『少年と犬』:1975、アメリカ
第4次世界大戦によって世界が崩壊した西暦2024年。大地は荒れ果て、略奪や強姦、殺人などの犯罪が横行している。ヴィクという若者は、ブラッドという犬を連れて旅をしている。ヴィクとブラッドはテレパシーで会話を交わすことが出来る。女性の悲鳴を聞いたヴィクは、複数の略奪者が立ち去るのを待ってから、地下に作られた家へ乗り込んだ。女が惨殺されているのを見たヴィクは、「勿体無い」と文句を言う。彼の頭の中は、女のことで一杯だった。ブラッドはヴィクに、山向こうにある村を探しに行こうと何度も提案している。平和で畑から食料が採取できて、女にも不自由しない村が存在するという噂があるのだ。
ヴィクは噂を信じておらず、「夢物語に過ぎない」と一蹴する。しかしブラッドが不機嫌そうな態度になったので、村を探しに行くことに同意した。「行く前に食い物と女が必要だ。女を見つけて来い」と彼が言うので、ブラッドは「また女か」と呆れた。ブラッドがエサを求めたので、ヴィクは「俺が食いものを見つけるから、お前は女だ」と告げた。ヴィクとブラッドは、男が大勢の奴隷に命じて砂漠を掘らせている現場を目撃した。穴から缶詰を回収する様子を見ていたヴィクは、それを奪って逃走した。
腹ごしらえを済ませたヴィクとブラッドは、町へ行ってみた。携帯している銃を預けて町に入ると、屋外劇場ではポルノ映画が上映されていた。ブラッドは近くに女がいると感じ、ヴィクに教えた。ヴィクは周囲を見回すが、どこにも女の姿は無い。銃を受け取って町を出たヴィクは、ブラッドの指示に従って右へ向かう。怪獣の住処と称される地下施設に女がいると言われたヴィクは、不安を隠せない。「もう怪物はいない」とブラッドは告げ、中に入るようヴィクに指示した。
警戒しながら地下施設を探索したヴィクは、クイラという女を発見した。銃を突き付けて強姦しようとしたヴィクだが、ブラッドが来て「外にチンピラたちが来ている。女を渡せば逃げられる」と告げる。しかしヴィクは「女は渡さない」と言い、施設に侵入して来た連中と銃撃戦を繰り広げる。ブラッドとクイラも加勢し、チンピラたちを追い払った。すぐに出て行こうとしたヴィクだが、ブラッドが朝まで待つよう忠告した。ヴィクはクイラから接吻され、彼女とセックスした。
ブラッドが外の様子を確かめに行っている間に、クイラはヴィクに「一緒に地下街へ行かない?2人で暮らしましょう」と持ち掛ける。クイラがブラッドを置いて行くつもりだと知り、ヴィクは「俺は行かないぞ」と声を荒らげた。「私を愛してるなら一緒に来て」とクイラが告げると、ヴィクは「黙れ」と怒鳴った。戻って来たブラッドはヴィクを部屋の外へ連れ出し、足手まといになるクイラは置いて行くよう要求する。するとヴィクは激しく反発し、それを拒絶した。
ヴィクが小部屋に戻ると、待ち受けていたクイラが懐中電灯で殴り倒す。ヴィクが意識を取り戻すと、クイラは姿を消していた。ブラッドは「ほら見たことか」とヴィクを注意した。落ちているカードキーを発見したヴィクは、匂いを嗅ぐようブラッドに指示する。ブラッドの「地下街の出口で使うカードキーだ」という言葉を聞き、すぐにヴィクは出掛ける準備をする。クイラを追うと悟ったブラッドは「地下街へ行ったら生きて帰れないぞ。これは罠だ」と警告するが、ヴィクの考えは変わらなかった。
ヴィクが地下街へ入るドアを開けたので、ブラッドは山向こうの村で待っていることを告げた。地下街に下りたヴィクは、すぐに捕まった。マイケルという男がヴィクを風呂に入れて体を洗い、ムーア医師が様子を記録した。新しい服を与えられたヴィクが街に出ると、大勢の女の子がいた。すぐに抱き付こうとするヴィクを、マイケルが引き離した。地下街はドーピカ国と呼ばれ、委員会と呼ばれる組織が統括していた。顔を白く塗った富裕層の人々が、楽しそうに暮らしていた。
賞罰会議がホールで開かれ、委員長のルーと副委員長のメズは壇上に乗せられた人々を裁いて行く。委員会の規則を守らずに反抗した夫婦には、農場行きの裁定が下った。クイラがホールに入って来ると、ルーは嬉しそうに「良く帰って来たね」と歓迎する。クイラはヴィクを連れて来る代わりに、委員会のメンバーにするよう求めていた。ルーは約束を守る気など無く、彼女を帰らせた後でメズに「彼女も受精者にしよう。それからチャールズと結婚させろ」と告げた。
クイラはルーが約束を守らない気だと確信し、友人のゲリーに愚痴をこぼす。ゲリーが「僕らは見張られている」と軽率な行動は取らないよう諭すと、クイラは不満そうに「もうしばらく良い子のフリをするわ」と告げた。マイケルによってホールへ連行されたヴィクは、ルーから「君は何十年に一度の名誉を与えられることになった」と言われる。ルーが「長い地下生活で女の妊娠が困難になっている。外の男が必要だ」と話すと、ヴィクは「女とやれるのか」と大喜びする。しかしヴィクはベッドに拘束され、精子を抜き取られる。ヴィクを助けたクイラは、35人を妊娠させたら用済みで殺されることを教え、クーデターを起こしてルーを始末するよう促した…。監督はL・Q・ジョーンズ、原作はハーラン・エリスン、脚本はL・Q・ジョーンズ、製作はアルヴィー・ムーア、製作協力はトム・コナーズ、撮影はジョン・アーサー・モリル、編集はスコット・コンラッド、美術はレイ・ボイル、衣装はキャロリン・ムーア、音楽はティム・マッキンタイア。
