『死なない頭脳』:1962、アメリカ
コートナー博士は患者の手術を行っていた。患者の呼吸が停止し、コートナーが溜め息をついていると、助手を務めていた息子ビルが 「今度は僕のやり方で」と言う。「ここは実験の場じゃない」とコートナーは告げるが、ビルは「彼は死んでる、害は無い」と主張した。 コートナーが許可すると、ビルは父親に患者の胸を切り開いて電流によるマッサージを行うよう指示した。ビルは「脳は私が一人で担当 する」と言い、患者の頭を切り開いた。そして脳味噌に電極を当てて、「電流で刺激されて心臓が動く」と口にする。
患者の心拍は回復し、ビルは「実験の勇気があれば不可能は無い」と言い切った。コートナーは結果を認めながらも、「人で冒険をするな 。メスを入れる前に何度も動物実験が必要だ」と警告する。しかしビルは「人間の体は遥かに可能性がある。次は全てのパーツの完全移植 を可能にする。僕の新しい薬を使えば出来る」と自信たっぷりに述べた。コートナーは学会に出席するため、旅立つことになった。彼は ビルに「科学の天才と狂信者は紙一重だ。お前は正しい方に向かえ。お前が切断手術の手足を盗んでいることを事務総長から聞いた」と 告げる。ビルは平然と「だから?実験には手足が必要だ」と口にした。
ビルが婚約者ジャン・コンプトンと共に病院を去ろうとしていると、看護婦が「カートという人から緊急の電話があった。別荘からで、 酷い事が起きたのですぐ来てほしいと言っていた」と告げた。ビルはジャンを車に乗せ、別荘に向かう。ジャンの質問には答えず、ビルは 「急がないと」とアクセルを踏んでスピードを上げる。カーブを曲がり切れず、車はガードレールを突き破って崖下へ転落した。ビルは車 から放り出されるが、かすり傷で済んだ。
燃え盛る車に近付いたビルは、死んだジャンの生首を上着に包んで別荘へと走った。ビルは助手のカートに「彼女を救わないと。道具の 殺菌をしろ」と要求した。カートが「クローゼットが先だろ」と言うと、「これはもっと重要だ。緊急なんだ」とビルは怒鳴った。研究室 に入ったビルは実験道具をセットし、彼が開発した血清を注ぎ込んだ。すると台に設置した生首の目蓋が動き、まだ意識は朦朧としている ようだが、声も発した。ジャンは生首だけの状態で復活したのだ。
ビルは「彼女に新しい体を与える。完全な体に戻す」と口にした。そのまま生かしておけるのは48時間から50時間といったところだ。 カートは「本当に移植は成功させられるのか。私の手のようになるのでは」と言い、自分の左手を見せた。その手は萎んで変形している。 移植手術の失敗によるものだ。ビルは「お前のは初期の失敗例だ。彼女は新しい血清を使っている。成功する」と告げた。
ビルが出掛けようとすると、カートは「その前にクローゼットを見てくれ、そのために呼んだ」と告げる。研究室の奥には施錠したドアが ある。ビルが小窓を開いて覗き込むと、激しい唸り声が響いた。ビルは顔を背けて小窓を閉めた。カートは「昨夜は荒れて逃げそうに なった」と告げる。ビルは「これだけ分厚いドアだ。閉めておけば大丈夫だ。今は彼女の体を見つけないと」と述べた。
ビルはジャンに移植する体を選別するため、キャバレーへ赴いて踊り子を眺めた。一方、目を覚ましたジャンには、テレパシーの能力が 備わっていた。彼女はクローゼットにいる生物を察知し、「そこにいるのが分かる。聞こえるなら一回ノックを」と告げる。するとドアが ノックされた。「私が最初ではないから2回ノックを」と言うと、2回のノックがあった。「死なせてくれればよかった。ビルが憎い。 一緒に復讐できる。復讐したいか?」と呼び掛けると、またドアがノックされた。
カートが研究室に入ってきたので、ジャンは「あの扉の向こうは?」と尋ねる。カートは「お前よりもっと醜いものだ。ビルの失敗の 集大成だ」と告げた。ジャンは「その血清が原因で彼が予想しなかった結果が起きている。凄まじい力を私は持った。証明しよう」と口に して、「聞こえるなら答えろ」とクローゼットの向こうに呼び掛ける。するとドアがノックされた。カートが怯えて研究室を出たところへ 、ビルが帰宅した。カートは「理解できないことが起きている」と訴えるが、ビルは「全て把握している」と突き放すように告げる。彼は 「疲れたから寝る」と言い、寝室へ引っ込んだ。
