『死体と遊ぶな子供たち』:1972、アメリカ

ある夜、劇団の座長を務めるアランと妹のアニヤ、座員のヴァル&ジェフ&ポール&テリーが船で島にやって来た。一行は墓地と遺跡を通過し、アランは悪霊の存在について真剣な表情で語る。ヴァルたちは相手にしなかったが、何者かが一行を密かに観察していた。一行が空き家となっているロッジに到着すると、元の住人についてアランは「住んでいた墓守は独り言を呟きながら妻子を惨殺し、精神病院に入れられたらしい」と説明した。
アランは箱を開け、持参した猟銃やニンニクの束を座員に見せた。彼は11時30分になったと知り、「儀式には完璧だ」と口にする。アランは古い本を持ち出し、そこに死者を墓から蘇らせる呪文が記されていること、この島は儀式に理想的な場所であることを語る。彼は座員を連れて墓地へ行き、オーヴィル・ダンワースの墓に目を付けた。座員たちが棺を開けると、腐敗した死体が入っていた。ジェフが触れようとすると、いきなり死体が襲い掛かって来た。さらにテリーがマントの男に捕まるが、アランは楽しそうに笑う。死体とマントの男は、アランが事前に用意していた仲間のロイとエマーソンだった。
ロイとエマーソンは事前に墓守を襲って縛り上げ、オーヴィルの死体を棺から引っ張り出していた。アランはオーヴィルを墓標の十字架にもたれさせ、儀式の準備を進める。アランはジェフやポールたちに、墓の上の土を退けるよう指示する。彼は乾燥させた胎児の血を持参しており、それを墓地に撒いた。ウィンズという男の墓地を掘ろうとしたポールは、死体が飛び出したので驚いた。ポールは木の根っこが張り出して持ち上げられたのだと推測するが、アランは「違う。儀式が成功する前兆だ」と口にした。
アランは全員に腕を交差させるよう指示し、呪文を唱えた。しかし何も起きなかったため、彼は「大金を払ったのに、騙された」と腹を立てる。ヴァルはアランを馬鹿にして、魔王に願いを訴える儀式まで演じた。アランは「まだ続きがある。とっておきだ」と言い、ジェフとポールにオーヴィルをロッジに運ぶよう指示する。さらに彼はロイとエマーソンに、墓を埋めてトランクをロッジまで運ぶよう命じた。アランはオーヴィルを花嫁にして、結婚式を執り行うと言い出した。ポールは付添人、ジェフは神父役を指示された。
アランはパーティーを楽しむよう座員に促すが、笑っているのは彼とジェフだけだった。場が白ける中、アニヤは外を見て顔を強張らせた。彼女は「神聖な死体を弄ぶのは間違ってる。きっと彼は気付いているわ。敬意を払うべきよ」と警告するが、アランは相手にしなかった。アニヤはオーヴィルに謝罪し、「お願い、やめて」と絶叫した。アランは「貴方は悪魔よ」と罵るアニヤを無視し、ジェフにオーヴィルを2階の寝室へ運ばせた。彼はジェフを追い出し、オーヴィルの横に寝転んだ。
ポールの提案で、アラン以外の面々は島を去ることにした。墓を埋める作業を続けていたロイとエマーソンは、ウィンズが動いていることに全く気付かなかった。指輪に気付いたエマーソンが抜き取ろうとすると、ウィンズが起き上がって首を絞めた。ロイは慌てて逃げ出すが、他の死体に襲われた。墓地からは次々に死体が姿を現し、ロイは何とか逃げ出すが縛られていた墓守は殺された。ヴァルたちがロッジを出ると、ロイが必死の形相で逃げて来た。そこへ死体の群れが襲って来たので、ヴァルたちは慌ててロッジへ逃げ込んだ…。

監督&脚本はベンジャミン・クラーク(ボブ・クラーク)、特殊メイク&共同脚本はアラン・オームズビー、製作はゲイリー・ゴッチ&ベンジャミン・クラーク(ボブ・クラーク)、撮影はジャック・マッゴーワン、美術はフォレスト・カーペンター、編集はゲイリー・ゴッチ、音楽はカール・ジットラー。
出演はアラン・オームズビー、ヴァレリー・マムチェス、ジェフリー・ギレン、アニア・オームズビー、ポール・クローニン、ジェーン・デイリー、ロイ・エンゲルマン、ロバート・フィリップ、セス・スクラレイ、ブルース・ソロモン、アレックス・ベアード、ロバート・シャーマン、カーティス・ブライアント、ロバート・スメッドレー、デビー・カミングス、ゴードン・ギルバート、ピーター・バーク、チェスター・フィーバス、スチュアート・ミッチェル他。


5万ドルの予算、14日の撮影期間で作られた自主製作のホラー映画。
監督&脚本&プロデューサーを務めたベンジャミン・クラークは、後に「ボブ・クラーク」の名義で『暗闇にベルが鳴る』や『ポーキーズ』、『クラブ・ラインストーン/今夜は最高!』などを手掛けることになる。
特殊メイク&共同脚本&アラン役のアラン・オームズビーはクラークの学友で、後に『キャット・ピープル』や『野獣教師』などの脚本を手掛けることになる。
出演者は全て無名で、後に有名になった者もいない。

