『新 感染半島 ファイナル・ステージ』:2020、韓国
韓国で謎のウィルスによる感染が爆発的に拡大する中、ハン・ジョンソク大尉は姉と夫のチョルミン、息子のドンファンを車に乗せて港へ向かっていた。途中で男が車の前に立ちはだかり、妻のミンジョンと幼い娘を港まで乗せてほしいと頼む。彼は「感染者ではありません」と訴えるが、服には血が付着していた。ジョンソクが警戒していると、夫婦は娘だけでも乗せてほしいと懇願する。しかしジョンソクは拒否し、そのまま走り去った。
ジョンソクたちは港から船に乗り、日本へ避難しようとする。しかし行き先が香港に変更されたことを知り、ジョンソクは担当の大佐の元出向いた。彼が説明よ要求すると、大佐は戻って指示を待つよう告げた。客室で感染者が発生したという連絡を受け、ジョンソクは急いで戻った。すると大勢の客が狂暴化して暴れており、ドンファンも感染していた。ジョンソクは姉を連れ出そうとするが、息子から離れようとしない。彼は仕方なく客室のドアを封鎖し、戻って来たチョルミンを必死で止めた。この船で感染者が発生したことを受け、周辺国は難民の受け入れを拒否した。
韓国が孤立して4年後。ジョンスクは香港裏社会のボスに呼び出され、チョルミン、中年女性、若い男と共に集められた。ボスは4人に、韓国へ潜入して大金を盗み出す仕事を持ち掛けた。ボスは2000万ドルを乗せたトラックを確保していたが、モクトンのオモク橋で連絡が途絶えていた。彼は「夜に潜入してトラックを奪え。夜ならゾンビは目が見えない」と言い、1人に付き250万ドルの分け前を約束した。彼は「今の状況を考えると、いつ難民に認定されてもおかしくないぞ」と説明し、4人は仕事を引き受けた。
ボスは海洋警察を抱き込んでおり、船は韓国に入ることが出来た。4人はボートで上陸し、車で移動した。トラックを見つけた4人は荷台を開け、大金の入った複数の鞄を確認した。チョルミンが死んだ運転手を引きずり出そうとすると、ゾンビ化して暴れ出した。ジョンスクが運転手を射殺すると、周囲から大量のゾンビが出現した。クラクションが鳴り響いたため、ゾンビがトラックに押し寄せた。4人は車とトラックに分乗し、現場から逃走した。
何者かが照明弾を次々に放ち、ゾンビ軍団を呼び込んだ。2台は衝突事故を起こして中年女性が死亡し、ジョンソクは外へ投げ出された。ジョンソクは銃を持ってゾンビと戦い、チョルミンはトラックの荷台に逃げ込んだ。ジュニという少女が車を運転してジョンソクに近付き、助かりたければ乗るよう促した。ジョンソクが後部座席に乗ると、助手席にはジュニの妹のユジンが座っていた。ジュニは巧みな操縦でゾンビを蹴散らしながら逃走し、ジョンソクは猛スピードの中で気絶した。ユジンは光るラジコンカーでゾンビ軍団を誘導し、ジュニをサポートした。
ファン軍曹が率いる第3小隊の連中は宣伝カーを使ってゾンビ軍団を追い払い、トラックに近付いた。照明弾を撃ち込んだのは彼らだった。運転席に逃げ込んでいた若い男が助けを求めると、ファンは躊躇せず始末した。彼らはチョルミンの存在に気付かず、トラックを奪った。ジョンソクが目を覚ますと、ユジンとジュニの暮らす隠れ家に着いていた。2人の指揮官はキム師団長と呼ばれる老人で、米軍司令部の依頼でバッテリーの捜索に向かったのだった。
ユジンとジュニは、バッテリーが無かったことを報告した。キム師団長が「新任のジェイン少佐は信頼できる」と言うと、米軍司令部を信じていないユジンは呆れ果てた。そこへユジンたちの母としてミンジョンが現れ、ジョンソクは驚いた。キム師団長は無線でジェインと話し、ジュニと喜び合った。ジョンソクはミンジョンから631部隊との関係を問われ、「631部隊は知らない。船で香港からインチョンに来た」と説明した。
ファンたちは631部隊の本部に戻り、荷台にチョルミンがいることを知った。ファンは部下たちに、チョルミンをかくれんぼに出せと指示した。ソ大尉の側近であるキム二等兵は、身勝手で偉そうなファンを快く思っていなかった。彼は荷台を調べ、大量のドル紙幣があることを知った。ジョンソクはミンジョンやジュニたちから、631部隊が民間人を助ける舞台だったこと、そこから逃げ出して何度もSOSを送ったが反応は無いことを聞かされた。キム二等兵はソ大尉に、ドル紙幣の存在を知らせた。