翌日、ビルは車を走らせながら女を物色する。知人のダナ・ウィルソンと遭遇したビルは、水着モデルのコンテストへ誘われた。そこへ ダナの親友ジーニー・レイノルズが現れ、コンテストに連れて行ってほしいと言う。ビルは2人の女性を車に乗せて、ミス・ボディー・ ビューティフル・コンテスト会場に到着した。席に座るとコンテストが始まり、ファイナルに残った5人の女性が次々に水着姿でステージ へと登場した。その中でビルは、ペギー・ハワードに目を付けた。
ダナはペギーを見て「私が見た中で2番目にいい体ね」と感想を述べた。ビルが1番について訊くと、数年前に事故に遭ったフィギュア・ モデルのドリス・パウエルだと言う。ビルはドリスと旧知の仲だった。ダナによれば、ドリスは現在、スタジオに引っ込んで美術クラスで モデルをしているという。同じ頃、ジャンはビルが体を手に入れるために誰かを殺すつもりだと感知した。
ビルがドリスがいるスタジオへ赴くと、数名のカメラマンが集まって水着撮影会が行われていた。撮影会が終了すると、一人のカメラマン がドリスを食事やプライベートの撮影会に誘う。だが、ドリスは冷たく断った。彼女は髪で隠していたが、事故のせいで左側の頬に醜い 傷跡が残っていた。ビルは彼女に「父は優秀な整形医だ、我々なら治療できる」と言う。ドリスは「医者には何度も行ったわ、でも傷が 深すぎて無理なの」と告げるが、ビルは「それは数年前だ。今は治療が可能になっている」と説明した。
カートがクローゼットの生き物に食事を与えようとした時、ジャンが「捕まえろ」と呼び掛けた。小窓から腕が飛び出し、カートの右肩を 掴んだ。カートは必死で抵抗するが、ジャンは生き物に「殺せ」と命じる。カートは右腕を引き千切られて死亡した。ビルは診察を承諾 したドリスを別荘に連れ帰り、リビングに待たせて研究室へ向かう。カートの死体に驚いたビルだが、気を取り直して睡眠薬入りの酒を 用意した。ビルはドリスに酒を飲ませて昏倒させ、研究室へと運び込んだ…。監督はジョセフ・グリーン、原案はレックス・カールトン&ジョセフ・グリーン、脚本はジョセフ・グリーン、製作はレックス・ カールトン、製作協力はモート・ランドバーグ、撮影はスティーヴン・ハジネル、編集はマーク・アンダーソン、編集監修はレナード・ アンダーソン、美術はポール・ファニング、特殊効果はバイロン・ベアー、テーマ曲"The Web"はエイブ・ベイカー&トニー・レスタイノ。
出演はハーブ・エヴァース、ヴァージニア・リース、レスリー・ダニエルズ、アデル・ラモント、ボニー・シャーリー、ポーラ・モーリス 、マーリン・ヘイノルド、ブルース・ブライトン、アーニー・フリーマン、フレッド・マーティン、ローラ・メイソン、ドリス・ブレント 、ブルース・カー、オードリー・デヴェリアル、エディー・カーメル他。
アメリカのポンコツ映画を代表する作品の一つ。
白黒映画。『美しき生首の禍(わざわい)』『死なない脳』という別タイトルもある。
ビルをハーブ・エヴァース、ジャンをヴァージニア・リース、カートをレスリー・ダニエルズ、ドリスをアデル・ラモントが演じて いる。
監督のジョセフ・グリーンは、後に武智鉄二監督の映画『白日夢』(1964年製作、原作は谷崎潤一郎)のアメリカ版で追加カットを担当 するという仕事にも携わっている。ビルはカートから電話があったことを知ると、猛スピードで車を走らせる。
異常なスピードなのに、なぜかジャンは怖がることもなく、スピードを落としてくれと頼むことも無く、普通に乗っている。
っていうかスピードを上げてから事故まで、彼女は映らない。
車が崖に突っ込むとビルは放り出されるが、なぜか奇跡的にかすり傷程度。
燃え盛る車の中を覗きこんでみるとジャンが死んでいる。
ビルは遠くへ放り出されたのに、ジャンは車内に残っているという奇跡的な事故だ。ビルは生首を車から取り出すが、ってことは、その時点で既にジャンは首チョンパになっているわけだ。
どこでどうやって切断されたのかは謎。
ビルは生首を上着に包んで走り出すが(この時点では何を包んでいるのかは見せない)、別荘に到着するまでに2分以上使っている 。
