『小説家を見つけたら』:2000、アメリカ

ニューヨークのブロンクス。高校生のジャマール・ウォレスは家の近所にあるバスケットコートへ行き、仲間のデイモンやフライたちとバスケットボールに興じて実力を見せた。アパートの一室から、老人が双眼鏡で彼らを観察していた。マッシーという男が車を停め、荷物を持って老人の部屋に向かった。いつものことなので、ジャマールたちは彼が老人の部屋に行くのを知っていた。ジャマールたちは誰も老人の姿を見たことが無く、その素性も知らなかった。
ジャマールたちは老人のことを、窓から覗いているので「ウィンドー」と呼んでいた。デイモンたちはウィンドーについて、大量殺人者で下の階の住人も殺していると話す。ジャマールが否定すると、彼らは部屋に侵入するよう持ち掛けた。ジャマールは挑発に乗り、その要求を受け入れた。ジャマールの母のジャニスは保護者面談で学校を訪れ、教師のジョイスと会った。ジョイスはジャマールの学業成績が全く目立たないこと、しかし学力テストの結果が素晴らしかったことを話した。ジョイスはジャマールが家で本ばかり読んでいるが、話すのはバスケのことばかりだと語る。ジョイスは彼女に、「バスケが上手いと友達に受け入れられるからよ」と語った。
ジャマールはフライと共に、ヤンキー・スタジアムの駐車係をしている兄のテレルを訪ねた。テレルは母からジャマールの学力テストの件を聞いており、「いい成績が将来の邪魔になるか?」と問い掛ける。ジャマールが「兄貴はどうだった?」と質問で返すと、彼は「バスケの奨学金を貰って家族を少しでも楽にと思ったが、この通りだ」と述べた。ジャマールは仲間が見守る中、何か盗んでウィンドーの部屋から戻るよう約束させられた。ジャマールは電気の消えた部屋に忍び込むが、ウィンドーが起き上がったので慌てて逃げ出した。その際、彼はバックパックを部屋に残してしまった。
次の日、ジャマールはバスケットコートに行き、ウィンドーの部屋に目をやった。すると窓の外には、彼のバックパックが吊るされていた。ジャマールがマッシーと話して見送った後、バックパックが投げ落とされた。ジャマールはバックパックを持ち帰り、中に入れてあった数冊のノートを確認した。それはジャマールが文章を書き留めていたノートだが、赤ペンで幾つもの添削が書き込まれていた。ジャマールは驚き、ウィンドーの部屋を訪れてドアをノックした。彼が「他にも書いた物を見せたい。新しく書いてもいい」と言うと、部屋の中から「ここに二度と来ないという文章を5千語で書け」と声が聞こえた。
ジャマールはウィンドーの指示通りに文章を書き、その紙を持って再び部屋を訪れた。ウィンドーはドアを開けず、「その文章通り、二度と来るな」と怒鳴り付けた。ジャマールはジャニスと共に校長室へ呼び出され、メイラー・キャロウ校から来たブラッドリーを紹介された。ブラッドリーは学力テストの結果を評価し、転校を持ち掛けた。メイラー校はニューヨークでも屈指の進学校で、校長も転校を勧めた。ジャマールが学校を出ると、ブラッドリーはバスケの活躍も期待していることを告げた。
ウィンドーは双眼鏡を使い、ジャマールがブラッドリーと話す様子を観察していた。彼はジャマールか部屋に来ると、誰と話していた質問する。ジャマールが「5千語の文章を返してくれたら教える」と持ち掛けると、ウィンドーはドアを開けた。ジャマールが事情を説明すると、ウィンドーは「黒人か。驚いた」と口にする。ジャマールが「肌の色は関係ない」と腹を立てると、彼は「差別の議論を吹っ掛けるつもりかね」と静かに告げる。ジャマールは悪態をついて、部屋を去った。
ジャマールはメイラー・キャロウ校の見学に訪れ、案内役を任された生徒のクレア・スペンスと会った。クレアは「ここの先生は誰も生徒に関心が無い」と言い、クロフォード教師の授業にジャマールを連れて行く。クロフォードはウィリアム・フォレスターの小説を生徒たちに配り、「彼は1953年に23歳で処女小説を出版したが、その1冊しか出していない」と話す。ジャマールもクレアも、その小説を読んだことがあった。クロフォードは生徒たちに、フォレスターが1冊しか出していない理由を考える宿題を出した。
ジャマールがウィンドーの部屋へ行くと、「君が来るのも転校するのも分かっていた」と告げられる。ウィンドーはジャマールに、「君は迷いを書いていた。人生をどう生きるか。その答えは、この高校では見つからない」と述べた。ジャマールはメイラー・キャロウ校へ赴き、バスケの練習に参加した。ハートウェルという生徒はジャマールを罵り、執拗に突っ掛かった。クレアはジャマールに、「彼は金持ちの息子で、自分がスターだと思ってる」と教えた。
