『サマー・シュプール』:1990、ドイツ

イギリスの大富豪サー・ジョージは、「世界中が見たことも無いスポーツ。賞金1億3千5百万ドルというメガソン。世界中のトッププロ が3日間のレースに参加し、スピードと耐久力と勇気に秀でたものが勝者となる。そのテープを編集している」と自ら解説したテープを 編集していた。そこへ美人秘書3名がやって来て「やめてください、危険すぎます」と心配する。しかしジョージは軽く受け流し、執事の マクヴェイに後を任せて出掛けた。
ジョージは運転手チャールズの車で雪山の小屋に行き、サブリナという女から食事を受け取った。そこからヘリコプターで飛び立った彼は 、雪原の真ん中にある空港でロンドン行きの専用機に乗り換えた。ジョージは機内で待っていた会社の重役3人から、「資金繰りが上手く いっていません。ボルネオの熱帯雨林保護のように、赤字のプロジェクトが多すぎます」と説明を受けた。
重役たちは「我々はボランティア団体ではありません。このままでは取引相手からも愛想を尽かされます」と、資産の売却を求めた。 ジョージは拒否し、「解決方法はある。例えば、私が飛び降り自殺をしたら」と口にすると、いきなり飛行機のドアを開けて飛び降りた。 しかし彼は事前にジャンパー2人を待機させており、彼らからパラシュートを受け取って無事に着地した。
飛行機を操縦していた不動産管理人ラリーは「葬儀を大々的にやろう。今後のプロジェクトは遺産相続人次第だ」と告げた。ジョージに 子供がいることを知らなかった重役たちは驚いた。ラリーは「ジョージは結婚していないが、腹違いの息子2人と娘がいる。ただし、 遺産相続は条件付きだ。子供たちには、もう一人前の大人であることを証明してもらう」と告げた。
ジョージの屋敷に歌手をしている娘ルーシーが訪れると、既に仕事人間の次男ダドリーが来ていた。ダドリーの無礼な態度にルーシーは腹 を立てた。秘書のセリーナが2人を大広間に案内した。美容師をしている長男アレクサンダーが訪れ、「貰うものを貰ったら、さっさと 帰ろう」と軽く口にした。大広間には、ジョージの財産処分に興味のある大企業の面々が集まっている。ようするに借金取りだ。約束した 寄付の取り立てに来た聖職者クエイターも席に座っている。
ラリーは遺言状を公開し、「1億3千5百万ドルの遺産は全てメガソン基金に譲渡される」と発表した。会場が騒然とする中、ダドリー だけは特に驚きもせず、淡々と仕事に戻ろうとする。直後、ジョージが吹き込んだテープが流された。「メガソン基金は誰の損失も 埋めない。選択肢は2つ。債権の回収を諦めるか、レースに出場して賞金を得るか」と彼は述べ、子供たちに対してレースに出場するよう 促す。「親密とは言えなかったが、愛が無かったわけじゃない」と、幼い頃の映像がモニターに映し出された。
ジョージの一族と昔から敵対しているデブリス家の主人ヴィクターは、ボロ屋に住む詐欺師だった。彼は妻ブリティッシュや手下と共に メガソンに参加しようと企むが、債権者ではないので参加資格が無い。そこで彼らはスポンサーを見つけ、名前を伏せて参加しようと 考えた。ラリーはジョージの子供たちに、「競技は7種目で、その内の1つに出場すれば、他はプロを雇っても構わない」と説明した。 マクヴェイが「家訓をチーム名にしては」と提案し、チーム名は「ファイヤー&アイス」に決まった。
