『死海殺人事件』:1988、アメリカ

1937年、アメリカのニュージャージー州。大富豪のエルマー・ボイントンが死去し、後妻のエミリーは顧問弁護士のコープから遺言書の文面を知らされる。それは「全財産を妻に譲渡し、妻の亡き後は子供たちに等分に配分する」という内容であり、エミリーは当然だと納得した。しかしコープは、2日前に署名された第二の遺言状があり、「全てに優先する」と記されていることを明かす。そこには「全家族に等分に20万ドルずつを配分する」と書かれていると知り、エミリーは怒りを示した。
エミリーはコープに不良株で儲けた過去があることを指摘し、「明るみに出れば弁護士資格は剥奪される」と脅した。かつて14年に渡って刑務所の看守をしていたエミリーは、そこでコープの情報を得ていたのだ。彼女はコープを脅迫し、第二の遺言状を焼却処分させる。彼女は先妻の子供であるレノックス、レイモンド、キャロル、実の娘であるジネヴラ、レノックスの妻であるナディーンを呼び、コープに最初の遺言状を読ませた。激しく反発するレノックスたちに、エミリーは「みんなでヨーロッパ旅行へ行き、聖地を巡りましょう。辛いことは忘れるのよ」と陽気に告げた。
ボイントン家の面々はヨーロッパの聖地を巡るツアーに参加するが、第二の遺言状の存在を知っているレノックスたちは納得できないままだった。持病を抱えるエミリーが倒れそうになると、女医のサラ・キングが声を掛けた。しかしサラが新米だと知ったエミリーは信用せず、薬を持っているナディーンを呼んだ。レノックスたちはアメリカで仕事をしているはずのコープが来ているのを目撃するが、エミリーは呼んでいないと話した。
エミリーはレイモンドに金を渡し、サラに謝礼として渡すよう指示した。レイモンドから金を差し出されたサラは、医者として当然のことをしただけだと告げて受け取らなかった。ナディーンは一家から離れ、密かにコープの元へ向かう。コープがヨーロッパへ来たのは、不倫相手であるナディーンと会うためだった。ナディーンは予想外のことに驚くが、喜んでキスを交わした。ヨーロッパの聖地を巡るツアーには、ウェストホルム卿夫人も参加していた。彼女は現地ガイドを信用せず、シガレットケースが紛失すると盗まれたのだと決め付けた。彼女は警官を呼び、ガイドを逮捕するよう命じた。
サラは旧知の仲である名探偵のエルキュール・ポアロと遭遇し、声を掛けた。ツアーに来ている理由を訪ねたサラに、ポワロは久しぶりの休暇だと答えた。ウェストホルムが警官と揉めている様子を目にしたサラは、彼女がアメリカ出身だが現在は英国下院議員であることをポワロに教えた。ナディーンはコープを連れて、ボイントン家の面々の元へ戻った。するとジネヴラを伴って馬車に乗り込んだエミリーは冷淡な態度を示し、レノックスたちには「歩いて港まで戻るのよ」と指示した。レイモンドはサラに会釈し、港へ向かった。
ポワロはボイントン家の面々に目をやり、「嫌な予感がする。あの連中と同じ船かな」と呟いた。その予感は的中していた。その夜、食堂で夕食を取っていたウェストホルムは、遺跡発掘の責任者である友人のミス・クイントンに気付いて声を掛ける。ポワロはウェストホルムの隣席が指定されていたが、船酔いで食堂に行けなかった。ジネヴラはフロアで踊ろうとするが、エミリーは船室へ戻って寝るよう命じた。ジネヴラは不満を漏らすが、仕方なく受け入れた。
翌朝、ポワロは甲板へ出て日光浴を始め、レイモンドはバーでサラと話す。ナディーンはコープと2人になり、ヤッフェで雲隠れする計画について口にする。しかしコープは留まるべきだと主張し、「いずれ君の母親は死ぬよ」と述べる。エミリーは彼がナディーンと怪しい関係だと察しており、ヤッフェに到着したらアメリカへ帰るよう要求した。コープが「みんな第二の遺言状を知ってる。旦那が喋ったんだ。子供たちに遺産を分けてあげれば?」とコープが持ち掛けると、エミリーは脅しの言葉を口にした。しかし彼女は態度を一変させ、一緒に夕食を取って話そうと告げた。コープが去った後、エミリーは持参しているジギタリスの瓶を確認した。
その夜、レイモンドがキャロルに「あの女が遺言状を握りつぶした。殺してやる」と言っているのを、ポワロは耳にした。ポワロは食堂へ行き、ウェストホルムの隣に座った。ボイントン家は円卓で夕食を取ろうとするが、ナディーンは時計を忘れたことに気付き、レノックスが船室へ取りに向かう。コープが遅れて円卓に現れ、レイモンドはサラに気付いて話し掛けた。エミリーはコープのグラスにジギタリスを混入し、みんなで乾杯しようとする。しかし戻って来たレノックスが怒鳴ったので、コープはワインをこぼしてしまった。レノックスは船室にあったシガレットケースの刻印で妻の浮気を知り、コープを殴り付けた。床にこぼれたワインの染みに群がったゴキブリが死んでいるのを、ポワロは目にした。
