『死亡の塔』:1981、香港

香港の武術家ビリー・ローは、日本人武道家チン・クーの屋敷を訪れた。2人が話していると、チン・クーに白人の挑戦者が現れた。簡単 に蹴散らしたチン・クーに、ビリーは「この前、自分も韓国人の挑戦者を倒した」と語る。ビリーは温室で、その挑戦者を倒したのだ。 チン・クーは「今回の男と言い、お前の一件と言い、俺たちに生きていられては困る黒幕がいるんじゃないか」と述べた。
ビリーは弟ボビーが修行している寺を訪れた。血の気が多くて真面目に修行しないボビーと話をするため、足を向けたのだ。高僧はビリー に、「お前も子供の頃は手の付けられない暴れん坊だった」と告げる。ビリーはボビーの部屋へ行くが留守だった。机の上にはエッチな本 が散らばっていた。ビリーはボビーに手紙を書き、自身の記したジェット・カンフーの極意書を置いて去った。
ビリーは香港に戻り、父の元を訪れた。新聞に目をやったビリーは、チン・クーの死亡記事を発見した。ビリーは父から、チン・クーの 義理の娘メイが新宿のナイトクラブで歌手をしていることを教えられた。日本へ飛んで新宿に足を向けたビリーは、ナイトクラブを発見 した。彼はメイの控え室に入り、チン・クーの死について尋ねた。するとメイは、「先月、急に訪ねてきた時に、箱を持って来た。中身は 知らないけど、たぶんフィルムじゃないかしら」と告げた。
メイが出した箱の中をビリーが確認しようとしていた時、覆面姿の男たちが控え室に乱入してきた。ビリーは一味を蹴散らし、店の外に 走り出た。しばらく行くと、青竜刀を持った男たちが立ちはだかったが、ビリーは全員を倒した。チン・クーの葬儀が行われた。ビリーは 読経が行われている場所を離れ、遺体が安置されている別の部屋へ行く。しかし4人の男たちに「許可証が無ければ入れない」と言われ、 遺体には近付けなかった。
墓地で棺が埋められようとしていた時、ヘリコプターが飛んで来た。ヘリが棺を持ち去ろうとしたため、ビリーは飛び付いて阻止しようと する。しかしヘリから投げられた小刀が首に刺さり、転落したビリーは命を落とした。ボビーは父からの手紙で「ビリーの友人チーハオに 会って犯人の正体を突き止め、仇討ちしろ」と指示された。彼は東京へ行き、チーハオの出迎えを受けた。チーハオはボビーに、ビリー から預かったというフィルムを渡した。
チーハオはボビーを師匠の元に案内し、そこでフィルムを見た。フィルムには、死の宮殿と呼ばれる場所が写っていた。宮殿の主人は ルイスという白人で、その腹心は左腕の無いバンフーという男だ。チン・クーがルイスにクンフーを教えている様子も撮影されていた。 チーハオの師匠はボビーに、「ルイスは試合を行い、挑戦してきた相手を殺して楽しんでいる奴だ」と告げた。
宮殿を訪れたボビーは、バンフーの案内でルイスと会った。「一歩でも中に入ったら生きては出られない」という噂を、ルイスは笑って 否定した。彼は「俺はチン・クーの死とは何の関係も無い」と言い、宮殿を案内するという。飼い慣らしたクジャクたちや挑戦者の肉を 食うライオンを見て回った後、ヤン兄弟がルイスへの挑戦者として現れた。ルイスは兄弟に圧勝した。
その夜、ボビーが宮殿を探ろうとしていると、仮面を付けた男に襲撃された。翌朝、ボビーはルイスに「襲った奴は俺ではなくアンタを 狙ったのかもしれんぞ。雇い人に怪しい奴はいないか。あの片腕の男は?」と尋ねた。ルイスによると、バンフーは宮殿へ来て5年目で、 以前は寺院で僧侶をしていたという。ルイスは「寺院には死亡の塔があると言われているが、見た者は誰もいない。死亡の塔は、何百年も 前に地面の下に建てられた塔だ」と語った。
夜、ボビーの部屋にエンジェルという金髪の女が酒を運んできた。彼女は「ルイスに相手をしろと言われた」と告げると、いきなり裸に なった。ボビーは誘惑に乗ってキスをするが、エンジェルが指輪に仕込んだ毒針で殺そうとしたことに気付いた。その時、窓ガラスを 破ってライオンが部屋に飛び込んできた。ボビーが立ち向かっていると、ライオンはエンジェルを殺して逃げた。同じ頃、ルイスの寝室 には仮面の男が侵入していた。男はルイスを宙吊りにして殺害した。
翌日、門弟たちはルイスの死体を見つけて大騒ぎになった。ボビーが寺院へ行くと、そこにバンフーの姿があった。ボビーは逃げる彼を 追い掛けて倒した。秘密の入り口を発見したボビーは、死亡の塔へ潜入した。エレベーターを降りて地下一階へ行くと、そこは工場に なっていた。ボビーがフロアにいた連中を倒すと、奥から別の男が現れた。ボビーは男を倒し、奥の通路を進んだ。奥の部屋には棺があり 、僧侶が守っていた。ボビーが僧侶を倒すと、棺の玉座が回転し、その後ろからチン・クーが姿を現した…。

