『スーパーヒーロー パンツマン』:2017、アメリカ

小学4年生のジョージとハロルドは、共同で漫画を書き上げた。ジョージが文章、ハロルドが絵の担当だ。パンツ星の人々はパンツ一枚だけで平和に暮らしていた。しかし敵が襲って来たので、王と王妃は幼い王子を逃がし、地球に落ちた王子はイルカの夫婦に育てられ、成長してハンツマンというスーパーヒーローになった。そんな内容の漫画だ。しかしクラップ校長に見つかり、「馬鹿げた漫画を描くなと何度も言ってるだろう」と漫画を破り捨てられた。クラッブは2人を校長室に呼び出し、今日は下水処理場を見学する予定だったのに中止になったことを話した。連絡ボードの文面を、ジョージとハロルドが書き換えていたのだ。
ジョージたちは「証拠は無い」と笑って否定するが、2人は入学してから何度もイタズラを繰り返してきた。「いつか思い知らせてやる」とクラッブは怒りを示すが、ジョージとハロルドは生意気な態度で軽く受け流した。教室に戻った2人は、クラスメイトのメルヴィンから「また叱られたらしいな」と言われる。「お前が告げ口したのか?」とジョージたちに問われたメルヴィンは、それを認めて「誰かが偉い人を守らないと」と告げる。「校長は守らなくてもいいんだよ。自分で自分を守れるさ」とジョージが反論すると、「それはどうかな」とメルヴィンは口にした。
「土曜日には全員参加の発明コンテストがあるので、自分の発明品を持って集合するように」とクラッブのアナウンスが入り、生徒たちは休みが潰れることを嘆いた。放課後、ジョージとハロルドは秘密基地のツリーハウスへ行き、新しい漫画を書き上げた。土曜日の朝になり、ジョージとハロルドは「ずっと遊べる」と浮かれるが、発明コンテストだと思い知らされて一気に気持ちが沈んだ。生徒たちは講堂に集められ、壇上に立ったメルヴィンが17個の発明品を紹介した。しかしジョージとハロルドは退屈に見舞われ、会場も盛り上がらない。ジョージは「何とかしよう」とハロルドに持ち掛け、発明品のトイレロボに細工を仕掛けて暴走させる。トイレロボがトイレットペーパーを次々に発射してメルヴィンを吹き飛ばすと、生徒たちは盛り上がった。
クラップはジョージとハロルドを呼び出し、メルヴィンに頼んでおいた監視カメラの映像を再生した。すると2人がトイレロボに細工する姿が写し出されており、クラップは「罰として別々のクラスになってもらう」と通告した。ジョージとハロルドは監視カメラを奪おうと考え、クラップの行動を密かに観察する。クラップと調理員のイディスが話す様子を見たハロルドは、2人が惚れ合っていると気付いてジョージに教えた。
クラップが校長室を去った後、2人は部屋に忍び込んで監視カメラを探した。しかし没収された所持品を見つけて時間を浪費してしまい、クラップが戻って来た。彼は監視カメラを持ち歩いており、別のクラスする書類に署名しようとする。ジョージは咄嗟にシリアルのオマケの催眠リングを突き付け、「言うことを聞かないと眠くなる」と言う。クラップは軽く笑い飛ばすが、催眠状態に陥ってしまう。ジョージとハロルドが指を鳴らすと、彼は命令通りに行動した。そこでジョージたちは、クラップをパンツマンに変身させた。
クラップがパンツ一丁でスーパーヒーローに成り切るので、2人は大笑いする。しかし彼が窓から飛び出して街へ向かったので、慌てて後を追った。クラップが悪党退治と思い込んで騒ぎを起こすので、ジョージとハロルドはツリーハウスへ連れ帰った。水を浴びせれば元に戻したり再び変身させたり出来ると知り、ジョージとハロルドはクラップを眠らせて自宅へ連れて行く。彼らはクラップの家を調べ、独りぼっちで何の面白味も無いと感じた。
翌日、調子に乗ったジョージとハロルドは派手な格好で登校し、クラップに叱責される。クラップがクラスを別々にする書類に署名しようとすると、ジョージたちは指を鳴らす。クラップがパンツマンに変身して大声を出したので、2人は慌てて近くの部屋に押し込めた。彼らはクラップに服を着せ、校長のフリで潜入捜査するよう指示した。2人がクラップを校長室へ連れて行くと、理科教師募集のチラシを見たP教授という男が待っていた。彼は復讐目的の邪悪な発明家であることを堂々と発言するが、クラップは採用を決めてしまった。
Pはジョージとハロルドのクラスに来て、世の中から笑いを消し去る目的を語る。ジョージたちはPのファイルを見て、本名が「ピーピーおもらし」だと知る。そのことを彼らが漫画を使って暴露したため、Pは生徒たちから嘲笑を浴びるようになる。かつてPはノーベル賞を受賞するほどの大発明をしたが、本名のせいで嘲笑されて激昂したことがあった。Pはクラップに漫画を見せ、ジョージとハロルドを閉じ込めるべきだと訴える。しかし催眠状態にあるクラップは、「これは最高の本だ。全てのクラスで教えるべきだ」と告げた。
他の生徒と違ってメルヴィンが本名を知っても笑わなかったため、Pは彼の脳を研究する。彼は笑いを司るハハガハガハクスクス皮質が脳内に存在しないことを知り、目的を達成できると確信する。一方、クラップは子供たちを楽しませるため、カーニバルを学校に呼んだ。彼が水を浴びて何度も正気を取り戻そうになるので、その度にジョージとハロルドは指を鳴らす。しかし雨が降り出してしまい、ジョージとハロルドはクラップの怒りを買った。
ジョージとハロルドはクラスを別々にされ、絶望感に打ちのめされた。同じ頃、Pはメルヴィンのトイレロボを巨大化し、小学校の廃棄物を燃料に使用する。彼はハハガハガハクスクス皮質を機能不全にする光線をトイレロボに搭載させ、小学校を襲撃する。生徒たちが彼の本名を嘲笑すると、光線を浴びせて笑いを奪い取った。ジョージとハロルドはPを止めるため、クラップをパンツマンに変身させて立ち向かわせる。しかしクラップは簡単に捕まって便器に放り込まれ、ジョージとハロルドも光線を浴びせられる…。