アンマンの港で下船したポワロは、迎えに来た友人のカーベリー大佐にサラを紹介した。ウェストホルムはカーベリーが自分の迎えに来たと勘違いし、向こうに本物の出迎え役がいることを指摘された。コープは発掘作業でクムランに向かうクイントンに話し掛け、それを見たナディーンは不機嫌な様子を見せた。コープはエミリーから「しばらくウチの家族には近付かないで」と言われ、「心配は御無用です。エルサレムには寄らず、クムランへ行きます」と告げた。
翌日、ボイントン家の面々は揃って行動し、ポワロはサラと共に観光へ出掛ける。レイモンドはサラを見つけると、「夕食の後にカフェで会おう」と誘った。ナディーンはレノックスに「貴方を愛してるのよ。別れる気なんて無いわ。問題は貴方のお母さまよ」と告げ、機嫌を取った。夜、サラがカフェで待っているとキャロルが現れ、レイモンドが母に意地悪なことを言われて来られなくなったことを伝えた。ホテルでカーベリーと話していたポワロは、戻って来たサラと会話を交わした。廊下を移動したポワロは、エミリーがアラブ人の男と密会して「報酬に見合う仕事をしてよ」と金を渡す現場を目撃した。
翌朝、カーベリーはポワロに、クムランでアメリカ人が行方不明だと告げた。すぐにポワロは、それがコープだと言い当てた。ポワロはカーベリーに、調査する考えを話した。レイモンドはホテルのロビーでサラを目撃し、話し掛けようとした。するとエミリーが制止し、薬を部屋へ取りに行くよう命じた。サラは憤慨し、エミリーに抗議した。するとエミリーはサラを鋭く睨み付け、「私は人の行いも、名前も顔も決して忘れない」と告げた。
ポワロはウェストホルム、サラと共に、カーベリーから借りた車でクムランへ向かった。3人は発掘現場へ到着し、考古学者のヒーリーと会った。ポワロがコープのことを尋ねると、ヒーリーは何も分からないこと、クイントンも失踪したことを話す。そこへ族長の馬で送ってもらったコープとクイントンが戻り、隣の谷へ探検に出掛けていたことを話した。ボイントン家の面々が車で来ると、エミリーの乱暴な行動にウェストホルムは腹を立てた。エミリーはウェストホルムを一瞥し、無視して去った。
ポワロはカーベリーと共に、車でアクレの町へ向かった。エミリーは家族に対し、散歩へ行くよう指示した。ただしジネヴラだけは、自分のテントで昼寝をするよう命じた。エミリーはレイモンドにサラを誘うよう促し、ウェストホルムに話があると伝えるよう命じた。サラ、レイモンド、ナディーン、コープ、レノックスの5人は、散歩に出掛けた。しかしナディーンがコープと平気でベタベタする様子を見たレノックスは、先に帰った。サラとレイモンドは2人になり、キスを交わした。
発掘現場へ戻ったサラはウェストホルムと話した後、椅子に座っているエミリーが死んでいることに気付いた。発掘現場にポワロや一家の人々が戻ると、サラはエミリーの死を伝えた。ポワロは死体を調べ、サラに死亡推定時刻を尋ねた。死後2時間ほどだと話すサラに、彼は死体の腕に針で刺したような傷があったことを教えた。サラは心臓発作だと推察していたが、ポワロは殺人だと断言した。ポワロがサラに医療鞄の中身を確認させると、何者かに荒らされた形跡があり、ジギタリスの瓶が空っぽになっていた。
ポワロはカーベリーに会い、調査の時間を与えるよう要請した。カーベリーは戴冠式のパーティーがある2日後までの猶予を与え、ポワロに捜査の全権を任せた。翌日、ポワロはサラに会い、事件があった日の行動を尋ねた。サラはレノックスが散歩から先に帰ったこと、自分はレイモンドの後で戻ったことを話す。ポワロは彼女に、エミリーの死を告げられた直後のレイモンドが「母とは1時間前に話した」と言っていたことを語る。推定死亡時刻がサラの言った通りなら、レイモンドははエミリーの死体と話したことになる。
ポワロはウェストホルムとクイントンからも話を聞くため、2人がピール卿と会っている場所へ赴いた。ピール卿が去った後、ポワロは事件当日の行動について質問した。ウェストホルムはエミリーに呼ばれて赴いたこと、議論を吹っ掛けられたこと、エミリーがアラブ人の召使いに八つ当たりしていたことを話す。召使いの顔は見ていないが、背の高い男だったと彼女は語る。それから彼女は自分のテントへ戻ってクイントンを待ち、エミリーに用事が無いか尋ねてから去ったと証言した。
クイントンはポワロに、発掘品を見るため小屋にいたことを話す。彼女はエミリーのテントへ向かう白い服のアラブ人を目撃し、自分を送ってくれた族長ではないかと考えたことも語った。さらにクイントンは、歩いていたら小さな箱を見つけたこと、中には注射器が入っていたこと、持ち主はキャロルだったことを明かした。続いてポワロはレイモンドと会い、散歩から戻ってエミリーと話したこと、腕時計が止まっていると言われたので正確な時間に直したこと、それから発掘現場へ行ったことを聞かされる。ナディーンはポワロに対し、散歩に出てコープと一緒になると決意したこと、テントへ戻ってエミリーに話すと激怒されたので逃げたことを話す。さらにポワロはコープやキャロル、レイモンドたちにも会い、事件当日の行動について尋ねる…。