監督はン・シーユエン、製作はレイモンド・チョウ、撮影はチャン・ハイ&チャン・チーミン&リャン・シーミン&リー・ユータン、 編集はチェン・ヤオチュン、マーシャル・アーツ・インストラクターはユエン・ウーピン、音楽はフランキー・チャン。
出演はブルース・リー、タン・ロン、ウォン・チェンリー、ロイ・ホラン、リー・ホイサン、ロイ・チャオ、カサノヴァ・ウォン、 ミランダ・オースティン、ト・ワイ・ウォ、加藤大樹(加藤寿)、タイガー・ヤン、リー・ホイサン、ユエン・シュンイー、マース、 ラウ・チャウサン、ウォン・ハー、ホー・リー・ヤン、ベティー・チュン他。


この作品について語る前に、まず『死亡遊戯』について触れておく必要がある。
『死亡遊戯』は、ブルース・リーがわずかなアクションシーンを撮影した段階で死亡してしまったため、ゴールデン・ハーベスト社が ロバート・クローズ監督を雇い、ブルースのスタント・ダブルとしてタン・ロンやユン・ピョウを起用し、1本の作品に仕立て上げて しまった作品だ。
で、「実は『死亡遊戯』には未公開フィルムが存在しており、それを使って作り上げた作品」という触れ込みで公開されたのが、この映画 である。
しかし実際には、『死亡遊戯』の未公開フィルムなど全く使われていない。
使われているのは『燃えよドラゴン』の未公開フィルムだ。しかも、わずか1分程度だ。
『ブルース・リー/死亡の塔』という別タイトルもあり、ブルース・リーの主演映画とされているが、それは真っ赤な嘘だ。
実際には、ブルース・リーの替え玉を演じているタン・ロンが主演俳優だ。

映画の冒頭にブルース・リーが登場するが、そこは『燃えよドラゴン』の映像。
で、タイトルバックに移ると、ウォン・チェンリーが木刀を振り回しているシーンになる。
なんとウォン・チェンリーのキックでタイトルバックに入る。
その後、ブルースとウォン・チェンリーの様子が交互に映し出されるが、ブルースの方は途中で服の色が色から青に変わる。
しかも、途中で上半身裸になったのに、次のカットでは再び服を着て文字を書いている。
繋がりがメチャクチャである。

さて、ここからは役名で表記して行こう。
ボビーはチン・クーの屋敷を訪れるが、なんせタン・ロンが演じる偽者ブルース・リーなので、後ろ姿やロングのショットなどで顔が 分からないようにしてある。
そこへ挑戦者が現われると、ビリーは庭に用意されている椅子に座る。
ここで一瞬だけ本物ブルースの顔がアップになるが、後ろ姿の時と髪の長さが明らかに違っている。
で、チン・クーは女中の運んできたお茶を飲みながら戦い、飲み干した茶碗をビリーに向けて放り投げる。それをキャッチしたビリー、 中身が無いはずなのに、それを飲む。
そんな不可解なシーンになった理由は明白で、その茶を飲むシーンは、『燃えよドラゴン』の未公開フィルムなのだ。
つまり、それを使いたいがために、お茶を飲むシーンを用意したのである。

