『幸せのセラピー』:2007、アメリカ

フリーダム・ファミリー銀行で働くビルは、テイト高校のトイレでウンザリした表情を浮かべていた。ビルがテイト高校を訪れたのは、銀行頭取である義父のジャコビーがチャペルを寄贈し、記念式典が行われるからだ。しかしビルはジャコビーの娘であるジェスと結婚したことを、地獄の始まりだと考えており、式典への参加も本当は嫌だった。ビルはジャコビー家に全く馴染めず、気の滅入るような日々を過ごしていた。
トイレの個室に男子学生が飛び込み、「校長には内緒にして」とビルに頼んだ。校長が学生を捜しに来たが、ビルは「僕だけですよ」と嘘をついた。ビルは校長から、学校のメンター制度について聞かされた。それは卒業生が生徒に仕事の現場を見学させるという制度で、校長はビルにもメンターになるよう促した。校長が去った後、学生はビルに謝礼として金を渡そうとする。ビルは「冗談だろ、取っておけ」と告げた。学生は「騒ぎが収まるまで、ここにいる」と言い、個室に戻った。
記念式典でビルは写真撮影に参加し、ジャコビー家の面々の隣で作り笑顔を見せた。式典の後、ビルはジェスがリポーターのチップと親しそうにしている現場に遭遇した。ジェスは彼と今日が初対面だと話すが、チップは彼女のことを「ジェス」と呼んでいた。ビルは銀行で人事部長の役職にあるが、ジャコビーの息子であるジョン・ジュニアからはバカにされていた。甘い物が好きなビルは、ジャコビーにドーナツ・チェーン店への投資を提案する。しかしジャコビーは全く相手にしなかった。ビルは誰にも相談せず、ドーナツ・チェーンのフランチャイズに応募することにした。
例の男子学生はビルをメンターに指名し、銀行へやって来た。生意気な態度で「現金を見せてよ」などと言う彼に、ビルは自分を指名した理由を尋ねた。平然と「僕も金が好きだからさ」と言う彼に、ビルは「引き受けられるかどうかわからない」と困った表情で告げる。帰宅したビルは、ジェスが電話で誰かと土曜に会う約束をしている様子を盗み見た。ビルは浮気を疑っていたが、ジェスは何食わぬ表情で嘘をついた。式典を取材したテレビ映像を見たビルは、自分の腹がデップリと出ているのに気付いて愕然とした。
翌日、男子学生は同級生のサラ、ドナルドを伴って銀行にやって来た。サラはジャコビー、ドナルドはジョンがメンターを担当する。ジャコビーが招待したので、3人は予定より早く銀行に来たのだ。ビルはジャコビーから、3人の案内を命じられた。適当に案内を終了させたビルは、ドーナツ・チェーンの『スウィート・スウィート』を訪れた。経営者であるジム&ジェーン・ホイットマン夫妻は「貴方に店を任せることにしました」と言い、妻と一緒に現場研修することが必要だと説明した。
男子学生はランジェリー・ショップを訪れて下着を購入し、店員のルーシーに「君に買ったんだ」とプレゼントした。ビルは高校で同級生だったチャーリーと再会し、「君の兄さんのサージは野球部のヒーローだった」と言われる。「今も兄さんは近くに住んでるのか?」と質問されたビルは、「ああ、恋人のポールと一緒にね。テイト校の数学教師だ」と述べた。ビルはショッピング・モールを営むサージを訪ね、彼もメンター制度を引き受けたことを知った。
土曜日、ビルはジャコビーに以前から誘われていたので、嫌々ながら狩りに出掛ける。家を出る際、彼は妻の浮気を探るため、こっそりと寝室にビデオカメラを仕掛けた。狩りにはジョン、男子生徒、ドナルドも参加する。しかし男子生徒は全く参加したいと思っておらず、ドナルドの前で不満を漏らした。ビルは狩りで失態を見せ、ジャコビーに呆れられた。帰宅したビルはビデオカメラを改修し、ジェスとチップが浮気している映像を目にした。ジェスはビルのチンコのサイズを馬鹿にして笑っていた。
一緒に映像を見たサージとポールの前で、ビルは「チップを撃ち殺す」と言い出した。サージは呆れた様子で「落ち着けよ」と言うが、ビルは耳を貸さなかった。帰宅したビルは、ジェスに浮気の証拠映像を撮したことを指摘する。しかしジェスは全く動じず、それどころかビルを非難するような態度を取った。ビルは病院で取材の準備をしていたチップに殴り掛かり、警察に捕まった。すぐに解放されたビルは、その出来事がテレビでは「錯乱したファンがチップを襲った」と報じられていることを知った。
メンター制度の集会に参加したビルは、生徒たちに拍手で迎えられた。集会の後、男子生徒は彼に「昨日の番組を見て、スカッとしたよ」と言われる。ビルは「他のメンターを選んでくれないか。今の状況では無理だ」と告げるが、彼は「今のアンタがいいんだ」と口にした。彼が「奥さんのことなら、一緒に取り戻そう」と言い出したので、ビルは「ほっといてくれ」と苛立った。ジャコビーは自分とジュニアの分も含めた予定表の作成をビルに命じるが、男子生徒が「ビルは僕のメンターだ。予定表なんか要らない」と生意気な態度で告げた。