クレアはフォレスターの小説の古い版を持っており、そこには著者の顔写真が載っていた。それを見たジャマールは、ウィンドーの正体がフォレスターだと気付いた。驚いた彼はネットで検索し、フォレスターの情報を調べた。ジャマールはフォレスターの元へ行き、そのこと指摘した。ジャマールが詳しく話すよう求めると、フォレスターは拒否した。ジャマールが「文章の書き方を教えてほしい」と頼むと、彼は「ここでの出来事を口外しない」「個人的なことを詮索しない」という条件で了承した。
転校を決めたジャマールは、クロフォードの授業に出席した。クロフォードは作文コンテストがあることを生徒たちに説明し、ジャマールを呼び付けた。彼はジャマールの学業成績がお粗末だと言い、「いずれ君の目的が勉強なのか別にあるのかが分かるだろう」と嫌味っぽく告げた。ジャマールは無言で対応し、その場を後にした。生徒のコールリッジは彼に声を掛け、「正解だ。言い返すと後が厄介だ。授業を追放される。用心しろ」と警告した。
ジャマールはフォレスターの部屋へ行き、クロフォードのことを話した。そこへマッシーが来て、フォレスターに頼まれた買い物の商品や届いた手紙、会計事務所の小切手を渡した。マッシーが去った後、フォレスターはジャマールに「いい文章が書けることをクロフォードに示せ」と告げてタイプライターを用意した。何も考えずに書くよう促されたジャマールだが、まるで手が動かなかった。フォレスターは彼に自身の『完全なる信義の季節』という原稿を渡し、それをタイプするよう指示した。ジャマールは「自分の言葉が浮かび始めたら、それをタイプしろ」と言われ、タイプを始めた。フォレスターは彼に、「この部屋で書いた物は外に持ち出すな」と命じた。
バスケのシーズ開幕まで一週間を切っても、ハートウェルはジャマールへの攻撃を繰り返した。コーチのギャリックは争ってばかりの2人を叱責し、フリースロー対決の敗者に罰則を与えると通告した。するとジャマールもハートウェルも50本連続で成功させ、ギャリックは罰則を与えずに終わらせた。ジャマールはクロフォードから、「今度の作文は前回より良くなった」と評価された。何日掛かったのか質問されたジャマールは、一晩だと答えた。
フォレスターはジャマールに、自分がデビューした数年後にクロフォードが本を書いて出版社に持ち込んだことを教えた。しかし出版社に断られ、クロフォードは作家を諦めて教師になっていた。フォレスターはジャマールに、クロフォードには注意するよう助言した。バスケのシーズン開幕戦、ジャマールの活躍でチームは勝利した。観戦に来ていたフライは、「いつもの店で仲間が待ってる」とジャマールを誘う。しかしジャマールは「チームが招待を受けてるから」と、その誘いを断った。
ジャマールとチームメイトは、スペンス邸のパーティーに参加した。ジャマールはクレアと2人きりになり、関係を深めようとする。そこにスペンスが来て、クレアと共に去った。フォレスターはジャマールの文章を添削し、良くなったと褒めた。ジャマールがフォレスターの小説を図書館で調べると、24冊が全て貸し出されていた。フォレスターから「思い掛けない時の思い掛けない贈り物が女性のハートを開く鍵だ」と助言されたジャマールは、彼のサイン本をクレアに贈った。クレアはメイラー校が男子校だったこと、父がゴリ押しで理事に就任して校則を変えたこと、今でも自分が「スペンス博士のお嬢さん」と呼ばれていることを語った。
クロフォードはジャマールの作文を教員理事のマシューズに見せ、「上手すぎる。盗作の疑いがある」と話す。ジャマールはフォレスターが転寝している間にアルバムを開き、兄とヤンキースタジアムへ出掛けた時の写真を見つけた。彼はNBAのチケットを買い、マジソン・スクエア・ガーデンへフォレスターを連れて行く。しかし群衆の中でフォレスターの具合が悪くなったので、外へ連れ出した。ジャマールは静かな場所へ案内すると言い、フォレスターを無人のヤンキースタジアムへ連れて行った。
フォレスターが驚くと、ジャマールは「誕生日だろ。年鑑で調べた」と告げる。「兄さんと来たことがあるんだろ」と彼が問い掛けると、フォレスターは「良く試合を見に来た」と話す。かつてフォレスターは兄と仲が良く、ずっと慕っていた。しかし戦地から戻った兄は口数が減り、酒に溺れるようになった。フォレスターは母に、兄を立ち直らせると約束した。ある夜、一緒に酒を飲んだ兄から車に乗るよう誘われた時、彼は断った。兄は事故を起こして命を落とし、フォレスターは看護婦から自分の小説のファンだと告げられた。兄が死んだ後、両親も亡くなった。帰宅したフォレスターは、ジャマールに「こんなに楽しかった夜は久しぶりだ」と告げた…。