チン・クーが挑戦者を倒した後、ビリーが「自分も韓国の挑戦者を倒した」と言い、温室でのブルース・リーとカサノヴァ・ウォンの対決 が回想として挿入される。
流れからすると、そこは圧倒的な差を見せて勝たなきゃいかんはずなのに、ちょっと苦戦してしまう。
なぜなら、本来、この映画のために撮影されたシーンじゃないかだ。
その格闘シーンは香港版『死亡遊戯』で使われた映像で、国際版ではカットされていたものだ。
つまり、日本では、この映画が初公開ということになる。

チン・クーは「我々に生きていられては困る黒幕がいるんじゃないか」と言うが、それなら、アンタのとこにも、もっと骨のある刺客を 送るってば。そんなヘナチョコ野郎じゃなくて。
っていうか、その挑戦者たち、ストーリーとは何の関わりも無い奴らなのだ。
その後、ビリーは寺を訪れるが、そこにはロイ・チャオ演じる高僧が『燃えよドラゴン』の時と同じ服装で待っている。
そして、その後の会話シーンで、『燃えよドラゴン』の香港版のフィルムを流用している(国際版では未使用だった)。

ビリーの過去が回想されるシーンは、ブルース・リーが子役時代に出演した映画のフィルムが使われている。
で、そこでは思い切り「Bluse Lee at age 6」とテロップが出るんだが、だったらビリーじゃねえし。
その後、ボビーの部屋へ行くと、ビリーの服が青から黒に変わる。
なぜなら、彼が部屋を見回しているシーンは『燃えよドラゴン』の未使用カットだからだ。

ビリーがチン・クーの死を知り、父と話すシーンは『燃えよドラゴン』からの流用&未公開カット。
その後、ビリーは新宿を訪れるが、どこへ行く時も全て中華服なのね。
そこで彼はメイに会うが、ここでも『燃えよドラゴン』の未公開カットが使われている。
ここで『燃えよドラゴン』の未公開カットの使用は終了する。
つまり、もうブルース・リーは出て来ない。

メイは「父親が箱を持って来た」と言うが、持って来たのは先月なのに、未だに楽屋に置いてある。
常に持ち歩いているのか。
控え室に覆面の連中が現われるので、ビリーは蹴散らして外へ走り出す。
一瞬、何をしてんのか理解できなかったが、それは「逃げた敵を追った」という意味なのね。なんせ敵が外へ逃げるシーンが無かった ので、設定が理解できなかったのだ。
外へ出ても、逃げて行く敵の姿も無いし。

で、ビリーが街を走った後、しばらく進むと、とても日本とは思えないようなセットのシーンに切り替わる。セットには、さっきとは違う 格好で、だけどお揃いの服を着た連中が現われる。
左右に店が立ち並ぶ場所で戦いが始まるが、周囲には一人の通行人もいない。
攻撃された敵が店内に突っ込むシーンもあるが、店内も無人。
で、バトルが終わってビリーが走っていった途端、左右の店からワラワラと人が出てくるが、お前ら、今までずっと中にいたのかよ。外で そんなに大騒ぎがあったのに。

チン・クーの葬儀になると、ビリーと一緒にジージャン姿の男がいる。
でも、そいつが誰なのか、その時点では何の説明も無い。
実は加藤大樹が演じるビリーの友人チーハオだ。
そんなことより、その葬儀は、とても日本で行われているとは思えない。本堂で複数の僧侶が声を合わせて読経するし、遺体は別の場所に 安置されている。
仏教にも、そんな宗派があるのか。
そんで遺体に近付こうとしたら「許可証が無いと入れない」と拒絶されるが、どんな葬儀だよ、それは。

その後、棺を墓地に運んで埋めようとするシーンに移るが、土葬なのかよ。
しかも、なぜか棺には卍マークが付いている。
だが、それより驚きなのが、その後の展開だ。
なんとビリー、ヘリが持ち去った棺を奪い返そうとして、あっさりと死んでしまうのだ。
始まって30分程度で、主人公が死んでしまうのである。
国際版では、ここで実際のブルース・リーの葬儀のフィルムが流れる。

「ビリーが死んで映画はどうなるのか」というと、ここからはタン・ロンが替え玉ではなく、ビリーの弟のボビー役として引き続き主演を 務める。
そんなボビーがルイスの元を訪れると、宮殿を案内される。
ルイスは何匹もの孔雀を口笛で呼び、飼い慣らしていることを自慢する。
何の意味があるシーンなのかは、深く考えないように。
なぜなら、そこに意味など無いからだ。

