『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』:2009、アメリカ

カリフォルニア州サン・ペドロの移民税関捜査局(ICE)拘置所。捜査官のマックス・ブローガンは自分が移送したホセ・アルヴァレスの具合が悪そうだったことが気になり、医者に診せたかどうかを担当官に尋ねた。担当官は嫌味っぽく、「アンタにとっては全てが人道的な危機だな。密入国者の処分も甘い」と言う。マックスが「あの老人には心臓発作の恐れがある」と告げると担当官はデータを調べ、「健康に問題なしと診断されてる」と教えた。
マックスは同僚のハミード・バラエリから、父親の帰化祝いに来るよう誘われている。彼らは密入国者を雇っている工場へ突入し、次々に不法就労者を検挙していく。マックスは隠れていたミレヤ・サンチェスという女性を見逃そうとするが、同僚が来たので連行する。ミレヤは「幼い息子を預けてる。今日中にお金を払わないと」と訴え、住所をメモしてマックスに渡す。マックスは「役には立てない」と言うが、彼女は必死で懇願する。マックスは同僚にからかわれると、憤慨してメモを捨てた。
ギャヴィン・コセフはユダヤ人の通う小学校で音楽教師として雇ってもらい、子供たちにギターを弾いて歌を披露した。彼は女性教師から「ヘブライ語もユダヤ教も知らないのに、良く採用されたわね」と言われ、「マネージャーの母親が校長だ」と打ち明けた。ギャヴィンは売れない歌手で、マネージャーが母に頼んで採用してもらったのだ。人権派の弁護士として活動するデニス・フランケルはイーストリッジ少年施設を訪れ、気に掛けている少女と面会する。デニスは少女に、「いいお母さんを見つけてあげる。本当のお母さんじゃないけど、貴方を置き去りにはしない」と告げた。
バングラデシュ出身の女子高生であるタズリマ・ジャハンギルは、同時多発テロの犯人を擁護してテロを正当化する作文を学校で読んだ。クラスメイトは激しく怒るが、彼女は真っ向から反論した。ハミードはコピー店で働く妹のザーラを迎えに行き、胸元の開いた服を咎めた。ザーラは同僚のハヴィエルが送ってくれるといい、外で待つよう促した。オーストラリア出身のクレア・シェパードはコピー店を訪れてハヴィエルに金と自分の顔写真を渡し、金曜日に来るよう指示された。
韓国出身の少年であるヨン・キムはゴミを捨てるため家を出た時、悪友たちと遭遇して車に乗るよう誘われた。悪友たちは強盗を計画しており、ヨンに拳銃を渡した。マックスはミレヤのことが気になって夜中にICEへ電話を掛け、強制送還されたことを知った。工場に戻った彼は、メモを拾った。ギャヴィンがライブハウスで歌っていると、恋人のクレアが友人のローズと見に来た。クレアは女優を目指しており、仕事が決まったが労働許可を取るのが条件だとギャヴィンに話す。彼女は「ジムでコピー店の人を紹介された」と言い、ギャヴィンが「偽のグリーンカードで捕まるとヤバい」と反対しても気にしなかった。
翌日、マックスはモーテルで暮らす女性に金を支払い、ミレヤの息子であるホアンを引き取った。彼はミレヤに知らせようとするが、電話は繋がらなかった。クレアは観光ビザの延長申請を確認するため、入国管理課へ赴いた。彼女は8週間前に申請したと主張するが、担当の職員は「記録は残っていない」と告げた。クレアは移民判定官のコール・フランケルと出会い、困っていることを知った彼かにランチに誘われた。マックスはミレヤの実家へホアンを連れて行き、祖父母に引き渡した。ミレヤは息子を心配してアメリカに戻り、そこから連絡は来ていなかった。
コールはクレアが観光ビザで働くつもりだと見抜き、「強制送還なら10年は再入国できない」と告げる。脅されたクレアはモーテルへ行き、コールと肉体関係を持った。コールは申請書類に許可を出すと約束し、経歴を捏造するよう指示した。コールは今後も関係を続ける条件で、2ヶ月でグレーンカードを発行することを引き受けた。FBIのファドカール捜査官はICEと共にタズリマの家へ乗り込み、家宅捜索を行った。タズリマはファドカールの尋問を受けてもテロ犯を擁護し、聖戦に関するチャットもやっていた。ファドカールはタズリマの両親が不法滞在者であることを指摘し、「協力すれば家族は見逃す」と持ち掛けた。
マックスはハミードの父のパーティーに出席し、既に帰化している次男で弁護士のファリードを紹介された。帰宅したザーラにマックスが気付くと、ハミードが「身勝手で家族に歓迎されていない」と教える。しかしマックスはザーラが気になって話し掛け、父がイランから逃げて来たことを知った。デニスは夫のコールに「あの子は23ヶ月も施設にいる」と語り、養女にしたいと話す。コールが困惑していると、彼女は考えておくよう頼んだ。
ヨンは帰化を祝う式典のため、父が連れて行った洋品店で礼服を試着させられる。「移住は嫌だった」とヨンが言うと、父は「この国が希望をくれた」と告げる。ヨンが「金持ちばかりが良い思いをする国だ。真面目にやっても成功しない」と反発すると、父は腹を立てて「未来を与えたくて移住した。それを棒に振るな」と声を荒らげた。デニスは拘置されたタズリマの両親から相談を受け、家族全員に拘置の危険性があることを教えた。ハミードはザーラが殺されたという連絡を受け、マックスは遺体置場へ同行した。ザーラと共にハヴィエルも殺されており、担当刑事は彼が身分証の偽造を繰り返していたことをマックスたちに教えた。
デニスはファドカールと会い、「不法滞在がタズリマの拘置理由だが、実際は国への脅威が理由だ」と言われる。ファドカールがタズリマに自爆テロの危険性があると説明すると、デニスは激しく抗議した。しかしファドカールは全く相手にせず、タズリマを強制送還すると告げた。ギャヴィンはクレアがグリーンカード目当てでコールと肉体関係を持ったことを知り、全滅して追い出した。マックスは密入国者を雇っている工場へ突入し、不法就労のミレヤを発見した。
デニスはタズリマの両親と会い、「片方の親がタズリマと去れば、残った親は下の子供たちと一緒に残れる」と語った。コールはケイトに改めて関係をやり直さないかと持ち掛けるが、口汚く罵られる。コールは「もう電話しない。カードは郵送する」と言い、ケイトの元を去った。マックスはザーラの葬儀に参列し、ハミードが車に置き忘れた上着のポケットに彼女のブレスレットが入っていたことを伝える。「所持品入れの中にあるはずなのに」と彼が言うと、ハミードは「修理のために預かっていたんだ」と説明した。
ギャヴィンはラビの資格で永住権を取得しようとするが、審査官からは正式な修業を積んでいないことを指摘される。しかもギャヴィンは、ヘブライ語で暗誦することも出来なかった。しかしラビのヨフィーが助けてくれたおかけで、ギャヴィンはグリーンカードを許可された。タズリマの母は下の子供たちを伴い、デニスの同伴で娘の面会に赴いた。彼女はタズリマに、自分が強制送還に付き合うことを説明した。タズリマは「人生を踏み潰された」と漏らし、涙で母と抱き合った…。