監督はガス・ヴァン・サント、脚本はマイク・リッチ、製作はショーン・コネリー&ローレンス・マーク&ロンダ・トレフソン、製作総指揮はダニー・ウルフ&ジョナサン・キング、撮影はハリス・サヴィデス、美術はジェーン・マスキー、編集はヴァルディス・オスカードゥティル、衣装はアン・ロス。
主演はショーン・コネリー、共演はロブ・ブラウン、F・マーリー・エイブラハム、アンナ・パキン、バスタ・ライムス、エイプリル・グレース、マイケル・ピット、マイケル・ヌーリー、リチャード・イーストン、グレン・フィッツジェラルド、ゼイン・コープランドJr.、ステファニー・ベリー、フライ・ウィリアムズ三世、ダマニー・マシス、ダミアン・リー、トム・カーンズ、マシュー・ノア・ワード、チャールズ・バーンステイン、マット・マロイ、マット・デイモン、ジミー・ボビット、キャピタル・ジェイ、ジェームズ・T・ウィリアムズ二世、カサンドラ・クブンスキー、ソフィア・ウー、ジェリー・ローゼンタール他。


『マイ・プライベート・アイダホ』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のガス・ヴァン・サントが監督を務めた作品。
脚本のマイク・リッチは、これがデビュー作。
フォレスターをショーン・コネリー、ジャマールをロブ・ブラウン、クロフォードをF・マーリー・エイブラハム、クレアをアンナ・パキン、テレルをバスタ・ライムス、ジョイスをエイプリル・グレース、コールリッジをマイケル・ピット、スペンスをマイケル・ヌーリー、マシューズをリチャード・イーストン、マッシーをグレン・フィッツジェラルド、デイモンをゼイン・コープランドJr.(リル・ゼイン)、ジャニスをステファニー・ベリー、フライをフライ・ウィリアムズ三世が演じている。
終盤に登場するサンダース弁護士役で、マット・デイモンが出演している。

フォレスターは人との関りを避けて隠者のような生活を送っているはずなのに、ジャマールがバックパックを残すと、わざわざノートの文章を細かく添削して返却する。
もちろん、隠遁生活と矛盾するような行動を取った理由なら、幾らでも用意できる。
「本当は人と関わることを望んでいる」とか、「小説家として稚拙な文章に我慢できなかった」とかね。
ただ、理屈の問題じゃなく、「ジャマールにとってもフォレスターにとっても物語にとっても、都合の良すぎる展開だな」と強く感じるのは事実だ。

ジャマールはバスケットボールと小説という2つの才能を持ち、どちらを選ぼうか迷っている。本人は小説家になりたいが、対外的にはバスケットボールを選んだ方が何かとメリットが多いとも感じている。
何の才能も無いボンクラ人生の私からすると、何とも贅沢な悩みである。
もちろん、悩みは誰にでもあって、金持ちだろうが天才だろうが悩みを抱えることはある。
だから「チンケなひがみや妬みだろ」と言われたら否定はしないが、ジャマールの苦悩には全く共感できない。

ジャマールは黒人だからマイノリティーと呼ばれる部類に入るし、クロフォードからは目を付けられている。だけど、そういう要素で彼に同情させようとしても、「でも彼は充分すぎるぐらい恵まれてるよね」と言いたくなるのよね。
まず彼は前述したように、才能に恵まれている。さらに、父はいないが母と兄からは愛されているし、そこまで家庭環境が不幸とは言えない。
小説家になりたい夢にしても、決して母や兄が反対しているわけではない。転校先ではクレアと親しくなるし、コールリッジという友人も出来る。
だから、例え「メンター」としてのフォレスターとの出会いが無くても、「環境に恵まれないが、才能豊かな少年」ではないのだ。

