『そんなガキなら捨てちゃえば?』:2012、アメリカ

クリーブランドに住む女子高校生のレン・デサンティスは、卒業を間近に控えている。彼女は1年前に死んだ父の母校であるニューヨーク大学を受けることに決めている。弟のアルバートはパンツ一丁でバスルームに居座ったり、服を切ったりして、いつもレンを困らせている。父が死んで以来、アルバートは一言も話さなくなった。母のジョイは地元の大学へ進学することを望んでおり、学費ローンの申請書にサインしてくれない。夫が死んで壊れてしまった彼女は髪の毛をブリーチしてギャルっぽい服に身を包み、キーヴンという26歳の男と付き合い始めた。
その日はハロウィンで、ミュージシャンである同級生のアーロン・ライリーが仮装パーティーを開くことになっている。レンは親友のエイプリルから「パーティーに行くのよ」と言われるが、「呼ばれるのは人気者だけよ」と告げる。最高裁判事だったギンズバーグに仮装するつもりだとレンが話すので、エイプリルは呆れる。男友達のルーズベルトは、生物学者のエドワード・オズボーン・ウィルソンに仮装すると話す。そこへアーロンが車で現れ、レンをパーティーに誘った。「君のために歌うよ」と言われ、レンは頬を緩ませた。
レンはギンズバーグをやめて、『オズの魔法使い』のドロシーに扮することにした。ところが、ブリトニー・スピアーズの仮装をしたジョイから、「キーヴンとパーティーに行くからアルバートの子守をお願い」と言われてしまう。レンは抗議するが、ジョイは「子守をすれば申請書にサインするわ」と告げて出掛けてしまう。レンはエイブリルに付き合ってもらい、スパイダーマンに扮したアルバートを連れて近所の家を回る。アルバートは行く先々で全ての菓子を奪ってしまい、レンは家主から叱られた。
お化け屋敷になっている家に入ったレンは、アルバートと友人のペンに遭遇した。レンはアルバートを見失い、焦って捜すが、どこにもいなかった。ジョイはキーヴンに連れられ、彼の友人であるブルーダーの家を訪れた。彼の家には大勢の人々が集まり、パーティーを開いていた。アルバートはコンビニに立ち寄り、店員のファジーに菓子を要求する。アルバートの顔を見たファジーは、「ゲーセンで見た。マリオカートの達人だろ」と笑顔になる。彼は「僕のミッションに参加しないか。心に傷を負った男が復讐を果たすんだ」と話し、アルバートは了解した。
レンはコンビニでルーズベルトとペンに遭遇し、彼らが翌日のディベート大会に親の車で行くことを知る。「今夜、車を借りられる?」とレンが色仕掛けで頼むと、彼女に惚れているルーズベルトは承諾する。ルーズベルトはレンたちを連れて自宅に戻り、母親であるバーブとジャッキーに紹介する。彼には2人の母親がいるのだ。母親たちは車の貸し出しを許可してくれなかったが、ルーズベルトは密かにキーを盗み出していた。
ファジーはアルバートを車に乗せ、元恋人のララがいるアパートへ赴いた。彼はアルバートに、ララが自分を捨ててヨルゲンという格闘家の大男に走ったことを話す。ファジーは店から持ち出したトイレットペーパーを、ヨルゲンとララのいる部屋の窓にぶつけようとする。しかし部屋が高い場所にあるので、まるで届かない。彼は梯子を登り、開いていた窓からトイレットペーパーを投げ込んだ。だが、紙が蝋燭に触れたため、火事が起きてしまった。
ファジーが慌てて消火すると、隣の窓からララが顔を出した。ファジーは部屋を間違え、ララの隣人であるサモア人夫婦の部屋でボヤ騒ぎを起こしてしまったのだ。ファジーは夫婦に掴み掛かられ、慌てて逃げ出した。彼がアパートを出ると車がレッカーされており、そこにはアルバートが乗っていた。レンたちは車でアルバートを捜索していたが、エイプリルは嫌気が差して逃げようとする。ペンが屈強な体のマイクたちに喧嘩を売ってしまい、レンたちは追われる羽目になる。
レンはアルバートが大好きなチキンの店にいるのではないかと考えるが、ちょうど行き違いになってしまった。アルバートは大好きなコミック『Galaxy Scout』の仮装をした女性と出会い、彼女に連れられてクラブへ行く。レンたちはマイクに見つかり、ルーズベルトは運転を誤って車をキチンの店にぶつけてしまう。巨大にニワトリ人形が車に落下し、周囲の人々は嘲笑した。ペンはマイクに腹を立て、車を出てマスケット銃を構えた。
マイクは「どうせ撃てない銃だろ」とペンを挑発し、チキンを銃のように構えて決闘を要求する。しかしペンが発砲するとチキンが破裂したため、マイクはパニックに陥った。警察が駆け付けたので、マイクは友達と共に去った。騒ぎの間に、エイプルは姿を消していた。レンたちは車に乗り込み、警官から逃走した。アルバートがクラブで踊っていると、ヨルゲンという男が現れた。ファジーの言葉を思い出したアルバートは、彼に付いて行くことにした。
ジョイはブルーダーの家出トイレを借りるつもりが、間違えて両親の寝室に入ってしまった。ブルーダーの母親は、彼女をお茶に誘った。レンたちはエイプリルから「見つけたわよ。パーティーにいる」という電話を受け、アーロンの家へ向かった。しかし行ってみると、アルバートはいなかった。エイプリルがアルバートを見つけたと誤解させてパーティーに呼ぶ目論見だったと知り、レンは腹を立てた。ジョイはブルーダーの両親に訊かれ、子育ての愚痴やシングルマザーの辛さを喋っている内に泣き出してしまった。「子供たちの所へ戻ったら?」とブルーダーの母親が優しく促すと、ジョイは「ええ、そうするわ」と答えた。
アルバートはヨルゲンの車に身を隠し、彼の自宅までやって来た。そこにファジーが現れ、一緒に犬のウンコを使った爆弾を作る。彼らは爆弾を玄関先に仕掛け、出て来たヨルゲンを驚かせる。しかし近くにいて逃げ遅れたアルバートは、ヨルゲンに捕まってしまう。一方、ルーズベルトはレンに告白しようとするが、そこエイプリルが来る。彼女はレンに謝罪し、2人は仲直りした。エイプリルは「アーロンがアンタに捧げる歌を歌うわよ」と言い、レンをパーティー会場に連れ戻した。
アーロンは愛の歌を熱唱するが、レンは「ルーズベルトの言葉の続きは何だったんだろう」と気になった。雰囲気に流されてアーロンとキスしようとしたレンだが、ルーズベルトが会場を立ち去ったのを見て、彼を追い掛けようとする。しかし外に出ると、もう彼は去った後だった。そこにヨルゲンから電話が掛かり、弟を誘拐したので400ドルを持って来いと脅される。そんな金など持っていないレンだが、とにかくヨルゲンの家へと走った…。

