『スパイアニマル Gフォース』:2009、アメリカ

ベン・ケンドール博士はFBIの予算を使い、動物をスパイに使う研究を行っていた。しかしFBIがラボを閉鎖しようとしていることを知り、彼は自分が育てた動物だけの特殊部隊に任務を遂行させ、その実力を示そうと考えた。彼はモルモットのダーウィンを呼び寄せ、元兵器ディーラーのレナード・セイバーを標的にした任務を伝える。大手家電メーカーのセイバリング工業でCEOを務めているセイバーには、軍事使用目的とみられる新しいマイクロチップを極東へ売った疑いがあった。その暗号名は「クラスターストーム」である。彼の企みを突き止めるため、屋敷の書斎に潜入し、ファイルを盗み出すというのが、ダーウィンに示された任務だ。
ダーウィンは仲間フアレス、ブラスターと共に、製品発表会を開いているセイバーの屋敷へ潜入した。ハエのムーチが偵察に飛び回り、モグラのスペックルズが邸内の様子を監視しながら的確な指示を出す。書斎に辿り着いたダーウィンは、セイバーの世界滅亡計画を記録したファイルを発見する。彼はそのファイルをパソコンからPDAにダウンロードし、仲間たちと共に屋敷から逃亡した。
翌日、FBIのキリアン部長が部下のトリグスタッドとカーターを伴ってラボへやって来た。ベンは研究内容を説明した後、ファイルを見せる。だが、スペックルズが暗号を解読して開いたファイルには、コーヒーメーカーのデータしか入っていなかった。キリアンはベンに、ラボを閉鎖する決定を通達した。「動物たちは実験に使えばいい」という彼の言葉を耳にしたダーウィンたちは、ベンの助手マーシーに手伝ってもらい、ラボから脱出した。
ダーウィンたちは捜査官から隠れるため、ラボの外に置かれていたケージに入った。だが、それはペットショップ店員テレルの持って来たケージだった。ダーウィンたちは店に連れて行かれ、ケースに入れられた。そのケースには、しばしば放屁するハーレー、フェレットとハムスターの混血であるバッキーという先客がいた。ムーチがケースに近付いたので、ダーウィンは「クラスターストームの発動まで残り29時間しか無い。ベンに伝えてくれ」と頼む。彼は間違いなく世界滅亡計画のデータがファイルに入っていたと確信していた。
ダーウィンたちはケースから抜け出そうとするが、鍵が掛かっているため難しそうだった。そこで彼らは相談し、まず訪れた客に買ってもらい、それから脱出して合流することにした。コナーという少年と妹のペニーが、祖父に連れられて来店した。ペニーはフアレスを気に入り、それを買うことにした。イタズラっ子のコナーは、テレルと祖父が目を離した隙にハーレーを捕まえ、蛇のケースに投げた。テレルが戻ると、コナーはブラスターを抱き上げて「これにする」と告げた。
フアレスとブラスターが兄弟に買われて店を去った後、スペックルズは死んだフリをしてケースから出る作戦を実行した。しかしテレルが死骸だと思ったスペックルズをゴミ箱に捨てようとすると、オーナーのロザリータはゴミ収集車に回収してもらうよう指示した。テレルは店の前にやって来たゴミ収集車にスペックルズを放り投げた。ダーウィンが激しく狼狽する中、スペックルズは荷箱へ消えた。
ベンはゴキブリをラボへ潜入させ、PDAを回収した。中身を調べると、クラスターストームのデータが入っていた。だが、PDAはデータを破壊するウイルスに感染しており、ファイルの内容を確認することは出来なかった。ダーウィンはバッキーが密かに作っていた出口を知り、そこから脱出した。ハーレーは彼を嫌っていたバッキーに突き落とされ、ケースに戻れなくなった。ダーウィンは仕方なく、彼を連れて行くことにした。
セイバーはミスター・ヤンシューと名乗る男と通信していた。セイバーは彼と会ったことが無く、その顔も知らなかったが、野望のために手を組んでいた。ヤンシューは古くなった衛星やミサイルを追跡し、クラスターストーム計画の発動に向けて着々と準備を進めていた。ムーチはベンの元へ戻ってパソコンのキーを押させ、ペットショップの場所を教える。だが、トリグスタッドとカーターもダーウィンたちがペットショップに連れて行かれたことを突き止めていた。
フアレスとブラスターはラジコンカーを使い、兄妹の家から逃げ出した。ダーウィンはショーウィンドーに飾られているコーヒーメーカーを調べ、無人兵器計画用の高性能通信機が取り付けられているのを発見した。だが、そのマイクロチップをダーウィンが取り外そうとすると、コーヒーメーカーがロボットに変形して襲い掛かって来た。ダーウィンは走って来た車にコーヒーメーカーをひかせて破壊した。ダーウィンは、セイバーが全ての家電製品を兵器にするつもりだと知った。
ダーウィンはハーレーと共に、破壊したコーヒーメーカーをスケボーに積んでベンの家へと向かう。到着すると、フアレスとブラスターも戻っていた。ベンはダーウィンたちに、「君たちを遺伝子操作でパワーアップしていたというのは嘘だ」と打ち明けた。それぞれ、実験台にされそうになっていたり、捨てられていたりしたモルモットを集めて来ただけなのだ。それを聞いたダーウィンはショックを受け、「ごく普通のモルモットだったのか」と漏らす。
ダーウィンはハーレーから「君はモンスターみたいな機械にも勝ったし、僕には絶対に出来ない。そんな凄いモルモットは世界で3匹しかいない」と称賛され、「確かにそうだ。僕はペットとは違う。僕らは特別なんだ」と元気を取り戻した。ベンはダーウィンたちに、PDAがウイルスに感染していてデータが取り出せないことを話した。ハーレーの何気ない一言で、ベンはウイルスを使ってセイバーの通信回線の機関部を破壊する作戦を思い付いた。
ベンはダーウィンたちのために、新しい乗り物を開発していた。トリグスタッドとカーターがベンの家へ乗り込むが、ダーウィンたちは外へ飛び出した。トリグスタッドとカーターは応援を呼び、ダーウィンたちを追跡する。ダーウィンたちは花火大会の会場に突っ込み、追っ手を撒いた。ダーウィンたちはセイバーの屋敷へ侵入するが、クラスターストーム計画は発動してしまう。それでもダーウィンは「ウイルスを使えば、まだ食い止められる」と口にする。
世界中の家電製品がロボットに変形し、人々を襲い始めた。セイバリング工業を世界一の家電メーカーにすることしか考えていなかったセイバーは、予想外の出来事に動揺した。FBIが屋敷に乗り込み、セイバーを拘束した。ダーウィンたちは電子レンジに襲われ、何とか退治する。だが、ダーウィンだけが分断されたため、彼は1人で機関部へ向かう。すると、そこには死んだはずのスペックルズの姿があった。ヤンシューの正体はスペックルズであり、彼は家電ロボットを使って巨大な電磁波の回線通信ポイントを作り、地球の軌道上にある宇宙ゴミを地上へ落下させて人間たちを地下へ追いやろうと企んでいたのだ…。

