『13日の金曜日PART8 ジェイソンN.Y.へ』:1989、アメリカ&カナダ

レイクヴュー高校3年生のジミーとスージーは、夜のクリスタル・レイクにクルーザーを浮かべていた。明日は卒業するクラスメイトで卒業旅行にいく予定が入っており、その前に2人の時間を楽しもうというのだ。ジミーが錨を下ろすと、湖底の電気ケーブルに引っ掛かる。ケーブルはショートし、感電したジェイソンが復活した。ジミーは全く気付かず、ホッケーマスクを使ってスージーを脅かした。その直後、本物のジェイソンがホッケーマスクを被って2人を殺害した。
翌朝、レイクヴュー高校3年生のレニーは恩師であるコリーンの車で、ラザラス号が停泊している船着き場にやって来た。ジェイソンを乗せたクルーザーも、船着き場へと流れ着いた。教師のチャールズは遅れて来たコリーンに嫌味を言い、ジムとスージーが来ていないことを話す。レニーが愛犬のトビーを連れて船に乗り込むと、チャールズはコリーンに「なぜ連れて来た?」と言う。「彼女の意思です」とコリーンが告げると、チャールズは「あの子には問題がある。私が引き取るまで酷い環境にいた」と述べた。「今の環境も、あまり良いとは思えません」とコリーンが言うと、彼は「保護者は私だ。あの子のことは私が一番良く分かっている」と反論した。
船長のロバートソン提督は、息子であるショーンに出航の仕事を任せた。しかしショーンは手順のミスを指摘されると、その場を去ってしまった。ジェイソンは甲板員から「この航海は呪われている」と言われても、軽く受け流した。ジェイソンが乗り込んでいることに、誰も気付いていなかった。卒業旅行の生徒たちはニューヨークへ向かう船内で、それぞれの時間を楽しむ。ショーンはレニーを見つけると、首飾りをプレゼントした。
JJ・ジャレットはエレキギターを弾いて自慢し、その様子をウェインにビデオカメラで撮影させる。しかしウェインは「撮りたい被写体がある」と言い、JJは「まだタマラを追っ掛けてるのね。あの女はアンタになんか興味が無いわ」と呆れる。チャールズはレニーに、「予報だと今夜は大時化だ。今からでも港に戻った方がいい」と忠告する。レニーは「何とか恐怖を克服したいんです」と言うが、彼は「恐怖に直面しても、克服できるとは限らない」と述べる。それでもレニーが「やってみたいんです」と言うので、チャールズは「いいだろう」と告げた。
エンジンルームでギターを鳴らしていたJJは、ジェイソンに殺害された。船室にいたレニーは、ジェイソン少年が溺れて助けを求めている幻覚を見た。トビーが廊下へ飛び出したので、レニーは後を追った。エヴァとタマラは、ジュリアスがボクシングをしている様子を窓の外から眺めた。タマラは負け知らずのジュリアスを見て、「男の子たちの中で寝てもいいと思うのは彼だけよ」とエヴァに話す。タマラがコカイン吸引に誘うと、エヴァは「先生にバレたら奨学金がパーになる」と遠慮する。タマラが「プロム・クイーンに選ばれた私が、それをフイにすると思うの?」と言うので、エヴァも承諾した。
そこへレニーが来てトビーのことを尋ねるので、エヴァは「知らない」と答える。レニーが去った後、タマラは「いけ好かない女。先生にチクるかも」と口にした。チャールズか来たので、2人は慌てて誤魔化そうとする。しかしチャールズは何をしていたか見抜き、タマラに生物のレポートを書くよう告げた。チャールズが去った後、うろたえるエヴァにタマラは「あんなオヤジは心配ない。それよりレニーが上に密告するのが心配だわ」と言う。そして不敵な笑みを浮かべ、「あの女、酷く水を怖がるそうよ」と述べた。
