『最終突撃取材計画!』:2008、アメリカ

独立記念日、おじいちゃんは大好きな孫たちのためにハンバーガーを作った。しかし美味しくなかったので、孫たちは「あんまり食べたくないや。何かお話して」とせがむ。おじいちゃんが「みんなが好きなスクルージの話をしようか」と口にすると、孫たちは「クリスマスが嫌いな人?知ってるわ」と言う。おじいちゃんは「このスクルージが嫌いだったのは独立記念日なんだ」と言い、話し始める。
物語の始まりは、アフガニスタンにある山の頂上だ。タリバンのテロリストであるアジズは選挙の投票所を襲撃するため、部下を率いて観察していた。彼は部下の一人を選んで腹に爆弾を巻き付け、自転車で突っ込ませて自爆テロを決行させようとする。しかし部下は失敗し、アジズの車を爆破してしまった。アジズは投票所に乗り込み、集まっている人々に「なぜこんな選挙に参加している」と問い掛ける。すると一人が「民主主義と自由のために、信頼できる大統領を選ぶんだ」と答えた。
アフガンにはアメリカ的な思想が広まり、自爆テロの志願者も減る一方だ。部下のアハメドは「新しい募集広告を作りましょう」と言い、ハリウッドの映画監督を起用するよう提案する。そこでアハメドと仲間のモハメッドが目を付けたのが、反米的なドキュメンタリー監督のマイケル・マローンだった。彼はアメリカの医療制度を批判し、キューバでの取材を行った『Did You American Pigs!』のプレミア上映に出席した。作品が観客に受けていると思い込んだ彼は、記者の前で「もっと重要なのは日曜に行われる世界最大規模のデモです。我々は独立記念日を廃止する」と高らかに宣言した。
マローンがデモ運動の事務所で運動員のジェーンたちと話していると、海軍に所属する甥のジョシュが制服姿でやって来た。ジョシュは「独立記念日のバーベキューに招待したくて。早めに終わる予定だ。みんなトレイス・アドキンスのコンサートに行く予定だから」と話す。マローンは知らなかったが、アドキンスは大人気のカントリー歌手だ。ジョシュは、日曜にはペルシャ湾へ出兵するという。
マローンはレストランのダ・シルヴァーノでエージェントのグロスライトと会い、ボックス・オフィスで新作がトップ10に入らなかったことを知らされる。グロスライトは「君のファンは、実際に映画を見ないってことだ。ポルノ以外で、アメリカが外人にやられる映画なんて見たいはずがない」と冷たく言う。ニューヨークで開かれた社会派映画の祭典「The MooveAlong.org Film Awards」で、マローンはドキュメンタリー部門のレニ・リーフェンシュタール賞を受賞した。だが、その部分はテレビ中継されなかった。最優秀監督賞を受賞したのは、劇映画『That McCarthy Sure was Bad(あくどいマッカシー)』を撮ったジョージ・マローニーだった。
マローンが授賞式後のパーティーに参加していると、モハメッドとアハメドがやって来た。彼らは最後の聖戦を引き起こすような映画を作ってほしいと依頼するが、マローンは「最低でも1千万ドルの予算が用意できたら言ってくれ」と軽く受け流した。ウェイターに化けて潜入していたアジズは、モハメッドたちに「もっと重要な任務がある。映画は後回しだ。異教徒に対して今までにない攻撃を行う。だがコネのある協力者が必要だ」と述べた。アヘンが高く売れたので、1千万ドルも用意できるという。モハメッドたちはマローンに、1千万ドルの支払いを持ち掛ける。だが、それでもマローンは相手にせず、会場を去った。
帰宅したマローンは、テレビ番組で自分がバカにされているのを知って考えを変えた。翌日、モハメッドとアハメドに会ったマローンは、タリバンの映画を作ってほしいと依頼されて承諾した。帰宅したマローンはケネディーを取り上げた番組を観賞し、「俺のヒーローだ。今も大統領だったらなあ」と呟く。するとケネディーが画面から抜け出し、「君は偉大な我が国を中傷し、そのことを世界中に広めた」とマローンを批判した。
ケネディーはマローンの「貴方を見習ったんだ。反戦主義者でしょ?」という発言に呆れ果て、就任演説における「勝利のためなら我々はどんな敵とも戦う。自由は必ず守る」というコメントを教える。そして「君の元に3人の幽霊が現れる。彼らから多くを学べ」と告げて去った。翌朝、目を覚ましたマローンは、全てが夢だったと考える。彼は戦争に反対するコロンビア大学でのデモに出向くが、集まった学生たちは彼の演説を聞かず、学内に突入してしまった。
踏み付けにされたマローンに手を貸したのは、パットン将軍だった。いつの間にかマローンは1940年にタイムスリップしており、目の前では戦争反対のデモが行われていた。パットンは彼に、「ヒトラーと戦うなと言っているのだ」と説明する。デモの人々に、2人の姿は見えていないのだという。「対話で問題を解決しようとする正しい人々だ。サディストのパットン将軍とは違う」とマローンが言うと、パットンは「映画で見たことを真に受けるな」と腹を立てた。
マローンはパットンに連れられ、1938年のドイツに移動した。英国のチェンバレン首相がヒトラーと会談し、協定に署名して媚を売っていた。パットンは「独裁者に取り入っても無意味だ。力で解決するしか無い」と主張するが、マローンは相手にしない。続いてパットンは、アラバマ州にあるマローンの自宅へ彼を連れて行く。そこはリンカーンが戦争に反対したため、南北戦争が起きなかった世界だった。マローンはアラバマ州で最も多くの奴隷を所有する男になっていた。激しく動揺するマローンに、パットンは「リンカーンが崇められているのは戦争を行ったからだ」と述べた。
マローンはコロンビア大学での平和討論会に出席した。パットンは教授たちにミュージカルを始めさせ、その時代遅れな思想をマローンに教えようとする。マローンが「平和を望んでるだけだ」と反論するので、パットンは「お前が道を踏み外したのはいつだ。原因は女か」と問い掛ける。マローンは若い頃を回想する。彼は恋人のモリーに「映画学校へ行くから待っていてくれ」と告げて去ったが、1学期で退学した。戻ってみると、モリーは軍人になったマローンの友人マーティーと付き合って結婚した。
マローンがFOXニュースに出演するためテレビ局へ向かうと、アジズたちの姿があった。モハメッドとアハメドは、マローンにアジズを出資者として紹介した。アジズはマローンに、「金を出す前に、デモに行くための報道関係者パスが欲しい」と持ち掛ける。マローンはビル・オライリーの番組に出演し、独立記念日というテーマで話すことになっていた。だが、もう1人のゲストである女優のロージー・オコンネルが、マローンより過激な意見を熱弁した。ロージーが撮ったキリスト教過激派を糾弾する映画が紹介され、彼女とビルの討論が熱を帯びたため、マローンは放置されてしまった。
マローンがモハメッドとアハメドに呼ばれて赴くと、2人は勝手に映画のリハーサルを始めていた。そこへパットンが来て、マローンに「敵が来たぞ」と言う。彼はマローンに銃を渡し、部下と共に裁判所へ赴いた。自由人権協会のゾンビたちがいたため、パットンは部下と共に銃撃する。マローンが銃撃戦にうろたえながら判事に「どうなってるんだ」と訊くと、「自由人権協会の連中が、テロリストを擁護するんだ」という答えが返って来た。
判事は「ゾンビに情けを掛けるな」とマローンに言い、ゾンビたちを撃った。マローンは「銃では何も解決しない」と反対するが、彼がドキュメンタリー監督であることをバカにしたゾンビに腹を立て、冷徹に射殺した。続いて地下鉄の構内に向かったパットンは、マローンの目の前でテロリスト2名を射殺する。それを見ていたアジズはモハメッドたちに「何としてもあの監督からパスを手に入れろ」と告げ、MSGでの自爆テロ計画を語る。パットンがマローンの説得を諦めた後、ワシントン初代大統領の亡霊が現れた…。