ルーシーは望遠鏡で雪山を観察し、「優れたスキーヤーを見つけてスカウトしよう」と言い出した。フリースタイルスキー選手のジョン・ イーヴスを見つけたルーシーたちは、彼をスカウトした。アレクサンダーはスキーの練習をするが、散々な目に遭った。ヴィクターたちは パラグライダーの特訓に入るが、指導するヴィクターに経験は無かった。全員が上手く着地できなかった。大企業の社長セルビーは、 メガソンに勝つため、一流のプロ選手を集めるよう部下に命じた。
アレクサンダーが得意なアイススケートをやっていると、セリーナが来て「レースに出るならスピードスケートですよ」と言う。それを アレクサンダーが軽く受け流すと、セリーナはスピードスケーターに追い掛けさせた。ヴィクターたちは、ヘリコプターに乗るダドリーを 砲撃しようとするが、弾が出なかった。ヴィクターが「畜生」と岩に叩き付けると弾が発射され、車が爆発した。セリーナはジムで筋トレ をアレクサンダーにやらせた。しかしアレクサンダーは、すぐに疲れて音を上げた。
「チキータ・バナナ」チームのジョバンニと妻は、たった2人で出場を申し込んだ。妻は「ウチの人は万能だから全て出るわ」と得意げに 告げた。ヴィクターはスキー練習の失敗で手下に呆れ、「お前らは出場させない」と通告した。彼は同じスキンヘッドであるグルの元を 訪れ、チームに入りたいと申し入れた。グルは「メンバーは足りている」と断った。ヴィクターはグルのメンバーの乗ったパラグライダー を墜落させ、補充メンバーとして参加することになった。
レースの開会式では、華々しいチーム入場が行われた。その場で、一日目の会場がアンドラのピレネー山脈だと発表された。険しい岩肌を スキーやスノボーなどで滑降するレースだ。ファイヤー&アイスはジョンが出場し、麓で待っているルーシーにバトンタッチした。彼女は BMXで厳しい山道を走り、3位に付けて初日のレースを終えた。過酷なレースで、初日から怪我人が続出した。
2日目、3つ目の競技は、傾斜角90度の壁面を頂上まで登るフリークライミングだった。ファイヤー&アイスからは、ロッククライマーの ステファン・グロヴァッツが出場した。ヴィクターは爆発を起こして妨害しようとするが、自分が転落死しそうになった。ステファンは トップでゴールした。ルーシーが橋まで走り、スタントマンのヨッヘン・シュヴァイツァーにバトンを託した。川の下で待っている ダドリーに、ヨッヘンはバンジージャンプでバトンを渡した。
次の競技は川下りだった。ダドリーはカヌーで川を下った。ヴィクターたちは石を川に投げ込んでダドリーを転覆させる。アレクサンダー とルーシーが陸に引き上げたが、転覆によって順位は10位まで落ちた。「せっかく上手くいってたのに」と、思わずルーシーは口にした。 ダドリーは「僕のせいだよ。明日、取り返せばいいんだろ」と苛立ちを示し、険悪な雰囲気になってしまった。
ヴィクターたちは次の日に使う爆弾を用意していたが、起爆装置を見つけたグルが「機械文明など許されない」と破壊してしまった。 ルーシーはバーでセリーナと話し、「ダドリーと話し合ったら?」と促された。ルーシーは「もっといい手がある」と、バーのステージに 立って歌い始めた。バンドをバックに従えて「私たちはチームワークが良くなかった。でも、その気になれば勝てるわ。みんなで力を 合わせれば優勝できるわ」と歌うと、ダドリーは笑顔になった。
最終日。5つ目の競技は雪山を滑降するスピードスキーだった。ヴィクターたちは仕掛けておいた爆弾で妨害しようとするが、失敗に 終わった。続く6つ目の競技は、雪道のカーレースだった。最後は、ボブスレーコースをスケートで走るレースだ。アレクサンダーが出場 し、トップでゴールした。子供たちの立派な姿を密かに観察していたジョージは、彼らを雪山に呼び出して会うことにした…。

