『センターステージ』:2000、アメリカ

アメリカン・バレエ・カンパニーは、花形ダンサーのクーパーとキャスリーンを擁するニューヨークの名門バレエ団だ。ジョディー・ ソーヤーは、そんなアメリカン・バレエ・カンパニーのプリンシパル・ダンサーになる夢を抱いている。彼女はアメリカン・バレエ・ アカデミーのオーディションに合格し、練習生となった。
入寮したジョディーは、ルームメイトであるエヴァ・ロドリゲスとモーリーン・カミングスに会った。下町で育ったエヴァと、幼い頃から アカデミーでレッスンを受けているモーリーンの関係は、最初からギクシャクしてしまう。ジョディは男子の練習生であるチャーリー、 エリック、そしてロシアからの留学生セルゲイと出会い、彼らと親しくなった。
練習初日、舞台監督ジョナサンはジョディーたちに、「アメリカン・バレエ・カンパニーに残れるのは、多くても男女3人ずつだ」と 告げた。エヴァは練習に遅刻してきた上に態度が悪く、女子の教師ジュリエットから目を付けられた。だが、彼女の技術はモーリーンに 匹敵するほど素晴らしいものだった。モーリーンは母ナンシーの教えを守ってバレエに没頭する日々をすごしていたが、医者の卵ジムと 出会い、恋に落ちた。
資金集めのための公演が行われ、その後でパーティーが開かれた。ジョディーはクーパーを見つけて、自分の存在をアピールした。 レッスンが続く中、ジョディーの踊りは全く向上しなかった。彼女は足の骨格に問題があり、バレエには向いていなかったのだ。 ジョディーはジョナサンとジュリエットから、「卒業公演に出ることは難しい」と言われてしまう。
ジョディーは仲間たちとサルサ・クラブに出掛け、楽しく踊った。翌日、彼女はアカデミーで禁止されている町のダンススタジオの レッスンに参加した。そこへクーパーが現れ、楽しそうに踊り始めた。レッスン後、ジョディーはクーパーと意気投合し、ベッドを共に した。ジョディーはチャーリーやエリックと共に、クーパーが振り付けを担当するグループに入った。一方、エヴァとモーリーンは ジョナサンのグループに入った。モーリーンが主役なのに対して、エヴァは群舞の1人だった。
ジョディーはクーパーの公演を見に行くが、冷たくあしらわれた。アカデミーの練習で、ジョディはクーパーに反抗して逃げ出そうとする 。しかしチャーリーの励ましを受け、彼女はレッスンに戻った。公演前日、舞台でリハーサルをしていたエリックが怪我をしてしまう。 クーパーはジョナサンの反対を押し切り、自分が代役として舞台に立つことを決める…。

監督はニコラス・ハイトナー、脚本はキャロル・ヘイッキネン、製作はローレンス・マーク、共同製作はキャロライン・バロン、 撮影はジェフリー・シンプソン、編集はタリク・アンウォー、美術はデヴィッド・グロップマン、衣装はルース・マイヤーズ、 振付はスーザン・ストローマン、ジョナサンのバレエ振付はクリストファー・ウィールドン、 音楽はジョージ・フェントン、音楽監修はケン・ロス。
出演はアマンダ・シュル、ゾーイ・サルダナ、スーザン・メイ・プラット、ピーター・ギャラガー、ドナ・マーフィー、デブラ・モンク、 イーサン・スティーフェル、サシャ・ラデツキー、ジュリー・ケント、イリア・クーリック、アイオン・ベイリー、シャキーム・ エヴァンス、エリザベス・ハバード、ヴィクター・アンソニー、 クリスティン・ダンハム、スティーヴン・スタウト、メアリーアン・プランケット、ラウラ・ヒックス、バーバラ・カルーソ他。


『クルーシブル』のニコラス・ハイトナーが監督を務めたバレエ映画。
ジョディー役のアマンダ・シュル、ゾーイ役のゾーイ・サルダナ、 クーパー役のイーサン・スティーフェル、チャーリー役のサシャ・ラデツキー、キャスリーン役のジュリー・ケント、エリック役の シャキーム・エヴァンスは、これが映画デビュー。
他に、モーリーンをスーザン・メイ・プラット、ジョナサンをピーター・ギャラガー、ジュリエットをドナ・マーフィー、ナンシーを デブラ・モンク、セルゲイをフィギュア・スケーターのイリア・クーリック、ジムをアイオン・ベイリーが演じている。