監督はデヴィッド・ザッカー、脚本はデヴィッド・ザッカー&マーナ・ソコロフ&ルイス・フリードマン、製作はスティーヴン・マケヴィティー&ジョン・シェパード&デヴィッド・ザッカー、共同製作はルイス・フリードマン&トッド・バーンズ、製作協力はマイク・エイデス&アン・コークリー、製作総指揮はマーナ・ソコロフ&ケネス・ヘンドリック&ダイアン・ヘンドリックス、共同製作総指揮はケン・ファーガソン、撮影はブライアン・ボウ、編集はヴァシ・ネドマンスキー、美術はパトリック・サリヴァン、衣装はレイチェル・グッド、音楽はジェームズ・L・ヴェナブル。 出演はケヴィン・ファーレイ、ケルシー・グラマー、ジョン・ヴォイト、トレイス・アドキンス、ロバート・ダヴィ、ジェフリー・エアンド、セルダー・カルシン、レスリー・ニールセン、ゲイル・オグラディー、トラヴィス・シュルト、ケヴィン・ソーボ、ニッキー・デローチ、デヴィッド・アラン・グリア、パリス・ヒルトン、デニス・ホッパー、クリストファー・マクドナルド、ジョン・オハーリー、サイモン・レックス、ゲイリー・コールマン、カリ・ターナー、ザッカリー・レヴィ、ジェームズ・ウッズ、ビル・オライリー他。


