『最凶家族計画』:2007、アメリカ

ジョンとディーンのソロモン兄弟は、幼い頃に母を亡くして父のエドに養育された。10歳で北極に転居し、夏は南極へ移動した。エドは息子たちを学校に通わせず、彼らは自宅学習で博士号を取得した。明るく前向きなソロモン兄弟は仲良しで、大人になった現在も一緒に暮らしている。2人は恋人を見つけたくて積極的に行動しているが、ピントの外れた振る舞いで上手く行かない。しかし2人とも、何が悪いのかは全く分かっていない。
ある日、離れて暮らしているエドから兄弟の留守電にメッセージが入った。エドは「病院にいる。検査を受けたが悪いらしい。お前たちを心から誇りに思うよ」と話していた。兄弟はレンタルビデオ店へ立ち寄り、店員のジムに延滞料金が発生しないことを確認してもらってから、病院へ赴いた。兄弟が病院に到着すると、エドは昏睡状態に陥っていた。担当医のウォンは兄弟に、エドが「死ぬ前に孫の顔を見たかった」と話していたことを教えた。
「人は節目を励みにして頑張れるものです」というウォンの言葉を聞いたジョンは、父に孫の顔を見せてやろうと決意した。ディーンも賛同し、2人は出産してくれる女性を見つけようと動き出す。ジョンはデート相手にいきなり結婚を申し込み、あえなく砕け散った。一方、ディーンはデート相手に「出産してほしい」と頼み、即座にOKを貰う。だが、デートの帰りに彼女がバスにひかれてしまった。
病院からエドの介護施設を探すよう求められたジョンは、透析装置などの医療器具を揃え、自宅で面倒を見ることにした。ジョンは書店で出会った歯科医のウェンに勧められ、医学書を購入していた。買い物をしてアパートに戻った彼は、エレベーターでタラという女性と遭遇する。タラが隣人だと知ったジョンは飲みに誘うが、あっさりと断られた。ジョンは諦めず、廊下にディナーを並べてタラを誘う。しかしタラは相手にせず、恋人のケンと一緒に出掛けてしまった。
ソロモン兄弟は養子を貰おうと考え、医師に会う。しかし医師の機嫌を損ねて追い出されてしまった。何でも手に入るサイトを見つけた兄弟は、赤ん坊を希望するメールを送信した。すると、ジャニーンという女性からメールが届く。ジャニーンは1万ドルの報酬を請求していたが、ソロモン兄弟は彼女に連絡を取った。ジョンは交渉して値下げしてもらおうとするが、バカなので1万2千ドルで契約する。だが、値段が高くなったのに、兄弟は赤ん坊が出来るということで能天気に喜んだ。
兄弟は父の世話をジムに頼み、ジャニーンの家を訪れる。彼らは強張った表情のジャニーンに小切手を渡し、すぐにセックスを始めようとする。ジャニーンは「貴方たちはコップに精子を射精するの。人工授精よ。明日の3時に精子バンクを予約したわ」と告げた。そこへ彼女の元カレのジェームズが押し掛けて来た。屈強な体のジェームズを見て、兄弟は怯えた。兄弟には生意気な態度を取るジェームズだが、ジャニーンの前では情けなく涙を浮かべた。
次の日、兄弟はクリニックを訪れて精子を提出し、ディーンの方が使われることになった。1週間後に検査結果を聞きに行き、人工授精の成功を知って兄弟は喜んだ。2人が帰宅するとジムは不在で、彼に代わりを頼まれたというタラがエドの面倒を見てくれていた。彼女が配線を直したことで、電子レンジを使用してもブレーカーが落ちなくなっていた。タラが見習い看護師だと知ったジョンは、「看護料は夜間デートで払うよ」と持ち掛けて軽く断られる。しかしジョンは、彼女が自分に好意を抱いていると思い込んでいた。
ソロモン兄弟は立派な父親になるため、公園で遊んでいる幼児に声を掛けて連れ出そうと試みる。しかし当然のことながら保護者から不審に思われ、通報を受けて駆け付けた警官に捕まった。ジャニーンは呆れ果て、「本気で子供が欲しいのなら、馬鹿な真似はやめて。責任ある行動を取りなさい」と注意した。適当に聞き流していた兄弟は、「親として失格なら赤ん坊は渡さない」と言われてしまった。
理想の父親になろうと考えた兄弟は、人形を使って、迷子になった赤ん坊を見つけ出す特訓や、階段から落ちた赤ん坊をキャッチする特訓を繰り返した。彼らは子供部屋を用意し、防御が厳重すぎるベビーベッドも備え付けた。ジャニーンは妊娠8ヶ月目に入り、ソロモン兄弟とジェームズは彼女に付き添って妊婦教室で授業を受ける。出産した母親が自身の体験を嬉しそうに語るのを聞いたジャニーンは、赤ん坊を手放すことが辛くなる。そこで彼女は兄弟に手紙を残し、ジェームズと共に姿を消してしまった…。