サウナ室に入っていた男子生徒は、ジェイソンに殺された。タマラは不注意を装ってレニーを突き飛ばし、海に転落させた。コリーンが慌てて浮き輪を投げるが、レニーはジェイソン少年の幻覚に足を引っ張られる。ショーンが海に飛び込み、彼女を救助した。そこに駆け付けたチャールズはコリーンとショーンを非難し、「私の姪に近付くな」と告げた。甲板員はレニーたちに、奴が戻って来る。みんな殺されるぞ」と告げた。
洗面所で顔を洗おうとしたレニーは、ジェイソン少年に襲われる幻覚を見た。タマラはチャールズが船室へ行くと、下着姿になって誘惑した。チャールズが狼狽していると、彼女はキスをしてベッドに押し倒した。チャールズはタマラを引き離すが、それを撮影していたウェインが現れた。タマラがビデオテープを使って脅しを掛けると、チャールズは「2人とも後悔することになるぞ」と告げて立ち去った。ウェインを立ち去らせた後、シャワーを浴びていたタマラはジェイソンに殺された。
大時化が来る中、ジェイソンはロバートソンと一等航海士を殺害した。ショーンはレニーと共に港へ戻ろうと考え、沿岸警備隊を呼んでもらうために父の所へ行く。しかし父の死体を発見し、彼はスピーカーを使ってブリッジに集まるよう呼び掛けた。ショーンは沿岸警備隊に連絡しようとするが、ジェイソンが無線を切断した。エヴァはタマラの死体を発見した直後、ジェイソンに殺された。男子生徒5名は武器を手に取り、犯人と戦おうとする。エンジンルームに入ったウェインは眼鏡を落とし、誤って乗員を射殺した。そこへジェイソンが現れ、逃げようとしたウェインを殺害した。
ショーンはラザラス号を航路に戻すが、エンジンルームでは火災が発生する。ジェイソンが火災警報器を鳴らし、チャールズは照明弾を用意する。コリーンが「こんな大雨で照明弾を上げても気付いてもらえない」と言うと、彼は「救助を呼ぶためじゃない。これはパニックを起こさせるための警報だ」と告げた。チャールズは甲板員が犯人だと誤解しており、照明弾を彼に打ち込もうと考えたのだ。甲板でジェイソンと遭遇したマイルスは、あえなく殺される。そこにジュリアスが来てジェイソンに見つかり、海へと投げ落とされた。
船室に戻されたレニーが助けを求めるジェイソン少年の幻覚を見た直後、窓を突き破ったジェイソンが首を絞めて彼女を殺そうとする。レニーはボールペンでジェイソンの左目を突き刺し、何とか助かった。船室にショーンが駆け付けた直後に爆発音が響き、彼は「エンジンルームだ」とレニーに告げた。コリーンは生徒4人を食堂に移動させ、他の面々を連れて来るまで待機するよう指示して立ち去った。チャールズは厨房で包丁を持った甲板員と遭遇するが、逃げられてしまった。レニーとショーンはエンジンルームへ向かい、船が浸水していることを知った。
2人がチャールズと遭遇したところへコリーンが来て、救命ボートを下ろしたことを告げた。「まだ生徒たちが食堂にいる」と彼女が言うと、ショーンは「もう爆発で吹っ飛んだ」と告げた。4人が救命ボートへ向かおうとすると甲板員が現れるが、すぐに倒れ込んだ。彼はジェイソンに殺されたのだ。縄梯子を使って救命ボートに乗り込むレニーたちの姿を、甲板からジェイソンが見下ろしていた。4人は生きていたジェイソンを引っ張り上げ、ボートを漕いでニューヨークに辿り着いた…。