監督はデヴィッド・ソーレン、原作はデイヴ・ピルキー、脚本はニコラス・ストーラー、追加脚本はデヴィッド・ソーレン、製作はミレーユ・ソリア&マーク・スウィフト、製作総指揮はデイヴ・ピルキー&ロブ・レターマン、編集はマシュー・ランドン、美術はネイト・ラッグ、ヘッド・オブ・ストーリーはハミッシュ・グリーヴ、視覚効果監修はデヴィッド・デュラク、音楽はセオドア・シャピロ、歌曲製作総指揮はアダム・アンダース。
声の出演はケヴィン・ハート、エド・ヘルムズ、ニック・クロール、トーマス・ミドルディッチ、ジョーダン・ピール、クリステン・シャール、ディー・ディー・レッシャー、ブライアン・ポセーン、デヴィッド・ソーレン、メル・ロドリゲス、スーザン・フィッツァー、リンアン・ゼイガー、ティファニー・ベニク、ジェームズ・ライアン、レスリー・デヴィッド・ベイカー、シュガー・リン・ベアード、レスリー・ニコル、クリス・ミラー、ココ・ソーレン他。


デイヴ・ピルキーによる同名の児童書を基にした長編アニメーション映画。
ドリームワークス・アニメーションが『ボス・ベイビー』の次に公開した作品。
監督は『ターボ』のデヴィッド・ソーレン。脚本は『ザ・マペッツ』『コウノトリ大作戦!』のニコラス・ストーラー。
ジョージの声をケヴィン・ハート、クラップをエド・ヘルムズ、Pをニック・クロール、ハロルドをトーマス・ミドルディッチ、メルヴィンをジョーダン・ピール、イディスをクリステン・シャールが担当している。

この映画を観賞する上で注意しなきゃいけないのは、「ジョージたちと同じ年代の感覚になる」ってことだ。
そもそもローティーン向けのアニメーション映画だから、それに見合った年齢層の観客であれば、何の問題も無いだろう。
しかし、そんな子供たちの保護者だって作品を見る可能性はあるし、大人だって見ることはあるだろう。ドリームワークスのアニメーションだしね。
でも、「これは大人も楽しめる類の映画じゃなくて、ちびっ子じゃないと無理ですよ」ってことを、あらかじめ注意しておく。

「大人の感覚で観賞するのはキツい」ってことは、冒頭から早くも明らかになっている。
ジョージとハロルドが入学から繰り返してきたイタズラの数々がザッと紹介されるのだが、「もはや犯罪だろ」と言いたくなるぐらいドイヒーなことになっている。
ジョージとハロルドはヘラヘラと笑っているし、まるで悪びれちゃいないけど、イタズラの限度を越えている。
これが「理不尽な大人たちへの仕返し」ってことなら爽快感もあるだろうけど、そうじゃないからね。一方的に攻撃しているだけだからね。