監督はボブ・オデンカーク、脚本はウィル・フォーテ、製作はトム・ワーナー&マット・ベレンソン、共同製作はゲイル・ラスコウスキー、製作総指揮はカリン・マンダバック&パディー・カレン、製作協力はマイケル・シェアー、撮影はティム・サーステッド、編集はトレイシー・ワドモア=スミス、美術はジョン・パイノ、衣装はメリーナ・ルート、音楽はジョン・スウィハート、楽監修はG・マーク・ロズウェル&アダム・スワート。
出演はウィル・アーネット、ウィル・フォーテ、シャイ・マクブライド、クリステン・ウィグ、マリン・アッカーマン、リー・メジャース、マイケル・オームズビー、ライアン・ワイノット、ボブ・オデンカーク、サム・ロイド、チャールズ・チュン、ライウン・ユー、ビル・ヘイダー、ジェナ・フィッシャー、スザンヌ・ライト、デレク・ウォルターズ、チャンドラー・ヒル、アシュレイ・ジョンソン他。


コメディアンのウィル・フォーテが主演と脚本を兼ねた作品。
監督のボブ・オデンカークは、俳優やコメディアン、脚本家などマルチに活動している人物。
オデンカークはテレビの人気コント番組『サタデー・ナイト・ライブ』のライター経験があり、フォーテは本作品の公開当時に同番組の出演者だった。
ジョンをウィル・アーネット、ディーンをウィル・フォーテ、ジェームズをシャイ・マクブライド、ジャニーンをクリステン・ウィグ、タラをマリン・アッカーマン、エドをリー・メジャースが演じている。

明らかに『最終絶叫計画』から始まる“Scary Movie”シリーズに便乗した邦題だが、主要キャストにもスタッフにも、あのシリーズに関わった人間は誰もいない。
パロディー映画でもないので、無理矢理“Scary Movie”シリーズに便乗するメリットが全く分からん。
便乗するにしても、他の作品にすりゃあいいでしょ。
そもそも『最終絶叫計画』シリーズって、日本でそんなに当たった印象も無いぞ。

最初に恋人募集のプロフィールをネットで登録する様子が描かれ、タイトルが明けると兄弟がそれぞれ恋人を作ろうとして失敗する様子が描かれる。その後、エドの入院が分かり、兄弟は父のために孫を作ろうと決意して動き出す。
ここまでに、約12分程度しか掛かっていない。それは「テンポが良い」というのではなく、ちょっと慌ただしいと感じてしまう。
兄弟がそれぞれ1度ずつ恋人作りに失敗する様子を提示しただけで、「彼らが恋人を作ろうと奮闘しているが、バカなので失敗ばかり」ってのは充分に伝わって来る。ただ、あと1つずつ程度は入れても良かったんじゃないか。
そうじゃなければ、恋人作りのための行動以外の部分で、「兄弟はバカだけど、自覚が無い」というのをアピールするためのエピソードを1つぐらい入れるってことでもいいだろう。

っていうか、その後に「兄弟が子供を作るために女性をゲットしようと奔走する」という展開が待っているのだから、むしろエドの入院があるまでは、彼らが恋人作りに奮闘している設定は無かった方がいいんじゃないか。
エドの昏睡があって、「孫の顔を見せてやりたい」と考えた時に、初めて女性に対して積極的な行動を開始する流れにした方がいいんじゃないのかなあ。
そうすれば、今まで恋人がいた経験は一度も無いし、女性との接し方も下手なのに、いきなり「出産してくれる女性をゲットしようとする」という段階に進むところに喜劇的なポイントが生じるはずだし。

最初の「恋人を得るための行動」と、父の昏睡があった後の「出産してくれる相手を得るための行動」って、口説き落とす段階までは一緒だから、そこに変化が生じないんだよね。
これが「兄弟がプレイボーイで、女を口説き落としてエッチしまくっている」というキャラであれば、そこには「今度は一夜限りの相手じゃない」ってことだから、口説き落とそうとする段階で変化が生じるだろう。
だけど兄弟の場合、そういうキャラではないのでね。
デートの相手が気に入ってくれて、そこで初めて女性側から見て「恋人として付き合う」と「すぐに出産を求められる」という違いが生じるわけだが、ソロモン兄弟の場合、気に入られる段階まで行かないようなキャラ設定だからね。

