『死亡遊戯』:1978、香港&アメリカ

人気スターのビリー・ローは、人気歌手アンと付き合っている。ビリーとアンは、ドクター・ランド率いる国際的犯罪シンジケートに目を付けられている。ランドの右腕スタイナーは撮影所に現れて契約を結ばせようとするが、ビリーは首を縦に振らない。
ビリーは、旧友であるUPIの特派員ジム・マーシャルに相談する。叔父ヘンリーの京劇を観賞に出掛けたビリーは、ランドの送り込んだ空手王者カール・ミラーやパスカル達に襲われる。やがてビリーは、撮影中に銃弾を浴びる。ランドの仕掛けた策略によって、撮影用に空砲となっていたはずの拳銃に、実弾が込められていたのだ。
一命を取り留めたビリーは、自分が死んだと見せ掛けてランドと戦うことにした。ランドは、カールとロー・チェンの試合が行われるマカオに向かった。マカオに入ったビリーは、ランド襲撃には失敗するが、試合直後のカールをシャワー室で殺害した。
ランドはビリーが生きていることを知り、アンを連れ去った。九竜の倉庫に呼び出されたビリーは、待ち受けていたランドの手下スティック達を倒した。シンジケートの本部がレッド・ペッパー・レストランだと聞き出したビリーは、ランドの元に乗り込んだ…。

監督はロバート・クローズ、製作はレイモンド・チョウ、製作協力はアンドレ・モーガン、脚本はジャン・スピアーズ(ロバート・クローズの別名義)、撮影はゴッドフリー・A・ゴダー、編集はアラン・パッティロ、武術指導はサモ・ハン・キン・ポー、音楽はジョン・バリー。
出演はブルース・リー、ギグ・ヤング、ディーン・ジャガー、コリーン・キャンプ、ヒュー・オブライエン、カリーム・アブドゥル・ジャバー、メル・ノヴァク、ロイ・チャイオ、ボブ・ウォール、ダニー・イノサント、チャック・ノリス、ジェームス・ティエン、カサノヴァ・ウォン、チー・ハン・ツァイ、サモ・ハン・キン・ポー、タン・ロン、ユン・ピョウ、アルバート・シャム他。


ブルース・リーの遺作(という表現にも微妙なモノがあるが)。
『ブルース・リー/死亡遊戯』と表記されることもある。
わずかなアクションシーンを撮影した段階でブルース・リーが死亡してしまったため、ゴールデン・ハーベスト社がロバート・クローズ監督を雇い、代役を起用して1本の作品に仕立て上げてしまった作品。

ブルース・リーが監督&脚本&武術指導&製作を担当、西本正(賀蘭山)が撮影した短いフィルムに、ロバート・クローズが演出し、変名で脚本も担当したドラマ&アクションシーンを大幅に加えたという形。2つのフィルムは、全く色合いが違う。

新たな撮影でブルース・リーの代役を務めたのは、ドラマ部分ではアルバート・シャム、アクション部分ではテコンドーの使い手タン・ロン(キム・タイチュン)。ただしタン・ロンだけでは上手くいかなかったようで、ユン・ピョウがスタントを務めている部分もある。
ブルース・リーと代役の違いを誤魔化すために、顔のアップをなるべく撮らなかったり、横顔や後ろ姿を多くしたり、今までのブルース・リー主演映画のフィルムを使ったり、顔だけハメ込み合成にしたり、大きめのグラサンを掛けさせたり、色んなことをやっている。

何しろ無理矢理に残されたフィルムと新たな撮影シーンを繋げようとしているので、繋ぎの部分が思いきりギクシャクしている。ブルースのアイデアを無視して新しい脚本を作っているので、残されたフィルムと新たな脚本の間に幾つもの食い違いが生じている。
例えばハキムを倒すシーンで夜が明けたのに、ランドを追い詰めると夜になっている。スタイナーはズボンと靴を履いているのに、生足のキックを飛ばしたりする。トラックスーツの左胸にハキムの足跡があったのに、一瞬だけ右に移動したりする。

ブルース・リーが残したフィルムでは、最後の戦いで彼がトラックスーツを着用している。そこを成立させるために、「敵が着ているトラックスーツをビリーが脱がせて自分で着る。そんで塔に向かう」という、不自然極まりない行動を取らせるハメになっている。
ブルースの構想では、塔にはジェームス・ティエンやチェン・ユァンを従者として同行させていた。だからチー・ハン・ツァイと戦うシーンでは、その後ろにチェン・ユァンが倒れている。しかし新たな脚本では従者がいない(ジェームス・ティエンは序盤で「既に殺されているビリーの仲間」として姿が映る)ので、そのことには全く触れられない。

ブルース・リーの構想では、5階建ての塔で、それぞれの階に敵が待ち受けている設定だった(例えば弟子のターキー木村も出演が予定されていた)。しかし、残されたフィルムでは、パスカル役のダン・イノサント、韓国合気道(ハプキドー)の達人・池漢載、ハキム役のカリーム・アブドゥル・ジャバーという3人との戦いしか撮影されていない。
そんなわけだから、劇中ではビリーが塔に向かうと、1階には誰もいない。3人を倒した後は、代役タン・ロンがスタイナー役のヒュー・オブライエンと戦うシーンに移る。で、最後は逃亡を図ったランドが転落死するという、ショボショボな終わり方になっている。

わずかなフィルムしか残っていないのに、金儲けのために似ていない代役を起用してツギハギが見え見えの作品を作り上げてしまったゴールデン・ハーベストの商魂は、ある意味では崇めるべきなのかもしれんが、まあしかしポンコツはポンコツだわな。

 

*ポンコツ映画愛護協会