『セル』:2016、アメリカ

マサチューセッツ州ボストン。空港に降り立ったコミック作家のクレイ・リデルは、別居している妻のシャロンにスマホで連絡を入れた。シャロンは息子のジョニーを車に乗せて、子守を迎えに行く途中だった。クレイは「破格の条件で契約できそうだ。『闇夜の旅人』の権利を丸ごと買うと言ってる」と話し、ジョニーは相手が父だと知って電話を代わってもらう。ジョニーはビデオ通話に切り替え、「帰ってくる?会いたいよ」と言う。クレイは話そうとするが、充電が切れてしまった。
クレイは公衆電話を見つけ、改めてシャロンに連絡する。彼は復縁を望んでいたが、シャロンは「離れて1年よ。愛してるけど簡単じゃない」と告げる。その時、クレイは周囲で携帯を使っていた人々が痙攣しているのに気付いた。さらに痙攣した人々は、近くにいた無関係の相手に襲い掛かる。次々に死者が出る中、友人を殺された少女は警察に連絡しようと携帯を取る。すると彼女は口から泡を吐き、壁に何度も頭を打ち付けた。彼女は血まみれになりながら、笑って走り去った。
シェフが包丁で近くにいた男を刺殺し、クレイにも襲い掛かった。クレイはスーツケースで攻撃を防ぎ、シェフを蹴り飛ばした。警官のリックが駆け付けてシェフを銃殺し、クレイは携帯を使わないよう助言した。飛行機が墜落して空港に突っ込み、クレイは地下鉄の構内へ逃亡する。そこでも同様の異変が起きていたが、無事だった人々が車両に避難していた。クレイは構内から脱出しようとするが、運転士のトム・マッコートは非常ブレーキが作動して駅から出発できないことを告げた。
トムが「歩けば外へ出られる。路線図を見れば地上へ出る整備口が分かる」と言うので、クレイは案内を頼んだ。「ここにいれば安全だ」と反対する意見が出ると、トムは「24時間が経過すれば地下水が溢れ出てくる」と告げる。結局、移動することを選んだのはクレイとトムの他にマイクという若者だけだった。トンネルの出口に近付くと、何名かの人影が外に見えた。クレイたちが警戒していると、トンネル脇から飛び出した男性作業員がマイクをツルハシで殺害した。クレイが作業員を殴り倒すと、外にいた連中が走って来た。
クレイとトムは梯子を登り、通風口から地上へ出た。クレイがトムを連れて自宅アパートへ戻ると荒らされた形跡があり、入り口付近では住人の少女が死んでいた。クレイは自宅に入って固定電話を確認するが、使えない状態だった。「メールは安全かな。君の携帯で家族にメールしたい」と彼が言うと、トムは自分の携帯を渡した。クレイはメールを打つが、送信できなかった。彼はトムに「冷凍庫に入れろ。充電が長持ちする」と言われ、指示に従った。
その夜、クレイとトムが話していると、ドアが激しくノックされた。クレイが相手を確認すると、上の階に住むアリスという少女の声がした。アリスが正常だと判断したクレイは、ドアを開けて中に招き入れた。アリスは血まみれで狼狽しており、「ママを殺した。この服を脱ぎたい」と言う。クレイは別れた恋人が置いていった服を着るよう促し、シャワーを使わせた。電気は使えないので、彼は蝋燭に火を付けてアリスに貸した。
クレイは妻子が難を逃れている可能性は高いと考え、夜が明けたらケントポンドへ捜しに行くつもりだった。シャワーを済ませたアリスが「移動するなら連れてって」と言うと、クレイとトムは承知した。トムの携帯が鳴るが、彼はすぐに切った。翌朝、異様な様子の人々が群れを成して移動する様子を、クレイたちは窓から観察する。3人は金属バット、バール、ゴルフクラブを武器として携帯し、周囲に注意しながらアパートを出た。
群れを目撃したクレイたちが隠れていると、バイクのカップルがやって来た。群れはカップルに襲い掛かり、その間にクレイたちは逃げる。しばらく進むと群れはいなくなり、3人は「銃所持の権利を行使中」という警告の看板を出している家を発見した。銃を手に入れようと考えたクレイたちが中に入ると、家族は死んでいた。3人は室内を探って銃を集め、トムが弾丸を装填した。アリスは窓の外に目をやり、裏庭でブランコを漕ぐ少年に気付いた。クレイたちは歩み寄るが、少年が襲い掛かろうとしたのでトムが射殺した。
周囲から群れが集まって来たので、クレイたちは雑木林を走って逃亡した。クレイたちは近付く者を射殺するが、行く手を川に塞がれてしまった。3人は裏返しで放置されているボートを見つけ、その下に隠れた。夕日が沈んでいく中で、群れは一斉に口を開けた。奇妙な電波音を発した後、群れはゆっくりと立ち去った。トムは「日が沈むと活動を終えるらしい」と言い、クレイは「電波(パルス)が奴らを1つにした」と分析する。
しばらく移動したクレイたちは、ガイテン・アカデミーという寄宿舎を通り掛かった。すると校長のアーダイと奨学生のジョーダンが玄関の外にいて、「ようこそ。余っている寝床を提供します」と申し出た。他の面々は逃げ出すか、携帯で変貌してしまったのだとジョーダンは話す。3人はアーダイの案内でチータム・ロッジヘ向かう途中、競技場を埋め尽くすようにして寝ている群れを目撃した。競技場には音楽が流れており、アーダイは「音楽が流れている間は安全だ」と言う。その証拠として彼は群れの1人を包丁で突き刺し、何の反応も無いことを見せた。
群れは全員が携帯を所持していたが、そこから音楽が聞こえているわけではなかった。音楽は群れの口から発信されており、アーダイは「彼ら自身が送信機だ。新たな能力だろう。急激に変化している」と語る。ロッジに到着すると、アーダイは「彼らの真社会性はハチやアリのようだ。群れのために行動し、競争心は皆無だ」と話す。夜間に彼らが目を開けて音楽を聴いている理由について、「再起動だ」と彼は言う。その上で彼は、「彼らが睡眠を減らしたら?闇を恐れなくなったら、どうなると?」と口にした。
アーダイはガソリンで群れを一斉に焼き払う計画を明かし、「駐車場に給油ポンプがある。芝生用の散水機を乗せたトラックが使える」と口にする。クレイとトムはトラックでガソリンを散布し、アーダイが競技場に火を放った。火の海から立ち上がってくる連中もいたが、クレイたちが発砲して始末した。引火して車が爆発し、アーダイが巻き込まれて死亡した。クレイたちは寄宿舎を出発し、翌朝には雑貨店へ辿り着いて睡眠を取った。
クレイはトイレで赤いフードの男が女を殺している悪夢を見て、目を覚ました。するとトム、アリス、ジョーダンも、状況こそ違えど同じ男が夢に出て来たことを語る。クレイは赤いフードの男が『闇夜の旅人』の登場人物であり、世界の終末を予言すると説明した。一行が外へ出ると、トムとアリスの携帯に非通知の番号から電話が入った。アリスは携帯を捨て、4人は出発する。しばらく歩いていると、雪の中に一軒の酒場があった。その看板には、「カシュワク=ノー・フォ」という意味不明な文字が書かれていた。
クレイたちが警戒しながら酒場のドアをノックすると、バーテンダーが銃を構えながら出て来た。クレイたちが店に入ると、バーテンダーの他にジェフとサリーという客がいた。カシュワクの意味をアリスが訊くと、ジェフは「非法人地域のことだ。近くに似た名前の湖がある。パルスを免れた者の避難所だ」と言い、サリーは「明日になったらカシュワクへ行くつもり」と話す。クレイはトムから『闇夜の旅人』の結末を問われ、「連載中で、まだ完結してない」と答える。
その夜、ソファーで眠っていたサリーは目を覚まし、ドアの施錠が気になって確かめに行く。ドアに耳を近付けていた彼女は、パルスを聴いてしまった。目覚めたクレイが銃を持って歩み寄ると、後ろからバーテンダーが現れて襲い掛かる。全員が目覚めて乱闘が展開され、クレイ、トム、ジョーダンだけが生き残った。彼らはアリスを埋葬して酒場を出発し、中年男のレイと妊娠している少女のデニースに遭遇する。デニースはクレイたちに、「カシュワクが圏外なんて嘘。行ったら奴らの餌食よ」と教える。レイもクレイたちと同様、赤いフードの男を夢で見ていた…。