一応、父の昏睡があった後のデートでは、すぐに「結婚してくれ」と持ち掛けて断られるという様子が描かれており、そこは最初に描かれていた女性へのアプローチとは異なる。
だけど、この兄弟の場合、そんなことを初めてのデートで言い出すから断られるのではなく、結婚や出産を持ち掛けなくても断られるような連中なのよ。
だから、「いきなり結婚や出産を持ち掛けて断られる」というのを笑いとして見せたいのであれば、最初に描いた「女性へのアプローチが下手で失敗する」というシーンは邪魔になる。
あと、細かいことを言うと、ディーンの方を「デート相手に出産の承諾を貰うが、彼女の事故でダメになる」という形にしてあるのは上手くない。そっちも女性に断られるべきだ。
「いきなり出産を要求されたら女は拒否するのが当然」という状況を示しておいて、そんな中で「出産を承諾してくれる珍しい女性が見つかった」という形でヒロインを登場させるべきなのに、その前に出産をOKしてくれる女性が見つかっていたら、ヒロインは「特別な存在」じゃなくなっちゃうでしょ。

ジョンとディーンのキャラクター設定は、ほとんど違いが見られない。
コンビを主人公に据える場合は、対照的なキャラクターにするのが定番だ。「せっかち&ノンビリ屋」とか、「マジメ&おとぼけ」とか、「頑固&お調子者」とかね。
ソロモン兄弟の場合、どっちもバカというのは外せないだろうから、そこが一緒なのはOKとしよう。ただ、バカにも色んな種類があるはずなのに、そこの差別化を図ることが出来ていない。
一応、「ジョンの方が知恵が回り、リーダーシップを取る」という違いはあるけど、「バカとしての中身」に大差が無い。
そこは違いを用意すべきだと思うなあ。
分かりやいところでは、「積極的」と「消極的」にするとかさ。

あと、養子を貰おうとした時に、法的な親権者は一人に決める必要があると言われたジョンが「ではディーンです」と答え、それに対してディーンが「僕は責任が持てない。酷い子供だったらどうするの?」と言い、ジョンが「その場合は返却する」と答えるのは、見過ごすことが難しいぞ。
そこは「能天気で前向きなバカ兄弟」としては違和感のある態度だし、「子供が酷い奴だったら要らない」という考え方をするのもキャラや映画のテイストに合わない。アダム・サンドラーやベン・スティラーの主演作じゃないんだから。
違和感があると言えば、ジャニーンと会った兄弟が「交代でセックスしまくるんだ」と言ったり、人工授精だと聞いて「金を払った恩恵はどうなるんだ」と抗議したり、帰りの車で「ジャニーンのナニを白いアレで一杯にするんだ」と言ったり、その辺りで急に下ネタが増えて来るのは引っ掛かるなあ。
そこまでの展開では、むしろ下ネタとは無縁の雰囲気が漂っていたので。下ネタ満載の映画ってことなら、序盤で「こういうテイストです」ってことをアピールしておいた方がいいよ。

兄弟が出産してくれる女性を探し始める段階で、まだ彼らの周囲に位置するキャラクターがエドとジムしか登場していないのは引っ掛かる。その段階で、脇を固めるメンツを紹介しておいた方がいい。タラを後から登場させているけど、先に登場させちゃった方がいい。
あと、脇役の使い方が淡白なんだよなあ。
まだタラは「たまに出て来てジョンに口説かれて冷たくあしらう」という役割があるけど、ジムはエドの世話を任されてタラに代わりを頼んだ後、もう出て来なくなっちゃう。エドは昏睡のままだから何も出来ないし、脇役の存在感ってのが著しく乏しいんだよな。
兄弟を目立たせるのはいいけど、脇役を軽視しすぎでしょ。

脇役どころかヒロインのはずのジャニーンでさえ、単なる「出産のための道具」と化している。だから出番もそんなに多くない。
せめてジャニーンに関しては、もっと兄弟との絡みを増やして、キャラを掘り下げるべきでしょ。そのせいで、終盤に「子供を手放すのが惜しくなった彼女が失踪する」という状況が発生しても、やはり「ストーリー展開のための道具」でしかなくなっている。
むしろタラの方がヒロインなんじゃないかと思っちゃうぐらい、兄弟との絡みも出番も多いぞ。
ジェームズにしても、わざわざジャニーンの元カレとして登場させているけど、その存在価値は皆無に等しいし。

(観賞日:2014年3月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会