『スコルピオンの恋まじない』:2001、アメリカ

1940年、ニューヨーク。CW・ブリッグスは、ノースコースト保険会社の腕利き調査員として長く勤務してきた。これまでに難事件も解決 しており、周囲からの信頼も熱い。そんなCWにとって最近、由々しき事態が起きている。新しく赴任してきた合理主義者の重役ベティー =アン・フィッツジェラルドが効率化を掲げて社内改革を進めており、彼の仕事に悪影響を及ぼしているのだ。
CWは同僚アルの勧めでフィッツと話し合いを持ったが、仕事と無関係な私生活のことばかり聞いてしまい、ますます関係は悪化した。 フィッツは仕事の効率化のために、調査も外部の私立探偵を雇おうと考えている。CWは反対するが、社長のクリス・マグルーダーが 後ろ盾にいるフィッツは強気を崩さない。実はフィッツはマグルーダーと不倫中だが、もちろん社内では秘密だ。
同僚ジョージの誕生日を祝うため、CWは仲間のアルやネッド、マイズたちと共にナイトクラブへ出掛けた。フィッツやマグルーダーも同席 している。舞台では魔術師ヴォルタンの奇術ショーが始まった。彼はCWとフィッツを舞台に上げ、催眠術のパフォーマンスを見せた。 「コンスタンティノープル」「マダガスカル」と唱えて2人が恋人になる催眠を掛けると、CWとフィッツは愛の言葉を交わした。 ヴォルタンが指を弾くと催眠は解け、その間の出来事をCWとフィッツは全く覚えていなかった。
アパートに戻ったCWの元に、1本の電話が掛かってきた。受話器を取ると、相手は「コンスタンティノープル」と告げた。声の主は ヴォルタンだ。彼はCWを催眠状態にして、「ケンジントン邸の金庫から宝石を盗み出せ、全てが終われば何も覚えていない」と告げた。 CWはケンジントン邸へ赴き、自分が設置した防犯装置を解除して宝石を盗み出した。
翌日、ノースコースト保険会社では昨晩の事件を受けて社員が大騒ぎとなっている。CWは自分の犯行とは露知らず、調査のために ケンジントン邸へ出向いた。そこで令嬢ローラと出会ったCWは、彼女の誘惑を受けた。会社に戻ったCWは、内部犯行だとマグルーダー に報告する。するとマグルーダーは、フィッツの提案で今回の調査をクーパースミス兄弟の探偵事務所に外注することにしたと告げた。 CWは反発するが、フィッツは科学捜査で効率化を図ると主張して譲らない。
CWは情報屋のチャーリー老人に金を渡し、協力を依頼した。夜遅くに会社へ戻ったCWは、まだフィッツが残業しているのを知った。 実はフィッツは会社でマグルーダーと密会中だったのだが、レポートを書いていると言って誤魔化した。CWがアパートに戻ると、ローラ の姿があった。ローラからベッドに誘われたCWだったが、そこへ再びヴォルタンから催眠の電話が掛かってきた。CWはローラを 追い帰し、催眠で命じられた通りにティルズワース邸から宝石を盗み出した。
翌朝、目覚めたCWはストッキングや自分が飲まないウォッカの空瓶を見つけるが、全く覚えていない。彼はフィッツが残業していたこと を思い出し、彼女が犯人だと決め付ける。デスクを調べたCWはフィッツに見つかって追い払われるが、その態度が怪しいと考えたCWは、 密かに合い鍵を作って彼女の自宅アパートに忍び込むことにした。
CWがアパートを調べていると、フィッツがマグルーダーと共に帰宅したため、慌てて姿を隠した。フィッツはマグルーダーが妻と離婚 する約束を守らないため、激怒して追い帰した。その後、フィッツは酒を飲んで窓から飛び降りようとする。慌てて止めたCWは、そこに いる理由を必死で取り繕い、眠り込んだフィッツを見守った。
犯行現場でCWの髪の毛や指紋が採取され、フィッツが彼のアパートで盗まれた宝石類を発見した。CWがフィッツに釈明しているところ へヴォルタンから電話が掛かり、宝石を集めて紙に包み、グランド・セントラル駅のロッカーに入れるよう指示してきた。催眠に掛かった CWは電話を切った後、フィッツに愛の言葉を並べ立てた。
決定的な証拠が揃ったため、CWは逮捕される。彼は面会に来たローラをそそのかして牢の鍵を盗ませ、脱走した。彼はフィッツの部屋に 上がり込み、帰宅したフィッツの前で開き直った態度を取って居座った。夜、フィッツの元にヴォルタンから電話が掛かった。ヴォルタン は「マダガスカル」の言葉でフィッツを催眠状態にして、グリーンウッド邸宅から宝石を盗ませた。帰宅したフィッツは、CWに愛の言葉 を告げる。それを受けてCWはフィッツに好意を寄せるが、翌朝に目覚めると彼女は何も覚えていない…。
監督&脚本はウディー・アレン、製作はレッティー・アロンソン、共同製作はヘレン・ロビン、製作総指揮はスティーヴン・テネンバウム、 共同製作総指揮はダッティー・ルース&ジャック・ローリンズ&チャールズ・H・ジョフィー、撮影はチャオ・フェイ、編集はアリサ・ レプセルター、美術はサント・ロカスト、衣装はスザンヌ・マッケイブ。
出演はウディー・アレン、ヘレン・ハント、シャーリーズ・セロン、ダン・エイクロイド、デヴィッド・オグデン・ステアーズ、 ウォーレス・ショーン、ブライアン・マーキンソン、エリザベス・バークレイ、ピーター・ゲレッティー、ジョン・シュック、 プロフェッサー・アーウィン・コーリー、マイケル・マルヘレン、ピーター・リナリ、ジョン・トーメイ、カイリ・ヴァーノフ、カーメン 、キャロル・バイユー他。