監督はトッド・ウィリアムズ、原作はスティーヴン・キング、脚本はスティーヴン・キング&アダム・アレッカ、製作はリチャード・サパースタイン&マイケル・ベナローヤ&ブライアン・ウィッテン&シャラ・ケイ、製作総指揮はジョン・キューザック&スティーヴン・ヘイズ&ピーター・グレアム&ベン・サックス&パディー・カレン&エドワード・モクタリアン&アルメン・アゲアン&ローレンス・フリード&タイラー・ホーズ&ブライアン・ポープ&ジェノ・タッツィオーリ&ザヴィエ・ジャン&マリーナ・グラシック&ジャン・コルベリン、共同製作はマーク・レイナー&ジェームズ・レジセク&ベン・インスラー、共同製作総指揮はエドモンド・モクタリアン&グラハム・ロビンス、製作協力はサーレハ・スーラ&ヴァグラム・シャルヴァージャン&ノルヴァン・マーディロジアン&アレックス・バヌエロス、撮影はマイケル・シモンズ、美術はジョン・コリンズ、編集はジェイコブ・クレイクロフト、衣装はロレイン・コッピン、音楽はマーセロ・ザーヴォス、音楽監修はアンディー・ロス。
出演はジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソン、イザベル・ファーマン、ステイシー・キーチ、オーウェン・ティーグ、クラーク・サルーロ、アンソニー・レイノルズ、エリン・エリザベス・バーンズ、イーサン・アンドリュー・カスト、ジョシュア・ミケル、ジェフリー・ホールマン、マーク・アッシュワース、ウィルバー・フィッツジェラルド、キャサリン・ダイアー、E・ロジャー・ミッチェル、アレックス・ター・アヴェスト、ギャビー・レイナー、レイ・エルナンデス、フレデリック・C・ジョンソンJr.、マイケル・ビーズリー他。


