『シティーハンター』:1993、香港

私立探偵のシティー・ハンターこと冴羽リョウは、親友で相棒の槇村秀幸とコンビを組んで仕事をしていた。だが、槇村は一人になった時 、ギャング団から何発もの銃弾を浴びせられた。槇村は死の間際、リョウに「妹の香を頼む。それから香には手を出すなよ」と言い残した 。それ以来、リョウは香を妹のように可愛がってきた。やがて香は美しく成長し、リョウは手を出さないと誓ったことを後悔した。
ある日、リョウは仕事の相棒となった香に連れられ、新聞社のオーナーである今村のオフィスに赴いた。今村は一人娘の清子のことを2人 に語る。妻と死別している今村は去年、1人の女性との結婚を決意した。しかし清子は反対して家出し、調べると香港にいることが判明 したという。その清子を見つけ出してほしいというのが、彼の依頼だった。清子が海洋公園にいるという情報を得たリョウは、香と別れて 1人で赴いた。彼は清子を見つけるが、逃げられてしまった。リョウは清子を捕まえようとするが、スケボー集団に追われた。
清子は洋品店に逃げ込み、エッチな視線を送る男性店員を試着室に誘い込んで殴り倒した。清子は彼の服を奪い、男装して外に出た。清子 が上着のポケットを探ると、超豪華客船ふじ丸への招待状が入っていた。一方、リョウがマンションに戻ると、6人の美女が待っていた。 自分の誕生日祝いに来てくれたのだと思い込んだリョウは浮かれるが、6人は「アンタに男を逮捕された仕返しに来たのよ」と彼を縛って 殴ろうとする。リョウは銃を拾い上げて、何とか6人をおとなしくさせた。
その直後、本当にリョウの誕生日を祝おうとして香が部屋にやって来た。しかしリョウが美女たちと一緒にいたので、すっかり誤解した 彼女は「大嫌い、従兄と休暇を過ごすから」と車で走り去ってしまう。香は金持ちの従兄ロッキーと一緒に、ふじ丸へと乗船する。香を 追い掛けてきたリョウは、銀子という美女が手を振ってきたので浮かれる。だが、彼女は親友の刑事・冴子に手を振っただけだった。冴子 は銀子に「あれが冴羽リョウよ。全女性の敵」と教えた。
リョウはふじ丸に乗ろうとするが、招待状が無いので船員たちに追い払われた。彼は荷物に隠れて潜入するが、船員たちに見つかり、 慌てて逃げ出した。その船には冴子と銀子も乗り込んでいた。冴子は国際的強盗団が乗っているという情報を入手し、スーツケースで武器 を持ち込んでいた。空腹に耐えかねたリョウがプールサイドに現れると、銀子が彼に気付いて冴子に教える。銀子はリョウに興味を示し、 声を掛けて誘惑した。空腹のリョウには、彼女のオッパイがハンバーガー、手足がチキンに見えた。
冴子と銀子が去った後、プールサイドに船員が来たのでリョウは身を隠した。一方、ロッキーは香に「日本に帰ったらすぐに結婚しよう」 と持ち掛ける。香はリョウと遭遇し、腹を立ててプールに突き落とした。カジノに出向いた銀子はハンサムなギャンブラーに興味を示すが 、冴子から「やめなさい。彼はコーテツ。アジアのギャンブル王よ。彼の行く所、常にトラブルが付きまとう」と警告された。
コーテツに負けた金持ちの男は激怒し、「イカサマを調べろ」と手下に命じる。コーテツが手下たちと格闘している間に、男がナイフを 持ち出した。気付いた冴子が、それを妨害した。国際的強盗団の正体は、元アメリカ陸軍大佐のマクドナルドと手下のキムたちだった。 一味は時計を合わせ、深夜0時に行動を開始しようとしていた。マクドナルドは手下たちに、「船を制圧し、リストアップした30人を 捕まえる。残りの連中は殺す」と語る。隣りの部屋にいた清子は、その会話を耳にするが、大きな音を出してしまう。マクドナルドは手下 の1人に「隣を見て来い」と命じ、自分たちは計画の遂行に移った。
清子は部屋に来た男を退治し、慌てて逃げ出した。航海士を見つけた彼女は、「この船は乗っ取られるわ」と知らせる。航海士は「船長室 に案内します」と言うが、清子をボイラー室へ連れ込んだ。彼もマクドナルドの手下だったのだ。ボイラー室に潜んでいたリョウは、射殺 されそうになった清子を救出する。そこへ数名の一味が来て、航海士を射殺した。リョウは清子を連れて逃げ出し、映画館に避難した。 リョウは追って来た連中を蹴散らし、ひとまず清子の部屋へ戻ることにした。
一味は操舵室を制圧、続いて乗客が集まっているパーティー・ルームを占拠した。一方、リョウはマクドナルドの部屋のドアに残っていた 指紋をコンピュータで調べ、ボスの正体を知る。そこへ一味のチェンが現れたため、彼は清子を連れて逃亡する。マクドナルドは客たちに 、「我々の目的は金です。協力すれば死なずに済む。抵抗すれば全員が死ぬ」と告げる。そして名簿の名前を読み上げ、壇上に出て来る よう要求した。
マクドナルドは現金と宝石類を回収し、カジノに移動して乗客を並ばせた。彼は乗客とバカラ勝負を始め、負けた相手を射殺していく。 反抗的な態度を取った香は、キムによって部屋へ連行された。コーテツは冴子に「僕が先にやる」と告げて順番を交代し、マクドナルドに 勝利した。するとマクドナルドは「もう一勝負だ」と言う。その後もコーテツは、連続で勝ち続けた。リョウと清子はエアコンのダクト からカジノに侵入するが、その姿が大型スクリーンに写り、マクドナルドに気付かれた。
コーテツはトランプを飛ばして一味を攻撃し、冴子は一人を倒してマシンガンを奪った。コーテツはエレベーターでカジノから脱出し、 冴子はマシンガンを乱射した。リョウが冴子の元へ駆け付けると、彼女は「香を助けて、奴らの部屋よ」と告げる。リョウは部屋に突入し 、キムと格闘する。そこへマクドナルドと手下たちが現れ、リョウに銃を向ける。その間に香は部屋から抜け出し、清子や冴子たちと合流 した。彼女たちはリョウと人質を救い出すため、二手に分かれて行動を開始した…。