監督はジョシュ・シュワルツ、脚本はマックス・ワーナー、製作はステファニー・サヴェージ&ジョシュ・シュワルツ&バード・ドロス&デヴィッド・カンター、共同製作はリズ・ローウィンスキー、製作総指揮はマイケル・ビューグ&スティーヴ・ゴリン&ポール・グリーン、製作協力はサムソン・ミュッケ、撮影はヤーロン・オーバック、編集はマイク・セイル&ウェンディー・グリーン・ブリックモント、美術はマーク・ホワイト、衣装はエリック・ダマン、音楽はデボラ・ルーリー、音楽監修はアレクサンドラ・パストヴァス。
出演はヴィクトリア・ジャスティス、トーマス・マン、ジェーン・レヴィー、チェルシー・ハンドラー、トーマス・マクドネル、オシリク・チャウ、トーマス・ミドルディッチ、ジャクソン・ニコル、アナ・ガステイヤー、ジョシュ・ペンス、ケリー・ケニー=シルヴァー、アビー・エリオット、パトリック・デ・レデブール、ジェームズ・パンフリー、ステファン・ガット、リッキー・リンドホーム、エリン・サーバク、アニー・フィッツパトリック、ホームズ・オズボーン、ジェレミー・アール、ガブリエル・マックリントン他。


『The OC』『ゴシップガール』『CHUCK/チャック』といった人気TVドラマの製作総指揮を担当したジョシュ・シュワルツの映画監督デビュー作。
レンを演じたのはニコロデオンのシットコム『ビクトリアス』で人気者になったヴィクトリア・ジャスティスで、これが映画初主演。
ルーズベルトをトーマス・マン、エイプリルをジェーン・レヴィー、ジョイをチェルシー・ハンドラー、アーロンをトーマス・マクドネル、ペンをオシリク・チャウ、ファジーをトーマス・ミドルディッチ、アルバートをジャクソン・ニコル、ジャッキーをアナ・ガステイヤー、キーヴンをジョシュ・ペンス、バーブをケリー・ケニー=シルヴァーが演じている。