監督はウェイン・クラマー、脚本はウェイン・クラマー、製作はフランク・マーシャル&ウェイン・クラマー、製作総指揮はマイケル・ビューグ&ボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン、共同製作はグレッグ・テイラー、撮影はジェームズ・ウィテカー、美術はトビー・コーベット、編集はアーサー・コバーン、衣装はクリスティン・M・バーク、音楽はマーク・アイシャム、音楽監修はブライアン・ロス。
出演はハリソン・フォード、レイ・リオッタ、アシュレイ・ジャッド、ジム・スタージェス、クリフ・カーティス、アリシー・ブラガ、アリス・イヴ、ジャスティン・チョン、サマー・ビシル、メロディー・カザエ、ジャクリーン・オブラドース、メリク・タドロス、マーシャル・マネシュ、シェリー・マリル、マハーシャラルハズバズ・アリ(マハーシャラ・アリ)、チル・コン、ティム・チョウ、レオナルド・ナム、ニーナ・ナイエビ、ナイラ・アザド、ジャメン・ナンサクマール、ジャイシャ・パテル、ウエスト・リャン、ジョニー・ヤング、リジー・キャプラン、オゲチ・エゴヌ、アラミス・ナイト、ベイリー・チェイス、サラ・シャヒ、リー・スン・ヒ、アンディー・カン他。