盗撮映像がネットに流出していることを知ったビルは、慌てて帰宅した。既にネット流出を知っていたジェスは、「チップが可哀想」と言う。「あんな奴」とビルが腹を立てると、彼女は「チップはセレブよ。キャリアが台無しになる」と平然とした態度で話す。「たかが地方局のリポーターだ」とビルは言うが、ジェスはチップと話すために外出した。すぐに後を追ったビルは猟銃を持ち出し、ジェスの目の前でチップの家の外灯を撃った。
ビルはチップに掴み掛かり、その様子は駆け付けたテレビ局が番組で報じた。また捕まったビルは釈放され、ポールから「気分転換に」と水泳に誘われた。プールで泳いだ後、彼はジャコビーの元を訪れて騒ぎを起こしたことを謝罪する。ジャコビーは「個人的な問題は自分で解決しろ。明日は家族で食事会だ。夫婦で出席しろよ」と告げた。ビルはホイットマン夫妻と共に、店の建設予定地へ赴いた。「いつ奥様にお会い出来ます?」と訊かれたビルは、「研修の日には必ず」と約束した。
ホイットマン夫妻から「職場を案内してほしい」と言われたビルは、同僚たちに気付かれないよう注意しながら、駆け足で自分のオフィスに連れて行く。すると男子生徒が来ていたので、仕方なくビルはメンター制度のことをホイットマン夫妻に説明した。「来週、ビルと一緒店へ来たら?」とジェーンに誘われ、男子生徒は「喜んで」と告げた。ホイットマン夫妻が去った後、「君は何がしたい?」と尋ねるビルに、男子生徒は「いい成績が欲しい」と答えた。
男子生徒はショッピングモールの洋品店で、ローラという店員を口説いた。「努力もせずに出会いは無い」と言う男子生徒に、ビルは「僕には妻がいる」と告げる。男子生徒は「新しい女を作って嫉妬させればいい」と言うが、「君の年ならね」とビルは相手にしなかった。男子生徒はローラに、「学校のプールで一緒に泳がないか」と持ち掛けた。ビルは双眼鏡を購入し、ジェスがチップを連れ込んでいる様子を外から観察する。しかしジェスにバレてしまい、情けない表情で謝った。
ビルはポールに頼んで、髪の毛を染めてもらう。ポールは彼に、「明日の夕食会を最初のデートだと思って」と助言した。ビルは胸毛を剃り、オフィスにあったお菓子を捨て、服を買いに行く。男子生徒が勝手に付いて来て、「いい女とデートして嫉妬させるんだ」と改めて提案する。「デート相手がいない」とビルが言うと、彼は「だったら僕の彼女を貸すよ」と告げた。呆れるビルだが、男子生徒はルーシーに事情を説明して「手助けしてよ。100ドル払うよ」と頼む。「ガキのくせに」と冷たく言うルーシーだが、結局は承諾した。
ビルは新しい服でジェスの元へ行き、購入した下着をプレゼントした。ジャコビー家の夕食会に参加したビルは、鴨料理に残っていた弾丸を口から出した。ジョンは「幸運の印だ。飲み込め」と言い、ジャコビーも「そうだ」と促す。しかしビルは、頑なに拒否し、ジョンの怒りを買った。「姉さんの夫だから銀行で働けるのに、我々に対する敬意が無い。人事部長ってのも、彼のために作った役職だ」と彼が非難すると、ジェスが「彼のおかげで失業保険の申請は4割も減ったわ」と擁護した。
ジャコビーはビルたちの前で、市長選への出馬を宣言した。ネットに流出した映像を知らないジャコビーは、「一族として、わきまえた行動を取れ」と苦言を呈した。夕食会の後、ビルはジェスを誘ってカフェに出掛けた。2人が昔の話で盛り上がっていると、ルーシーがやって来た。ルーシーはビルと親しげに喋り、「明日も店に来る?」と尋ねる。ビルが「仕事の後で行くよ」と答えると、彼女は「指名してね」と笑顔で去った。
ビルはジェスに「ドーナツ店を始めないか」と持ち掛けるが、鼻で笑われる。ジェスを家まで送ると、チップが車で待っていた。ジェスが「ルーシーは貴方を好きみたいよ」と言われ、ビルは「いい子だと思うよ」と告げる。ジェスとキスしたビルは、チップに勝ち誇った様子を見せた。翌日、プールで泳いだビルは、男子生徒から「どうだった?」と問われて「妬いてたよ」と答える。ジェスが研修に来ないことを知った男子生徒は、ルーシーを奥さん役としてビルに連れて行かせた。
研修に同行した男子生徒は、勝手な行動でジェーンに注意された。ルーシーが本当の妻かどうかジェーンは疑うが、ジムは「構うもんか。チェーン拡大のために彼は使える」と言う。ビルが研修を受けている最中、男子生徒は客を馬鹿にする言葉を吐く。「ドーナツ店なんて、くだらなくない?」と言う彼に腹を立てたビルは、「いいか、仕事ってのは厳しいものだ。銀行でもデパートでもドーナツ店でも」と言う。彼は言葉を続け、銀行の仕事で抱えている不満を吐き出した。そしてビルは、「余計なことは考えず、ガッポリ稼げ。仕事はクソだ。これがメンターとして僕の言えることだ」と告げた…。