製作&監督はマイケル・ウィナー、原作はアガサ・クリスティー、脚本はアンソニー・シェイファー&ピーター・バックマン&マイケル・ウィナー、製作協力はマティー・ラズ、製作総指揮はメナハム・ゴーラン&ヨーラン・グローバス、撮影はデヴィッド・ガーフィンケル、美術はジョン・ブレザード、編集はアーノルド・クラスト(マイケル・ウィナー)、衣装はジョン・ブルームフィールド、音楽はピノ・ドナッジオ。
主演はピーター・ユスティノフ、共演はローレン・バコール、キャリー・フィッシャー、ジョン・ギールグッド、パイパー・ローリー、ヘイリー・ミルズ、ジェニー・シーグローヴ、デヴィッド・ソウル、アンバー・ベゼール、ジョン・ターレスキー、ニコラス・ゲスト、ヴァレリー・リチャーズ、マイク・サーン、マイケル・クレイグ、モハメド・ヒルザラ、ルッジェーロ・コンプロイ、ダニー・ムッジア、ルトゥフ・ヌアイサー、バビ・ニーマン、ルパート・ホロックス、ヒュー・ブロフィー、マーセル・ソロモン他。


名探偵ポアロが登場するアガサ・クリスティーの小説を基にしたシリーズ第4作。今回の原作は『死との約束』。
1980年の『クリスタル殺人事件』も含む“アガサ・クリスティー・ミステリー”シリーズとしては、第5作になる。
監督は「デス・ウィッシュ」シリーズのマイケル・ウィナー。編集のアーノルド・クラストは、彼の変名。
脚本はシリーズ第2作から3本連続となるアンソニー・シェイファー、映画は初めてとなるピーター・バックマン、マイケル・ウィナー監督による共同。
ポアロ役は、第2作から演じているピーター・ユスティノフが続投している。他に、ウェストホルムをローレン・バコール、ナディーンをキャリー・フィッシャー、カーベリーをジョン・ギールグッド、エミリーをパイパー・ローリー、クイントンをヘイリー・ミルズ、サラをジェニー・シーグローヴ、コープをデヴィッド・ソウルが演じている。

