『13日の金曜日』:2009、アメリカ

1980年6月13日、クリスタル・レイク。パメラ・ヴォーヒーズは息子のジェイソンを溺死で失い、その恨みをキャンプ場に来た若者たちへ向けた。次々に若者を殺していったパメラだが、最後の1人となった女子大生によって返り討ちに遭った。女子大生が逃走した後、パメラの遺体に死んだはずのジェイソンが歩み寄り、母のペンダントを手に取った。彼は「あいつらに罰を与えて。ママのために殺して」という母の声を耳にして、その場から立ち去った。
現在のクリスタル・レイク。大学生6人のグループがキャンプにやって来た。ホイットニーと恋人のマイク、リッチー、ウェイド、アマンダの5人だ。ウェイドとリッチーは他のみんなに内緒で、近くにある大麻畑で大麻を手に入れ、それを売って大儲けしようと企んでいる。空き地を見つけた一行は、そこでテントを張った。ウェイドは仲間たちに、20年前に閉鎖されたキャンプ場跡が近くにあることを教える。そして彼は、知能に障害を持つ息子が溺死して正気を失った女が、指導員たちを惨殺する事件があったことを話した。
ウェイドは「生き残った指導員が母親の首を鉈で切り落とした。息子のジェイソンが蘇って事件を目撃した。ここでキャンプした友人から、警察がジェイソンを捜していたことを聞いた」と話すが、他のみんなは信じない。マイクはホイットニーを連れ出し、リッチーは誘って来たアマンダとテントに入る。近くの森へ立ち小便に行ったウェイドは大麻草を発見するが、その直後、ジェイソンに殺された。
マイクは怖がるホイットニーを連れて閉鎖されたキャンプ場へ行き、廃屋に入った。そこでペンダントを見つけたマイクは、トップに写真が入っていることに気付く。それはパメラの若い頃の写真だったが、もちろんマイクが知るはずも無い。彼は「君に似てるよ、貰っとけ」とホイットニーに告げ、ペンダントを渡した。ジェイソンはウェイドをトラバサミに掛け、アマンダを惨殺する。それから彼は廃屋へ行き、マイクを始末する。逃げ出したホイットニーは空き地に戻り、ウェイドをトラバサミから解放しようとする。だが、そこへジェイソンが現れ、ウェイドを始末した。ジェイソンはホイットニーを追い詰め、鉈を振り上げた。
6週間後、女子大生のジェナと恋人のトレント、チューウィー、ブリー、ローレンス、ノーラン、チェルシーがクリスタル・レイクに向かっていた。一行は金持ちであるトレントの父が所有する別荘へ行く途中だ。ジェナたちはガソリンスタンドに立ち寄り、買い物をする。店には行方不明になった妹のホイットニーを捜しているクレイが来ており、店員にチラシを貼らせてほしいと頼んでいる。トレントはクレイを邪魔者扱いし、レジの前から退けるよう要求した。
クレイは本気で捜索してくれなかった現地警察に不審を抱き、自分の手で妹を見つけ出そうとしている。彼は周辺の家へ行き、そこに住む老女に妹のことを尋ねる。すると老女は「もう死んでるわ。この辺りで行方不明になったら、そういうこと。余所者が歩き回るのは迷惑よ。私たちは静かに暮らしたい。彼もね」と険しい顔で告げ、ドアを閉めた。一方、大学生グループは別荘に到着し、ゲームに興じる。ノーランがチェルシーを連れて湖の向こうへ行くというので、トレントは「ガソリンをボートに運んでくれ」と頼む。トレントは「ボートは動かすな。操縦するのは俺だけだ」と釘を刺すが、ノーランは勝手に動かすつもりだった。
クレイはジェナたちがいるとは知らず、別荘を訪れる。応対に出たジェナはチラシを受け取り、「ちょっと寄って行って」と招き入れる。だが、トレントは露骨に不快感を示し、すぐにクレイを追い払った。クレイが湖の向こうへ行くことを口にすると、ジェナは「一緒に行ってもいい?」と持ち掛けた。材木工場で働くドニーという男は、侵入してきたジェイソンに殺される。それまで布袋を被っていたジェイソンは、様々な物が乱雑に置かれている部屋でホッケーマスクを見つける。彼はホッケーマスクを拾い上げて被り、その場を去った。一方、クレイはジェナと一緒に湖畔を歩いている途中で、壊れたGPSを発見した。
ノーランはボートを動かし、チェルシーにウェイクボードで遊ばせる。だが、ノーランはジェイソンの放った矢で命を落とし、慌てて隠れたチェルシーも殺された。夜になり、クレイとジェナは廃屋を調べる。人がやって来る気配がしたため、2人は軒下に隠れた。やって来たジェイソンは放置されていたクレイのリュックを見つけるが、2人には気付かなかった。死体を運ぶジェイソンを目撃したクレイとジェナは、他のみんなに知らせるため、キャンプ場を離れた。
ジェイソンはホイットニーを監禁している地下の作業場に入り、リュックを投げ捨てた。そこに入っていたチラシを目にしたホイットニーは、兄が捜しに来ていることを知った。チューウィーは椅子を壊してトレントに怒鳴られ、修理する工具を取りに物置へ行く。その間に、ブリーはトレントを2階の部屋へ誘ってベッドインする。クレイとジェナは別荘に駆け込み、警察に連絡する。ジェイソンはチューウィーを惨殺し、物置へ赴いたローレンスも始末する。警官のランドが別荘に到着するが、ジェイソンによって殺される…。