ウディー・アレンの32本目の監督映画(テレビ映画は除外)。今回も彼が脚本及び主演を兼ねている。
フィッツをヘレン・ハント、ローラをシャーリーズ・セロン、マグルーダーをダン・エイクロイド、ヴォルタンをデヴィッド・オグデン・ ステアーズ、ジョージをウォーレス・ショーン、アルをブライアン・マーキンソン、ジルをエリザベス・バークレイが演じている。

正直、エリザベス・バークレイがウディー・アレン作品にフィットするとは意外だった。
というか、実は最初は彼女だと分からなかったぐらいだ。
ウディー・アレン映画の脇を飾る女優(ウディーに惚れる女性役)としては、彼女ぐらいケバさのある顔立ちの方がフィットするのかもしれない。
むしろヒロインのヘレン・ハントの方が、今一つしっくり来ていないという印象を受ける。

ウディー本人としては、古き良き時代のロマンティック・コメディーへのオマージュのつもりなんだろう。1940年に設定しているのも、その 当時の古き良き映画へのオマージュってことなんだろう(この筋書きで、特に1940年である必要性が大きいとは思わない)。
けれど、もはや単なる懐古趣味と化している印象が強い。
百歩譲って懐古趣味を優しい気持ちで受け入れるとしても、もうロマンティック・コメディーでの主演は勘弁して欲しいと感じた。
かつてのウディー主演作品では「ちんちくりんの冴えない男」というハンディーだけであり、それは恋愛劇においても面白さに繋がる部分 があったが、そこに老齢というハンディーが加わると、単なるエロジジイの自己満足、エロジジイの道楽にしか見えない。
ジジイでも男前ならロマコメの主人公をギリギリセーフに出来る場合もあるが、ウディーだとギリギリどころか完全にアウトでしょ。ジル やローラなどの美女にモテモテという設定も、ジジイの自己満足にしか見えないもん。
あと主人公にハンディー・キャップが多いのであれば、ライバルとなるマグルーダーは男前にしておいた方がいいんじゃないの。

演出に関して細かいことを言うと、なぜ最初の催眠シーンで舞台上のCWとフィッツを固定のカメラ映像オンリーで捉えるんだろうか。
客席とのカットバックはあるけど、2人を別アングルやアップで見せることが無いのよね。
そこは魔法(恋まじない)のパワーを表現する重要なシーンのはずなのに、それが感じられないってのはいかがなものかと思うが。
ケンジントン邸の泥棒シーンが、ほぼ省略されているのもどうかと思う。
そこは、もう少し詳しく盗み出す手口を描写して、後で「CWが1つずつ手口を分析して得意げに語る、でも既に観客はそれが彼の仕業 だと知っている」というところで笑いを取りに行ってもいいと思うんだが。
恋愛劇と犯罪劇の組み合わせの妙を狙っているはずなんだから、そこの仕掛けも繊細にやっていいのでは。

ミステリーの部分に、どうも繊細さが欠けていると感じるんだよな。
例えばCWがフィッツを犯人と断定する理由は、彼女が残業していたという出来事だけ。何の状況証拠も物的証拠も無い。
それは強引すぎるだろう。
犯人を突き止める謎解きにしても、「ヴォルタンの本名が犯罪者エディー・ヴォルガーと同じ」と知っただけで解決。唐突で何の流れも無い。
その強引な展開を受け入れさせるだけの素敵な魔法、まじないは、この作品には無いよ。

そんなわけでミステリーとしてはてんでダメなんだが、それよりもロマンスの流れが無いに等しいのが痛い。。
ミステリーを描きながら、その中で「いがみ合っていたCWとフィッツが互いの優しさや魅力を知り、次第に催眠抜きでも惹かれ合うよう になっていく」という展開があるべきだろうに、それがほとんど無い。。
まだ女好きのCWが催眠でお色気を振り撒いたフィッツに惹かれるのはともかく、フィッツがCWに惹かれる要素が何も無いぞ。せいぜい 自殺を止められたぐらいでしょ。その後は、ただ愚痴や言い訳や悪態ばかりのジコチューでウザいジジイに過ぎないぞ。。
いや、これまでのウディー主演映画でも主人公のキャラは愚痴だらけの冴えない男であり、そんな奴が女をモノにしてきたわけよ。。
ただ、今までのウディーなら同じように愚痴や悪態ばかりでも、そこに女々しさや未練がましさなど、女性の母性本能をくすぐるような 情けなさがあった。。
でも、今回のCWは、ただ性格が悪いだけ。。
一言で言えばロマンティックじゃないよ。

この映画はウディー・アレン映画としては最高となる2600万ドルの製作費を掛けて作られ、ウディー・アレン映画としては最高となる903 の劇場で公開された。
それだけ製作会社も自信があったのだろうが、蓋を開けてみれば週末の興行収入は約250万ドルに留まり、その後も伸び悩んだ。
ハッキリ言えばコケたわけだ。
まあウディーの映画が儲からないのは、これに始まったことじゃないけど。


第24回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪のカップル】部門[ウディー・アレン&彼より数十歳若い任意の女優]

 

*ポンコツ映画愛護協会