『最'狂'絶叫計画』『最終絶叫計画4』のデヴィッド・ザッカーが監督&脚本&製作を務めた作品。
マローンをケヴィン・ファーレイ、パットンをケルシー・グラマー、ワシントンをジョン・ヴォイト、アジズをロバート・ダヴィ、モハメッドをジェフリー・エアンド、アハメドをセルダー・カルシン、おじいちゃんをレスリー・ニールセン、ジェーンをゲイル・オグラディー、ジョシュをトラヴィス・シュルト、マローニーをケヴィン・ソーボ、ジョシュの妻リリーをニッキー・デローチが演じている。

パロディー映画を観賞する時の一つの楽しみとして、「有名俳優や意外な著名人の出演者を見つける」ということがある。パロディー映画が笑いを作る時に、有名人を登場させることでネタにするという方法を使うことも少なくないし。
ZAZトリオの関わった作品に限っても、『ケンタッキー・フライド・ムービー』ではドナルド・サザーランドや歌手のスティーヴン・ビショップ、『フライング・ハイ』ではロイド・ブリッジスやカリーム・アブドゥル=ジャバー、『トップ・シークレット』ではピーター・カッシングやオマー・シャリフ、『裸の銃を持つ男』ではリカルド・モンタルバンといった面々が出演していた。
『最'狂'絶叫計画』ではチャーリー・シーンやクイーン・ラティファ、マスターP。『最終絶叫計画4』ではビル・プルマン、シャキール・オニール、クロリス・リーチマンといった面々の出演があった。
で、今回は、カントリー歌手のトレイス・アドキンスが本人役と死の天使役、ジョン・ヴォイトがジョージ・ワシントン役で出演している。ジェームズ・ウッズがグロスライト役で出演しているが、彼は『最‘新’絶叫計画』にも出ていたので、そんなに意外性は無い。
他には、映画祭の司会として俳優のサイモン・レックスとタレントのパリス・ヒルトン、FOXニュースのキャスターとしてビル・オライリーが、それぞれ本人役で登場する。

冒頭、「Big Fat Important Movie」と表記されるが、『最低☆絶笑ムービー』(原題は『My Big Fat Independent Movie』)から取っているんだろう。
マローンの監督作品『Did You American Pigs!』は、マイケル・ムーアの『シッコ』が元ネタ。
マローンはキューバを絶賛するが、取材を終えて去ろうとすると、大勢のキューバ人たちがアメリカへ連れて行ってほしくて彼のボートに群がってくる。

映画祭でマローンが受賞するのはレニ・リーフェンシュタール賞だが、その名前が付いているレニ・リーフェンシュタールはナチ政権を正当化するプロパガンダ映画を作ったことで有名な女性監督。
そこで司会者の2人は、彼女のことを「事実を巧みに操作することで歴史を変え、映画の力をに知らしめた女性」という褒め殺しのコメントを語る。
この映画祭で監督賞を受賞したジョージ・マローニーのモデルはジョージ・クルーニーで、監督作品『That McCarthy Sure was Bad』は『グッドナイト&グッドラック』が元ネタになっている。
ビル・オライリーの番組にゲストで登場するロージー・オコンネルは、ロージー・オドネルがモデル。

