『ザ・チェイサー 真実の瞬間』:2022、アメリカ

午前3時。タトゥー・ショップ『ガソリン・アレイ』を営むジミー・ジェインが町外れのバーで飲んでいると、娼婦のスターが声を掛けて商売を持ち掛けた。モーテルへ赴いた刑事のビル・フリーマンとフレディー・ヴァルガスは、スターを含む4人の女性の遺体を発見した。遺体の近くには、『ガソリン・アレイ』のライターが落ちていた。フリーマンはヴァルガスと『ガソリン・アレイ』へ行き、ジェインの父が14分署の刑事だったことに言及した。「元気か」と彼が尋ねると、ジェインは既に死去していることを教えた。
ヴァルガスはジェインにライターを見せ、事件現場に落ちていたことを話す。彼はジェインを殺人犯と決め付け、なぜ町外れのバーに1人で行ったのかと質問する。ジェインが「昔、母が働いてたと答えると、彼は「裏の商売か」と尋ねた。ジェインか「違う」と返答すると、ヴァルガスは「モーテルに怪しい奴はいなかった。バーで女と何を話した?」と問い掛ける。ジェインは「商売を持ち掛けられたが、恋人のクリスティーヌに会うから断った」と語るが、ヴァルガスは彼を犯人と決め付けたまま、挑発するような言葉を浴びせた。
ジェインはクリスティーヌの元へ行き、「メールした件だ」と告げる。クリスティーヌは刑事の尋問を受けたこと、ジェインが来たと証言したことを語った。ジェインは警察署に電話を掛けてフリーマンに繋いでもらおうとするが、不在だったので仕方なくヴァルガスに繋いでもらう。彼が捜査の進展を尋ねると、ヴァルガスは「無い」と答えた。「容疑者は俺だけか」という質問に、ヴァルガスは「状況証拠があるからな。何か思い出したら連絡してくれ」と述べた。
ジェインはテレビ俳優のデニス・バークに電話を掛け、撮影中のスタジオへ会いに行く。ジェインは刑務所にいた頃、デニスを助けていた。デニスは彼に、「女にパーティーで会った。主催者はパーシ・マリーニーという男だ。SNSで見つけた女たちをポルノ業界に送り込む。女は短期間で消えて、地元に帰る」と語った。ジェインがデニスに絡んでいると誤解した整備士のロイが、2人に近付いた。ジェインは彼の誤解を解き、同じ前科者と知って名刺を貰った。
携帯電話にGPSを仕込んでいたフリーマンがスタジオに現れ、ジェインに「ライターからお前の指紋が出た。令状を用意するまで、あと一歩だ」と告げる。ジェインは暴行障害で5年の刑罰を受けたことを指摘され、「正当防衛だ」と主張する。フリーマンは「だが、止めを刺した」と言い、「お前がバーに通っていた理由が分かった。やはり母親は商売女だった。姿を消し、父親が必死で捜し回った。そんな事情なら、商売女に固執するのも当然だ」と告げた。
ジェインが車でスタジオを出ると、レンジローバーに襲われた。運転手は発砲してくるが、ジェインは何とか逃げ切った。彼はロイに電話を掛け、護身用の武器を用意してほしいと要請した。ロイは『ガソリン・アレイ』を訪れ、拳銃と弾丸をジェインに渡した。ジェインはクリスティーヌから、住み込みの仕事でベルリンへ行くこと、月曜に出発することを聞かされた。ジェインは元証拠品係のピートと会い、パーシについて尋ねた。ピートはスキッド・ロウに事務所があると告げ、住所を教えた。「パートの車は?」とジェインが尋ねると、彼は「2011年式のレンジ・ローバーだが、盗まれたようだ」と述べた。
ジェインはピートから、パーシの家でパーティーがあることを聞かされた。彼は家へ行き、用心棒のカイザーに14分署の刑事だと告げて中に入れてもらった。パーシを見つけたジェインは、「ジゼルとラナとスター。名前に聞き覚えはあるか」と質問する。パーシは「失せろ」と鋭く言い放ち、ジェインを追い出した。カイザーから「本当に刑事か?」と確認されたジェインは、違うと答えた。するとカイザーは、「お前が言っていた女たちが、知り合いと一緒に来た。バックコーラス歌手のエレノア・ロジャースだ」と語った。
ジェインはエレノアと会い、「パーシは4人も殺せるほど器用じゃない。怖い集団から金を渡され、見下されていた。密売組織のドラッグの売人だった」と聞かされる。エレノアは4人の殺害について、その集団による警告だろうと告げた。彼女はパーティーで警官のフランク・フロッソが女たちから金を受け取り、フロッソはドクター・フィールグッドに金を渡していたと話す。彼女によれば、フィールグッドはお菓子のような薬をくれる人物らしい。
エレノアと別れたジェインは車に戻ってトランクを開け、ヴァルガスに連絡した。パーシが事務所にいると、顔見知りの男が来て殺害した。ジェインはフリーマンとヴァルガスに、車のトランクに入っていたカイザーの遺体を見せた。フリーマンはジェインと2人きりになると、パーシが殺されたことを教えた。「次は俺だ」とジェインが口にすると、彼は「恐らくな。意識せずに秘密を知ったか、あるいは誰かが何かを知らせたがってる」と述べた。ジェインが「フリーマンは信用できるか。ライターで俺を罠にハメようとした」と言うと、犯行時刻にアリバイがあるとフリーマンは話した。
ジェインはデニスの元へ赴いて凄み、知っていることを話すよう迫った。デニスは彼に、「女たちのことなら、スターの元彼氏で脚本家のエラスムスに聞け。いつもフロッソと話してる。パーシのスタジオに住んでる」と告げた。ジェインはエラスムスと会い、脅しを掛けた。エラスムスはパーシがポルノで麻薬密輸の資金を洗浄していたこと、役者志望の女たちの人身売買も始めたこと、それを知ったスターたちが金を強請り取ろうとしたことを語る。スターたちを殺したのは、女を管理していたフロッソだった。麻薬密輸や人身売買には地元警察の半分が関与しており、フロッソにスターたちの殺害を指示したのはフリーマンだった…。