監督&脚本はバリー・ウォン、製作はチュア・ラム、製作総指揮はチョウ・チュントン、撮影はジゴ・リー&トム・ラウ&ジゴ・マ、編集 はチョン・イウチョン&チョン・カーファイ、美術はイー・チュンマン、衣装はシャーリー・チャン、武術指導はチン・シウトン、音楽は ロメオ・ディアス&ジェームズ・ウォン。
主演はジャッキー・チェン、共演はジョイ・ウォン、後藤久美子、チンミー・ヤウ、キャロル・ワン、レオン・ライ、パル・シン、ケネス ・ロー、ソフト&ハード、リチャード・ノートン、ゲイリー・ダニエルズ、イップ・サン、ジョセフィン・ラム、ドナ・チュー、マイケル ・ウォン、ピーター・ライ、ウィリアム・ダン、荻原賢三、ヴィンセント・ラポーテ、マイケル・アボット、ルイス・ロス他。


北条司の同名漫画を基にした香港映画。
監督と脚本は『ゴッド・ギャンブラー』のバリー・ウォン。
リョウ(実際の漢字表記は文字化けの可能性があるため、ここではカタカナで表記している)をジャッキー・チェン、香をジョイ・ウォン 、清子を後藤久美子、冴子をチンミー・ヤウ、銀子をキャロル・ワン、コーテツをレオン・ライ、ロッキーをパル・シン、マクドナルドを リチャード・ノートン、キムをゲイリー・ダニエルズが演じている。
他に、マンションに来る美女6人組の1人としてイップ・サン、ジョセフィン・ラム、ドナ・チュー、槇村をマイケル・ウォン、洋品店で 清子に声を掛けるエッチな男をピーター・ライ、リョウが落としたパンを踏み潰してしまう船客をウィリアム・ダン、今村を荻原賢三が 演じており、チェンをケネス・ローが演じている。終盤のシーンで、清子、冴子、銀子の3人と戦って退治されるのがケネス・ローだ。

原作の漫画とは、ほぼ似ても似つかぬ内容に仕上がっている。
原作ではスイーパーなのに、最初にリョウは「私立探偵だ」と言い切る。リョウも香も冴子も、誰一人として原作キャラには似ていない。
外見だけでなく、中身も全く似せようとはしていない。
原作のリョウは射撃の名手だが、何しろジャッキーだから、もちろん格闘アクションが主体になる。
たまに銃も使うけど、「一発で確実に狙った標的を撃ち抜く」といった腕前は無くて、乱射しまくる。

序盤からリョウ、っていうかジャッキーは、いきなりスケボーを使ってのチェイス・アクションを繰り広げる。
走って来る車をかわしたり、ジャンプしたりする。
映画が始まって10分ぐらいの時点で、既に冴羽リョウでも何でもない赤の他人だ。
オリジナル脚本ならともかく、これを堂々と「シティハンター」と言われちゃうと、そりゃあ、おバカっちな映画と感じても仕方が無い でしょ。

そもそも、冴羽リョウは日本人なのに、中国人のジャッキー・チェンが演じ、広東語で喋っているという時点で、もうポンコツの匂いしか 漂ってこない。
当然のことながら、冴羽と同じく日本人のはずの香や冴子、銀子といった面々も、やはり中国の女優陣が演じ、広東語で喋る。
しかも、タイトルロールでは原作漫画のイラストが使用され、「本物」の冴羽や香たちの姿を見せて、そこからジャッキーが画面に 登場して「俺は冴羽リョウ」と何の恥ずかしげもなく堂々と自己紹介するので、「いや、どう見ても冴羽リョウじゃないから」とツッコミ を入れて欲しがっているとしか思えない。

