『サイボーグ』:1989、アメリカ

文明が崩壊して混乱した世界に、伝染病が流行した。最後の科学者たちは、治療薬の開発に取り組んだ。ニューヨーク。廃墟と化した街を、パールという女が相棒の男と共に逃げていた。2人はフェンダーが率いるパイレーツから逃げており、スリンガー(戦士)を雇うことの出来るプロックス郡へ向かおうと考えた。男は「ここは俺が食い止める」と告げ、パールを逃がした。フェンダーは手下のマーシャルやブリックたちを率いて男を見つけ出し、深手を負わせた。
フェンダーが手下たちにパールの追跡を命じると、男は「よせ」と口にする。「目的は?」というフェンダーの質問に、男は「彼女の持つデータで治療薬が作れる」と答える。フェンダーが「俺の物にする」と告げると、男は「何のために?」と尋ねる。フェンダーは「神になるのだ」と言い、男を始末した。パールは2人の刺客に襲われるが、スリンガーのギブソンに救われる。ギブソンが去ろうとすると、パールは「どうして助けたの?」と尋ねる。ギブソンは無表情のまま、「人違いだ」と答えた。
パールはギブソンを解析し、「信頼できる人ね。私をアトランタへ。治療薬の開発を続けている科学者たちに、データを届けるの」と話す。彼女は自分がサイボーグだと明かし、「データを引き出すために改造された」と説明する。そこへフェンダーの一味が現れて発砲し、ギブソンは崩れた瓦礫に埋まった。フェンダーはパールに、「俺とアトランタへ行き、治療薬を渡せ」と告げる。パイレーツは海辺の集落を襲って人々を殺害し、船を奪ってアトランタへ向かう。
瓦礫から抜け出したギブソンは集落を訪れ、ナディーという女が倒れているのを発見する。彼女は身を隠していたため、パイレーツに殺害されず生き延びていた。休息を取ったギブソンは、パイレーツに父を殺されたメアリーという女と会った時のことを思い出す。メアリーは幼い妹のヘイリーと弟のウィリーを連れており、「貴方は信用できないけど、頼める人がいない。町から出して」とギブソンに告げた。承諾したギブソンは3人を連れて町を抜け出し、安全だと思われる家へ辿り着いた。
目を覚ましたナディーは、ギブソンに気付いて警戒心を見せた。しかし安全だと理解した彼女は、パイレーツが水路でチャールストンへ向かったことを教える。ギブソンが追い掛けようとすると、ナディーは「あの女性が治療薬開発の鍵なんでしょ?」と協力を申し出た。ギブソンが拒否すると、彼女は「1人で彼女を助ける気?」と問い掛ける。ギブソンが「俺には関係ない。目的はフェンダーだ」と冷淡に告げると、ナディーは「なんて勝手な男なの」と批判した。
ギブソンが「君が救えばいい」と突き放して立ち去ると、ナディーは彼の後を追った。ギブソンは友人のタイタスと会い、フェンダーがハダーで木材を補給しているという情報を入手した。「田舎で平和に暮らすんじゃなかったのか」と言われたギブソンは、「平和な暮らしなんて、ただの夢だった」と述べた。彼はフェンダーに追い付くため、近道であるウェイストランドを通ることにした。盗賊に気付いた彼は、ナディーを置き去りにして戦う。盗賊は建物へ移動したナディーを捕まえるが、ギブソンが駆け付けて皆殺しにした。
ギブソンはパイレーツの船が通る浜辺へ到着し、待ち伏せることにした。その夜、ギブソンはメアリーと暮らしていた頃の夢を見た。彼はメアリーとの情事をパイレーツに覗かれた出来事を夢に見て、目を覚ました。翌朝、ギブソンとナディーは、船が来るのを浜辺から観察する。パールは船の中で、任務に志願してサイボーグに改造された時のことを回想する。彼女はデータを入手するためにニューヨークへ向かい、そこでフェンダーの一味に襲われたのだった。
パイレーツが上陸して建物に入ると、ギブソンは調べるためにナディーを残して侵入する。しかしパイレーツは気付いており、ナディーを昏倒させてギブソンに襲い掛かる。パイレーツに取り囲まれたギブソンは、フェンダーの傍らに成長したヘイリーがいるのを目撃する。彼は隙を見て逃亡するが、すぐにパイレーツが追って来た。フェンダーは手下2人にパールを見張らせ、その場を離れる。ギブソンは建物を移動して元の場所へ戻り、見張りの2人を倒した。
ギブソンはナディーを担ぎ上げ、パールに「行こう」と告げる。しかしパールは冷淡な態度で、「断るわ。貴方に私を守れるとは思わない。アトランタに行けば、私の仲間がフェンダーを破滅に追い込む。それ以外に彼は倒せない」と言う。そこへパイレーツが戻って来たので、ギブソンは逃げ出した。彼は下水道に入り、追って来た1人を倒す。ギブソンは下水道から抜け出すが、追って来たパイレーツの攻撃を受けて倒れ込む。フェンダーはギブソンを暴行し、木の十字架に拘束して立ち去った…。