監督はエドワード・ジョン・ドレイク、脚本はトム・シエルチオ&エドワード・ジョン・ドレイク、製作はコーリー・ラージ&トム・シエルチオ、製作総指揮はスティーヴン・J・イーズ&ジョニー・メスナー&マシュー・ヘルダーマン&ルーク・テイラー&フィル・ハント&コンプトン・ロス&ウィリアム・V・ブロマイリー&シャナン・ベッカー&ジョナサン・サバ&ネス・サバン&デヴィッド・ジェンドロン&アリ・ジャザイェリ&ジョーダン・イェール・レヴィン&ジョーダン・ベッカーマン&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&ヘンリー・ウィンタースターン、共同製作総指揮はアニータ・レヴィアン&ポール・W・ヘイゼン&トッド・オルソン&マイク・ドノヴァン&アレクサンダー・ケイン、共同製作はジョン・キーズ、製作協力はマンディー・ムロー、撮影はブランドン・リー・コックス、美術はエリック・ホイットニー、編集はジャスティン・ウィリアムズ、衣装はアンジー・ワイルド、音楽はスコット・カリー。
出演はデヴォン・サワ、ブルース・ウィリス、ルーク・ウィルソン、カット・フォスター、サーフ・ブラッドショー、ジョニー・ダウアーズ、ケニー・ウォーマルド、リック・サロモン、スティーヴ・イーストン、トレイシー・“ザ・ドック”・カリー、ヴァーノン・デイヴィス、ビリー・ジャック・ハーロウ、マイク・ダーガティス、アッシュ・アダムス、カイラ・マギー、アダム・ポッター、アンジー・パック、イリーナ・アントネンコ、キャリントン・ダーハム、ホープ・ゴールズ他。


『キル・ゲーム』『シン・オブ・アメリカ』のエドワード・ジョン・ドレイクが監督を務めた作品。
脚本は『忘れられない人』のトム・シエルチオとエドワード・ジョン・ドレイクによる共同。
ジェインをデヴォン・サワ、フリーマンをブルース・ウィリス、ヴァルガスをルーク・ウィルソン、クリスティーヌをカット・フォスター、エレノアをサーフ・ブラッドショー、エラスムスをジョニー・ダウアーズ、デニスをケニー・ウォーマルド、パーシをリック・サロモンが演じている。
エドワード・ジョン・ドレイクがブルース・ウィリスがコンビを組むのは、脚本を手掛けた2020年の『アンチ・ライフ』から数えて5作目となる。

ジェインはバーでの出来事について問われた時、「商売を持ち掛けられたが、クリスティーヌに会うので断った」と証言している。
しかし実査手にクリスティーヌと会うシーンは無いので、それが事実かどうかは不明だ。
ってことは、本当はクリスティーヌと会っておらず別の行動を取っていたのかというと、そうではなさそうだ。
そもそも、ジェインが無実なのは最初から明白だ。なのでクリスティーヌと会っていたのが事実なら、そこを描かずに話を進める意味は全く無い。

ヴァルガスは犯人と決め付けているが、だからってライターの状況証拠だけでジェインを有罪にするのは難しいだろう。
しかしジェインは、ヴァルガスからライターを見せられて尋問を受けた時点から、もう独自での調査を開始している。それは早すぎないか。
前科者だから早く動いたってことなのかもしれないけど、それで納得するのは難しい。
っていうか、そもそも前科者の設定から、上手く使えているとは言い難いからね。それが物語において意味を持って来るシーンなんて、ほとんど無いからね。