『ワイルド・バレット』のウェイン・クラマーが監督&脚本を務めた作品。
マックスをハリソン・フォード、コールをレイ・リオッタ、デニスをアシュレイ・ジャッド、ギャヴィンをジム・スタージェス、ハミードをクリフ・カーティス、ミレヤをアリシー・ブラガ、クレアをアリス・イヴ、ヨンをジャスティン・チョン、タズリマをサマー・ビシル、ザーラをメロディー・カザエ、ファドカールをジャクリーン・オブラドースが演じている。

監督のウェイン・クラマーは南アフリカ共和国で、映画監督になるためにアメリカへ来てグリーンカードを取得している。その後、彼はアメリカに帰化し、映画業界での仕事を続けている。
そんな経緯を持つウェイン・クラマーにとって、この映画で描かれる問題は強い関心のある出来事だったんだろう。
しかし残念ながら結果としては、「不法移民の問題って色々とあるよね」という、ものすごくボンヤリしたモノに終わっている。
ウェイン・クラマー監督は思いの強さが空回りしたのか、伝えたいことが多すぎて鋭いメッセージが全く見えないという皮肉な結果になっている。

ハリソン・フォードを起用したのなら、マックスが関わる案件だけを扱う内容にすればいい。3つぐらいのエピソードに絞り込んで、そこほ掘り下げればいい。
しかしマックスが全く絡まないストーリーも色々と持ち込み、群像劇のような構成になっている。
これにより、完全に収拾が付かなくなっている。
まず最初のキャラ紹介の時点で、そいつが不法移民かどうかが分からない。ギャヴィンはユダヤ系だが、そんなのアメリカじゃ珍しくもない。

タズリマのエピソードは、かなり恐ろしいことになっている。
彼女は「イスラム教徒というだけで同時多発テロの犯人と同一視されて差別に遭う」という立場ではなく、自ら犯人を擁護してテロを正当化する主張を声高に語るのだ。「犯人は卑怯者じゃない」とか、「主張を聞いてもらうためにはテロしか方法が無い」とか、そんなことを言うのだ。
そりゃあクラスメイトから批判を浴びたり攻撃されたりしても仕方がない。
このケースだけ取っても、何が言いたいのか分からなくなっている。

タズリマが辛い目に遭うのは全て自業自得であり、アメリカ政府や関係機関の対応に問題があるわけではない。
クレアのケースにしても、同情心は全く誘われない。彼女は全く悪びれず、偽のグリーンカードを使って働こうとしていたのだ。
母国が酷い状況で、逃げ出さざるを得なかったというわけではない。ハリウッドで女優になりたくて、観光ビザで入国しただけだ。
そんな奴が犯罪を見抜かれてコールに弱みを突かれても、可哀想だとは思わないよ。

デニスはタズリマの強制送還を決めたファドカールに対し、「3歳でアメリカに来た少女の生活を全て奪うの?状況証拠ばかり集めて追放するの?」と批判する。
しかし彼女の主張には、これっぽっちも同調できない。
タズリマが愚かしい言動さえ取らなければ、強制送還など無かったのだ。
「強制送還に怯えて、制約の多い生活を余儀なくされても我慢しろ」と、理不尽なことを言っているわけではない。粗筋でも触れたように、タズリマの言動は「そりゃあ自爆テロを疑われても仕方がないだろ」と思うのだ。