監督&原案はウィリー・ボグナー、脚本はトニー・ウィリアムソン、製作はウィリー・ボグナー&ベルント・アイヒンガー、、撮影は チャーリー・ステインバーガー、編集はピーター・デイヴィース、衣装はゴットハルディン・ティルマン、音楽はハロルド・ フォルターメイヤー。
出演はロジャー・ムーア、シャーリー・ベラフォンテ、サイモン・シェパード、ウーヴェ・オクセンクネヒト、ジェフリー・ムーア、 コニー・デ・グルート、セリア・ゴア・ブース、マージョー・ゴートナー、ジークフリート・ラウシュ、ウルスラ・カーヴェン、 ウルスラ・カルヴェン、ティツィアナ・ステラ、イザベル・ラカンプ、ジョン・イーヴス、ロビー・ナッシュ、ステファン・グロヴァッツ 、フレディー・ワース、フランク・ベルンドル他。


1985年の『ファイアー&アイス/白銀の恋人たち』の続編。
ただし登場キャラも物語も前作とは全くの無関係で、引き継いでいるのは「ウィリー・ボグナーが監督した冬のスポーツ映画」ということ だけ。
ビリングトップはジョージを演じたロジャー・ムーアだが、彼は序盤と終盤のみの登場で、特別出演のような形だ。ちなみにウィリー・ ボグナーは、『女王陛下の007』『007/私を愛したスパイ』『007/ユア・アイズ・オンリー』『007/美しき獲物たち』で スキー・シークエンスの撮影を担当している。
セリーナを歌手ハリー・ベラフォンテの娘シャーリー・ベラフォンテ、アレクサンダーをサイモン・シェパード、ヴィクターをウーヴェ・ オクセンクネヒト、ダドリーをロジャー・ムーアの息子ジェフリー・ムーア、ルーシーをコニー・デ・グルート、ブリティッシュをセリア ・ゴア・ブース、セルビーをマージョー・ゴートナー、ラリーをジークフリート・ラウシュが演じている。

冒頭、ジョージの部屋に美人秘書が3人も入って来る時点で、「ああ、おバカなノリの映画なんだな」という匂いがプンプンと漂ってくる 。
っていうか、ぶっちゃけ、ロジャー・ムーアが出ている時点でポンコツな匂いが強いんだけどね。
そんなジョージは雪山でサブリナという女のいる小屋へ行き、そこからヘリで飛び立つとオープニング・クレジット。で、雪原の真ん中に 行き、そこから専用機に乗る。
だったら、いきなり専用機に乗る様子に移ればいいでしょ。車で小屋まで行き、そこからヘリに乗り、雪原で専用機に乗り換えるという 手間を掛ける意味が全く無い。

ジョージは専用機から飛び降りるが、それは自殺に見せ掛けるための偽装だ。
で、そこは展開を考えると、終盤にジョージが再び登場する場面まで、彼の自殺が偽装であることを隠しておいた方がいいでしょ。自殺 していないのはバレバレだけどさ。
でも、そこはたぶん、監督の「スカイダイビングの映像を見せたい」という意識を優先して、さっさとバラしちゃってるんだろう。
で、重役たちも自殺が偽装だと知っているんだが、だったらジョージが飛び降りた時の驚いたリアクションは何だったのかと。

話はホントにチョー適当で、とにかく様々なスポーツの映像、特に雪山でのスポーツ映像を撮りたいというだけ。
で、そういうスポーツの映像を並べて、後から話を作り、映画として体裁を整えているという感じ。
とにかくメガソンというレースさえあれば、話はどうでもいいという考えなんだろう。
なお、大規模なプロダクト・プレイスメントが行われているので、メガソンにはフォルクス・ワーゲンやアディダスなど、有名企業の実名 が付けられたチームが出場している。