ジェインはデニスに連絡を取り、スタジオまで会いに行く。そこで彼は「パーシのパーティーで女と会った」と聞くが、最初からデニスがスターに関する情報を持っていると確信していたとしか思えない行動だ。
でも、なぜデニスが知っていると思ったのかは全く分からない。
ジェインはパーシを見つけた時、「ジゼル、ラナ、スター。名前に聞き覚えはあるか」と尋ねる。
でもスターはともかくジゼルとラナの名は、どこで知ったのか。それを知る術を彼は何も持っていないはずだし、情報を入手するシーンも無かったでしょ。

ジェインがスタジオでロイと出会うのは、あまりにも都合の良すぎる偶然だ。なので、「実はロイに裏があって」みたいな設定でもあるかと思いきや、特に何も無い。
そしてジェインはレンジローバーに襲われた直後、ロイに電話を掛けて「運転中に襲われたが、そこまで恨みを買う覚えが無い」「過給機搭載の重そうなローバーだった。狙撃もされた」などと喋る。
まだ1回しか会ったことの無い、良く知らない相手に対して、そんなことをベラベラと喋るのは不自然だ。
あと「護身用の武器を用意してくれ」と頼むけど、なぜロイが用意できると思ったのか、それも良く分からないし。

カイザーはジェインがパーシの家を訪ねて刑事を詐称した時、「バッジは?」と尋ねる。ところが「車の中だ」とジェインが下手な嘘をつくと、あっさりと通してしまう。
それは変だろ。用心棒としての仕事を、まるで遂行できていないぞ。セキュリティーがガバガバじゃねえか。
後でジェインが刑事じゃないと知って情報を教える展開があるけど、「だから刑事じゃなくても別に構わないと思って通した」と納得できるわけじゃないぞ。
刑事じゃなくても、素性が分からない奴を簡単に通しちゃダメだろ。

モーテルでは4人の女性が殺されているが、ジェインが名前を出すのはジゼルとラナとスターの3人だけ。彼が言わないだけでなく、他のシーンでも4人目の名前は一切出て来ない。
だったら、そこに何らかの意味があるのかというと、特に何も無い。
だったら被害者は3人でもいいだろ。もしくは、普通に4人の名前を出せばいいだろ。
被害者が3人だろうが4人だろうが、それで物語に与える影響なんて皆無なんだからさ。

「現場にライターが落ちていた」という状況証拠だけで、ヴァルガスはジェインを犯人と決め付ける。携帯電話にGPSを仕込むという違法な方法を取ってまで、ジェインを逮捕しようと目論む。
その挑発的な言動も含めて、いかにも悪徳刑事っぽい動かし方をしているので、実際に悪徳刑事なのか、あるいは事件に関与しているのかと思ったら、そういうのは何も無い。
それどころか後半に入ると「ジェインは犯人じゃないかも」と思い出す始末。
意外性を狙ったのかもしれないが、単にキャラ描写を間違えているだけにしか思えない。

ジェインはフリーマンを信用していたから、最初に警察署に連絡する時にはヴァルガスでなく彼を指名したはずだ。そして前述したように、ヴァルガスはジェインを犯人と決め付けて逮捕状を取るために違法な捜査までしている。
ところが粗筋でも触れたように、後半に入ると2人きりになり、ジェインはヴァルガスに「フリーマンは信用できるか」と尋ねている。つまり、フリーマンが自分を罠にハメたと思っているのだ。
いつの間に、そんな考えになったのか。そこに至る推理の筋道がサッパリ分からない。
一方、フリーマンも完全にジェインが犯人という考えが消えて「次はジェインが狙われる」と確信しているが、ここの心境の変化もサッパリ分からない。

ジェインがエレノアから情報を聞き終えても、そのまま世間話が続く。何をダラダラして時間を浪費してるのかと思ったら、しばらく時間が経過してから理由は明らかになる。
ネタバレだが、ガソリン・アレイを訪ねたエレノアが拉致され、ジェインが救出に向かう展開が待ち受けているのだ。
そこに向けて、2人の関係を描いておきたかったわけだ。
でも、そんな短いシーンでロマンスもどきの雰囲気を作っても、そこの関係をクライマックスに使ってジェインを突き動かすモチベーションに繋げても、そんな無理筋には乗れないよ。

粗筋で触れたようにフリーマンは悪党なので、終盤にはジェインとの対決が用意されている。ただ、フリーマンの背後にはフィールグッドがいるので、こいつも退治する必要がある。
でも、残り時間が少なくなってフィールグッドを初登場させても、対決の図式も勧善懲悪の図式も全く見えないからね。何しろ、フィールグッドの存在感が薄すぎるからね。
そんで事件が解決した後にはジェインがバーでスターと話した内容が明かされる回想シーンを挿入するけど、全くの無意味だ。
ジェインがスターに特別な思い入れを抱いているわけでもなければ、会話の内容が物語に大きく関わっているわけでもないんだから。

(観賞日:2023年9月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会