『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』:2016、アメリカ

1991年、ヒドラのヴァシリー・カルポフは捕まえたバッキー・バーンズをシベリア基地で洗脳し、任務を命じた。バッキーはハワード・スタークと妻のマリアを殺害し、超人血清を奪った。現在のラゴス。スティーヴ・ロジャースはアベンジャーズのナターシャ・ロマノフ、サム・ウィルソン、ワンダ・マキシモフと共にブロック・ラムロウを張り込んでいた。ゴミ収集車の運転手が武装していると知った彼らは、ラムロウの一味だと確信する。ゴミ収集車は感染症研究所に突入し、中からラムロウと手下たちが現れた。
ラムロウたちは研究所を襲撃し、生物兵器を奪って逃亡を図る。スティーヴたちは手分けして戦い、一味を倒して生物兵器を奪い返そうとする。スティーヴはラムロウを捕まえるが、「バッキーはお前を知ってたぜ」と言われて動揺する。ラムロウは「奴からの伝言だ。死ぬ時は死ぬしかない」と告げ、スティーヴを道連れにして自爆しようとする。それに気付いたワンダはラムロウを吹き飛ばすが、そのせいで近くのビルが大破してしまい、ワカンダの親善使節団11名が死亡した。
トニー・スタークは大学でセプテンバー基金奨学金について講演し、全ての研究に無条件で金を出すと約束して学生たちの喝采を浴びた。その会場には、基金の代表であるペッパー・ポッツが来ていなかった。講演を終えたトニーは国務省人事課職員のミリアム・シャープに声を掛けられ、無償で金を出すのは罪滅ぼしが理由なのかと質問される。ミリアムは「息子のチャーリー・スペンサーはソコヴィアで貴方に殺された。息子の恨みは誰が晴らしてくれる?」とトニーを睨み付けて問い掛け、その場を去った。
ラゴスの一件は国際的な批判を浴び、ワカンダ国王のティ・チャカも糾弾した。ワンダが罪の意識に苛まれていると、スティーヴは「僕らの使命は人々を救うことだ。でも全員は救えない。その覚悟が無いと、次の時に誰も救えなくなる」と述べた。そこへヴィジョンが来て、トニーがロス国務長官と共に来たことを知らせた。長官は世界中でアベンジャーズによる多くの犠牲が出ていることを指摘して「各国政府は、もう黙っていない」と言い、ソコヴィア協定が提案されたことを教えた。
ソコヴィア協定が締結されるとアベンジャーズは国連委員会の監視下に置かれ、委員会が認めた場合に限って出動することが可能になる。既に117ヶ国の首脳が賛同しており、3日後にウィーンの会議で正式に調印されることが決まっていた。長官はスティーヴたちに話し合うよう促すが、実質的には署名を要求する通告だった。同じ頃、ヘルムート・ジモはクリーヴランドにいたカルポフを捕まえて、「ヒドラは滅んで当然だ」と言う。彼はカルポフを拷問し、1991年の任務記録について情報を教えるよう迫った。カルポフが拒否すると、ジモは彼を殺して記録ノートを奪い去った。
ヴィジョンはスティーヴたちに、「私たちが敵を呼び寄せ、それによって争いが起きる。監視は無視できないアイデアだ」と言う。トニーはチャーリーの死に言及し、「ここには意思決定プロセスが無い。チェックを受けるべきだ」と告げる。スティーヴは真っ向から反対するが、ナターシャやローディーは署名に賛同した。スティーヴはペギー・カーターの死去をメールで知り、ロンドンへ出向いて葬儀に参加した。そこで彼は、エージェント13のシャロンがペギーの姪だと知った。
葬儀の後でナターシャがスティーヴの元に現れ、自分とトニー&ローディー&ヴィジョンが署名したこと、クリント・バートンは引退を決めたことを話す。ウィーンの調印会議に出席すると言うナターシャに、スティーヴは署名の意志が無いことを告げた。ナターシャは会議に出向き、チャカの息子であるチャラに声を掛けられた。そこにチャカが来たので、ナターシャはソコヴィアの一件を謝罪した。チャカがスピーチしている時、チャラは会場の外にある中継車の異変に気付いた。彼は慌ててチャカを守ろうとするが、中継車に仕掛けられた爆弾が起動した。激しい爆発が起き、チャカを含む12名が死亡した。
スティーヴはテレビのニュースを見て、映像に写っていたバッキーが爆破事件の容疑者とされていることを知る。チャラはナターシャから「バーンズの捜査は当局に任せて」と言われるが、「奴は私が殺す」と告げる。ナターシャはスティーヴから電話を受け、「バーンズが大切なのは分かるけど、貴方が動けば事態が悪化する」と忠告する。しかしスティーヴは「彼を止めるには僕が捕まえるしかない」と言い、サムと行動することにした。シャロンはスティーヴたちに、バッキーの射殺命令が出ていることを伝えた。
スティーヴはブカレストへ赴き、隠れ家にいたバッキーに接触した。しかしバッキーは説得に耳を貸さず、隠れ家から去ろうとする。特殊部隊が攻撃して来ると、スティーヴは彼らと戦ってバッキーを逃がした。チャラはブラックパンサーに変身し、バッキーに襲い掛かった。サムに妨害されたチャラは、逃げるバッキーを追い掛ける。スティーヴ、チャラ、バッキーが対峙しているところへローディーが駆け付け、降伏を要求した。特殊部隊が取り囲み、スティーヴたちを拘束した。
スティーヴたちはベルリンに移送され、エヴェレット・K・ロス副司令官と会う。スティーヴがバッキーの処遇について訊くと、副司令官は「心理鑑定後に送還される」と説明する。スティーヴは弁護士を付けるよう要求するが、副司令官は却下した。スティーヴは武器を没収され、トニーからソコヴィア協定に署名するよう説得される。しかしワンダがヴィジョンの監視で軟禁されていることを知り、スティーヴは腹を立てて署名を拒絶した。
鑑定医に化けたジモは、バッキーと面会して尋問を始めた。その様子をモニターで見ていたスティーヴは、バッキーが誰かにハメられたのではないかと推理する。木箱が発電施設に届くと、ジモは配達完了の連絡を受けた。木箱には爆弾が入っており、ベルリンの施設では停電が発生する。原因究明のためスティーヴたちが動き出す中、ジモはノートを使ってバッキーを再洗脳する。バッキーはジモに服従し、拘束しようとするスティーヴやトニーたちを叩きのめした。
バッキーは屋上へ行き、ヘリを奪って脱出しようとする。スティーヴはヘリの離陸を阻止し、バッキーを捕まえて廃工場に連れ込んだ。正気に戻ったバッキーは、スティーヴとサムに「敵は俺が捕まっていたシベリアの施設の場所を知りたがっていた」と話した。その理由を問われた彼は、「ウィンター・ソルジャーは俺だけじゃない」と言う。カルポフはバッキーが奪った血清を大勢の面々に投与し、暗殺部隊を作ったのだ。スティーヴはトニーたちに協力を要請できない状況となっていたが、サムが「当てがある」と告げた。
トニーは長官から、スティーヴやバッキーたちへの対処について「君には任せられん。特殊部隊を出す」と言われる。トニーが「銃撃では彼らに敵いません」と出動を要請すると、長官は36時間の猶予を与えた。人手は足りなかったが、トニーにもナターシャにも当てがあった。トニーはクイーンズへ赴き、叔母のメイと暮らすピーター・パーカーに会う。トニーはピーターがスパイダーマンとして行動している動画を見せ、協力を依頼した。
クリントはワンダの元に現れ、一緒にスティーヴを助けようと告げる。ワンダが「また問題が起きる」と消極的な態度を示すと、クリントは「償いたいなら行動しろ」と促した。ワンダは阻止しようとするヴィジョンの動きを封じ、クリントと共に施設を脱出した。クリントとワンダはスコット・ラングを連れて、スティーヴたちと合流した。スティーヴは協力してくれたシャロンとキスを交わし、シベリアへ飛ぶため空港に向かう。しかしトニーたちが待ち受けており、アベンジャーズ同士の全面対決が勃発する…。