出演はドン・ジョンソン、スザンヌ・ベントン、ジェイソン・ロバーズ、アルヴィー・ムーア、ヘレン・ウィンストン、チャールズ・マッグロー、ハル・ベイラー、ロン・ファインバーグ、マイク・ルパート、ドン・カーター、マイケル・ハーシュマン他。
声の出演はティム・マッキンタイア。
ハーラン・エリスンの同名小説を基にした作品。
俳優のL・Q・ジョーンズが、1964年の『The Devil's Bedroom』 に続いて2度目の監督を務めている(脚本も担当)。
主人公のヴィクを演じているのは、若かりし頃のドン・ジョンソン。クイラをスザンヌ・ベントン、ルーをジェイソン・ロバーズ、ムーアをプロデューサーのアルヴィー・ムーア、メズをヘレン・ウィンストンが演じており、ブラッドの声を音楽のティム・マッキンタイアが担当している。
アンクレジットだが、L・Q・ジョーンズがポルノ映画の俳優役で出演している。序盤、ブラッドは「第三次世界大戦は1950年からバチカン休戦条約締結の1983年までだ。第四次世界大戦は両陣営がミサイルを撃ち尽くし、5日間で終わった。荒涼とした世界では、何でも力尽くで手に入れるしかない。このアリゾナのフェニックスで18年前に生まれた君と、俺はパートナーになった」とヴィクに語る。
それは観客に第四次世界大戦のことや舞台がフェニックスであること、ヴィクが18歳であることを教えるための、ものすごく説明的なセリフだ。
で、そういう事柄をものすごく下手な形で表現しているんだけど、そんなに無理をしてまで提供する必要がある情報じゃないんだよね。
第四次世界大戦が起きて世界が荒廃したことは、冒頭のテロップで説明している。舞台となっている場所やヴィクの年齢に関しては、明示しなくても全く支障が無い。ブラッドがヴィクに歴代大統領の名前を暗記させているという設定も、何の意味かあるんだか分からん。一言で表現するならば、オチだけで成立させちゃおうという映画である。
これが短編作品だったら、そのワン・アイデアの一発勝負でもOKだろう。しかし長編映画でオチだけというのは、なかなか厳しいものがある。
しかも、このオチって、短編だからこそ成立するものじゃないかという気がするし。
私は未読だが、原作は短編小説だから、これでもOKなんだろう。で、それを長編映画化する際に、もっと上手く肉付けしたり改変したりする必要があったのではないか。『猿の惑星』だって強烈なインパクトのあるオチが印象的な映画だけど、そこまでの物語にはメリハリがあったし、ちゃんとドラマを盛り上げようという作業があった。
それに、オチに向けての伏線を張ろうという意識も感じられた。
だけど本作品は、そういうところで雑にやっているか、もしくは手抜きしているようにしか思えない。そこまでの物語が、オチに向けての流れを上手く作り出していない。
だから意外性はあるけど、唐突だと感じてしまう。極端に言ってしまえば(っていうか極端じゃなくても)、最後に待っているオチまでの物語は、壮大なネタ振りでしかない。
しかも、その中で伏線を張り巡らせたりヒントを散りばめたりして、最後の最後で幾つもの伏線を綺麗に回収するとか、ヒントが組み合わさって1つのパズルが華麗に完成するとか、そういう構成ではない。オチに向けての伏線やヒントなんてモノは、ほぼ皆無に等しい。
だから、本作品は91分の上映時間だが、仮に15分の短編映画だったとしても、オチが訪れた時の衝撃は大して変わらないのだ。
そうなると、じゃあ長編映画にしている意味って何なのか、肉付けしている部分の意味は何なのかってことになる。完全ネタバレになるが、ざっくりとプロットを説明すると、「性欲たっぷりでセックスすることしか考えていなかったヴィクがクイラに執着するが、最終的にはブラッドのエサにしてしまう」という話である。
「性欲より食欲を選んだ」とか、「愚かな悪女より賢明な犬を選んだ」とか、「愛情より友情を選んだ」とか、まあ色々な解釈は出来るんだけど、衝撃的ではあっても腑に落ちるオチではない。
腑に落ちない理由は簡単で、それはオチに至るまでの物語が、そこに説得力を持たせるには不充分な内容になっているからだ。
そもそも、終盤に入ってクイラが欺いていたことが発覚し、ヴィクは彼女に対する怒りを覚えているので、「衰弱しているブラッドを助けるためのエサにする」という行動の意外性が弱まっているんじゃないかと思えるし。
どうやら原作通りの設定らしいので、仕方が無いっちゃあ仕方が無いんだろうけど。それと、じゃあオチと切り離して捉えた時に面白いドラマなのかと問われたら、それもイマイチなんだよなあ。
ディティールの細かさに欠けるとか、世界観の描写が甘いとか、編集が粗いとか、色んな方面で問題があるし。
あと、「実はマイケルがロボットで大勢のストックが用意されている」という展開には「なんじゃ、そりゃ」と思った。
この映画に、そんなテクノロジーは邪魔なだけだわ。マイケルが普通の人間という設定でも全く困らないし、むしろそっちの方が世界観から浮き上がっていないと思うんだけどね。(観賞日:2014年4月4日)