監督はホイト・H・イェットマンJr.、原案はホイト・H・イェットマンJr.&デヴィッド・P・I・ジェームズ、脚本はザ・ウィバーリーズ、製作はジェリー・ブラッカイマー、製作協力はパット・サンドストン&テッド・エリオット&テリー・ロッシオ&リョータ・カシバ、製作総指揮はマイク・ステンソン&チャド・オーマン&ダンカン・ヘンダーソン&デヴィッド・P・I・ジェームズ、撮影はボジャン・バゼリ、編集はジェイソン・ヘルマン&マーク・ゴールドブラット、美術はデボラ・エヴァンズ、衣装はエレン・マイロニック、視覚効果監修はスコット・ストクダイク、音楽はトレヴァー・ラビン、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はビル・ナイ、ウィル・アーネット、ザック・ガリフィナーキス、ケリー・ガーナー、タイラー・パトリック・ジョーンズ、ジャック・コンリー、ガブリエル・カセウス、ニーシー・ナッシュ、ラウドン・ワインライト、パイパー・マッケンジー・ハリス、ジャスティン・メンテル、クリス・エリスJr.、トラヴィス・デイヴィス、ジェームズ・ホワン、コーリー・ユーバンクス、スティーヴ・ケルソ、エデイー・ヤンシック、トロイ・ロビンソン他。
声の出演はニコラス・ケイジ、サム・ロックウェル、ジョン・ファヴロー、ペネロペ・クルス、スティーヴ・ブシェミ、トレイシー・モーガン他。


大物プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーが初めて手掛けた3D映画。
監督は『マイティ・ジョー』の視覚効果を監修していたホイト・H・イェットマンJr.で、これが初メガホン。
ホイト・イェットマンはブラッカイマーが製作に携わった『ザ・ロック』『コン・エアー』『アルマゲドン』で視覚効果の仕事をしている。彼の息子のアイデアが、この映画のきっかけとなっているらしい。
脚本は『ナショナル・トレジャー』『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』のウィバーリー夫妻。
セイバーをビル・ナイ、キリアンをウィル・アーネット、ベンをザック・ガリフィナーキス、マーシーをケリー・ガーナー、コナーをタイラー・パトリック・ジョーンズが演じている。スペックルズの声をニコラス・ケイジ、ダーウィンをサム・ロックウェル、ハーレーをジョン・ファヴロー、フアレスをペネロペ・クルス、バッキーをスティーヴ・ブシェミ、ブラスターをトレイシー・モーガンが担当している。
日本語吹き替え版では、ガレッジセールのゴリがダーウィン、川田広樹がバッキーを担当している。