監督はマーカス・ニスペル、キャラクター創作はヴィクター・ミラー、原案はダミアン・シャノン&マーク・スウィフト&マーク・ウィートン、脚本はダミアン・シャノン&マーク・スウィフト、製作はショーン・カニンガム&マイケル・ベイ&アンドリュー・フォーム&ブラッド・フラー、共同製作はアルマ・カットラフ、製作総指揮はブライアン・ウィッテン&ウォルター・ハマダ&ガイ・ストーデル、撮影はダニエル・C・パール、編集はケン・ブラックウェル、美術はジェレミー・コンウェイ、衣装はマリー=アン・セオ、特殊効果メイクアップ監修はスコット・ストッダード、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はジャレッド・パダレッキ、ダニエル・パナベイカー、アマンダ・リゲッティー、トラヴィス・ヴァン・ウィンクル、アーロン・ヨー、デレク・ミアーズ、ジョナサン・サドウスキー、ジュリアンナ・ギル、ベン・フェルドマン、アーレン・エスカーペタ、ライアン・ハンセン、ウィラ・フォード、ニック・メネル、アメリカ・オリーヴォ、カイル・デイヴィス、リチャード・バージ、クリス・コッポラ、ローズマリー・ノウアー、ボブ・キング、ナナ・ヴィジター、ステファニー・ローズ、カレブ・ガス、トラヴィス・デイヴィス他。


1980年の映画『13日の金曜日』のリメイク。
監督は『テキサス・チェーンソー』『レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者』のマーカス・ニスペル。
クレイをジャレッド・パダレッキ、ジェナをダニエル・パナベイカー、ホイットニーをアマンダ・リゲッティー、トレントをトラヴィス・ヴァン・ウィンクル、チューウィーをアーロン・ヨー、ジェイソンをデレク・ミアーズ、ウェイドをジョナサン・サドウスキー、ブリーをジュリアンナ・ギル、リッチーをベン・フェルドマン、ローレンスをアーレン・エスカーペタ、ノーランをライアン・ハンセン、チェルシーをウィラ・フォード、マイクをニック・メネル、アマンダをアメリカ・オリーヴォが演じている。

マイケル・ベイがブラッド・フラー&アンドリュー・フォームと共に設立した会社「プラチナム・デューンズ」の製作した作品だ。
『13日の金曜日』のリメイクと書いたが、シリーズを仕切り直し、また一から始めるために作られた映画と言ってもいいだろう。
マイケル・ベイとしては、ここから新たなシリーズを続けていく予定だったようだ。
だが、続編の企画は潰れた模様である。