脚本&監督はロブ・ヘデン、製作はランディー・チェヴェルデイヴ、製作協力はバーバラ・サックス、撮影はブライアン・イングランド、編集はスティーヴ・ミルコヴィッチ、美術はデヴィッド・フィッシャー、衣装はカーラ・ヘトランド、特殊メイクアップ効果創作はジェイミー・ブラウン、メカニカル効果コーディネートはマーティン・ベッカー、音楽はフレッド・モーリン。
出演はジェンセン・ダジェット、スコット・リーヴス、バーバラ・ビンガム、ピーター・マーク・リッチマン、ケイン・ホッダー、マーティン・カミンズ、ゴードン・カリー、アレックス・ディアカン、V・C・デュプリー、サフロン・ヘンダーソン、ケリー・フー、シャーリーン・マーティン、ウォーレン・マンソン、トッド・シェーファー、ティファニー・ポールソン、フレッド・ヘンダーソン、ティモシー・バー・ミルコヴィッチ、サム・サーカー、マイケル・ベンヤー、ロジャー・バーンズ、ペギー・ヘッデン、デヴィッド・ロングワース、ヴィニー・カポーン、アンバー・パウリック他。


シリーズ第8作。脚本&監督のロブ・ヘデンはジェイソンと無関係のTVシリーズ『13日の金曜日』で2本の演出と4本の脚本を担当していた人で、映画手掛けるのは初めて。
レニーをジェンセン・ダジェット、ショーンをスコット・リーヴス、コリーンをバーバラ・ビンガム、チャールズをピーター・マーク・リッチマン、ジェイソンをケイン・ホッダー、ウェインをマーティン・カミンズ、マイルスをゴードン・カリー、甲板員をアレックス・ディアカン、ジュリアスをV・C・デュプリー、JJをサフロン・ヘンダーソン、エヴァをケリー・フー、タマラをシャーリーン・マーティン、ロバートソンをウォーレン・マンソンが演じている。
このシリーズは、第1作のケヴィン・ベーコン、第3作のコリー・フェルドマン、第4作のクリスピン・グローヴァー、第6作のトニー・ゴールドウィンと、後に有名になる役者も何人か出演している。
まあ「有名」の基準をどこに置くかによって考え方は違ってくるだろうが、この第8作で出世頭と言えば、後にTVシリーズ『刑事ナッシュ・ブリッジス』や『LA大捜査線/マーシャル・ロー』にレギュラー出演するケリー・フーということになるだろう。

冒頭、ニューヨークに関する重厚なナレーションが語られ、マンハッタンの様子が写し出される。
だが、それによって何を表現したいのか、サッパリ分からない。危険な匂いのする路地裏で不良たちが男を襲って財布を奪う様子も写し出されるが、「ニューヨークは犯罪の蔓延する危険な街」ってことをアピールしたいのか。
「危険な奴らが大勢いるけど、ジェイソンとは比較にならない」という見せ方をするために、前振りとしてそういう描写を盛り込むなら理解できなくもない。
だけど、そういう犯罪行為の映像って、それだけなんだよな。

しかも、そこでニューヨークの街を写し出しておきながら、そこにジェイソンが上陸するのは後半に入ってからだ。
「ジェイソンN.Y.へ」というのは日本の配給責任者が内容を考えず勝手に付けた邦題ではなく、原題からして「Jason in N.Y.」というサブタイトルが付いているのだ。にも関わらず、ジェイソンがニューヨークに行くのは後半で(厳密に言えば残り35分ぐらいになってから)、そこまでは船内での出来事が描かれている。
どう考えたって、それは「タイトルに偽りあり」だと感じる。
タイトルを度外視しても、構成に難があると言わざるを得ない。

どうやら、ロブ・ヘデンは「ジェイソンが客船で連続殺人を繰り広げる」「ジェイソンが大都市で連続殺人を繰り広げる」という2つのアイデアを提示したそうだ。
それに対して、製作していたパラマウント映画のボンクラな上層部が「じゃあ両方ともやっちゃいなよ」と指示したらしく、そのせいで2つのプロットを組み合わせたシナリオになったらしい。
だが、多額の予算を投入した大作映画ならともかく、低予算のB級ホラーで前述した2つを要素消化するってのは、どう考えても無理がある。
だから実際、無理を感じる仕上がりになってしまった。

2つのアイデアを組み合わせる際に、並行して進行させられるとか、合体させて作り変えることが出来るとか、そういうモノであれば、もう少し上手くやれていた可能性はある。
しかし、「客船での連続殺人」と「大都市での連続殺人」ってのは、舞台が全く異なるのだから、並行して進めることも無理だし、融合させることも無理だ。
複数の殺人鬼が存在するなら「別の場所で同時期に殺人が行われる」という作り方も出来る。
しかしジェイソンは1人しかいないので、客船と大都市で同時に殺しを遂行することは出来ない。

それでも「両方を組み合わせて作れ」と命じられたら、順番に消化するしか方法は無いだろう。
そうなると、「まるで全く違う2つの話を順番に並べているかのようだ」という印象の映画が出来上がってしまう。
実際に2つの話を並べているんだから、そういう印象になるのは当たり前だ。
そして2つを組み合わせて1本の映画に仕上げた結果、それは「2倍の面白さ」「ボリュームたっぷりでお得な映画」ということには繋がらず、「1つ目の話と2つ目の話、どちらも中途半端で薄っぺらい」という状態に陥ってしまった。

パラマウントが愚かな指示を出さず、「客船での連続殺人」か「大都市での連続殺人」の片方に絞ってシナリオを作っていれば、もう少しマシな仕上がりになった可能性はある。
まあ、そもそも本シリーズは普通に作っても薄っぺらくなるのが仕様と言ってもいいので、片方に絞れば必ずしも問題が解消されたとは思わない。
だけど、少なくともシリーズで最低の興行成績にまで落ち込むことは無かったんじゃないかと。
そして、そんな興行的失敗を受けて、パラマウントは本シリーズの権利をニューライン・シネマに売却した。