ジョンソクはミンジョンたちに、トラックに戻れば衛星電話があることを教えた。チョルミンは助命を嘆願して「衛星電話がある」と言うが、ポケットを探っても無かった。ソ大尉はトラックの荷台を調べ、衛星電話を発見した。ファンたちはチョルミンの上着を剥がし、腹部と背中にスプレーで61と書いてコンテナに監禁した。コンテナには他にも大勢の男が閉じ込められ、腹部と背中に番号が書かれていた。ソ大尉は衛星電話が鳴ったので、慌てて出た。するとボスの手下が、「どうした、夜が明けたぞ」と告げた。
チョルミンとコンテナの男たちは、その奥にある闘技場でゾンビの群れと戦うゲームに強制参加させられた。ソ大尉はボスの手下から、ジョンソクたちと同じ条件で金を運ぶ仕事を持ち掛けられた。韓国から脱出できると聞き、彼は承諾した。チョルミンは金を賭けた連中が見ている前で、ゾンビの群れから必死に逃げ回った。ミンジョンはジョンソクから話を聞き、トラックを奪ってインチョン港へ向かうことにした。日暮れを待って動こうと彼女が考えていると、キム師団長はジェインが来るまで待つべきだと反対する。ユジンがジェインを呼ぶよう要求すると、キム師団長は承諾した。
ジョンソクはミンジョンの計画を聞き、「イカれたジジイと子供を連れて、武装したトラックを奪う?」と呆れる。ミンジョンは冷たい視線を向け、「怖いなら残って」と告げた。ジュニはジョンソクから「なぜ俺を助けた?」と問われ、「ユジンが助けようと言ったから」と答えた。ユジンはジョンソクに、「天国に行ったパパが、弱い人を助けろって。貴方は弱い人に見えた」と話した。ソ大尉はキム二等兵の進言を受け、2人だけでインチョン港へ向かおうと決めた。
ジョンソクはキム師団長の無線機に触れ、ジェインと繋がっていないことを知った。彼はミンジョンに、4年前に会っていることを告白した。するとミンジョンは「なぜ今、そんな話を?後ろめたい?」と言い、31台の車が通り過ぎたことを語った。彼女はミンジョンたちを車に乗せ、隠れ家を出発した。途中で車を停めた彼女は、ジュニに「夜明けまでに戻らなかったら、3人で家に戻って」と指示し、銃を持ってミンジョンと共に631部隊の基地へ向かった。
ソ大尉は闘技場へ行き、「トラックに1ヶ月分の食料が積んであった。今夜のかくれんぼはエンドレスだ」と告げた。怪しんだファンは、彼の部屋に乗り込んで「何か隠してるな」と尋問する。しかし彼はソ大尉とキム二等兵が男色の関係だと誤解し、すぐに部屋を出て行った。基地に潜入したジョンソクとミンジョンは、トラックを発見した。そこへキム二等兵が近付くと、ミンジョンは銃を向けた。キム二等兵は一緒に連れて行ってほしいと頼み、ソ大尉が香港と話したこと、衛星電話を持っていることを教えた。
ジョンソクはミンジョンと別れ、闘技場へ向かった。ソ大尉がトラックに近付くと、ミンジョンはキム二等兵に銃を突き付けて衛星電話を渡すよう要求した。ソ大尉は隙を見て発砲するが命中せず、ミンジョンの反撃を受けて衛星電話を奪われた。ジョンソクは闘技場へ突入し、ゾンビの群れに銃弾を浴びせた。ファンたちが発砲しようとすると、ジョンソクは煙幕を張ってチョルミンを連れ出す。しかしファンは手下たちを率いて、すぐに追って来た。チョルミンはジョンソクを助けて、ファンに射殺された…。監督はヨン・サンホ、脚本はヨン・サンホ&リュ・ヨンジェ、製作はイ・ドンハ、共同製作はキム・ヨンホ、撮影はイ・ヒュンデク、美術はイ・モクウォン、編集はヤン・ジンモ、音楽はモーグ。
出演はカン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、イ・レ、クォン・ヘヒョ、キム・ミンジェ、ク・ギョファン、キム・ドゥユン、イ・イェオン、キム・キュベク、ファン・ユンヒ他。
2016年の映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編。
監督は前作に引き続いてヨン・サンホが担当。
出演者は前作から総入れ替えとなっている。
ジョンソクをカン・ドンウォン、ミンジョンをイ・ジョンヒョン、ジュニをイ・レ、キム師団長をクォン・ヘヒョ、ファンをキム・ミンジェ、ソ大尉をク・ギョファン、チョルミンをキム・ドゥユン、ユジンをイ・イェオン、キム二等兵をキム・キュベク、中年女性をファン・ユンヒが演じている。ジョンソクが夫婦の頼みを拒否して車で走り去る時、ミンジョンは幼い娘を抱いている。この時、娘は1人しかいない。
なので4年後に移ってジュニとユジンが登場した時、「ミンジョンの実の娘は片方だけで、もう一方は引き取って育てているだけ」みたいな設定なのかと思ってしまった。