その間、ただフラフラと走っているだけ。
それ以降も、この映画は時間稼ぎとしか思えないような間延びが多発する。ビルはジャンを生首の状態で蘇らせるが、事故が起きるまでに彼女への深い愛情、「彼女無しでは生きられない」というぐらいの強い思い は全く描かれていない。
ジャンが死んで絶望する期間があって、そこから彼女を蘇らせようとする展開へ移行するわけでもない。
だから、「彼女への愛ゆえに狂った」という印象は皆無。
その一方、人体実験への強い意欲を示しているので、単に最初からマッドな奴でしかない。
ジャンを愛しているから助けたいとか、そんなのはデタラメで、ただ人体実験をしたいだけの男でしかない。ジャンを生首で復活させてからのビルは、「いい体を見つけよう」ということで女を物色する、ただのエロい男になる。
そこまではチープであってもホラー映画としての道は歩んでいたが、もはやホラーとしての道さえ外れていこうとする。
研究室の様子も映るので、そこで何とかホラーに踏みとどまっているという具合だ。
ビルは自分がホラー映画の主役だということを完全に忘れている。ビルは踊り子の看板を見てニヤニヤして、キャバレーに入ると踊り子の体を舐めまわすように見つめる。
ちなみに、ここでもまた踊り子を見つめているだけで1分ぐらい費やす。
翌日には、車を走らせて女を物色する。
ビルが女を物色するシーンでは、必ずストリップのBGMのようなムーディーな音楽が流れるもんだから、余計に「ホラーじゃなくて エロい男の話」という印象を強めている。ビルはダナを見つけて、エロい視線で体を観察する。
ジーニーが現われると、また体を舐め回すように観察する。
コンテストの出場者が水着姿で登場すると、ニヤニヤしながら見つめる。
ダナがドリスのことを語ると、妄想を膨らませてニヤつく。
ここで初めて「あと数時間しかない、体を見つけなければ」と心の声が入るが、早くしないとジャンが死んでしまうという危機感、切迫感 は皆無だ。
その後もビルはドリスの撮影会を見学して、またニヤニヤしている。生首ジャンには、どうやらテレパシーの能力が備わったらしく、すぐにクローゼットの中の奴を察知して呼び掛けている。
テレパシーが備わっている時点でバカバカしいんだが、それよりも、そんな異常な姿になったのに、パニックになること絶望することも 無いんだね。
すぐにジャンは状態を把握し、落ち着いた振る舞いで冷静に復讐の方法を考えている。
すごい女だよ。
そして、そこでも彼女が無駄にダラダラと喋って時間を費やす。同じようなことを繰り返し喋ったりして、時間を稼いでいる。その後、カートが研究室に現れてジャンの会話が始まり、ここでも時間を稼ぐ。
そこに恐怖は無いし、それ以外の映画を面白くする要素も無い。
あえて存在する要素を挙げるなら、それは退屈だ。
残念なことに、バカバカしいと笑えるようなネタさえ、そこには無い。なんせ、ただ2人がダラダラと喋っているだけなんだから。
ジャンが「その血清が原因で彼が予想しなかった結果が起きている。凄まじい力を私は持った。証明しよう」とカートに言って、ようやく 話に動きが生じるまでに、会話が始まってから6分ぐらいが経過している。
で、ジャンが「聞こえるなら答えろ」と言うとクローゼットのドアがノックされるんだが、それは閉じ込められている怪物に彼女の声が 聞こえただけじゃないのか。カートが怪物に食事を与えようとすると、ジャンは「殺せ」と怪物に指令を出す。容赦なく殺害を命じる、すげえ冷酷な女になって いる。
ドリスを連れて帰宅したビルは初めて目を覚ましたジャンを見るが、なぜか何も話し掛けない。
自分の愛する女が目を覚ましたのに、何も言わないのね。
っていうか、もう復活させた翌朝には喋り掛けるべきだろうに、そんなシーンは無かったよな。
最後の最後でようやく登場するクローゼットの怪物は、ツルツルのトンガリ頭で、右目が普通より高い位置に付いている皮膚のただれた男 。意外に笑えない程度の怪物になっている。
残念ながら、同じようにポンコツ映画の代表的作品である『宇宙大戦争 サンタvs.火星人』などと比べると、ツッコミを入れて「バカ だなあ」と笑えるようなポイントは少ない。おバカ映画としての価値は低い。(観賞日:2010年4月25日)