監督はメリッサ・ウォーラック&バーニー・ゴールドマン、脚本はメリッサ・ウォーラック、製作はジョン・ペノッティー&フィッシャー・スティーヴンス&マシュー・ローランド、製作総指揮はティム・ウィリアムズ&アーロン・エッカート、共同製作総指揮はブライアン・コリンズ&マイケル・ガーフィンクル&クリス・ピア&アラム・モージニア&マイケル・ヤング、撮影はピーター・ライオンズ・コリスター、編集はグレッグ・ヘイデン&ニック・ムーア、美術はブルース・カーティス、衣装はマリ=アン・セオ、音楽はエドワード・シェアマー、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はアーロン・エッカート、ジェシカ・アルバ、エリザベス・バンクス、ティモシー・オリファント、ローガン・ラーマン、トッド・ルイーソ、クリステン・ウィグ、ホームズ・オズボーン、リード・ダイアモンド、ジェイソン・サダイキス、コンスタンス・バロン、アンディー・ゾウ、アナ・ルカシー、コナー・オファーレル、ジュリア・ペイス・ミッチェル、ジョン・ローガン、リック・エドランド、クレイグ・ホークスリー、マリサ・カフラン、マット・トーマス他。


『ザ・コア』『サンキュー・スモーキング』のアーロン・エッカートが主演と製作総指揮を兼ねた作品。
『テイキング・ライブス』『300 <スリーハンドレッド>』などのプロデューサーであるバーニー・ゴールドマンと妻のメリッサ・ウォーラックが、初監督を務めている。メリッサ・ウォーラックは初脚本も手掛けている。
ルーシーをジェシカ・アルバ、ジェスをエリザベス・バンクス、チップをティモシー・オリファント、男子学生をローガン・ラーマン、ジョン・ジュニアをトッド・ルイーソ、ジェーンをクリステン・ウィグ、ジャコビーをホームズ・オズボーンが演じている。
アンクレジットだが、サージを演じているのはクレイグ・ビアーコ。