この邦題はジェニファー・アニストンが主演した2009年の映画『そんな彼なら捨てちゃえば?』を明らかに意識しているが、出演者もスタッフも全く被っていない。
日本のDVD販売元が同じなのかと思ったら、あっちはワーナー・ホーム・ビデオ、こっちはパラマウント・ジャパンだし。
そもそも『そんな彼なら捨てちゃえば?』も、そんなにヒットしたわけじゃないと思うんだけど、何故そこに便乗しようとしたんだろうか。担当者の意図がサッパリ分からん。
しかも、内容と全く合致していないし。

ヴィクトリア・ジャスティスの主演映画であり、トップ・ビリングは彼女なのだから、どう考えたって「レンの物語」として構築すべきだろう。
つまり、父親を亡くした悲しみをレンが引きずっており、家族関係もギクシャクしていたが、その夜の出来事をきっかけにして父親の死を自分の中で消化し、家族関係も修復されるというのが、ベタベタではあるが、取るべき道筋ではないかと思うのだ。
児童向け番組のテレビ局であるニコロデオンが製作に関わっているんだし、そこはベタでも構わないんじゃないかと。
ところが、これが映画デビューとなるマックス・ワーナーの脚本は、なぜか「デサンティス家の3人を並行して描く」という構成になっているのである。

「3人が父親(夫)の死を乗り越え、家族関係の再構築に気持ちを向けようとする」というドラマとして描きたかったのかもしれないが、それは明らかに大失敗。
前述のように、レンの物語として描くべきだし、仮に百万歩譲って3人の物語にするとしても、だったら3人を絡ませるべきであり、それぞれをバラバラに動かすべきではない。
っていうか、ジョイとアルバートに関しては、レンと絡む形で描写すれば充分だ。なぜ2人の視点による物語を用意してしまうのか。
3人それぞれの物語を描いたせいもあって、いずれもまんべんなく薄味になってしまっているし。

最初にレン、ジョイ、アルバートのキャラクター紹介があるのだが、そこが薄い。
物語を進めながら各人のキャラ設定を少しずつ描写していく構成なら、そこの紹介が薄くても別に構わないだろう。ただ、この映画の構成を考えると、ハロウィンの夜が訪れる前に、3人の設定はキッチリと示しておく必要がある。
ジョイが若作りして若い男と付き合っているとか、アルバートが『Galaxy Scout』というコミックにハマっていて喋らないとか、それなりに描写はあるのだが、どちらも中途半端。
ジョイが痛々しいほどギャルっぽく振る舞うというのは、もっと誇張した方がいい。
アルバートの方は、「イタズラ好き」「トイレに閉じ篭もる」「コミックにハマっている」「喋らない」と4つもキャラ設定があって、どういうキャラとして描きたいのか定まらなくなっている。もっと要素を絞り込んだ方がいい。

それぞれのエピソードには、それぞれの違和感が含まれている。
アルバートのエピソードでは、「なぜファジーは自分のミッションに彼を誘うのか」という疑問がある。ゲームセンターで見掛けて、マリオカートの達人として尊敬していたとしても、知り合ったばかりの相手、しかも8歳の少年を、復讐のための行動に引き入れるってのは理解し難い。「ファジーには友達がおらず、オタク気質だから」ってのは、何の理由付けにもならない。
「店に来た少年たちの話を聞いたファジーが、自分も復讐しようと決意する」というきっかけも、「外にいたアルバートに声を掛ける」という展開も、流れとして上手くない。
せめて、アルバートが来る前から復讐を決意しており、それが高まったところでアルバートが来るという流れにでもすれば、彼を引き入れようとするファジーの行動に少しは説得力を持たせることが出来たかもしれない(だとしても、ほんの少しだが)。

ちょっとエキセントリックな奴を何人も登場させて、エキセントリックな行動を取らせることでコメディーを構築しようとしているんじゃないかという意識は窺える。
で、エキセントリックな連中を揃えるのはダメなことじゃないけど、その行動に説得力が必要となるケースもあって、ファジーがアルバートを誘うってのが、それに該当する。
ホントにクレイジーな奴なら「イカレてるから」ということで成立するし、狂ったパワーがあれば力押しで突破できるけど、ファジーは心底から狂っている連中ではないからね。
「ちょっと風変わりな奴」という程度であり、常識や一般的な感覚は持っているタイプだからね。