でも実際は、どちらもミンジョンの娘なのだ。だったら、冒頭で1人しか娘を登場させない意味が分からない。
車の中に、もう1人いたってことなのか。たまたま画面には映らなかっただけってことなのか。
でも、そこで「2人の娘がいる」ってのを見せない意味なんて何も無いので、ただ整合性が取れていないだけにしか思えないぞ。前作は「走行する列車」という閉鎖された空間を使い、その中で大量発生したゾンビと人間の戦いを描いていた。しかし今回は、そういう趣向を使っていない。
「国中に感染が広がってゾンビが大量発生している」という世界観だけを引き継いだ、全く別の映画のようになっている。
監督やプロデューサーが同じだから「正式な続編」で間違いないんだけど、「続編っぽいタイトルを付けた全く無関係な映画」と説明されたら、それでも納得できてしまうような内容になっている。
「国中に感染が広がってゾンビが大量発生している」という世界観にしても、そんなのはゾンビ映画で良くある設定だから、そこに続編としての意味を見出すのは難しいし。冒頭、船の中で感染者が発生し、パニックになる。前作は列車が主な舞台だったので、今回は船かと思いきや、そうではない。プロローグとして短く片付けて、4年後に飛んでからの物語が本番だ。
船が主な舞台であれば、前作とは少し違った形で「閉鎖空間でゾンビが大量発生」という話が作れる。
途中で船から外へ出たとしても、泳ぐゾンビを出すとか、あるいは海中での戦闘を描くってことも出来るだろう。
でも実際は、「廃墟だらけになった韓国でゾンビと戦う」という話だ。どういう企画として立ち上がり、どういう構想を経たら、こんな仕上がりになるんだろうか。
せめて前作のキャラクターが再登場すれば続編らしさも出るだろうけど、それも無いし。会話の中で、前作のキャラクター名が出て来ることも無いし。
そんで全体的な印象としては、『マッドマックス』シリーズの世界観と、『バイオハザード』を組み合わせたような映画って感じかな。
もしかしたら、監督が好きな映画の要素を持ち込んだってことなのかな。ゾンビ映画で良くあるのは、「本当に恐ろしいのはゾンビより人間」というテーマを掲げることだ。シリーズ前作の『新感染 ファイナル・エクスプレス』でも、それを感じさせる展開が用意されていた。
そのテーマが全面的にダメだとは言わないが、安易に手を出すと大火傷を追う羽目になる。
「人間とゾンビの戦い」やゾンビの描写が疎かになり、ゾンビ映画としての本質を失うことに繋がるからだ。
幾多のゾンビ映画が繰り返して来た失敗を、この作品も犯している。この映画は途中でゾンビを背景に追いやり、人間同士の戦いをメインに据えてしまう。
そうなった時、「だったらゾンビでなくても良くないか」と言いたくなるのだ。
人間同士の戦いをメインに据えると、その疑問から逃れることは出来ない。そして、その問いかけに対する答えは、「そうだよね」ってことになってしまう。
人間同士の戦いをメインに据えながら、なおかつ「そこにゾンビがいる意味」を納得させてくれる作品を、不勉強な私はまだ知らない。ジュニとユジンが登場した時だけは、少し気持ちが高まった。「幼い女の子が堂々たる態度を取り、冷静沈着にゾンビを倒していく」という描写が、心を掴んだのだ。この映画で魅力的だと言える数少ない要素が、この幼い姉妹だ。
しかし残念ながら、登場シーンで膨らんだ期待感は、そこだけで萎んで二度と復活しないのだ。
そこが数少ない魅力だからこそ、勿体無いと感じてしまう。もっと姉妹の戦闘能力を高く設定して、ゾンビを蹴散らしてほしいなあと。
ジュニの運転技術は、もっと驚異的でもいい。ユジンはラジコンカーで協力しているが、「メカの天才」みたいなキャラクターでもいい。それぐらい突き抜けちゃってもいいよ。こんな内容に仕上げるぐらいなら、「幼い姉妹とイカれたジジイがゾンビの群れを駆逐する」という話を軸にすれば良かったんじゃないかと思ってしまうんだよね。
物語が云々ってのは二の次にして、とにかくキャラクターの魅力に頼って映画を作るのも1つの手だったんじゃないかと。そんで「凡庸だと思っていた奴が、実は凄い戦闘能力の持ち主だった」というパターンを使って、ゾンビ・アクションを描けば良かったんじゃないかと。
もちろん、そんなことをすれば前作とは似ても似つかない全く別の映画になることは確実だ。
ただ、本作品も、どうせ全く続編とは思えない仕上がりなわけでね。(観賞日:2023年8月27日)
2020年度 HIHOはくさいアワード:第5位