豪華に仕上げてある。

メンフィスをニコラス・ケイジ、キップをジョヴァンニ・リビーシ、スウェイをアンジェリーナ・ジョリー、ミラーマンをT・J・クロス、トビーをウィリアム・リー・スコット、タンブラーをスコット・カーン、フレッブをジェームズ・デュヴァルが演じている。
さらにアトレーをウィル・パットン、キャッスルベックをデルロイ・リンド、ドライコフをティモシー・オリファント、ドニーをチー・マクブライド、オットーをロバート・デュヴァル、カリトーリをクリストファー・エクルストン、スフィンクスをヴィニー・ジョーンズが演じている。

監督のドミニク・セナは、これの前に『カリフォルニア』という、サスペンスのようでサスペンスじゃないベンベンな、救いの無い映画を撮っている。脚本のスコット・ローゼンバーグは、『ビューティフル・ガールズ』はそんなに悪くなかったが、後は『デンバーに死す時』『コン・エアー』『アルマゲドン』と、どうにも厳しいシナリオが続いている。
で、そのローゼンバーグが脚本を書いた『コン・エアー』『アルマゲドン』のプロデュースをしていたのは、この作品の製作も担当したジェリー・ブラッカイマーだ。
この映画、ドミニク・セナではなく、完全にブラッカイマーのコントロール下にある作品である。

カリートリーはアトレーが極端に恐れるほどの悪党らしいが、メンフィスが上に立ったような態度で接するのを許していることもあり、凄味は伝わって来ない。彼の登場シーンでは、強がっているが実際はチンピラに毛が生えた程度という印象だ。
その後、カリートリーは終盤まで登場せず、恐ろしさをアピールするチャンスは与えられない。木製家具を作るのが趣味だという設定があるが、それが彼の恐ろしさをアピールする仕掛けになるわけではない。再登場しても、やはり凄そうには見えない。
そのカリートリーは、なぜか序盤でキップを解放してしまう。何とも甘い悪党だ。たぶん、悪党の凄味を犠牲にしてまでも、メンフィスとキップの兄弟ドラマを見せたかったのだろう。しかし、その兄弟ドラマも申し訳程度で済ませている。贅沢な作り方だ。

メンフィスは仲間を集め始めるが、そこを厚くすることはせず、淡白に、いやテンポ良く進めている。それぞれの現在の職業だけは示すが、性格や特技などを紹介することはしない。それ以後も、仲間が特技をアピールすることは、なるべく避けている。
メンフィスの仲間は、ただの数合わせである。ヒロインであるはずのスウェイさえ、全く活躍の場を与えられていない。スフィンクスが圧倒的な強さでチンピラを殴って撃退するという、なぜか車泥棒と全く無関係な特技をアピールするシーンはあったりするが。

キップの仲間が後から加わるが、ただ無意味に数を増やしただけ。こちらは、最初に各人の特技は言葉で説明されるが、それほど大きな意味は無い。その特技を車泥棒の中で大きくフィーチャーするようなことはなく、その場その場で軽く扱われる程度。トラブルメイカーとしての役割はあるが、そんなのはキップ1人だけで充分だ。
無意味に大勢の仲間が集まるが、みんな中身は無い。正直、全員の名前と顔を把握するだけでも大変だが、どうせ把握する意味は無い。ただ数を揃えてみたというだけなので、チームプレーの魅力は無い。しかし、キャラクターが個性を発揮しないのも、チームプレーの面白さが無いのも、それを見せるつもりが最初から無いからだ。

車の場所を調べたり、下見をしたりする様子は、基本的に淡々と進められる。そこで面白さを見せるつもりが無いからだ。ただし、メンフィスがチンピラを撃退するとか、ドラッグを隠蔽するとか、車泥棒とは関係の無いところで、その場凌ぎの作戦は見せている。
車泥棒を開始しても、その手口の巧みさや奇抜さ、素早さで観客を引き付けることは無い。何となく行動している内に、何となく車が集まっていく。1台を60秒以内で盗んでいるらしいが、その時間制限が面白さを生むわけではない。

盗みの最中に60秒を数えるテロップが出ることは無いから、それが60秒であろうが越えていようが、あまり良く分からない。また、1台を盗むごとに「あと何台」という表示が出るわけでもないので、その段階で何台を盗み終っているのかも良く分からない。
車泥棒の一切は、特に盛り上げることもなく、ノリのいい音楽に合わせて淡々と、いやテンポ良く進んでいく。それぞれが特技を生かして泥棒をするわけではない。たまにカリートリーに指示された時間までのタイムリミットがテロップで提示されるが、それが緊迫感に繋がるわけではない。スリルやサスペンスで見せようとする映画ではないのだ。

終盤には、カーアクションが用意されている。ここではアップを多用し、カット割りを細かくしている。スタントのテクニックを見せようという意識は薄い。あまりにアップが多すぎ&カット割りが細かすぎなので、何がどうなっているのか良く分からないという問題が生じている。だが、どうせスタント技術の素晴らしさを見せる映画ではないのだろう。
で、ようするに何が見せたい作品なのかというと、これは車を見せるためのフィルムなのだ。カーアクションではなく、車そのものを見せたいのだ。だから本当の主役はニコラス・ケイジではなく車で、脇役は彼の仲間ではなく車だ。様々な種類の車が登場するので、それを見て喜んでもらおうという、車のプロモーション・フィルムだったのだ。


第23回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
受賞:【最もでしゃばりなメジャー映画の音楽】部門

ノミネート:【最悪のヘアスタイル】部門[アンジェリーナ・ジョリー]

 

*ポンコツ映画愛護協会