「欲張り過ぎて消化不良を起こしている構成」という以外にも、色々と問題はある。
まず冒頭で描かれるジェイソンの復活。
第6作では落雷、第7作では超能力によって蘇ったジェイソンだが、今回は「電流ケーブルによる感電」という方法が採用されている。
「また電気ショックですか」というのは置いておくとして、そもそもジェイソンの死体が湖底に放置されているのが不自然だ。第7作で超能力少女ティナが父親を復活させ、その父親がジェイソンを湖に沈めたのだが、なぜ警察は放置しているのか。
まあ今に始まったことではないけど、どんだけボンクラなんだよ、クリスタル・レイクを管轄する警察署は。

レニーには「水を怖がる」という設定が用意されているが、怖がる理由は「13歳の時に泳ぎ方を教えようとしたチャールズがクリスタル・レイクでボートから突き落とし、溺れそうになってジェイソン少年に足を引っ張られた」という過去があるからだ(終盤まで彼女は、そのことを忘れている)。
しかし、ジェイソンは11歳で湖に突き落とされて消息不明となったのだが、その出来事は1957年という設定のはずだ。
映画の冒頭、ジミーが「30年前にジェイソンという少年が湖で溺れ死んだ」と語っているので、公開年からすると2年のズレがあるが、そこは置いておくとしても、13歳のレニーがジェイソン少年と遭遇するのは整合性が取れない。
5年前の出来事だったら、もうジェイソンはオッサンになっているはずでしょ。もっと幼い頃だと仮定しても、やっぱりオッサンのはずだし。

JJがウェインと長い付き合いだとか、ウェインがタマラに惚れているとか、タマラとエヴァがジュリアにショーンに欲情を抱いているとか、タマラの行為にエヴァが恐れをなすとか、人間関係やキャラクター造形の大半は、まるで活用されていない。
「ジェイソンが次々に人を殺していく」という展開の中で、何の意味も持たないまま廃棄されていく。
それでも、まだキャラ紹介がある連中はマシな方だ。
サウナ室で殺される生徒なんかは、ジュリアスとボクシングをして負けた奴なのだが、名前さえ分からないまま退場するという不憫な扱いだ。

まだ客船に乗っている生徒の全員を紹介していないのに、ジェイソンがJJを殺すシーンに突入してしまうというのは展開として間違いだ。
そりゃあ前述したように、乗っている連中の大半は殺されるためだけに投入された要員であり、キャラに厚みや深みを持たせても無意味に等しいのよ。
だけど、それはそれとして、とりあえず「全員を登場させてキャラクター紹介を済ませる」という作業はやるべきでしょ。そして、それを片付けてから、「ではジェイソンの連続殺人ショーに移りましょう」ってことにすべきでしょ。
そういうのは本シリーズの様式美みたいなモンじゃないのかと。

「連続殺人ショー」と書いたけど、そのショーとしてのケレン味にも乏しいんだよなあ。
このシリーズって基本的には同じパターンを繰り返しているだけなので、そこをセールスポイントにするってのが最も分かりやすい味付けだと思うんだよね。じゃあ他に何か見せ場や売りがあるのかというと、何も無いんだからさ。
「ジェイソンがクリスタル・レイクを離れる」という展開で今までとの差異を付けているつもりかもしれないけど、場所が船内やニューヨークに変わっても、そんなに新鮮味は感じないのよ。
「ジェイソンが次々に若者を殺す」というパターンは変わらないし、その殺人ショーにおいて、「場所」という要素ってあまり意味が無いんだよね。

これまでのジェイソンは、その標的を「クリスタル・レイクの周辺にいる人々」に限定していた。
たまに大人も殺していたが、基本的にはキャンプ場へ遊びに来る若者たちを狙っていた。既に「手段を達成するための殺人」ではなく殺人そのものが目的と化しており、単なる無差別殺人者ではあったが、まだ標的に対する一応のルールは定められていた。
しかし今回、彼は船に乗ってクリスタル・レイクを離れ、ニューヨークへ向かう。
ますます「誰でもいいから殺したい」というだけのイカレ野郎になっているわけだ。

ただし、クリスタル・レイクを離れて無差別殺人を遂行するジェイソンだが、ニューヨークに到着してからは大勢の人々がいる中でレニーと仲間たちだけを執拗に追い回している。
それならそれで、「標的はレニーであり、それを邪魔する奴らも殺す」ということにでもしておけばいいのだ。
でもレニー以外に関しては「そこにいたから殺す」というだけのランダムな殺人になっているので、統一感もへったくれも無い。
まあ「標的はレニーで、それ以外は邪魔をしたから殺しただけ」ってことにすると、『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズとキャラが被っちゃうけどね。

(観賞日:2015年4月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会