冒頭ではエミリーが第二の遺言状を処分したことが描かれ、子供たちに話すシーンが終わってからオープニング・クレジットに入る。
そこを最初に描くのは、「遺産目当てで家族の誰かがエミリーを殺したんだろう」と観客に思わせるための仕掛けだ。
しかし、そういう丁寧なミスリードの描写を最初に見せておくことによって、逆に「遺産目当てで家族が殺したわけではない」ってのがバレバレになってしまう。
なぜなら、「遺産目当てで家族が殺した」というのが真相なら、ツアー旅行で後から登場する人々の存在意義が無くなるからだ。

エミリーの家族&コープ以外の面々を後から登場させることによって、「遺産目当てが否かに関わらず、旅行に参加している家族以外の誰かが殺したんだろう」ってのが何となく見えてしまう。
いや、「何となく」と遠慮して書いたけど、実はハッキリと見えてしまうのだ。
そこの問題を解消するためには、いきなり「ヨーロッパの聖地巡礼ツアーに大勢の人々が参加している」という様子から入った方がいい。
そして主要キャストを順番に紹介する構成にしておけば、エミリーの家族も容疑者として見ることが出来たはずだ。

ツアーが始まった後も、コープが「いずれ君の母親は死ぬよ」と口にしたり、レイモンドが「あの女を殺してやる」と怒りを示したりと、エミリーの周辺にいる人々が露骨に「殺意を持っていますよ」ってことを匂わせる。
だが、あまりにも分かりやすい容疑者アピールをすることによって、それがミスリードであることがバレバレになっている。
主要キャストの全員が殺意を感じさせるアピールをしているならともかく、家族とコープだけなので、「ってことは、それ以外の面々の中に犯人がいるんだろう」ってのが読めてしまう。

ツアーの様子が描かれるとウェストホルムが登場し、ある意味ではエミリーを凌ぐほどの厄介者っぷりを見せ付ける。
それはコメディー・リリーフ的なトラブルメーカーという描写ではなく、ちょっと悪役に近い雰囲気さえ感じさせるモノになっている。
後から登場した面々の中でも、彼女がダントツで目立っている。それも悪い目立ち方だ。
まだコメディー・リリーフ的な役回りであれば、それも良しとしよう。しかし、そうではないし、事件の真相から逆算した時、そのキャラ造形は問題が大きいと感じる。

そもそも“アガサ・クリスティー・ミステリー”シリーズは、オールスター映画として始まった企画である。
1作目の『オリエント急行殺人事件』では、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、アンソニー・パーキンス、リチャード・ウィドマークなど、スター俳優たちが集まっていた。それが一番のセールスポイントであり、「スターの華やかさを楽しみ、その競演を堪能する」ってことで観客に満足してもらおうというスタンスが強く感じられた。
そういう方向性は、もちろんシリーズなので、今回も受け継がれている。

ただ、これまでのシリーズ4作は全て、ジョン・ブラボーン&リチャード・グッドウィンが製作していた。しかし今回は、映画化権がキャノン・フィルムズに譲渡されている。
ってことは、製作したのは、あのヨーラン・グローバス&メナハム・ゴーランのコンビである。
B級映画専門のプロデューサーなのだから、オールスター映画としてのゴージャスさに期待するだけ無駄というモノだろう。
1作目にも参加していたローレン・バコールとジョン・ギールグッドは出演しているし、『ハスラー』『キャリー』のパイパー・ローリーなども出演している。
ただ、例えば『スター・ウォーズ』シリーズのキャリー・フィッシャーは、それ以外の作品ではパッとしなかった。ヘイリー・ミルズは子役時代に『ポリアンナ』などで人気を得たものの、成長してからは決してトップ女優とは言えない地位になった。デヴィッド・ソウルは『刑事スタスキー&ハッチ』で人気を得たが、主にTVドラマの世界で活動した人だった。

アガサ・クリスティーの『死との約束』が原作だし、ピーター・ユスティノフがポアロを演じているので、一応はシリーズとしての体裁を整えている。しかし出演者の顔触れを見た時に、これを「オールスター映画」と呼べるのかと考えると、そこは相当に厳しいモノがある。
とは言え、実は前作である『地中海殺人事件』の段階でも、既にオールスター映画としては出演者のグレードが随分と落ちていたのよね。
しかし、それでも前作の場合、「ミステリーとしては前作の『クリスタル殺人事件』よりも上」という言い訳が通用した。
今回の場合、「オールスター映画は内容より豪華キャストを楽しむべき」という言い訳が通用しないレベルになっている上に、そこをリカバリーするだけの「ミステリー作品としての質」も備わっていない。