アレクサンダーがスキー練習を始めると、ギャーギャー言いながら洗濯物に突っ込んだり、滑降コースに入ったり、窓を突き破ったり、 輪になった面々がドミノ倒しになったり、スキー小屋の中を走ったり、崖から飛び降りてパラグライダーに捕まったりと、バスの中に着地 するまで3分ほど使っている。
そこも「話を面白くしよう」という意識より、「スキーというスポーツ映像の中で、様々なアクロバットを見せよう」という意識が強く 出ているんだろう。
ヴィクターたちがパラグライダーを練習するシーンでは、サーフボードの美女に突っ込んだり、風呂の女に突っ込んで浴槽ごと飛んだり、 ジャンプ台に落下してそこからジャンプしたり、埋葬している墓地に突っ込んで穴に納まったりするが、アレクサンダーのスキーとの時と 、やっていることは基本的に同じ。アレクサンダーのスケートも、大枠では同じこと。
ようするに「コミカルなスポーツのシーンがあって、しばらく休んで、またコミカルなスポーツのシーンがあって」という繰り返し。

レース受付が始まった時点で、まだルール詳細は分かっていない。
「開始1時間前に発表します」と言っているが、そどのジャンルの選手を用意すればいいのかも分からないじゃねえか。
デタラメすぎるぞ。
そのくせ、ファイヤー&アイスは、全ての競技が事前に分かっていたかのように、スキー選手やロッククライマー、バンジージャンプの 専門家という面々を助っ人に呼んでいる。

ファイヤー&アイスが助っ人に呼ぶ面々は、いずれも本物のスペシャリストたちだ。
ジョン・イーヴスはフリースタイルスキーの選手で、ロビー・ナッシュはウィンドサーフィンの帝王、ステファン・グロヴァッツはロック クライマーで、ヨッヘン・シュヴァイツァーはバンジージャンプを得意とするスタントマンだ。
ただ、他の面々はともかく、ウィンドサーフィンのプロを呼んできても、やってもらうことは無いよなあ。
彼が活躍できる競技って、メガソンには無いぞ。

他の参加チームのリーダーとして、多くの著名人が出演している。
アポロ11号の宇宙飛行士バズ・オルドリン、WRCで通算14勝しているラリー・ドライバーのワルター・ロール、スーパーモデルの タチアナ・パティッツ、ミュージシャンで俳優のアイザック・ヘイズ、ミスター・アメリカズカップと呼ばれるヨット界の大物デニス・ コナー、ドイツで活躍したアメリカ人歌手ジェニファー・ラッシュ、元F1ドライバーのニキ・ラウダ、元F1ドライバーのケケ・ ロズベルグといった面々だ。
ただし、レース競技に向いていないと思えるスポーツ選手もいるし、スポーツには何の関係も無い有名人もいる。
その辺りの人選も適当だよなあ。

ラリーはメガソンの前にアレクサンダーたちを雪山へ連れて行き、スキーの練習をさせている。
だけど雪山での競技は、1つ目の滑降だけでしょ。しかもスキーは助っ人が担当するから、練習した意味は全く無い。
っていうか、そもそも何の競技をやるのか事前に分かっていないから、それに備えての訓練シーンも描けない。
まあ、どうせ先に競技を明かしておいても、この監督は「素人のアレクサンダーたちが、訓練して技術を身に付ける」というシーンを 描こうとはしなかっただろうけど。

2日目の競技では、地味な映像のフリークライミングが終わった後、ルーシーが走り出す。
でも、それは競技に入ってないんだよな。
その後、バンジーや縄梯子など、各チームが様々な方法を使い、橋の上から川にいるチームメイトにバトンを渡す。
その辺りも、たぶん「様々なスポーツの迫力を見せたい」ってことなんだろうけど、競技としてグダグダになっているという印象しか 受けないよ。
とにかくメガソンのディティールが粗すぎる。

3日目は、6つ目の競技として雪道のカーレースが行われる。
そりゃ車で走るのもスポーツの部類ではあるけど、肉体を酷使するタイプのスポーツじゃないので、なんか一つだけ種類が違うんじゃ ないかという違和感は拭えない。
あと、ルーシーって序盤でヒロインっぽく登場したけど、後半は全くレースに参加せずに応援してるだけだよな。
それを言い出したら、ダドリーもそんなに目立たないけど。
「スポーツの迫力ある映像」という意味でも大したことは無いし、まあ完全にダメな映画だよね。

(観賞日:2010年7月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会