たぶんウェイン・クラマー監督としては、「何もしていないのに自爆テロ予備軍として強制送還するのは間違いだ」と言いたいんだろう。
しかしアメリカ政府がヌルい対応をしていたせいで、同時多発テロが発生してしまったわけで。そんな出来事があったのだから、神経質になるのは当然の流れだろう。
もちろん、FBIのやり方が常に正しいとは思わない。色々と問題もあるだろう。
ただしタズリマのケースでは、どっちの肩を持ちたくなるのかと問われたら、迷わずFBIと答えたくなるのよ。

タズリマは家族への迷惑など何も考えず、身勝手に動いたせいで、自分が強制送還される結果を招いている。
なので母との面会シーンで「私は人生を踏み潰された」と嘆いても、同情心は全く誘われない。「人生を踏み潰されたのは、お前の家族だぞ。そして踏み潰したのはFBIじゃなくて、お前だぞ」と言いたくなる。
互いに号泣している別れのシーンにも、まるで心を揺さぶられない。
ここで「タズリマは何も悪いことなんてしてないのに」と監督が言いたいのだとすれば、「いや違うだろ」と真っ向から反論したくなるわ。

根本的な問題として、大半が不法移民なんだよね。
ちゃんと手続きを取って、アメリカに移住している人は大勢いる。監督だって、その1人だ。
じゃあ劇中の面々は「不法入国や不法滞在も止むを得ない」と納得できるのか、情状酌量の余地があるのかというと、そうじゃない奴が大半だ。
アメリカが移民に冷淡だとか、移民を受け入れるシステムに不備があるとか、そういう問題ではない。これを見て監督が観客に何を感じてほしいのか、サッパリ分からない。

劇中の移民で同情できるのは、せいぜいミレヤぐらいだぞ。それ以外の面々は、「不法滞在だから大変な目に遭いました」ってだけであり、そりゃ仕方がないよねと。
っていうかタズリマの両親の件にしろ、クレアの件にしろ、「移民だから災難に遭った」ってわけでもないし。
ただ自分が愚かしい行動を取った結果でしかないのよ。
不法移民じゃない面々にしても同じことで、「移民だから」という前提が全く成立しないケースになっちゃってんのよね。

例えばヨンの場合は、一緒に酒屋を襲撃した仲間が主人を射殺する。
でも、それってヨンが移民だから起きた出来事ではないでしょ。彼が移民かどうかじゃなくて、悪い仲間と付き合っているかどうか、強盗に参加したかどうかってのが問題だ。
ヨンは店にいたハミードに「誰も殺さないはずだった。成り行きでこうなった」と言うが、何の言い訳にもならない。
そもそも銃で脅して酒屋から金を奪おうした時点で、「移民だから」という部分での情状酌量の余地は皆無の犯罪なんだから。

ハミードはヨンが翌日に帰化の式典を控えていると知り、「俺も式典に参加した。ものすごく感動した。あの感動を先に体験していたら、お前はここにいないはずだ」と語る。
でも、ちょっと何言ってんのか良く分からない。「式典に出ていれば強盗事件なんて起こさなかったはずだ」って、そういう問題でもないだろう。
ただ、なぜかハミードは、ヨンを逃がしちゃうんだよね。いやいや、絶対にダメだろ。
なぜ「巻き込まれただけだから」みたいな考えで、ヨンを無罪放免にしちゃうんだよ。

その後、式典に出席したハミードは、マックスからザーラの殺害に関わっていたことを詰問される。
ハミードは「ザーラは一家の恥だ」と父から圧力を掛けられていたこと、ファリードと共に懲らしめるつもりだったこと、カッとなったファリードが射殺したので事件の隠蔽に関わったことを語る。
この出来事にしても、「移民だから云々」って問題じゃないでしょ。
宗教的な問題であり、アメリカに来なくても起きていた可能性は充分にあるでしょ。

(観賞日:2021年7月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会