『シン・オブ・アメリカ』:2021、アメリカ

ジョージア州ベンヒル郡。ロイ・ランバートは10年の刑期を終えて出所し、グレース・ベイカーと合流した。ロイは10年前から考えていた計画の実行を決意しており、グレースはロイに嫌悪感を抱きつつも同じ目的のために手を組んでいた。後から合流したグレースの異父兄のトビー・キャベンディッシュもロイを認めておらず、「こいつの出所を待ったのは間違いだ。こいつと付き合ったブリジットも悪い」と不快感を露わにした。
ロイたちは薬剤師であるキーツの家へ赴き、グレースが警備していたケインを射殺した。3人はキーツの様子を見て、セーフルームに何かあると睨んだ。ロイたちはキーツに銃を向け、非常ボタンを押すよう命じた。彼らの目的は、失踪したブリジットに関する真相を知ることだった。ブリジットはロイの元恋人で、グレースの姉だった。保安官補のカイル・ラトリッジは車を走らせ、保安官のベン・ワッツを迎えに出向いた。ベンはカイルに、彼の父で町の顔役であるチャールズ・ラトリッジの元へ行くよう指示した。
カイルがベンを伴ってチャールズを尋ねると、無線係のアギーから連絡が入った。「キーツの家で警報が鳴った恐らくミスだけど、電話を掛けても誰も出ない」と言われたカイルは、同じ保安官補のマリサ・ルイスに連絡した。カイルが様子を見に行くよう指示すると、非番のマリサは断った。ベンはチャールズに3万ドルを請求し、夜になったら取りに来るよう告げられた。ロイはFBIオールバニ支局に電話して、キーツを人質に取ったことを伝えた。
チャールズは買収している支局員のレイニーから、ロイの通報を受けてFBIが現場へ向かうことを知らされた。彼は足止めを命じ、ベンに「キーツの家へ行ってロイを始末しろ」と告げた。チャールズが民兵のサイラスを呼ぼうとすると、ベンは「必要ない。俺がやる」と口にした。ベンはカイルを伴ってキーツ邸へ行き、ロイたちと交渉しようとする。ロイたちは彼に、ブリジットを殺した犯人を教えるよう要求した。ベンは「彼女は失踪した」と言うと、グレースは失踪するような人間ではないと反発した。ロイは「最後に目撃されたのがキーツの家だ」と語り、30分以内にブリジットの行方を解明しろと迫った。
ベンはマリサに連絡し、ロイたちがキーツを人質に取っていることを知らせた。マリサが出動を決めると、カイルは湖の向こう側に行くよう指示した。サイラスはチャールズの電話を受け、部下たちを率いて現場へ向かった。トビーはセーフルームを開けるために爆薬を使うが、ドアは壊れなかった。キーツはロイたちに、「真の悪人はチャールズだ。ブリジットのことなら彼に訊け」と述べた。グレースはベンに電話を掛け、チャールズの関与について質問する。ベンが「簡単じゃない」と誤魔化すので、グレースは電話を切った。
ベンはチャールズに電話を掛け、サイラスが行くから協力しろと指示された。「ブリジットの件で何か知らないか」と問われたチャールズは、「お前が捜査しただろ。町に遺体は無かった」と答えた。ベンはカイルに、ブリジットの捜査中止が決まってチャールズがロイに「彼女は死んで当然だ」と告げたこと、怒ったロイがチャールズを殴って逮捕されたことを教えた。マリサから位置に就いたという報告を受けたベンは、合図があるまで待機するよう命じた。
サイラスたちが現場に到着すると、ベンはカイルに裏の窓からキーツ邸へ入るよう促した。「カイルが中にいればサイラスたちも撃たないだろう」というのがベンの考えであり、カイルは承知した。サイラスたちはドローンを飛ばすが、グレースが気付いて撃ち落とした。爆薬を積んでいたことに気付いたグレースは、「彼らはキーツを見捨てた」と述べた。キーツはロイたちに、「ブリジットが保安官の船で連れ去られるのを見た」と告白した。
ベンはグレースからの電話で追及を受け、「10年前のことなど覚えていない。容疑者リストのトップがロイだった」と話した。グレースはロイがブリジットの殺害に無関係だと確信しており、トビーにセーフルームを開けるよう要求した。キーツが「開けたら全てが変わる」と翻意するよう求めると、ロイたちは余計に怪しいと感じた。サイラスが現場に来ると、キーツは「私の計画が上手く行った」と口にした。キーツはベンからカイルが家に入ったことを聞かされ、激しく罵って解雇を通告した。彼は「船の代金は送るから、二度と姿を見せるな」と怒鳴り付け、ベンを追い払った。
トビーはセーフルームのドアを開け、柱に縛られている上半身男の男を目撃した。さらに奥へ進むと、裸エプロンの男が箱に薬物を詰めていた。そこが薬物工場だと悟ったトビーは、キーツの元へ戻って詰め寄った。サイラスの部下4人が家に近付くと、グレースが3人を射殺した。4人目のキャランは家へ突入し、グレースを捕まえた。そこへカイルが現れてグレースを引き離すと、ロイがキャランを射殺した。カイルが固まっていると、グレースは彼から銃を奪い取った。
キャランの携帯が鳴り、相手がチャールズだと知ったグレースは「姉について知っていることを言わないと、カイルを殺す」と脅迫した。チャールズはサイラスに、「息子を救出して、残りは始末しろ」と命じた。サイラスは仲間に連絡を入れ、全員を集合させた。キーツはロイたちに、薬物製造工場のアイデアを思い付いたのはブリジットだと打ち明けた。かつてブリジットはキーツの下で働き、薬品を管理していた。彼女は薬物の実験と製造を行う工場のアイデアを思い付き、金が必要になった。そこでキーツは、スポンサーとしてチャールズを紹介した。ブリジットは運搬役としてロイを誘惑し、恋人として振舞った。チャールズはブリジット失踪時の最重要容疑者としてロイの利用を目論んでおり、ブリジットをサイラスに殺害させた…。