冒頭、深夜にランタンを持って墓地へ赴いた墓守が、不審な男は後ろ姿を見つけて肩を軽く叩く。
振り向いた男の顔は青白く、両端の歯が尖っている。
管理人の絶叫と共にタイトルが表示され、オープニング・クレジットに突入する。
このオープニングだけで、いかに安い映画なのかってことはハッキリと分かるようになっている。
「超が付くほどの低予算で作られた自主制作映画」ってことだけじゃなく、中身も安いってことが演出によって分かる。

墓場の男が墓守に襲い掛かった後、マントを付けた別の男がグールに近付く。
2人は墓を掘り起こし、死体を外へ引っ張り出す。そして1人目の男が棺に入り、2人目の男は墓を埋めて遺体を運ぶ。
このシーン、その段階では何が目的なのか分からないが、後になって「実はアランが座員を脅かすために仕掛けておいたドッキリ」ってことが明らかになる。
つまり観客が冒頭シーンで見せられたのは「怪物が墓守を襲い、死体を棺から引っ張り出して中に入る」という出来事じゃなくて、「ドッキリを仕掛けるために墓守を襲って墓を掘り起こす若者たちの姿」なのである。

そんな出来事を冒頭で見せている時点で、いかにダメなホラー映画なのかが良く分かる。
しかも、その後には「座員たちを何者かが見ている」という描写もあったが、これも「ドッキリ作戦の仕掛け人が見ていた」というだけなのだ。
種明かしがあるまでは、一応は「観客の不安を煽るようなシーン」として描いているわけで。でも種明かしが到来した途端に、それが全てイタズラの一環だったことが判明する。
それと同時に、ただでさえ安っぽい印象が、さらに輪を掛けて安っぽくなる。

冒頭でロイとエマーソンが怪物っぽい格好をしているのは、観客を欺くためだけのモノだ。なぜなら、墓守を襲ったり死体を棺から運び出したりする時点では、まだ怪物に化ける必要性が全く無いからだ。
あと根本的な問題として、アランがそんなイタズラを座員に仕掛ける意味が全く無い。「ただイタズラが好きな奴」ってことかもしれないが、その後に本格的な儀式をやろうとしている人間としては、その前に子供じみたイタズラを仕掛けるってのはキャラとしての統一感に欠ける。
っていうか、儀式をやりたがる理由も不明だし、お前らは劇団のメンバーなんでしょ。その設定と「墓で死体を蘇らせる儀式をやる」という行動の関連性が全く見えないのよ。
だったら最初から、バカな若者たちが、軽はずみな気持ちで墓で遊んでしまう話にでもしておけばいいわけで。

この映画は1ミリたりとも怖くないのだが、決してコメディーとして演出されているわけではない。純然たるホラー映画として作られているが、脚本と演出のレベルが低すぎて怖くないというだけだ。
もちろん超低予算の自主製作映画だから、特殊メイクや道具で他のホラー映画に匹敵するような物は用意できないし、特殊効果を使うことも難しい。
出演者も素人ばかりだから、演技力という部分でも厳しいモノがある。
しかし、そういうことよりも、脚本と演出がシオシオのパーってのが最大の問題だ。

何よりも酷いのが、「そもそも怖がらせるためのシーンが少なすぎる」ってことだ。
前述したように、冒頭シーンはロイとエマーソンが墓守を襲撃しただけで、つまり肩透かしだ。そのイタズラが判明するシーンも、言わずもがなの肩透かし。
なので、「グールが若者たちを襲う」というシーンは全く無いまま進んでいることになる。
37分辺りでウィンズの死体が飛び出すシーンがあるが、その段階ではグールなのかどうか判然としない。
アランたちが墓を去る際にウィンズが少し動いている様子が写るが、軽いコケ脅しに過ぎない。

ロイとエマーソンが作業をしているシーンでは、ウィンズの死体が動いている様子を挟んだりする。
また、アニヤが恐怖を抱いている様子を見せるなどして、何かが起きそうな気配を漂わせようという意識は感じられるようになる。
ただ、それで観客の不安を充分に煽ることが出来ているかというと、答えはノーだ。
そこだけを見ても仕掛けとして弱すぎるし、何しろ前半の負債が大きすぎるので、そんなユルい脅かし程度では焼け石に水なのだ。

そんな中、エマーソンがウィンズに襲われるシーンが訪れ、ようやく「グールが若者を襲う」という展開に突入する。
大抵のホラー映画では前半から1人ぐらいは犠牲にしておくものだが、この映画はそういう作業が全く無い。
上映時間が87分なのに、エマーソンが襲われる64分辺りまでは、延々と「バカな連中の退屈極まりない遊び」を見せられる羽目になるのだ。
何でもかんでも人を殺せばいいってモンじゃないけど、それ以外で観客を怖がらせる手段を何も持たないのなら、ベタでいいから「怪物が誰かを殺す」というシーンを前半から挟んだ方が得策に決まっている。

エマーソンがグールに襲われると墓地から一気に群れが出現し、そこからは「アランたちがグールの群れに襲われる」という展開へ一気に畳み掛けて行く。
もう残り時間も少ないので、さすがに休息を取ったりダラダラと道草を食ったりするようなことは無い。アランたちが対処法を考えたり、行動を起こしたり、襲われて死んだりという展開が続く。
そういうのを前半からやっておけば良かったのだ。
それを前半からやると『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の模倣であることが露骨になっちゃうけど、そんなのを気にするような作品でもないでしょ。
そもそも『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の超劣化版なのは明白なんだし。

(観賞日:2019年4月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会