「モルモットが人間の言葉を喋ったり人間みたいに動き回ったりしているのは可愛いでしょ?」というところに頼りまくっているとしか思えない作品である。
まず冒頭のアクションシーン、モルモット3匹が屋敷に潜入するが、「モルモットだから小さくて小回りが利く」とか、「人間に比べて見つかりにくい」とか、そういう小動物ならではのメリット、モルモットならではの特性ってのが、あまり伝わってこない。
それもあって、スリルは無い。
そのミッション、3匹も必要なのかと思っちゃうし。

そもそも、入り方も上手くないんだよな。
最初にベンが誰かと話している様子が写し出され、「話している相手はモルモットでした」という形で入っているんだけど、それだと「モルモットが人間の言葉を話す」というサプライズに留まってしまう。そして、そこの会話で、ダーウィンたちが訓練を受けたスパイであることは語られてしまう。
だから、「モルモットがスパイをやってる」というサプライズで観客を掴むことが出来なくなるので、ちと勿体無いんじゃないかと。
むしろ導入としては、「話している相手がモルモットだった」ではなく、「スパイ活動をしているのがモルモットだった」というところのサプライズで入った方が効果が上ではないかと。

ダーウィンたちがペットショップに連れて行かれるので、正体を知らない人間たちと絡ませることで物語の面白味を出していくのかと思いきや、店員とはほとんど絡まないし、兄妹の様子もチラッと写るだけ。
フアレスとブラスターはすぐに逃げ出しちゃうので、何のために人間に買われる展開を用意したのか、良く分からんぞ。それに、リーダーであるダーウィンは店に残っているしね。
あと、早い段階でモルモット3匹を分断させてしまうってのも、いかがなものかと。
で、ダーウィンを人間と絡ませず、同じモルモットであるハーレーと絡ませて話を進めているんだけど、それだと「モルモットが翻訳機を使って人間と会話を交わすことが出来て、訓練によってスパイとしての能力を持つ」という仕掛けが効果的に活用できなくなってしまう。
っていうか、そもそも翻訳装置が取り外されているから、人間と絡ませたところで、会話を交わすことも出来ないんだよな。

「遺伝子操作でパワーアップしたというのは嘘」と知らされたダーウィンが落ち込むのは、不可解にしか感じない。
遺伝子操作を行っていないのに、他のモルモットと比べて格段に素早い動きが出来たり、頭が良かったりするんだから、そっちの方が凄いじゃねえか。
そこで「何の手も加えられていない、ただ拾われただけのモルモットだから価値が無いんだ」と嘆くのは奇妙だ。
それに、ハーレーから声を掛けられてすぐに立ち直っているので、その落ち込む展開って必要なのかと。
あと、遺伝子操作でパワーアップしていないのに、ただ訓練しただけで優れたスパイとして行動できるようになったという設定は、ちと無理があるようにも思えるが。

明らかにモルモットの可愛さでアピールしよう、観客の御機嫌を窺おうっていう意識がある作品なんだから、ハエはともかく、ゴキブリなんて登場させる必要があったのかな。
もっと「要らないだろ」と感じるのは、家電ロボット。
モロに『トランスフォーマー』なんだけど、幾らプロデューサーがジェリー・ブラッカイマーだからって、そんなに露骨にパクっちゃうのかよ。
当時はマイケル・ベイ監督が『トランスフォーマー』シリーズの3D化に消極的だったから、「じゃあ別の作品でやっちゃおう」ということだったのか。

家電ロボットを登場させて『トランスフォーマー』モドキをやっちゃうと、何を見せたいのかというポイントがボヤケてしまうように思える。
特殊な仕掛けは「モルモットがスパイとして活躍する」というところだけに絞った方がいい。
「家電がロボットになって暴れる」という仕掛けを用意するのなら、善玉サイドが人間の子供であっても、それはそれで娯楽映画として有りになっちゃうでしょ。

チームがモルモットだけでなく1匹だけモグラが入っていることに不自然さを感じていたのだが、後半になって、その狙いが判明する。
スペックルズが人間を地下に追いやろうとした理由は「人間たちはモグラをペットとして可愛がる意識など皆無で、常に駆除しようとしている。自分の両親も殺された。だから復讐する」というものだ。
モルモットだと、害獣として駆除されることが無いから、そういう「人間に恨みを持つ」という設定が難しいということだったのではないだろうか。

家族を人間に殺された恨みを抱いているのであれば、スペックルズは根っからの悪党ではなく、同情すべきキャラクターということになる。
だから、ダーウィンから「君には仲間がいる。ベンやマーシーは僕らや君を助けて、優しくしてくれた」などと諭され、改心するという展開によってスペックルズを悪玉のまま葬り去らないのは、悪くない判断だ。
ただし、「人間がスペックルズの両親を殺した。人間はモグラを殺すことしか考えていない」ということを提示しておきながら、その問題を放置したままで終わるのは、どうなのかと。
そういうことを語るのであれば、人間とモグラの望ましい関係について、何かしらの提案を用意すべきじゃないかと。
何も答えを出せないのであれば、そんなテーマを盛りこんじゃダメだわ。

(観賞日:2013年4月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会