監督はアルバート・ピュン、脚本はキティー・チャルマース(アルバート・ピュン)、製作はメナハム・ゴーラン&ヨーラン・グローバス、撮影はフィリップ・アラン・ウォーターズ、美術はダグラス・レナード、編集はロザンヌ・ジンゲイル&スコット・スティーヴンソン、衣装はハイジ・カジンスキー、特殊メイクアップ効果はグレッグ・キャノン、音楽はケヴィン・バッシンソン。
出演はジャン=クロード・ヴァン・ダム、デボラ・リクター、デイル・ハドン、ヴィンセント・クライン、アレックス・ダニエルズ、ロルフ・ミューラー、ジャクソン・“ロック”・ピンクニー、ブレイズ・ルーン、ヘイリー・ピーターソン、テリー・バットソン、ジャニス・グレイザー、ロバート・ペンツ、シャロン・K・チュー、チャック・アレン、ステファノス・ミルトサカキス、クリスティーナ・セバスチャン、トーマス・バーレー、デイル・フライ、ジョフェリー・ブラウン、ジム・クリーチ他。


ジャン=クロード・ヴァン・ダムが『ブラッド・スポーツ』に続き、2度目の主演を務めた作品。
監督は『マジック・クエスト/魔界の剣』『エイリアン from L.A.』のアルバート・ピュン。
脚本のキティー・チャルマースは、アルバート・ピュンの変名。
ギブソンをヴァン・ダム、ナディーをデボラ・リクター、パールをデイル・ハドン、フェンダーをヴィンセント・クライン、マーシャルをアレックス・ダニエルズ、ブリックをロルフ・ミューラー、タイタスをジャクソン・“ロック”・ピンクニー、ヘイリーをヘイリー・ピーターソンが演じている。

登場人物の名前はGibson Rickenbacker、Nady Simmons、Pearl Prophet、Fender Tremolo、Marshall Strat、Furman Voxと、楽器メーカーから付けられている。
しかし、この遊びは大半の人が分からないようになっている。
何しろ、劇中で名前を呼ばれるのはギブソン、パール、フェンダー、ヘイリーだけ。この4人にしても、フルネームは最後まで分からない。他の連中に至っては、一度も名前が呼ばれない。
だからパイレーツの連中は、最後まで誰が誰なのか分からないままだ。

も冒頭、パールを逃がした男が敵に襲われるシーンにスローモーション映像が使用されている。
「ここぞ」という見せ場に取っておけばいいものを、ギブソンもフェンダーも関わらない「敵の手下が雑魚キャラを襲う」というシーンのためにスローモーションを使ってしまうのだ。
最初のアクションシーンなので、そこで観客を引き付けようという狙いで使ったのだとしたら、まあ分からなくもない。
ただ、何しろアルバート・ピュン監督なので、スローを使っても大した効果が発揮されているわけではない。

男はフェンダーから「目的は?」と尋ねられ(その質問からして妙なのだが)、「彼女の持つデータで治療薬が作れる」と簡単に明かしてしまう。
っていうか、それを知らないままフェンダーはパールたちを追い掛けていたのかよ。それこそ「目的は?」と訊きたくなるわ。
そんでフェンダーは治療薬のことを聞くと「俺の物にする」と言うのだが、理由を問われると「神になるのだ」と口にする。
まるで具体的なことは教えてくれないので、フェンダーが何をしたいのか良く分からない。

パールがギブソンに助けられた時、「目に装備された機械で相手を解析する」という演出が入る。それによって、彼女が人間ではないことを雑な形で明かしてしまう。
どうせ直後に「私はサイボーグよ」と自分で言っちゃうので、引っ張るつもりは無いんだけど、見せ方として上手くないのは確かだ。
あと、どうして彼女がサイボーグに改造されたのか、なぜ彼女が治療薬のデータを持っているのかは全く説明してくれない。
そんなのは短い台詞で事足りることなんだけど、そういう作業をサボっちゃうのがアルバート・ピュンという人だ。

タイトルに「サイボーグ」と付いているんだから(原題も『Cyborg』)、主演のジャン=クロード・ヴァン・ダムがサイボーグを演じていると思うのが一般的な感覚ではないだろうか。
しかし、さすがはC級映画監督のアルバート・ピュン、余裕の態度で凡人の斜め上を行く。
ヴァン・ダム先生はただの人間であり、サイボーグはパールという女。
そのパールは、戦闘能力の高いサイボーグではない。おまけに、なんと彼女以外にサイボーグは1体も登場しない。
だから、この映画にはサイボーグの戦闘シーンが全く用意されていないのだ。

もっと凄いことに、なんとパールがサイボーグである必要性さえ全く無い。単に「薬のデータを持っている科学者」という設定でも、全く支障は無い。
戦闘以外の部分で、パールがサイボーグとしての特殊能力を発揮するのも「ギブソンと出会った時に解析する」というシーンだけ。それ以降のパールは、サイボーグらしい能力なんて全く見せない。
そもそも早い段階でパイレーツに拉致されるので、出番そのものが少ないしね。
「サイボーグ」というタイトルを付けておいて、サイボーグが無意味になっているんだから、そのデタラメなセンスは「アルバート・ピュンの本領発揮」というトコロである。