殺人事件が起きる状況を作るために、かなり無理をしている印象を受ける。
まず、ポワロがカーベリーと共に発掘現場を去る。ボイントン家の面々は、エミリーの指示があったとは言え、ジネヴラ以外は散歩に出掛ける。ジネヴラにしても、昼寝しろという命令に素直に従う。
そんな風に全員がテントから去るので、「誰も見ていない間にエミリーが殺される」という状況が生まれる。そしてサラがエミリーの死に気付く時には、ポワロもボイントン家の面々も一緒に戻ってくる。
なんとも都合の良すぎる展開である。

ポワロが関係者の聞き込みを行う際、それぞれの人々が行動を取った正確な時刻を尋ねている。エミリーの死亡推定時刻は事前に示されており、それと照らし合わせてアリバイに関わってくるため、重要な要素になるはずだ。
ところが困ったことに、まるで頭に入って来ない。
そんなことになってしまう理由は、「それって犯人捜しにおいて、実は全く重要じゃない要素だよね」ってことが透けて見えちゃうからだ。
アリバイトリックなんて作ろうと思えば幾らでも作れるし、そもそも誰一人として完全なアリバイなど無いのだ。全員に1人で行動していた時間帯、証人が誰もいない時間帯が存在するのでね。

構成の事情で仕方が無い部分はあるのだが、エミリーが死んだ後は「ポワロが関係者の聞き込みに回る」という時間がしばらく続く。
新たな殺人は発生しないし、それ以外でも大きなイベントは用意されていないため、話としては単調になってしまう。ポワロが関係者と会う中で、丁々発止のやり取りとか、腹の探り合いとか、そういうモノが描かれるわけでもない。
緊迫感が高まらないのはシリーズのテイストだから構わないのだが、「聞き込みの作業が続いて退屈」と感じさせることを解消するための要素が何も見当たらない。
ポワロが重要な手掛かりを掴むとか、意外な事実が明らかにされるとか、そういうことで引き付けるわけでもない。

ポワロが事件の謎解きを説明するため全員を集めると決めた後、アラブ人少年のハッサンが逃げ出したのでサラが追い掛ける展開がある。
路地を曲がったハッサンをサラが追って姿を消すと、銃声が鳴り響く。カットが切り替わるとハッサンが死んでおり、サラが拳銃を遺体に向けて握っている。
サラは「誰かが横から発砲して拳銃を投げ捨て、自分が拾い上げた」と証言するが、不自然極まりない。彼女に疑念を向けさせるためのミスリードとしては、無理があり過ぎる。
そもそも、それで「サラがハッサンを殺した」と思ってくれるお人好しは、たぶん皆無に等しいはずだ。サラが犯人じゃないことはバレバレなので、解答編に入る直前になって急に2つ目の殺人を用意し、サラに容疑が掛かる展開を入れても効果は乏しい。

ポワロは関係者への聞き込みを終えると、犯人の目星が付いたことを口にする。
だが、その後で「解答編」として犯人の名が明かされても、観客に提示された情報だけで積み上げられた推理としては無理がある。
だから「バラバラだったピースが組み合わさってパズルが完成し、謎が解明された」という謎解きの心地良さが全く感じられない。
エミリーが犯人の殺意を買ってしまった行動には強引さを感じるし、「かつて囚人だった」という犯人の設定にも無理を感じる。
しかも、それを観客が知るための手掛かりなんて何も無かったし。

ポワロが事件の真相を説明するために関係者全員を集めるのは、ミステリー作品としては恒例のパターンだが、それは一向に構わない。
ただ、ピクニックという形で全員を集めて自身の推理を語り始めたのに、そこで最後まで到達しないのだ。
犯人の名前を明かさないままでピクニックは終了してしまい、その後のパーティーで改めて説明の続きが語られる構成にしてある。
でも、「解答編」を分割にしている意味がサッパリ分からない。そこは一気に片付けてしまった方がいいでしょ。

(観賞日:2017年3月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会