監督はアンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ、原作はジョー・サイモン&ジャック・カービー、脚本はクリストファー・マルクス&スティーヴン・マクフィーリー、製作はケヴィン・ファイギ、製作総指揮はルイス・デスポジート&ヴィクトリア・アロンソ&パトリシア・ウィッチャー&ネイト・ムーア&スタン・リー、共同製作はミッチ・ベル&クリストフ・フィッサー&ヘニング・モルフェンター&チャーリー・ウォーバッケン、製作協力はラース・P・ウィンザー&トリン・トラン&アリ・コスタ、撮影はトレント・オパロック、美術はオーウェン・パターソン、編集はジェフリー・フォード&マシュー・シュミット、衣装はジュディアナ・マコフスキー、視覚効果監修はダン・デレウー、視覚効果プロデューサーはジェン・アンダーダール、音楽はヘンリー・ジャックマン、音楽監修はデイヴ・ジョーダン。
出演はクリス・エヴァンス、ロバート・ダウニーJr.、スカーレット・ヨハンソン、セバスチャン・スタン、アンソニー・マッキー、ドン・チードル、ジェレミー・レナー、ダニエル・ブリュール、ウィリアム・ハート、チャドウィック・ボーズマン、ポール・ベタニー、エリザベス・オルセン、ポール・ラッド、エミリー・ヴァンキャンプ、マリサ・トメイ、トム・ホランド、フランク・グリロ、マーティン・フリーマン、ジョン・カニ、ジョン・スラッテリー、ホープ・デイヴィス、アルフレ・ウッダード他。
声の出演はケリー・コンドン。