パールがギブソンに「アトランタまで送ってほしい」と依頼するのだから、「ギブソンがパールを敵から守りながら科学者の元へ向かう」という話にすれば良かったのだ。
それなのに、ヒロインとして登場したはずのパールは、あっけなくパイレーツに拉致されてギブソンと離れてしまう。で、パールの代わりに、ナディーという別の女が登場し、ギブソンの道連れとなる。
だったらパールなんて要らないでしょ。どうせギブソンは、パールなんかいなくてもフェンダーを追い掛けるんだし。
っていうか、「ギブソンがフェンダーへの復讐心を抱いている」という要素と、「ギブソンが治療薬のデータを持つ女を助ける」という要素が、上手く融合していないんだよね。
この2つが、互いを邪魔し合っているというわけではない。そもそも、どっちの要素もペラペラだからね。

ギブソンはウェイストランドを通る時、盗賊に気付くとナディーを置き去りにして戦いに行く。そのせいで、ナディーが敵に捕まっている。すぐに助けに行っているけど、下手すりゃ殺されているわけで。
これが「ナディーのことなんて全く気にしちゃいない冷徹な男」というキャラなら、置き去りにするのもいいだろう。でも、ちゃんと助けてやろうという気持ちはあるわけで。
だとしたら、彼女を置き去りにするのはダメでしょ。
あと、パイレーツを追い掛けているのに、まるで無関係な悪党とのバトルを用意している時点で、構成として上手くないと思うぞ。

ギブソンはパイレーツが上陸した後、普通に建物へと歩いて行き、正面から入っている。
本人は「気付かれないよう侵入する」という行動を取っているつもりのようだが、無防備そのものなのでバレバレだ。
だからパイレーツはナディーを昏倒させ、ギブソンを襲っている。
ただ、パイレーツはギブソンに負けず劣らずのバカなので、なぜかフェンダーは「わざわざナディーが倒れている場所にパールを連れて来させて、見張り2人を残して離れる」という意味不明な行動を取る。だからギブソンは戻って来て、見張りを倒している。

最初に倒れているナディーを画面が捉えた時、「パイレーツに殺されたんだな」と思っていた。だからギブソンが見張りを倒して彼女を担ぎ上げた時に、「死体を運んでも意味が無いだろ」と言いたくなった。
ところが建物から逃走すると、ナディーは意識を取り戻すのだ。
だけど、なぜパイレーツが彼女を殺さず気絶させただけで済ませたのか、まるで意味が分からない。
で、下水道から脱出した直後、敵に襲われたナディーが画面から姿を消すので、そこで死んだのかと思ったら、磔で置き去りにされたギブソンを助けに来る。
だからさ、パイレーツが彼女を殺さない理由って何なのかと。

ギブソンが「行こう」と声を掛けた時、パールは冷淡な態度で「断るわ。貴方に私を守れるとは思わない。アトランタに行けば、私の仲間がフェンダーを破滅に追い込む。それ以外に彼は倒せない」と言い放つ。
そもそもテメエが「アトランタへ連れて行って」と頼んだから、ギブソンは守ってやろうとしたんだろうに。
最初から魅力の乏しいキャラクターだったが、ますます価値を下げている。
そんな態度を彼女に取らせても、何のメリットも無いわ。

ギブソンは建物から脱出し、追い掛けて来た1人を始末するので、そのまま何とか逃げ切るのかと思いきや、ボコられて窮地に陥る。それでも何とか逃げ切るのかと思いきや、フェンダーとのタイマンになってしまう。
まだクライマックスには早すぎるので、どうするのかと思ったら、あっさりギブソンが敗北している。
でも、そうなると殺されることになるはずなので、どうやって話を続けるのかと思ったら、フェンダーは「ギブソンを磔にして立ち去る」という行動を取る。
いやいや、なんでだよ。船を奪うために容赦なく人々を殺害していたような奴が、なんでギブソンは始末せずに立ち去るんだよ。行動がデタラメすぎるだろ。

フェンダーがヘイリーを連れている理由も、サッパリ分からないんだよね。
ヘイリーを愛人にしているってことなら、まだ分からなくもないのよ。だけどフェンダーが出会った時のヘイリーって、まだ幼女なのよ。
だから、そんな幼い女の子をフェンダーが連れ去る理由って何なのかと。
ロリコンってことでもあるまい。ロリコンってことだとしたら、逆に成長したヘイリーに用は無いはずだし。
「パイレーツと一緒にいるヘイリーをギブソンが目撃する」という展開を持ち込みたいのは分かるが、そのための設定をちゃんと用意しないとダメでしょ。
まあ、そういうトコをテキトーに済ませちゃうのがアルバート・ピュン作品の仕様だけどさ。

(観賞日:2017年3月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会