コスプレ少女がアルバートをクラブに連れ込んで一緒に遊ぶってのも、ちょっと苦しいモノを感じるが、ファジーがアルバートを誘う行為に比べると遥かにマシ。
ただし、その展開を好意的に受け取れられるかってのは別の問題で、やはり「色んなトコに目移りしすぎて話が散らばってるなあ」と感じる。
「スパイディーのコスプレをした小太りのガキがクラブで踊る」という絵が面白いと思ったのかもしれんが、だとしても「レンとアルバートが一緒に行動していて、成り行きでクラブに入る羽目に」という展開にでもすれば良かったのに。
終盤まで延々とレン&アルバートを別行動させているのだが、そのメリットが全く見えない。どうせ「レンの弟捜し」という展開は膨らまず、「ルーズベルトたちと共に体験するドタバタ」に終始するんだし。

ジョイの様子なんて、たまに思い出したように挿入されるだけなんだから、まるで要らないんだよな。
ジョイに関しては、最初から「夫を亡くして壊れた」という設定を排除して、「父の死を引きずっているレンとアルバートを心配し、手を焼いている母親」という当たり障りの無いキャラクター設定にしておけばいいのよ。
どうせブルーダーの母親に「家へ帰ったら?」と勧められて、あっさりと「そうするわ」と受け入れているんだから。
ここ、まるでドラマとしての抑揚も広がりも無いんだよな。

肝心なレンのストーリーだけでも、まるで焦点が定まらず、散漫になっている。
ペンがマイクを挑発するとか、嘲笑されて決闘になるとか、そんなの全く要らない。なんでペンにスポットを当てようとするのか。単なるレンの同行者ってことでいいのに。
ルーズベルトにレンとの関係を重視する形でスポットを当てるのなら、まだ分からないでもない。だけどペンって、フィーチャーすべきキャラじゃないでしょ。
他も充分に消化できていて、その上でペンにもスポットを当てるならともかく、他が薄味でグダグダなんだからさ。
そもそも、レンの抱えている喪失感ってのは全く伝わって来ないし。そこは何よりも肝心な要素じゃないのか。

序盤で「レンはアーロンが好き」「アーロンはモテモテのイケメン」というのが提示されており、そしてレンはパーティーに誘われる。
一方でルーズベルトというオタクな同級生が近くにいて、一応は三角関係の恋愛劇ってのも盛り込まれているけど、ここも全く膨らまない。
そもそもアーロンの存在感が薄いし、「イケメンでモテモテのアーロンが、決して人気者ではないレンに好意を寄せる」という設定も効果的に使われていない。
レンがルーズベルトへ思いに気付く展開も、おざなりに処理されるだけ。

基本的にはドタバタ喜劇をやろうとしているんだろうけど、ずっと行き当たりバッタリでフラフラしているようとしか感じない。
終盤に入ると「アルバートを捕まえたヨルゲンがレンに身代金を要求する」という展開へと急に舵を切るが、これまた行き当たりバッタリ感覚が満載。
ヨルゲンが悪戯を仕掛けたアルバートに怒って捕まえるのは分かるけど、レンに脅迫電話を掛けて身代金を要求するってのは理解不能。しかも「払わないなら警察に通報するぞ」と言って、ホントに電話しちゃう。
たぶん「マヌケなキャラ」ってことなんだろうけど、その行動は行き過ぎだし、ギャグにもなってない。
あと、そこで助けに来るのがルーズベルトじゃなくてファジーってのは、キャラの使い方を間違えていると思うぞ。

ファジーによってヨルゲンの家から助け出されたレンとアルバートは父の墓参りに行き、そこでアルバートは「お姉ちゃん、ありがとう」と言う。
「1年前から無言だったアルバートが喋った」という重要なシーンのはずなのに、レンは全く驚かない。
で、その後に、「実はアルバートは精神的な病で喋れなくなったのではなく、ただジョイとレンへのイタズラとして黙っていただけ」ということが判明する。
最後にそのサプライズで笑いを取ろうとしたんだろうけど、要らないなあ、そんなオチは。

(観賞日:2014年1月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会