監督はエドワード・ドレイク、原案はコーリー・ラージ&エドワード・ドレイク、脚本はエドワード・ドレイク、製作はコーリー・ラージ、製作総指揮はスティーヴン・J・イーズ&ゴードン・ビエロニック&ショーン・オライリー&ジャス・ボパライ&ジョニー・メスナー&マシュー・ヘルダーマン&ルーク・テイラー&グレイディー・クレイグ&ジョー・リストハウス&ブライアン・オシェイ&ナット・マコーミック&アン・リー、撮影はラフリー・ウィットブロッド、美術はコーリー・アラン・クーパー、編集はジャスティン・ウィリアムズ、音楽はスコット・カリー。
出演はティモシー・V・マーフィー、ブルース・ウィリス、ロブ・ゴフ、ヨハン・アーブ、アナ・ハインドマン、ジョニー・メスナー、カレン・G・チェンバーズ、ジャネット・ジョーンズ、トレヴァー・グレツキー、ロバート・レイネン、サラ・メイ・ソマーズ、ケルシー・ローズ、ジェイデン・クルーガー、フィリップ・ジョー・ルーク、ジョシュア・キャヴェンダー・コール、ジョン・モンロー、ティム・コックス、スティーヴ・ハミルトン、カート・ミッチェル、ダニー・ワトキンス、フランシス・クローニン、タビサ・ウッドマン他。


『コズミック・シン』『キル・ゲーム』のエドワード・ドレイクが監督&原案&脚本を務めた作品。
チャールズをティモシー・V・マーフィー、ベンをブルース・ウィリス、ロイをロブ・ゴフ、トビーをヨハン・アーブ、グレースをアナ・ハインドマン、サイラスをジョニー・メスナー、キーツをカレン・G・チェンバーズ、マリサをジャネット・ジョーンズ、カイルをトレヴァー・グレツキー、ブリジットをサラ・メイ・ソマーズが演じている。

2020年の『アンチ・ライフ』以降、エドワード・ドレイクが監督や脚本家として携わった映画、つまり308 Entertainmentが製作した映画に、ブルース・ウィリスは立て続けに出演している。
前述した『コズミック・シン』『キル・ゲーム』にも、彼は出演している。
この映画の後も、エドワード・ドレイクが監督や脚本を担当した5本の映画にブルース・ウィリスは出演している。
ブルース・ウィリスが俳優を引退していなければ、さらにコンビの仕事は続く予定になっていた。