スティーヴン・キングの同名小説を基にした作品。
脚本は原作者のスティーヴン・キングと『ラスト・ハウス・オン・ザ・レフト -鮮血の美学-』のアダム・アレッカが共同で務めている。
監督は『ドア・イン・ザ・フロア』『パラノーマル・アクティビティ2』のトッド・ウィリアムズ。
クレイをジョン・キューザック、トムをサミュエル・L・ジャクソン、アリスをイザベル・ファーマン、チャールズをステイシー・キーチ、ジョーダンをオーウェン・ティーグ、シャロンをクラーク・サルーロ、レイをアンソニー・レイノルズ、デニスをエリン・エリザベス・バーンズが演じている。

「それを言っちゃあ、おしめえ」ってことを、いきなり言ってしまおう。
ようするに、これはゾンビ映画なのだ。「でもマトモにゾンビ物をやったら二番煎じどころの話じゃないし、だから別の存在としてゾンビ物を描こう」ってことで、こういう形を取っているだけなのだ。「携帯でイカれた連中が襲ってくる」という話にしてあるけど、実質的にはゾンビ映画だ。
ゾンビと違って噛み付いたり肉を食らったりはしないし、襲われた奴が復活することも無いよ。でも、それは「ゾンビじゃないのよ」という言い訳みたいなモンでね。
もっとハッキリ言ってしまうと、これってスケールの小さいスティーヴン・キング版『ワールド・ウォーZ』だよ。

クレイが地下鉄に逃げ込んだ時点で、かなり大勢の生存者が避難している。クレイが脱出を目指そうとすると、反対意見が出る。
それはセオリー通りの手順であり、『ポセイドン・アドベンチャー』みたいに、クレイに賛同する数名だけが一緒に移動する展開になるんだろうってのは容易に想像が付く。
ただし予想外だったのは、一緒に行くのが案内役のトム以外はマイクだけってことだ。
その段階で、そこまで人数を削っちゃうのかと。もうちょっと数は多くてもいいんじゃないかと。

しかも、トンネルを出ることもないままマイクは殺されて、あっという間にクレイとトムの2人だけになっちゃうんだよね。
それを考えると、ますます「もう少し増やしておいた方が良くないか」と言いたくなる。
どうせ大半のキャラは、殺されるためだけに出て来たような存在で終わることになるだろう。でも、それで別にいいわけでね。
そりゃあ、空港のシーンでは死体がゴロゴロと転がっていたし「大勢が殺されている」という状況は伝わるよ。だけど、「クレイの仲間になった連中が次々に殺される」という描写を入れた方が、恐怖を煽るという意味でも、もっと効果が増すことは確実なわけで。

クレイたちは異変が起きても、しばらく何がどうなっているのか全く分からないまま行動している。もちろん、襲って来る連中の特徴など全く理解していないはずだ。
だが、それにしては「ボートの下に隠れる」という行動は、「相手はゾンビじゃないけど、ほぼゾンビ」という認識だとしか思えない。
そうじゃなかったら、そんなリスクの高い方法は選ばないだろう。何しろ、数十人どころじゃない群れが近くに迫っているわけで、ボートの下を覗かれたら一巻の終わりでしょ。
「実質的にはゾンビだから頭は良くない」という認識じゃないと、その選択を取るのはギャンブル性が高すぎるよ。
っていうか、そこで「群れが誰もクレイたちに気付かず、たまたま夕暮れ時だったので音を発して立ち去る」ってのは、なかなか都合の良すぎる展開だよな。

群れが去った後、クレイたちは移動を開始する。その時点では夜なのだが、カットが切り替わると朝になっている。
ってことは、就寝することなく夜通し歩き続けたってことなのか。
で、クレイとトムの会話が1ラリーあって、また夜になる。だったら、1日の経過って無意味じゃないか。
「夕暮れに群れが去って、夜になって歩き続けていたら寄宿舎に辿り着いた」ってことでも全く問題は無いでしょ。
そこで「あっという間に1日が経過」という手順を入れている意味がサッパリ分からない。