まあ考えてみれば、日本人が外国人を演じた邦画だって色々とあるんだけどね。
大映なんかは、『楊貴妃』、『山田長政 王者の剣』、『釈迦』、『秦・始皇帝』と、そういう映画を幾つも製作していたし。
ただ、それらの映画は一応、真面目な作品として作られていた。
それに対して、この映画は、おふざけ感覚がハンパない。
ジャッキーと言えばアクション・コメディーなんだけど、彼が主演した他の映画とは毛色が違うというか、おふざけ感が相当に強い。
たぶん、「ジャッキー・チェン主演作」よりも「バリー・ウォン監督作」としての色が圧倒的に強く出ているってことなんだろう。

冒頭、槇村秀幸が殺された出来事に触れているが、ものすごく淡白に、しかもコミカルな雰囲気で処理される。
相棒が殺されるのに喜劇調って、さすがはバリー・ウォンだな。
それにしても、そんな軽薄なノリで処理するぐらいなら、槇村の設定なんて無理に持ち込まなくてもいいのに。
リョウのパートナーである香が、昔の相棒の妹だっていう設定なんか、この映画では全く意味を持っていないんだし。

香は仕事の依頼を受け、リョウを連れて車で日本の新聞社へ行く。ってことは、リョウのマンションも新聞社も日本にあるんだろう。
で、そこから香港へ飛んだ様子は全く無いのだが、しかし公園には清子がいるので、どうやらリョウは香港に飛んだらしい。
それにしては、同じ車に乗っているけどね。
で、清子に逃げられたリョウは、その足でマンションに戻り、香を呼ぶんだけど、日本と香港の地理的な関係って、どういうことになって いるのかね。
まあ当時の香港映画なんて、ストーリーは行き当たりバッタリなのが当たり前なんだけど、それにしてもヒドいな。

冴羽は清子の捜索を依頼されたのに、香が腹を立てて船に乗ると、それを追い掛ける。
もはや清子の捜索という任務は完全に忘れ去られている。
ただし清子は都合よく同じ船に乗っているんだから、さっさと会わせてしまえばいいものを、会わないどころか、なかなか清子が再登場 しない。
だから、彼女が船のチケットを手に入れたことさえ忘れてしまうぐらいだ。

なぜか「冴羽は空腹」というネタを長々と引っ張る辺りは、バリー・ウォンらしさってことだろうか。
で、香とロッキーがパーティー・ルームへ移動すると、とんねるずの『ガラガラヘビがやってきた』の広東語版である『老人院』を軟硬 天師が歌い、大勢が踊る。
さらに、なんとフルコーラスで歌わせている。
どういう計算なんだろうか。
ちなみに、軟硬天師の2人はリョウたちと一味が戦う展開になった後も仲間として参加しているが、あまり意味の無い扱いになっている。

清子は一味の計画を盗み聞きするシーンで、ようやく船に乗っていることが判明する。
その盗み聞きは「自分の部屋の洗面所から壁に耳を当てて隣の部屋の会話を聴く」というものだが、豪華客船なのに、そんなに壁が薄い のかよ。
あと、実は清子って全く必要性の無いキャラなんだよな。計画を盗み聞きするのを銀子にでもしちゃえば、いなくても全く支障は無い。
っていうか、「香を追い掛けてリョウが船に乗り込む」という筋書きなんだし、香が盗み聞きして一味に追われ、それをリョウが助けると いう内容にした方がスッキリするよな。
一味の会話を聞くのが銀子であれ、香であれ、どっちにしろ清子は要らないってことになる。

リョウは、普段は情けないトコばかり見せているけど、女がピンチになったり、戦ったりする時にはカッコ良く活躍するのかと思ったら、 映画館で敵と戦う時にも情けないサマを見せている。
そこには余裕なんて全く無い。巨漢に土下座して媚を売るぐらい情けない。
いやいや、それって、幾らアクション・コメディーであっても、ちょっと違うんじゃないかと。
そのように、アクションシーンでもコミカルな色がものすごく強いのは、バリー・ウォン節ってことなんだろうな。

終盤、リョウが『ストリートファイターII』のゲームコーナーに入って感電すると、なぜかキムがケンのコスプレでボーズを決める。
で、リョウはエドモンド本田の姿に変身し、百烈張り手を繰り出す。
本田がケンにやられると、軟硬天師の2人がダルシムとガイルに扮して参加する。
この2人があっけなくやられると、リョウは春麗の姿になってスピニングバードキックでケンを倒す。
戦いが終わるとリョウと軟硬天師の間で「何がどうなったんだ」「分からないよ」という会話があるが、その通りだね。

(観賞日:2012年9月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会