ジャレッド・パダレッキを主役に据えたのは失敗だろう。
彼は193センチと身長が高いので、デレク・ミアーズも197センチの身長なのだが、並んで立つと高さが際立たない。
ジェイソン役に197センチの人間を起用したのは、『フレディVSジェイソン』のケン・カージンガーと同様、「標的を見下ろすジェイソン」という構図が欲しいからじゃないのかねえ。
あと、身長を抜きにしても、なんで「体格のいい男」を主役に据えたのかと。
スクリーミング・クイーンという言葉があってもスクリーミング・キングとは言わないように、ホラー映画では女優を主役にするのが定番だ。やっぱり「主人公が怖がって悲鳴を上げる」というところで恐怖を煽ることが出来るのでね。
実際、この劇中でクレイが怖がっても恐怖は煽れないし。そもそも、そんなに怖がらず、かなり冷静に対処しているし。
あと、主人公としての魅力も全く感じないんだよなあ。

実は、旧シリーズの第1作にはジェイソンが登場しない。
完全ネタバレだが、第1作には「誰が犯人なのか」というミステリーの要素が含まれており、終盤になって「連続殺人鬼の正体はパメラだった」という展開が待っている。
第1作におけるジェイソンは「溺れ死んだパメラの息子」という設定であり、物語には登場しなかった。
シリーズ2作目で「実は生きていた」ということで登場し、母親を殺された復讐心から殺人を繰り返す。
「復讐」という要素が外れ、ジェイソンが単なる無差別殺人鬼になるのは、シリーズ3作目からだ。

そんな旧シリーズを仕切り直す際に、1作目をリメイクすると、ジェイソンが登場しない作品が出来上がる。
だが、『13日の金、曜日』といえば「ジェイソンが若者を殺しまくる映画」というイメージが定着しており、今さらジェイソンの登場しない映画を作るというのは有り得ないことだ。
そこで、旧シリーズの1作目だけでなく、そこから4作目までの要素を盛り込んで物語を構築している。

1作目から4作目までの要素を1つの映画に盛り込んでいるわけだから、おのずと1作目の内容が占める割合は低くなる。
だから旧作では終盤になって本性を現したパメラが、今回は映画が始まった途端に女子大生を襲っており、オープング・クレジットの間に殺される。
で、そこに少年のジェイソンが現れ、母親のペンダントを拾って立ち去る。
その際、パメラの「あいつらに罰を受けさせて。ママのために殺して」というパメラの声が聞こえてくる。
これって旧シリーズを見ていないと、かなりの説明不足になっているでしょ。

パメラは「ジェイソンを溺死させた」ということで、その恨みで若者たちを殺したことを口にしている。
「なぜ目を離したの、アンタたちのせいよ」と彼女は言っている。
旧シリーズの1作目を見ていれば、これが「ジェイソンから目を離して見殺しにしたのは別の人間であり、パメラはキャンプ場に来る若者たちに御門違いの復讐心を向けた」という描写であることは分かる。
でも、この映画だけを見て、それを理解しろというのは無理な注文だろう。
また、殺されたパメラにジェイソンが歩み寄るのも、「彼は溺れ死んだはずなのに。さっきのパメラの台詞は何だったのか」と違和感を抱いてしまうのではないか。

ようするに、これって「旧シリーズの内、最低でも1作目と2作目ぐらいは観賞済み」という条件をクリアしないとダメなシナリオになっているんだよね。
でも旧シリーズの続編として作っているわけではなく、原題からして第1作と同じ「Friday the 13th」であり、仕切り直しの新たな1作目なんだから、「旧シリーズを見ている人が前提」という作り方をするのは、クリエーターとして、いかがなものかと思うぞ。
それは不親切というか、不誠実だわ。
しかも、そこがイントロなのかというと、その後、今度は「ジェイソンが若者たちを殺害するが、一人だけ監禁する」というエピソードが序章的な形で用意されている。そこが終わって、ようやく本格的に物語が進行していくのだ。
そうなると、1980年のシーンは、構成として邪魔な部分になってしまう。