デヴィッド・ザッカーが監督ということで『最終突撃取材計画!』という邦題が付けられているが、“Scary Movie”シリーズとは何の関係もない。
っていうか、最近はハリウッド製のパロディー映画に全て「なんちゃら計画」という邦題を付ける傾向があるけど、何とかならんものかと思っちゃうよなあ。
それはともかく、原題の「An American Carol」で分かる人もいるだろうが、大枠としてはディケンズの『クリスマス・キャロル』のパロディーである。

『クリスマス・キャロル』のスクルージに当たるマイケル・マローンは、ドキュメンタリー監督のマイケル・ムーアをモデルとしたキャラクターだ。ケヴィン・ファーレイの扮装は、かなりマイケル・ムーアに似ている。
『クリスマス・キャロル』は冷徹な守銭奴のスクルージが3人の霊と会って改心するという物語だが、それを下敷きとした本作品では、反米的な考えに凝り固まっていたマローンが、3人の霊と会って愛国主義者になるという筋書きになっている。
ちょっとマジなことを書いちゃうと、モデルになっているマイケル・ムーアは決して反米主義者というわけではなく、むしろ愛国心を持っているからこそアメリカ合衆国のあり方について憂慮し、様々な問題を提起しているんじゃないかと思うけどね。
ただし、デヴィッド・ザッカーはムーアが反米主義者かどうかは大して考えておらず、パロディーのネタとして面白いから使っただけかもしれないが。

この映画では最終的にマローンが「アメリカ万歳」という考えに変化するし、彼を改心させるために登場するキャラクターもゴリゴリの右翼チックな造形になっているけど、だからといって本作品がガチガチの保守系、ゴリゴリのアメリカ至上主義を訴えるような映画なのか、そんな意識で作られた映画なのかというと、そこは違うんじゃないかという気がする。
何しろデヴィッド・ザッカーの作品なんだから。
たぶん、そのアメリカ万歳的な考えの面々も含めて、バカにしてやろうという意識だったんじゃないかな。
もしもデヴィッド・ザッカーが本気でFOXニュース的な愛国心を持って本作品を作ったのだとしたら、とても悲しい。
そうではないと信じたい。

前述したように、大枠としては『クリスマス・キャロル』のパロディーなので、3人の幽霊が登場する。
1人目はパットン将軍、2人目はジョージ・ワシントン、そして3人目はトレイス・アドキンスにそっくりな死の天使。
この3人の時間配分は、かなりバランスが悪い。
映画開始から26分ほど経過してパットン将軍が登場し、彼が消えて2人目のワシントンが登場するのは57分頃。で、わずか2分ほどでワシントンが消えて死の天使が登場し、彼も3分ほどで消える。
後から3人が再登場するが、パットン将軍の割合が大きすぎるし、3人目が歴史上の人物じゃなくて死の天使ってのも、なんか違うんじゃないかと感じる。

弟のジェリー・ザッカーがおバカ映画路線から完全に脱却し、ジム・エイブラハムズが『最終絶叫計画4』以降は映画の世界から遠ざかり、もはやZAZトリオが再結集することは無いだろうと思える。
そんな中で、デヴィッド・ザッカーが相変わらずパロディー映画を作り続けているってことは、素直に嬉しく感じる。
ただし残念ながら、ちっとも面白くないんだよな、この映画。
かつてジョン・ランディスにも感じたことだけど、年を取ったせいで笑いのセンスが古びたり枯渇したりしちゃったのかなあ。

それと、この映画に盛り込まれているネタって政治風刺や社会風刺が大半なんだけど、それは「昔の気持ちを忘れたのか」と言いたくなってしまうんだよなあ。
私の記憶が確かならば、ZAZトリオを組んでいた頃のデヴィッド・ザッカーって、もっと分かりやすくて能天気に笑えるネタ、おバカっぽいネタで笑いを作ろうとしていたはずなんだよね。
ちょっと悪口に聞こえるかもしれない表現を使うなら、幼稚なネタが多かったのだ。

そんな人が、この映画では政治や社会を風刺するネタばかりを使っている。なんかねえ、変に賢くなっちゃったのかなあと。
っていうか、ホントは賢いけれど、あえて幼稚なネタをやっていたはずなんだけど。
こういうのは、ZAZトリオでデヴィッド・ザッカーを知った人間からすると、「アンタ、すっかり変わっちまったのかい」と悲しい気持ちになってしまう。
同じように「ひでえ映画」を作るにしても、せめて幼稚なネタをやってくんないかなあと。

(観賞日:2013年3月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会