空港のシーンで何人かが殺される様子を描くのだが、そこが「ゾンビもどきによる殺戮シーン」のピークになっている。それ以降、そこを超える「ゾンビもどきの残虐殺人」は用意されていない。
前述したように、地下鉄構内でクレイに同行し、殺されるのはマイクだけ。反対して残った人々が殺される様子も描かれない。
地上へ出た後も、アパートでの殺人は無い。アパートを出た後、町ではカップルが襲われるだけ。
そこから寄宿舎に着くまで、全くゾンビもどきによる殺人は無い。そしてむしろ、クレイたちがゾンビもどきを殺す数の方が圧倒的に多い。寄宿舎では大量に始末しているしね。

その寄宿舎の大量抹殺シーンは、誰がどう考えたって「ゾンビもどきが目覚めて襲い掛かる」みたいな危機が訪れて、それに伴って犠牲者が出る展開に繋げなきゃダメなはずだ。
しかし、そこがヌルいのなんのって。
一応、アーダイは死んでいるけど、それはゾンビもどきに襲われての結果じゃないからね。ガソリンに引火して車が爆発し、それに巻き込まれての死亡だからね。
そりゃあゾンビもどきは夜間で機能停止しているけど、燃やされると立ち上がる奴らもいるんだから、そういう連中に襲わせりゃいいでしょ。

アリスは「ママを殺した」と激しく狼狽しているのだが、殺されたママの姿が写ることは無い。どういう経緯でママを殺すことになったかという説明も無い。
変貌しちゃったとは言え、自分の母親を殺したら心に深い傷を残して罪悪感に見舞われそうなものだが、そんな様子がアリスには全く見られない。
彼女が母親を殺したという設定が、全く有効活用されないまま話が進んでいく。
そして「その設定は有効活用しないのなら要らなくないか」と感じている間に、途中でアリスは死んでしまうのだ。
いや、せめて彼女が死ぬトコで使おうよ。

クレイたちが酒場に到着すると、しばらくは何の危険も不安も無い中で、ゆったりと過ごす時間が続く。
その中で、アリスの台詞によって、クレイがリズという女と浮気していたことが明かされる。
そしてクレイは、「息子と妻が重荷で、真っ暗な闇の中を旅していた」だの、「仕事もクソだと思っていて、自己嫌悪で妻を憎んだ」だの、「家を飛び出したが最初の夜に失敗だと気付いた」だのと、過去の心情や後悔を口にする。
だけど、「それで何か?」と言いたくなる。

クレイがシャロンへの後悔を抱いていても、それが物語の展開には何ら影響を与えていない。
極端なことを言ってしまうと、妻子がいない設定でも大して事情は変わらないのよね。
終盤に入ると「変貌したシャロンが襲い掛かる」という展開があるけど、クレイは容赦なく射殺しているし、そのことを全く引きずらないし。
その後には「クレイが息子を見つけるため、罠と知りつつもカシュワクへ向かう」という展開があるけど、息子との関係描写なんて皆無に等しいので、まるで物語を牽引する力が無いし。

レイは全員で移動を開始した後、起きていても幻覚を見ることをクレイだけに打ち明ける。そして爆弾を使い、自殺する。
どうやら「敵が正常な面々に悪夢を見せ、それによって少しずつ精神に異常をきたして支配されていく」という設定らしい。
でも、「パルスを聴いたらゾンビもどきに変貌する」という話だったはずなのに、なんか別の話になってないか。
途中から「フードの男が出現する悪夢」という要素が入って来るけど、これが上手く絡み合っているようには到底思えないのだ。

「なぜコミックの男が夢に登場するのか」「なぜ全員が赤いフードの男を夢で見るのか」「パルスでゾンビもどきに変貌する現象と、どういう関係があるのか」というのは謎だが、それを解明しようとする動きは全く無い。
かなり重要な問題のように思えるのだが、クレイたちは少し気にするだけで、すぐに忘れ去ってしまう。そして最後まで、その謎は解明されないままで終了する。
ホラーってことを考えても、ある程度は謎が残ったままでもいいのよ。例えば「なぜパルス現象が起きたのか」とか、「なぜパルスでゾンビもどきに変貌するのか」とか、そういうトコに科学的な解釈や理路整然とした説明は要らない。
だけど、さすが本作品は食い散らかしたまま放置している問題が多すぎるわ。
悪夢やフードの男に関連する要素は、バッサリとカットしてもいいんじゃないかと思うぐらいだわ。

(観賞日:2018年5月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会