っていうかさ、リメイクとして、新シリーズの第1作として作ったのであれば、無理にパメラのところから始めなくても良かったんじゃないのか。
そこから始めようとするから、「パメラが息子を殺された恨みを無関係の若者たちに向けて連続殺人を犯し、蘇ったジェイソンがパメラを殺された復讐心て連続殺人を開始する」という経緯を描かなきゃいけなくなる。
結果として、旧シリーズを見ていない人には分かりにくいような、まるで「前作の粗筋」みたいな処理になってしまったんじゃないのか。
いっそのこと、ジェイソンのキャラ設定を根本から見直して、パメラが登場しなくても成立するような形に改変すれば良かったんじゃないのかと。

登場人物の行動や態度には、色々と不可解なことが多い。
廃屋(ジェイソンの生家)に入ることを怖がっていたホイットニーが、なぜマイクから渡されたペンダントを平然と持ち去ろうとするのか。それまでの態度からすると、そんなのは気持ち悪がって手元に置いておきたくないと思う方が自然でしょ。
なぜトレントは、最初から異様なぐらいイライラしているのか。「金持ちで傲慢な奴」というキャラ設定になっていることは分かるんだけど、それにしても彼の態度は奇妙に感じる。
ブリーとセックスしている時にジェナが来て激しくドアをノックしても、全く動揺せず、余裕の態度で無視を決め込むのも不可解。お前はジェナと付き合ってたんじゃねえのか。
なぜジェナは、クレイを別荘へ招き入れたり湖の向こうへ同行したりするのか。トレントと付き合っているんでしょうに。一方的に言い寄られて迷惑しているとか、険悪な関係になっているとか、そういうことじゃないんでしょうに。

ジェイソンはパメラに復讐を依頼されて殺人を繰り返しており、だから「クリスタル・レイクに来た若者たち」が標的になっているはずだ。
それなのに、現地で以前から働いているドニーを殺害するのは、その条件に合致していない。
「そこに落ちていたホッケーマスクを見つけて被る」ということで、彼は有名なジェイソンのスタイルになるのだが、その「たまたま」という部分を受け入れるにしても、ホッケーマスク姿にさせるという目的を達成するためだけに、条件に合致しない男を殺させるってのはダメでしょ。

ジェイソンはトラバサミを仕掛けたり、寝袋に閉じ込めて木に吊るして火あぶりにしたりと、色々と手の込んだ殺し方をしている。
それは旧シリーズと異なる部分だが、「なんかジェイソンっぽくないなあ」というマイナスの変化でしかない。
新しいジェイソン像を構築するという方向で徹底していれば、それはそれで有りかもしれない。
ただ、その一方で、「力で押す」という旧来のスタイルも見せているため、どうも中途半端に思えてしまう。

あと、ジェイソンはセックスしていたトレントとブリーを眺めているのに、2人を殺さずに物置へ移動するってのはダメでしょ。
セックスに興じるバカップルは殺されるってのは、外しちゃいけないセオリーでしょうに。
そこのセオリーを外しても、それは嬉しい意外性ではなくて、「なんで殺さないんだよ」という不満に繋がる。
それと、嫌なキャラであるトレントが残り3人になるまで生き残り、淡白に殺害されるってのは納得しかねる。
もっと早い段階で、そしてメンバーの中でも特に残酷な方法で始末されるべきでしょうに。

ジェナがジェイソンに殺されるってのもセオリー外しだけど、そういうセオリー外しは全く歓迎できない。
そこはジェナを生き残らせてもいいでしょ。むしろクレイがホイットニーを助けるために命を落とすとか、そういうことなら一向に構わんけど。
生き残る女子は1人で充分ってことなのかもしれんけど、そもそもホイットニーが監禁されているという設定も解せないんだよな。パメラに似ているという設定はあっても、ジェイソンが若者を殺さずに6週間以上も監禁しているという設定には違和感を禁じ得ない。
性格やバックグラウンドに手を加えるのはいいけど、「ジェイソンはクリスタル・レイクに来た若者を殺す」というルールは順守すべきだわ。

(観賞日:2013年5月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会