ジャマールが小説家を目指すことに関して迷うのは、「バスケットボールの道を捨てることで友人との関係が悪化するのではないか」という点だけだ。
そこを心配しているだけなので、大した悩みとは思えない。転校先でも友人や仲の良い女子も簡単に出来ているし、それでいいんじゃないかと。
あと、バスケを続けながら小説を書くことも出来るので、決して「どちらか片方を選ばないといけない」ってわけでもないんだよね。実際、現在のジャマールは、バスケを続けながら小説を書いているんだし。
本当はバスケットが嫌いなのに仕方なく続けているならともかく、そうじゃないみたいだし。

粗筋に書いたように、後半にはフォレスターがジャマールに誘われて外出する展開がある。
でも、ずっと引き篭もりで買い物も用事も全てマッシーに任せていたフォレスターが、バスケの試合観戦に行く気になった理由がサッパリ分からない。
彼にとって、それは大きな覚悟や決意が無ければ出来ない行動のはずだ。でも、そこまで大きな信教の変化を起こすような出来事なんて、何も無かったでしょ。
ジャマールは「金を出して買ったチケットだ」と言うけど、そんなのは動機として弱すぎるし。

フォレスターが外出する直前のシーンでは、彼が転寝している間にジャマールがアルバムを見る様子が描かれる。そこからシーンが切り替わると、ジャマールの誘いを受けてフォレスターが外出する。
こうやって書いただけでも分かるだろうが、フォレスターの気持ちが変化したり強い決意を固めたりするようなきっかけは何も無いのだ。
結果としては群衆の中で気分が悪くなるぐらいなんだし、本当は外出する気なんて無かったはずで。よっぽどの覚悟が無いと、その行動は腑に落ちないでしょ。
そこに至る経緯、フォレスターの心境の変化を大幅に省略しているのは、ただ雑で手抜きをしているだけにしか感じない。

クロフォードを分かりやすい憎まれ役として配置し、最後まで彼を悪役として徹底することでフォレスターとジャマールの交流を全て綺麗に収めようとしている。ここにも少し引っ掛かる部分はあるが、それは置いておこう。
それよりも気になるのは、クロフォード以外の脇役の雑すぎる扱いだ。
テレルはジャマールが人生を決める上で大きな存在かのように登場するが、登場シーン以外の存在意義は無に等しい。
コールリッジとの友人関係も全く描かれず、ジャマールとクロフォードの反目を描くために利用されるだけ。
クレアとの関係も、中途半端なままで放り出されている。

終盤、ジャマールはクロフォードに自分の実力を見せ付けるため、フォレスターとの約束を破って部屋で書いた原稿を提出する。しかし、それは『完全なる信義の季節』を途中から書き換えた文章だったため、クロフォードから盗作だと指摘される。
ジャマールは否定するが、フォレスターとの関係を内緒にしたため、謝罪状を要求される。ジャマールは怒って拒否し、フォレスターに助けを求める。フォレスターが「それは出来ない」と言うと、ジャマールは腹を立てて批判する。
だけど、そもそも約束を破ったのが悪いわけで。
映画としては「彼はフォレスターのことを内緒にしたので、フォレスターが助けるのは当然」みたいに描いているけど、そこは賛同しかねるぞ。

ジャマールはフォレスターに「雑誌に掲載されたことを、なぜ言わなかったのか。知っていれば提出しなかった」と言うけど、そういう問題じゃないのよ。外に持ち出すなと言われたのに、約束を破ったことを、まず詫びるべきだろ。
で、助けを拒否されると批判し、「父親のいない哀れな息子の泣き言か」と言われると口汚く罵る。
でも、約束違反を詫びもせず、反省もせず、助けを求めて断られると罵るって、ただの逆ギレにしか思えんよ。
しかも、結局はフォレスターが助けてくれるのに、それに対する礼も無いし。

(観賞日:2023年3月6日)


第23回スティンカーズ最悪映画賞(2000年)

ノミネート:【最悪のヘアスタイル】部門[バスタ・ライムス]

 

*ポンコツ映画愛護協会