「錯乱したファン」としてテレビに出てしまったビルは、翌日のテイト校での集会に出席することを嫌がる。しかし出席すると、生徒たちは彼に拍手を送る。
それはバカにした拍手ではなく、本当に「歓迎します」という意味の拍手だ。そこで流れるBGMや雰囲気からしても、そこに嘲笑の意味が無いことは明らかだ。
だが、なぜ生徒たちが彼を称賛するかのような拍手を送るのか、サッパリ分からない。
後で男子生徒が「スッキリしたよ、あの番組は退屈でさ」と言うので、そういう意味で拍手したらしいんだけど、だったら先にそういうことが分かるような仕掛けにしておくべきだよ。その段階で「なぜ拍手なのか分からない」という状態になっているのは、どう考えたって得策ではないし、手落ちだと感じるぞ。

男子生徒がルーシーにデート相手を頼み、ビルが買い物を終えて去った後、男子生徒がルーシーの前で下着のショーをやるシーンがある。
このシーン、何のために挿入しているのかサッパリ分からない。
「ビルがジェスの元へ行く」というシーンと、「ジャコビー家の夕食会」のシーンの間に挟んでいるのだが、繋ぎの意味も果たしていない。
っていうか、そこは「ビルがジェスの元へ行く」というシーンから直接「ジャコビー家の夕食会」へ繋げても、何の問題も無いし。

ただし、そのように細かく気になる点も幾つかあるが、この映画の致命的な欠点は「色んなことを盛り込み過ぎ」という部分に集約されている。
ザックリ言っちゃえば、これは「主人公が様々な出来事を体験することで人間的に成長する」という、遅れ馳せながらのモラトリアム脱出を描いた話だ。
だけど、主人公の精神的成長を描く上で、色んなことを盛り込み過ぎているのだ。
その結果、「主人公の精神的成長を描く物語」というシンプルな物語が、ちっともシンプルではないゴチャゴチャしまくった仕上がりになっている。

ビルは30代も半ばを過ぎているが、その中身は成熟と程遠い状態にある。ちっとも大人に成り切れず、だからと言って「少年のような純朴な心を持った真っ直ぐな男」というわけでもない。大人としての責任感に乏しく、勇気や決断力に欠けており、人間としての器が小さい。
ジャコビー家の面々に対して常に遠慮した態度しか取れず、ストレスから甘い物を食べすぎてメタボになっている。
一言で分かりやすく表現するならば、いわゆる「ダメ人間」ってやつだ。
ビルはジャコビー家に馴染めず、妻は浮気している。銀行でも居場所が無く、密かにドーナツ・チェーン店をやりたいと思っている。
で、そんな彼を使って、「メンター制度で生意気な学生に振り回される話」「不倫妻とヨリを戻そうとする話」「銀行を辞めて別の仕事を始めようとする話」を全てやろうとして、消化不良に陥っている。
もちろん、様々な物語を並行して描きながら、それが互いに上手く絡み合ったり、相乗効果を生んだりするケースもあるだろう。しかし本作品は、そういうことが全く無い。

映画が始まって20分も経過しない内に、明らかに詰め込み過ぎだということはハッキリと分かる。
その段階で、既に「メンター制度での学生との関わり」「ジャコビー家&銀行での居場所の無さ」「妻の浮気」「ドーナツ・チェーンへの転職希望」という要素が提示されている。
この内、まだ「ジャコビー家&銀行での居場所の無さ」と「妻の浮気」に関しては、関連付けて描写することも出来るだろう。
だが、メンター制度関連の部分と、転職希望の部分は、とてもじゃないが上手く絡ませることが出来そうな予感がしないのだ。

実際、メンター制度で学生が銀行に来た後、「ビルが彼を指導する」という筋書きは、なかなか先へ進まない。
ではドーナツ・チェーン店に転職する話はというと、そこに割いている時間は短く、進行は遅々としている。多くの時間を、「ビルとジェスの夫婦関係」を使った話の描写に使っている。
だったら、そこだけに絞り込んで作品を構成すればいい。
「逆玉に乗ったけど居心地は悪く、妻は平然と浮気している。そんな状況に苛立ち、何とかしようと奮闘する」という、哀れだけど可笑しい主人公を描く話にすればいい。