ここまで極端な蜜月関係は、ちょっとキオニ・ワックスマンとスティーヴン・セガールの関係を連想した。
ただ、あちらはワックスマンがセガール御用達の監督だったのに対して、こちらはウィリスがドレイクの仕事を受ける関係だ。
出演者の名前を見れば一目瞭然だろうが、ブルース・ウィリスの知名度だけがズバ抜けていて、他は「誰だよ」と言いたくなるメンツが揃っている。
エドワード・ドレイクが彼の人気と知名度を借りて制作環境を整え、自分の作りたい映画を撮ったということだろう。

冒頭、「ジョージア州では年に63回 失踪の事案が報告される。大抵の場合、1日で行方が分かる」というテロップが出る。
その後には、劇中の映像を幾つかコラージュして逆再生する演出がある。
いずれの演出も、まるで意味が無いと断言できる。
冒頭で観客を引き込むために意味ありげなテロップを用意したり、時系列を入れ替えて後のシーンを配置したりするが、結局は無意味に終わる辺り、いかにもダメなB級アクション映画らしいと言えなくもない。

そんな無意味な導入部のコラージュ映像は、グレースの「姉を殺したのは誰か」という台詞で終わる。なのでグレースを主役に据えて物語を進めるのかと思いきや、そうではない。
これはキャラの配置として、とても具合が悪い。場面によって、どんどん視点が切り替わっていく。
いちいち説明しなくても分かるかもしれないが、群像劇というわけではない。
特定の人物を主人公にしなくても、それで上手く話が転がる映画もあるだろう。でも本作品に関しては、分かりやすく主人公を決めた方が絶対に良かった。
もしも複数キャラで視点が移動していく構成が狙いだったとしても、失敗に終わっているし。

キーツの家ではブリジットとロイたちの関係性について語るシーンが何度かあるが、それがキャラの厚みやドラマの深さに貢献することは全く無い。
人間ドラマに奥行きを持たせようとするが、技術や能力が追い付いていないから無駄話で話を停滞させるだけになるってのも、いかにもダメなB級アクション映画らしい。
サイラスはチャールズから電話を受けて現場へ向かう時、部下たちに男の遺体を燃やさせている。
そういう描写で「冷酷で残忍な殺し屋」ってのをアピールする意図があるんだろうけど、何の効果も無い。

トビーがセーフルームの奥を調べる際、柱に縛られているパンツ一丁の男がいる。
こいつはトビーが来ても無反応なのだが、何者なのか全く分からないまま話が進む。
少し後になって「ドラッグの実験台」ってことが判明するが、要らないキャラでしかない。
薬物を詰める男が裸エプロンってのも、無駄にクセが強くて邪魔だなあ。
こいつも、銃を持ったトビーが来ても無反応で作業を続けているけど、どういうことなのかと言いたくなるし。

サイラスはチャールズからカイルを救出して残りは始末しろと命じられた後、部下たちに電話を掛ける。
この時、電話を受ける部下たちの様子が挿入されるが、まるで要らない。
無駄な場面転換、余計な場面挿入が引っ掛かるのも、ダメなB級アクション映画の典型だ。この辺りは、キオニ・ワックスマン作品と共通する部分がある。
悪党の飼い犬だったベンが正義感に目覚めるというドラマも一応は用意されているが、終盤に弱火で少し沸かしただけで、すぐに消えてしまう。ベンは現場を追い払われた後、しばらくは消えているし。

ブリジットは悪党に殺された哀れな犠牲者なのかと思いきや、薬物工場のアイデアを思い付いた人間だったことが明らかになる。
つまり彼女も悪党の一味であり、チャールズが口にした「死んで当然」という批評も、あながち間違っちゃいないのだ。
もちろんチャールズに関しては「お前が言うな」ってことになるけど、ブリジットはロイたちが必死になって真実を究明しようとするほど価値のある人間なのかというと、骨折り損という印象が強い。
意外性を狙ったのかもしれないが、誰も得をしない意外性だ。

(観賞日:2023年7月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会