基本的に「踊れる人材」ということで出演者を集めたようで、ほとんどの主要キャストはダンス経験がある。
その中でも、イーサン・スティーフェルは、アメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルで、サシャ・ラデツキーも同じくアメリカン・ バレエ・シアターのダンサーだ。
ただし、例えばスーザン・メイ・プラットは、子供時代にちょっとダンスを習っていた程度。
そういった出演者もいるため、「全てが本人の踊り」ということではなく、スタント・ダブルを起用したシーンもあるようだ。

冒頭、ジョディーは「足の形が悪いが光るものがある」ということで合格する(にも関わらず「足が悪いから公演に出せない」と言われる のは理不尽だが)。その後、モーリーンから「ジョディーは絶対にダメだ」と陰口を叩かれ、教師からも「みんなから遅れている、進歩 していない」と散々なことを言われてしまう。
普通、そういうマイナスばかりを序盤で示したら、「欠点を克服し、否定的な意見を跳ね返して成功を掴む」という筋書きにするもの だろう。しかし、この映画の場合、一応は成功なのだろうが、ちょっと微妙な締めくくりだ。
具体的に言うと、「入学時の夢だったアメリカン・バレエ・カンパニーへの道は自ら断念し、クーパーが始める新しいグループに参加 する」という結末だ。
それは壁を乗り越えて成長したというよりも、壁を迂回して別の道を選んだということに見えるのだ。
アマンダ・シュルのダンス技術の限界によって、「彼女がクラシックなバレエ・ダンサーとして優れた才能を発揮する」という展開 にするのが難しかったのかもしれない(スタント・ダブルを使わないとヘタクソに見えてしまうレヴェルではないか、ということ だ)。
しかし、それにしてもストーリーテリングとして適切だったのかどうか、疑問が残る。

ニコラス・ハイトナー監督は舞台演出家出身ということで監督に起用されたのだろうが、それにしては「本当に作品の狙いは正しいのか」 と疑いたくなるような演出になっている。
最も重要なのは当然のことながら踊るシーンなのだが、そこが最も問題視すべきポイントになっているように感じられるのだ。
具体的に言うと、例えば町のスタジオでジョディーとクーパーが踊るシーン。
アカデミーの練習を「つまらない」と感じていたジョディーが、そこでは「楽しい」と感じる。
しかし、見ている側からすると、スタジオでのダンスシーンは、それほど楽しいものには感じない。
それと、カメラワークが「あまり全身を見せず、細かくカットを割る」という手法を取っているのだが、それは踊れない役者のダンス シーンを撮影する際の、誤魔化すためのやり方だ。
ここでは、そういう手法を取ることによるプラスは何も無いはずだ。

中盤でクーパーが踊るクラシックなバレエのシーン(『ロミオとジュリエット』『スターズ・アンド・ストライプス』)は、舞台 全体を捉えて、あまりカット割りをしないという、ダンスを見せるために適切だろうと思える方法を取っている。
だから、「時間が短い、もっと長く見せてもらいたい」という気持ちにさせてくれる。
しかしクライマックス、ジョナサンの振り付けたナンバーのシーンでは、観客席と何度もカット・バックして、流れをブチブチと切って しまう。
だが、ブチブチと切れるにも関わらず、それでもクーパー振り付けのナンバーよりはマシである。
そして、それは映画にとっては大きな誤算だろう。
本来ならば、「ジョナサンの振り付けは古臭く、クーパーのモダンな振り付けの方が圧倒的に優れたものだ」という評価を観客が下す ように出来ていなければならないはずなのだ。

しかし実際のところ、ジョナサンの振り付けたナンバーは前述したカットバックの問題を抱えているものの、それなりに優雅で 美しい。
一方でクーパーのナンバーは、クラシカルなバレエとMGMミュージカルを混ぜ合わせようとして、冴えない内容になっていると感じる。
「革新的な実験が失敗した例」を見せられているような気持ちになるのだ。
そのナンバーにおいても、イーサン・スティーフェルとサシャ・ラデツキーの踊りを個人として抜き出せば、それ自体は決して悪く ない。
しかし全体を見た時に、どちらの方が魅力的なのかというと、間違いなくジョナサンのナンバーなのだ。
ただし、それは監督だけの責任ではなく、振り付けを担当したスーザン・ストローマンの責任も大きいのだろうが。

(観賞日:2005年4月1日)


第23回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【老けて見えるティーンエイジャー】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会