『キャプテン・アメリカ』シリーズ第3作。
監督は前作に続いてアンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソが担当。脚本はシリーズ1作目から3作連続でクリストファー・マルクス&スティーヴン・マクフィーリーが担当。
スティーヴ役のクリス・エヴァンス、バッキー役のセバスチャン・スタン、サム役のアンソニー・マッキー、ワンダ役のエリザベス・オルセン、シャロン役のエミリー・ヴァンキャンプ、ブロック役のフランク・グリロは、前作からの続投。
「マーベル・シネマティック・ユニバース」からは、トニー役のロバート・ダウニーJr.、ナターシャ役のスカーレット・ヨハンソン、ローディー役のドン・チードル、クリント役のジェレミー・レナー、ロス役のウィリアム・ハート、ヴィジョン役のポール・ベタニー、スコット役のポール・ラッドが登場。また、単独主演作に先んじてチャラ役のチャドウィック・ボーズマンとピーター役のトム・ホランド、さらにメイ役のマリサ・トメイも登場。
他に、ジモをダニエル・ブリュール、エヴェレットをマーティン・フリーマンが演じている。

『キャプテン・アメリカ』シリーズの第3作なのだから、普通に考えれば1作目と2作目を見ていれば物語に付いて行けるはずだ。
しかし残念ながら、それでは全く足りていない。最低でも『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』は見ておく必要がある。
なぜなら、これはハルクとソーがいないだけで、実質的に『アベンジャーズ』シリーズの第3作と言ってもいい内容だからだ。
アベンジャーズの連中が何人も出て来るし、「ゲストとして少しだけ絡む」ということじゃなくてガッツリと戦っている。
『アベンジャーズ』シリーズと住み分けが出来ておらず、すっかり浸食されている。

ウィーンでチャラが登場すると、「皆さん御存知ですよね」みたいな見せ方になっている。だけど、そこが彼の初登場なのだ。
チャカはTVのニュースで写っていたが、その息子であることも、まだ紹介されていない。だから「いや誰だよ」と言いたくなる。
っていうか、ここまでガッツリとブラックパンサーを登場させること自体、賛同しかねる。
これまでMCUでは、先に単独主演作を発表してから他の作品にゲスト出演する形を取って来た。それなのに、ここに来て二匹目のドジョウを狙って失敗したDCエクステンディッド・ユニバースと同じ過ちをやらかしているとしか思えない。

ブラックパンサーだけでなく、スパイダーマンも単独主演作より前に「アベンジャーズの一員」としてガッツリと話に絡んで来る。これまでのアベンジャーズのメンバーだけじゃなく、スティーヴのチームとトニーのチームに、それぞれ新たにアントマンとスパイダーマンが参加する形となっている。
なのでハルクとソーがいなくても、「だから『アベンジャーズ』シリーズとは違う」という言い訳も成立しないような状態となっている。
『キャプテン・アメリカ』シリーズにおける主人公のスティーヴにしても、今回は完全に「アベンジャーズの一員」として動いているわけだから、それで『キャプテン・アメリカ』シリーズと言われても違和感があるわ。映画の内容にしても、完全にアベンジャーズを巡る話になっているわけだし。
ここまでやるなら、いっそのことハルクとソーも出せばいいのにと思っちゃうわ。この2人を出さなかった理由は、『アベンジャーズ』シリーズとの違いを付けるためだけじゃないかと思っちゃうわ。