ジョージとハロルドは度を超えたイタズラを繰り返すだけでなく、叱責されても生意気な態度を取る。何の反省もしないどころか、もっと攻撃してやろうという気持ちを燃え上がらせる。
ジョージとハロルドは小学校を刑務所と同じだと評し、つまらなそうにしている他の生徒たちの姿を映し出す。そしてジョージとハロルドは、「俺たちのイタズラは、横暴な校長に対する最後の砦だ」と自分たちの行為を正当化する。
だけど、校長が横暴になったのは、彼らがイタズラを繰り返していたせいじゃないのかと邪推したくなる。何しろ、入学した当時から始まっているし。
あと、基本的には自分たちが楽しみたいからイタズラを繰り返しているだけであって、それを見て他の子供たちが楽しんでいるわけではない。そういう意味でも、「最後の砦だ」という主張は詭弁でしかないのよ。

それでもジョージたちと同じ年代の子供であれば、たぶん「楽しいイタズラ」ってことで素直に笑えるのだろう。先生が酷い目に遭う様子を見ても、もちろん何の罪悪感も抱かないのだ。幼い子供ってのは、悪意を持たずに平気で人を傷付けることが出来るからね。良くも悪くも純粋なので、それが酷い行為だという感覚は乏しい。
でも大人の感覚で見てしまうと、「クソガキだな」と顔をしかめたくなる可能性がある。
そして、クラッブがジョージとハロルドを厳しく叱責するのも、「こいつらが酷いことを繰り返してきたせいだろ」と言いたくなるだろう。
劇中では「クラッブが意地悪だから楽しいことを取り上げようとする」という設定だけど、「ジョージたちが楽しいと思うことは周囲に多大な迷惑を掛ける行為が多いんだから、それを取り上げるのは当然だ」と思うだろう。

生徒たちは普通に授業を受けているだけなのに異常なほど陰気だったり、発明コンテストの朝は連行される囚人のように全員が頭を垂れている。
これも不自然な描写に思えるかもしれないが、きっとジョージたちと同じ年代だったら「授業はつまらないから刑務所みたい」とか「土曜日に登校するなんて悪夢のようだ」と共感できるはず。
もし出来なかったとしたら、たぶんメルヴィンと似たようなタイプの勉強が好きで真面目な子供なんじゃないかな。
そうか、そう考えると、ただ「同じ年代」ってだけじゃ足りないのか。「ジョージたちのように、勉強が嫌いで遊びが大好きな子供」という条件が必要になるのか。

クラップは憎まれ役として登場するので、とにかく嫌な態度を取り続ける。ただ、やってることだけを冷静に見れば、そんなに理不尽な行動は取っていない。
ジョージとハロルドがイタズラを繰り返すので、注意するのは当たり前。罰として別のクラスにするってのも、酷い処分だとは思えない。むしろ、両親にも知らせず、その程度で済ませているんだから、かなり穏便な処分と言っていいだろう。
それなのにジョージたちが「クラスが別れたら友情も終わりだ」と言い出すのは、「いや違うし」と言いたくなる。
同じ学校なんだし、休み時間や放課後は普通に会えるだろ。もしクラスが離れただけで終わるのなら、そんな友情なんてニセモノだろう。
しかし、たぶん「小学4年生にとっては人生を左右するような大きな問題」と受け止めなきゃいけないんだろう。

クラップがクラスを別々にする書類にサインしようとすると、ジョージは催眠リングを突き付ける。
お菓子のオマケで何の力も無いはずだが、クラップはホントに催眠に掛かってしまう。
そのリングは直前に回収した物であり、行き当たりばったりで計算能力が無いと感じるかもしれないが、だとしたら幼少時代の純粋な気持ちを忘れている証拠だ。
幼い頃は、唐突だとか脈絡が無いだとか、そんなことは一切考えず、ただ「その場その場で楽しければいい」という感覚だったはずだ。

Pは世の中から笑いを消し去ろと企んでおり、もちろん悪玉として描かれている。
しかし、ジョージとハロルドが彼をバカにして笑いを取るシーンを描くと、「そういう笑いなら消し去ろうとするのも分からんではない」と思ってしまう。
さらにジョージたちは、Pが隠そうとしていた恥ずかしい本名を暴露し、生徒たちの笑い者にする。
人が恥部だと思っていること、隠したいことを平気で言いふらして笑い者にするのは、普通に考えれば批判されるべき行為だ。真面目なことを言っちゃうと、差別や偏見に繋がることだしね。

だけど幼い子供ってのは、そういうことを平気でやっちゃうでしょ。そういう意味では、「小学4年生を正しく描いている」と言っていいだろう。
そして同じ年代なら、そういう「人を傷付ける笑い」には何の不快感も抱かずに済むはずだ。
だからジョージとハロルドは、自分たちがPを傷付けたことを全く反省しない。そしてクラップをパンツマンに変身させ、調子にのって騒ぎを起こしたことも全く反省しない。2人は全面的に肯定されたままで、映画は終わる。
ここまでダラダラと褒め殺しの垂れ流しを続けてきたわけだが、ホントはこんなクソみたいに心の歪んだ人間が見ちゃいけない類の映画である。

(観賞日:2021年2月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会