『ジャングル・ジョージ』:1997、アメリカ

アフリカ大陸の心臓部、人が足を踏み入れたことの無い秘境のブクヴ。大勢の観光客を乗せた旅客機が山にぶつかり、墜落事故を起こした。乗員乗客は軽傷で済んだが、ジョージという幼児が行方不明になった。それから25年後、ジョージはジャングルの王者に成長したが、ヘマをすることも多かった。一方、アースラ・スタンホープは現地ガイドのクワメと3人のポーターを伴い、ブクヴ観光に来ていた。彼女の婚約者であるライルはマックスとトールという男たちを雇って調査させ、ブクヴへやって来た。すぐに連れ帰ろうとするライルだが、アースラは「帰りたくないわ。明日は大きなゴリラがいる山に登るの」と告げた。
マックスはライルに「その山にはホワイト・エイプがいるらしい」と言い、クワメに説明を促した。クワメは「ただの言い伝え」と前置きした上で、ホワイト・エイプは身長2メートルでライオンのように強いブクヴの支配者だと話す。ライルはバカにするが、アースラの頼みを聞き入れて山へ行くことに同意した。翌日、一行はゴリラ山へ向かい、テントを張って休息を取った。ポーターたちからコケにされたライルは腹を立て、アースラを強引に引っ張ってゴリラの捜索へ向かった。
アースラとライルの前にライオンが現れ、威嚇する態度を見せた。ライルは「助けを呼んでくる」と駆け出すが、枝に足を引っ掛けて転倒し、意識を失った。アースラはライオンに追い詰められるが、そこへジョージが現れて彼女を救った。アースラは気絶し、ジョージは自宅へ彼女を連れ帰る。ジョージの兄弟分であるゴリラのエイプは人間の言葉を喋り、アースラに食事を用意した。パニック状態のアースラが失神したので、エイプは彼女の前で喋ることは控えようと決めた。
ライルはクワメたちを引き連れ、アースラの捜索に向かう。目を覚ましたアースラが「みんなが心配してるから、もう帰るわ」と言うと、ジョージは彼女を象のシェップに乗せて出発した。アースラはライルたちの元へ戻る目的を忘れ、楽しい時間を過ごした。ジョージは鳥のトゥーキーから、小さな猿が困っているという知らせを受けた。彼はアースラを伴って現場へ行き、猿から「仲間に遊んでもらえない」という相談を受けた。そこへライオンが出現すると、猿は怯まずに威嚇して追い払った。それを見ていた仲間たちは、彼を認めて受け入れた。ジョージと立ち去るライオンは、目で合図を交わした。
アースラはジョージの家へ戻り、蔦で木から木へ移動する方法を教わった。ジョージはアースラを妻にしたいと考え、エイプにアドバイスを求めた。エイプはゴリラの愛情表現を教え、「これで彼女は落ちる」と告げた。ポーターたちはライルに不満を抱き、仕事を放棄した。しかしマックスが「ホワイト・エイプを生け捕りにしたら報酬を出す」と約束すると、即座にOKした。ジョージは教わった愛情表現を試してみるが、アースラには全く伝わらなかった。ジョージは彼女を誘い、一緒に踊った。
翌朝、ライルはアースラの声を聞き付け、急いで駆け付けようとする。マックスは彼を制止し、静かに近付くよう指示した。マックスはクワメとポーターたちを待機させ、ライルとトールの3人だけで茂みからジョージの家を観察する。ホワイト・エイプの正体が人間だと知ったライルは余裕を取り戻し、アースラの前に姿を現した。マックスはシェップを見つけ、トールに「象牙は金になる」と撃つよう指示した。気付いたエイプが「危ない、逃げろ」と叫ぶと、マックスは「喋るゴリラは金になる」と標的を変更した。ジョージが急いで助けに行こうとすると、ライルが狼狽しながら拳銃を構えた。
ジョージはライルに撃たれるが一命を取り留め、アースラは意識を失った彼をプライベート・ジェットに乗せた。アースラは最新の治療を受けさせると言い、サンフランシスコにジョージを連れ帰った。マックスとトールは警察に捕まり、追放処分を受けた。クワメたちは警察に呼ばれ、ジョージを撃った犯人の面通しを要請された。ライルはクワメたちに指を差され、刑務所に送られた。マックスはトールに、「あの喋れるゴリラを捕まえる。ショービジネスで大儲け出来る」と告げた。
アースラはサンフランシスコの高級マンションにジョージを連れ帰り、友人のベッツィーを呼んで相談する。明日は婚約発表パーティーが予定されていたが、アースラはライルと結婚する気など無かった。ベッツィーは彼女に、ジョージを両親に会わせて本当のことを話すよう促した。アースラはジョージに家から出ないよう指示し、ベッツィーと共に父のアーサーが待つスタンホープ銀行へ向かう。アーサーはパーティーの準備を整えており、アースラを笑顔で迎えた。
ジョージはマンションを飛び出し、町のあちこちを移動した。ベイブリッジに登った彼は、宙吊りになっているパラセーラーに気付いて助けに行く。テレビのニュースで知ったアースラは、船に乗せてもらって現場へ向かう。ジョージはパラセーラーを救助し、アースラの船に着地した。アースラの母のベアトリスは、2人が抱き合う様子をテレビのニュースで見て驚いた。マックスとトールはジョージの家へ行き、エイプに麻酔弾を撃ち込んだ。エイプはトゥーキーに「ジョージに知らせろ」と頼んで眠りに落ち、マックスたちに檻で拉致された。アースラはジョージを自宅へ連れ帰り、詳しい事情を説明した。アーサーは受け入れるがベアトリスは認めず、ライルが釈放されたら結婚するようアースラに要求した…。