手下から「ヤン兄弟が挑戦してきました」と言われたルイスは「あの兄弟、また来たのか、ロクな技も無いくせに」と言うが、負けたら ライオンのエサになるんじゃねえのかよ。なんで「また」の挑戦が許されてるんだよ。
そんなことを言うってことは、前回は挑戦させずに追い払ったのか。
意外に優しいとこもあるんだな。
翌朝にボビーが部屋へ行くと、ルイスは鹿の生肉を食っているが、生肉をナイフとフォークで食べるのは難しいと思うぞ。

ルイスは「寺院には死亡の塔がある。地面の下に建てられた塔だ」と説明するが、地下に建てられている時点で塔じゃねえだろ。
その夜、ボビーは美女の色仕掛けで殺されそうになった後、ライオンに襲われるが、だったら最初からライオンに任せておきゃいい じゃねえか。美女を使った意味が無いだろ。
っていうか、襲わせたのはルイスじゃなくてバンフーなんだが、なんでライオンを命令に従わせることが出来ているんだよ。
あと、ルイスがボビーと戦う悪党じゃなくて、犠牲者になる設定もどうなのよ。

タン・ロンはビリー役からボビー役になっても、ブルース・リーを意識したような芝居をしていたり、ブルース・リーがしていたグラサン を付けたりする。
その辺りは全てボビーではなく、ビリーとして撮影したカットなのかもしれない。
この映画、ビリーが前半で死亡するという展開は、撮影途中で変更されたものなのだ。
当初は、ヘリで死ぬのはチーハオの予定だった。
ブルース・リーの出演シーンを全てカットしてタン・ロン主演作となっている韓国版では、その設定が使われている。

ボビーは寺院へ赴いてバンフーを見つけ、追い掛けて痛め付ける。するとバンフーは、今まで隠していた左腕を出して攻撃して来る。 でも、それまで片腕を装っていた意味は全く無いだろ。
しかも、そんなに痛め付けられるまで片腕で戦っていた意味も無い。
おまけに、そこまで無意味に隠していた左腕をようやく出したのに、あっという間にやられてしまうのだ。
ホントに意味ねえな。

死亡の塔の入り口でボビーは敵に服を切られて、上半身裸になって潜入する。
でも、別に脱ぐ必要は無いと思うぞ。
で、潜入して最初に出て来た敵の上着を奪って着ているが、なんだ、そりゃ。
それからボビーは地下一階へ行くが、もはや「塔を逆さにした」という作りにもなっていないのね。地下一階しか無いのね。
そこにいるのは、怪獣映画に出て来る宇宙人みたいな銀色の服を着た連中。
奥から出て来る男の上着は、豹柄のワンショルダーの毛皮。
どういう組織なんだよ、そいつらは。

ボビーがレーザー光線の通路をクリアして奥の部屋に行くと、チン・クーが現われる。
「なぜ死んだフリをした?」と尋ねると、彼は「やめておけ、ビリーの弟を殺したくは無い。気が変わらない内に出て行け」と言う。
いや、「殺したくは無い」って、今までさんざん手下に殺させようとしていたじゃねえか。
で、彼は麻薬を密売していて、警察にマークされ始めたので死を装い、棺を調べられると困るということで持ち去ったらしいんだが、 だったら火葬にしておけって。
っていうか、それが自分だと分からないような死に方にしておけよ。
「死体を調べられたら水の泡だ」というが、そのためにヘリまで出して棺を奪ったら、警察はもっと大掛かりな捜査をするように 思うが。

その後は最終決戦になるが、良く考えると香港映画なのに韓国人と韓国人の格闘なのね。
で、チン・クーが木刀を持ち出すので、「それなら本物の刀でも持った方がいいのでは」と思っていたら、途中で外側がパカッと割れて 日本刀が出現する。
最初からそれで戦えよ。
一方のボビーは「これに勝つには力と速さしかない」ということで兄から教わったジェット・カンフー(ホントはジークンドーだが、 そのように訳されている)を思い出す。
だけど、それを思い出してからの動きは、それまでの戦いと何も変わらないのであった。

(観賞日:2010年5月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会