ペギーは老女になってしまったものの、スティーヴからすると「最愛の女性」だったはずだ。
そんな女性が死去した直後なのに、シャロンと話しているシーンでは、そこにハッキリとロマンスの匂いが漂っている。
そこはダメな軽さを感じるぞ。しかも相手はペギーの姪だから、ますますダメな奴に見える。
そもそも、「恋愛にうつつを抜かしている場合じゃないだろ」という時期だし。
その場は喋るだけで済んでいるけど、後のシーンではキスまでしちゃってるので、ますます「そんな場合じゃねえわ」と言いたくなる。

ラゴスのシーン、スティーヴたちはゴミ収集車の運転手が武装していると知り、突っ込むと確信する。
でも彼らは一味の行動を食い止めることが出来ず、研究所を襲撃されて簡単に生物兵器を奪われている。
もちろん研究所に駆け付けて戦ってはいるものの、ラムロウを張り込んで余裕さえ感じさせる態度を見せていたことを考えると、行動が遅くないか。
生物兵器は奪還しているが、大きな犠牲が出る事件になったのは、余裕をカマしていたからじゃないかと言いたくなる。

ラゴスの一件を気にするワンダに、スティーヴは自分がバッキーの名を聞いて冷静さを失ったことを語り、「僕のせいだ」と言う。
ただ、その直後に「僕らの使命は人々を救うことだ。でも全員は救えない。その覚悟が無いと、次の時に誰も救えなくなる」と口にするのよね。
確かに全員を救うことは出来ないから、敵の攻撃で犠牲が出たとしても、即座に「テメエらが悪い」と責めるつもりは無い。だけどラゴスの件に関しては、アベンジャーズが過剰に暴れて犠牲者を出しているだけだからね。
人々を救おうとして救えなかったわけじゃないので、スティーヴの台詞は完全にピントがズレている。

シールドがヒドラに浸食されていたことを考えれば、国連だって同じような事態に陥る、あるいは既に陥っていることも充分に考えられる。
そもそも、国連が常に正しい判断をするとは限らないし、各国が都合良くアベンジャーズを利用しようと企む恐れもある。
ソコヴィア協定が機能不全になる可能性は高いので、そういう意味でスティーヴが署名に反対するのは理解できる。
ただし、彼が「犠牲者が出たから諦めるのか。それじゃ責任放棄になる」と主張し、過去の行動で多くの犠牲者が出たことに対して何の罪悪感も抱いていないのは、大いに引っ掛かる。

スティーヴの主張って、ザックリ言えば「自分たちこそ正義であり、正義を行使するためなら犠牲が出るのは仕方が無い」ってことなのよ。それって、ものすごく危険な思想に感じるぞ。
そんなことを何の迷いも無く堂々と主張する奴がキャプテン・「アメリカ」で、まさに「アメリカの正義」と重なる形となっている。
そういうトコに政治的なテーマを込め、社会派なメッセージでも発信しようとしているのか。
そういうのが声高になっちゃうのは素直に賛同しかねるけど、そこまで描いたのなら、キッチリと答えを出して収束させる責任があるはずだ。
でも実際のところ、途中で雑に放り出してしまうのだ。

何しろスティーヴはバッキーが容疑者になると、彼を救うために特殊部隊を攻撃するような行動に出てしまう。もはや国連がどうとか、正義がどうとか、そういう問題ではなくなっている。
そういう行動をスティーヴが取ったことで「お前は完全に間違っている」ってことになる。
後から「バッキーが爆破テロの犯人じなくてジモの策略だった」ってことは分かるけど、それでもスティーヴの取った行動が正当化されるわけではないし。
「バッキーは親友だから」ってことで特別扱いしちゃうと、そこまでのスティーヴの主張が浅くてバカバカしいモノと化してしまう。

スティーヴはトニーから「君の判断は偏っている。昨日、一般市民を殺した」と指摘されても、平然とした態度で「彼(バッキー)の他にも超人兵士が5人いる。あの医者を止めないと」と言う。
つまり、「大義のためなら一般市民が犠牲になっても屁とも思わない」ということになる。
それを何の罪悪感も迷いも無く主張できるのは酷い奴だと思うが、何しろ『キャプテン・アメリカ』シリーズなので、彼の主張が全面的に正しいという設定なのだ。
そしてトニーが非難され、味方だったはずのナターシャからも糾弾され、「間違っていた」と非を認めてスティーヴに協力するという流れになっている。
そりゃあトニーだってエゴが強すぎる部分はあるが、その苦悩や後悔から至った選択は理解できる。
でもスティーヴの場合、まるでダメだわ。

(観賞日:2019年1月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会