監督はサム・ワイズマン、キャラクター創作はジェイ・ウォード、原案はダナ・オルセン、脚本はダナ・オルセン&オードリー・ウェルズ、製作はデヴィッド・ホバーマン&ジョーダン・カーナー&ジョン・アヴネット、製作総指揮はC・タッド・デヴリン、共同製作はルー・アーコフ、製作協力はテリー・オースティン&ポーラ・エンダラ、撮影はトーマス・アッカーマン、美術はスティーヴン・マーシュ、編集はスチュアート・パップ&ロジャー・ボンデッリ、衣装はリサ・ジェンセン、視覚効果監修はティム・ランドリー、振付はアダム・シャンクマン、音楽はマーク・シェイマン。
主演はブレンダン・フレイザー、共演はレスリー・マン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、リチャード・ラウンドトゥリー、グレッグ・クラットウェル、エイブラハム・ベンルービ、ホランド・テイラー、ケリー・ミラー、ジョン・ベネット・ペリー、マイケル・チニャムリンディー、アブドゥライ・ンゴム、リデル・チェッシャー、キース・スコット、スペンサー・ガレット、ジョン・ペネル、ローレン・ボウルズ、アフトン・スミス、サマンサ・ハリス他。
声の出演はジョン・クリーズ。


1967年にアメリカで放送されたTVアニメを基にしたディズニーの実写映画。
監督は『D2/マイティ・ダック』『バイバイ・ラブ』のサム・ワイズマン。脚本は『大脱線』『メイフィールドの怪人たち』のダナ・オルセンと『好きと言えなくて』のオードリー・ウェルズ。
ジョージをブレンダン・フレイザー、アースラをレスリー・マン、ライルをトーマス・ヘイデン・チャーチ、クワメをリチャード・ラウンドトゥリー、マックスをグレッグ・クラットウェル、トールをエイブラハム・ベンルービ、ベアトリスをホランド・テイラー、ベッツィーをケリー・ミラー、アーサーをジョン・ベネット・ペリーが演じている。
エイプの声はジョン・クリーズが担当。

オープニングのアニメーションで、旅客機が山にぶつかって両翼が外れ、巨木に突っ込んで不時着する様子が描かれる。
それで「かすり傷だけで全員が無事」ってのは、コメディーとは言え、なかなかの無理筋だ。
あと、幼いジョージが行方不明になったのなら、その両親は捜索を断念してブクヴを離れた後も、ずっと息子のことを心配しているはずで。本気で心配しているなら、また捜しに来ることも考えるんじゃないか。
でも、そこの親子関係については全く触れないままで話を終わらせてしまうんだよね。

主題歌が流れる中でアニメーションが描かれるオープニング・クレジットは軽快で楽しいが、ここが映画のピークと言ってもいい。
そこから本編に入ると実写に切り替わるので、ハードルを越える必要があるのだが、まるでデリケートな意識が感じられない。それどころか、「成長したジョージがターザンロープで遊んでいたら木に激突して落下する」ってのを見せるだけで、さっさと次のシーンに移ってしまう。
まずは「現在のジョージの暮らし」ってのを見せてキャラ紹介するべきだろうと思うのだが、そんなのは無視している。
しかも、なぜか彼の顔さえ見せずにアースラのパートへ移るのだから、どういうセンスなのかと。

続くアースラのパートも、これまた慌ただしい。彼女のキャラ紹介など全く用意せず、ただ「ブクヴへ来た白人女性」というだけになっている。
たぶんアフリカのような場所が好きだから来たんだろうってことは伝わるが、描写が足りているとは到底言えない。
すぐにライルが来てアースラを連れ戻そうという手順へ移るが、こいつも同じようにキャラクター紹介は雑。ジョージも含め、記号としての薄っぺらい描写で済ませてしまい、先へ進もうとする。
それはテンポが良いのではなく、急ぎ過ぎているのだ。