ただし引っ掛かるのは、「ビルがジェスを取り戻そうとしている」ってことだ。
この話で「ビルがジェスとヨリを戻しました」という着地を期待する観客は、ほとんど存在しないんじゃないか。そもそも、「ジェスとの結婚が地獄の始まり」と言っているビルが、本当にジェスを愛しているのかどうかさえ疑問なのに。
それに、浮気をしても悪びれず、ビルに対して愛情のカケラも見せないジェスという女に好感を抱く観客は皆無に等しいだろう。
にも関わらず、この映画は「ビルがジェスとヨリを戻そうとする」という話を進めて行くのだ。
ビルがジェスとヨリを戻そうとする展開の中で、「最初はヨリを戻そうとしていたけど、ルーシーと出会って彼女に惹かれて」という風にルーシーとの恋愛劇へシフトしていくことを少しだけ期待してみたが、そんなことは全く無い。

そもそもルーシーというキャラは、そんなに出番が多いわけではない。前半に男子生徒がランジェリーをプレゼントするシーンでチラッと登場した後、後半まで出て来ない。
後半は男子生徒に頼まれてジェスに嫉妬させるための役回りを引き受けたり、研修に奥さんとして同行したりするので、ルーシーの出番は前半に比べてはるかに増える。
ただし、ビルに大きな影響を与えるような存在ではなく、極端に言ってしまえば新人女優がやってもいいような役だ。ジェシカ・アルバはキャスト表記で2番目なのに、そういう役回りなのだ。
むしろ、そこにジェシカ・アルバという女優を起用したことで、変な期待を観客に抱かせてしまう分、映画としては損をしているように感じられる。

ビルは双眼鏡でジェスを覗いたのがバレた後、ポールに頼んで、髪の毛を染めてもらう。プールで泳ぎ、胸毛を剃り、オフィスに置いてあったお菓子を全て捨てる。
それは「自分をアップグレードするための行為」の数々なんだけど、実際はチップの外見に少しでも近付こうとするための行為だ。
だから、そこを「ビルがやる気になりました」というシーンとして描いているのは、全く解せない。
前向きな意欲を示したことは確かだけど、その方向が明らかに間違っているんだから、「間違った努力」として見せるべきじゃないかと。

夕食会でジョンがビルを扱き下ろした時、ジェスが「彼のおかげで失業保険の申請は4割も減ったわ」と擁護するのは、なぜなのか全く分からない。
一方、「姉さんも哀れだな。そんな妻、僕なら捨てる」とジョンが言うとビルが「捨てるなんて言葉は僕らには無縁だ」と告げており、夕食会の後には仲良くカフェへ出掛ける。
すっかり関係が修復された夫婦のようになっているのだが、そこに来て急に夫婦の仲の良さがアピールされるというのは困惑してしまう。
そこを納得させるような流れなんて、何も無かったからね。

とにかく、後半に入ってからの「ビルが努力して変わる」という成長物語と、「ジェスとの関係を修復する」という夫婦ドラマに、無理がありすぎる。
ビルが変化するのは、その扱いからすると、ホントは男子生徒との交流がきっかけになるべきなんだろう。
しかし実際は、何がきっかけでビルが「変わらなくちゃ」と感じ、実際に変わるための行動を開始する気になったのか、それが良く分からないのである。
少なくとも、ビルは男子生徒と関わらなかったとしても、変わるための努力を始めたんじゃないかと思えてしまう。

夫婦のドラマにしても同様で、何がどうなって関係が修復されたのか、ものすごくボンヤリしているのだ。
前述した夕食会のシーンだけでなく、それ以降のジェスは「ビルを愛する良き妻」という描写になるので、前半にあったような不快なイメージは消えるけど、その変化には困惑してしまうし。
「夫婦関係が修復される」という着地に向けての流れが、ちっともスムーズじゃないんだよな。後半に入って急に舵を切り、強引に辻褄を合わせているように感じるのだ。
あと、最後の最後になってビルが「ドーナツ屋になりたくない」と言い出してフランチャイズの話を断るのは、かなりタチの悪い梯子の外し方だと思うぞ。

(観賞日:2014年10月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会