第三者のナレーションによって進行されるのだが、ここの持つ力が無闇に強くなっている。時には、映像がナレーションの補足になることもある。ただでさえ慌ただしいのに、ナレーションベースでダイジェスト処理を行う箇所もあり、ますます駆け足になっている。
しかし、アースラがライルたちの元へ戻る目的を完全に忘れると、今度は全く話が先へ進まなくなる。ジョージとアースラがジャングルで楽しく過ごす様子が描かれる。
チェンジ・オブ・ペースが悪いとは言わないし、そういうのが必要なこともある。しかし、その急ブレーキは、全体の構成を上手く計算できていないとしか思えないのだ。
物語の進行が停滞している中で、一応は恋愛劇を描こうとしているのだが、ここも上手く行っていない。やり方が荒っぽいので、映画を牽引する魅力が全く無い。
恋愛劇に限らず、何もかもがベタで分かりやすい内容になっているのだが、段取りを大雑把に処理しているだけ。っていうか、その段取り自体も雑だし。

ナレーションが喜劇を先導する役割を果たしているケースも少なくない。
アースラたちがゴリラ山を見つけると、ナレーションが「思わず感嘆の声を上げた」と言う。アースラたちが首を曲げて「ウー」と口にすると、ナレーションが「もっと感情を込めて。今度はウーで」と要求し、それに応じて一行は「ウー」と発する。ポーターの1人が吊り橋から落下すると、ナレーションが「大丈夫。この映画で死人は出ません。ちょっと怪我をするだけ」と軽く言う。
カットが切り替わると、ポーターは軽傷を負っただけで済んでいる。
休憩する象が骨をくわえる様子を見せるシーンでは、ナレーションが「さて一休み。骨をくわえて。って、骨はやり過ぎだろ消して」と言う。すると映像から骨だけが消える。
ナレーションの力がものすごく強いという、日本テレビのバラエティー番組みたいな状態になっている。
また、ライルがコケて動物の糞が顔に付着すると、ポーターたちが「ウンチが悪党にベッタリ。コメディーの典型的な展開。今度は俺たちが爆笑する番」とカメラ目線で語り、実際に大笑いするという第4の壁を破る演出もある。

トールが猟銃を構える様子を見たジョージがエイプを救うために駆け付けようとして、ライルが慌てて拳銃を構えるとアースラが悲鳴を上げる。するとカットが切り替わり、飛行機でアースラがジョージを介抱している様子が描かれる。そしてナレーターが、どういうことがあったのかという経緯を説明する。
こういう省略が綺麗に決まれば良かったんだろうが、ただの手抜きにしか思えない。
っていうかライルの持っている物を「拳銃」と書いたけど、実際は拳銃型のライターだからね。なので弾は出ないはずなのに、なぜ「ジョージは撃たれたけど一命を取り留めた」ということになっているのか。そこは「ライルは咄嗟に拳銃型ライターを構えたけど、もちろん弾は出ないので」という風に進めて、コメディーとしてオチを付ければ良かったはずだ。
それが出来ないのは、「ジョージが意識を失い、アースラが飛行機でサンフランシスコへ連れ帰る」という展開に繋げる必要があるからだ。
だけど、その展開自体が手を広げ過ぎているとしか思えないんだよね。なぜジョージがジャングルから都会へ行く展開にしちゃったのかと。どう考えても時間が足りないでしょ。
実際、ものすごく慌ただしくて、でも中身はペラペラになっている。

「ジャングルで生まれ育ったジョージが都会へ行き、カルチャーギャップによって起きる様々な騒動」ってのを描きたかったんだろうというのは分かる。
ジョージが文明の利器に触れて狼狽するとか、逆に都会人が野生児のジョージに振り回されるとか、そういうことで喜劇を作りたかったんだろう。
だけど、そういうのって、ある程度はジャングルを舞台にしたままでも出来るんだよね。アースラとライルは都会人だし、文明の利器を幾つか持っているだろうし。
それを考えても、ブクヴだけで話をまとめるべきだったと思うのよ。

ジョージはトゥーキーからエイプが捕まったことを知らされると、眠っているアースラを残してブクヴへ戻ることを決める。
どうやって戻るのかと思ったら、シーンが切り替わると「航空便を積んだトラックがアフリカの村に到着し、箱の中にジョージとトゥーキーがいる」という様子が描かれる。
そんな方法を取る知恵を、いつの間に身に付けたんだろうか。
そこは上手い省略じゃなくて、ただの手抜きにしか思えないなあ。

ジョージがエイプを助けるためにマックス&トールと戦っていると、アースラが駆け付けて加勢する。マックスたちを退治し、ジョージがアースラとキスすることで、「エイプの救出」「ジョージとアースラの恋愛」という2つの問題が一挙に解決される。
だが、まだライルの存在を片付けていない。その時点で、構成としては問題があると感じる。
そこへライルが登場するとナレーターが「刑務所を脱走した彼は怪しげなカルト集団に加わって」と説明し、即席司祭になってデタラメな証明書を提示した彼がアースラを連れ去ろうとする。ジョージが止めに入ると、ライルが雇った部下たちが捕まえる。
そりゃあライルが1人で出て来ても無力に等しいだろうけど、そこに来て「カルト集団」とか「ライルの傭兵たち」といった新たな要素を持ち込むのは、計算能力ゼロで行き当たりばったりとしか思えんぞ。

(観賞日:2018年1月19日)


第20回スティンカーズ最悪映画賞(1997年)

ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会