『360』:2011、イギリス&オーストリア&フランス&ブラジル

オーストリアのウィーン。スロバキア人のミルカはコールガールになることを決め、元締めのロッコはネットにアップするための写真を撮影する。ミルカに同行した妹のアンナは、その様子を冷めた目で見ている。幾ら稼げるのか尋ねたミルカに、ロッコは金持ちを捕まえて一日でリッチになったブランカという女のことを話す。それを聞いたミルカは、商売の時に使う名前を「ブランカ」に決めた。
撮影を終えたミルカが写真を今日の内にアップしてほしいと告げると、ロッコは「他にも待ってる女がいる。君の誠意次第だ」と言う。ミルカは「ダメよ」と止めるアンナを外で待たせて、ロッコに抱かれた。姉妹はバスでブラチスラヴァのアパートに戻った。ロッコから電話が入り、ミルカは「明日の自動車ショーに来る会社役員から指名が入った」と知らされた。ロッコは彼女に、明日の7時にホテルへ行くよう指示した。
翌日、ミルカはドバイ帰りのコールガールから景気のいい話を聞かされ、アンナと共にバスでウィーンへ向かいながらニヤニヤする。アンナは真剣な顔で、ミルカに「ちゃんとした英語を学んで。ここから脱出する唯一の手段よ」と説く。ホテルに到着したミルカはバーへ行き、指名客のマイケル・デイリーを見つけた。離れた席にいたマイケルは彼女に歩み寄ろうとするが、ドイツ人セールスマン2人に声を掛けられる。彼らはマイケルの会社から仕事を回してもらおうとしていた。
セールスマン2人が「条件を再検討したので仕事を回してほしい」と交渉すると、マイケルは「エストニアの会社から、もっと好条件が出たんだ」と告げる。2人はブランカに気付き、携帯電話でサイトを検索すると、すぐに彼女の宣伝用写真を見つけた。彼らが「ここで客を待っているんですよ。相手の写真を撮って脅迫しましょう」と笑いながら口にするので、マイケルは「我々は商談中だぞ」とたしなめ、ホテルを出て行った。
マイケルはレストランや宿泊しているホテルから家に電話を掛けるが、留守電になっていたのでメッセージを残した。先程のセールスマンは彼に電話を掛け、「貴方と別れた後、ブランカに話し掛けて彼女を買いました。セックスの後、バーにいた理由を尋ねて、彼女が貴方と会う予定だったと知りました」と言う。彼は「ウチと再交渉するんですね。明日の朝に会いましょう」とマイケルを脅してきた。
パリ。アルジェリア人歯科医はタクシーで張り込み、歯科助手のヴァレンティーナが建物から出て来るのを待っていた。彼女が出て来て歩き始めたので、歯科医は運転手に後を追うよう依頼した。ヴァレンティーナはバスに乗り込み、空港へ向かう。尾行した歯科医は、彼女が乗った飛行機が離陸するのを見送った。歯科医は心理療法士の元を訪れ、既婚者であるヴァレンティーナに恋心を抱いていることを打ち明けた。イスラム教徒である歯科医はモスクを訪れ、師であるイマムにも相談した。
ロンドン。ローラは、ローズという女性が建物に入っていく様子を盗撮した。ローズは年下の恋人であるブラジル人写真家ルイの待つ部屋を訪れ、「別れましょう」と切り出した。しかしルイが「2人とも楽しんでる。このままでいいじゃないか」と言って何度もキスをすると、ローズは服を脱いで彼を求めた。セックスの後、ルイが「仕事の時はどうする?売れっ子にしてくれるって約束しただろ」と訊くと、ローズは「無責任な発言だったわ」と述べた。
ローズが「お金が必要なら渡すわ」と言うと、ルイは「君は分かってない。僕は君を愛してるのに」と責めるように告げ、部屋を去った。雑誌編集者であるローズは編集会議に出席し、次の特集で使うカメラマンについてルイ以外の人物を推薦した。帰宅したルイは同棲相手のローラを捜すが、彼女の姿は無かった。ローラはパソコンに動画を残しており、それを通じて「私はブラジルに帰ったわ。もう疲れたの。電話しても無駄よ。携帯は置いて来た」とルイにメッセージを伝えた。
マイケルは妻であるローズの待つ自宅へ戻った。2人は服を着替え、娘の演劇発表会を見るために家を出る。娘のエリーは台詞を忘れ、舞台上で固まってしまった。発表会の後、マイケルが元気を取り戻したエリーと仲良く話している様子を、ローズは見つめた。帰宅して娘を寝かせた後、ローズから「ウィーンはどうだった?商談は成立した?」と訊かれたマイケルは、少し言葉に詰まってから「まとまった」と告げた。「家の方は?」とマイケルが尋ねると、ローズは「問題ないわ」と答えた。
コロラド。刑務所に収監されている性犯罪者のタイラーは、仮釈放中を迎えようとしていた。彼は保護司のフランと面会し、更生施設へ行く決心を打ち明けた。タイラーは「6年も男ばかりの場所にいた。いきなり外に出たらショックが大きすぎる。これまでの努力を無駄にしたくない」と話す。「希望すれば刑務所まで迎えに来てくれて、飛行機にも一緒に乗ってくれるそうよ」とフランが説明すると、彼は「向こうの空港へ迎えに来てくれるだけでいいよ」と述べた。フランはタイラーの決断を喜び、握手で別れた。
飛行機のトイレで号泣したローラは、涙を吹いて座席に戻った。隣の乗客である初老のイギリス人男性ジョンは、彼女の食事も受け取ってくれていた。「食べたくない」とローラが言ってワインを飲むと、ジョンは「私の分も飲むといい」と勧めた。ローラは彼の質問を受け、マイアミ経由でリオへ帰ることを話した。ジョンは彼女に、失踪した娘のジュリアを捜していることを語った。失踪の理由を尋ねられたジョンは、娘が自分の浮気を知ったことが原因だと明かした。
ジョンが「たぶん娘は死んでいるだろう」と言うので、ローラは「なぜそう思うの?」と尋ねた。ジョンは「母親にも連絡しないのは彼女らしくない」と告げた。女性の遺体が発見されたという知らせが警察から届いたため、ジョンはフェニックスへ向かうところだった。2人はデンバーの空港で別れるはずだったが、乗り換える飛行機は雪のために遅延となっていた。ジョンは「いいレストランがあった。後で一緒に食事しないか」と誘い、ローラはOKした。
ローラは空港の電話で母に連絡し、「飛行機が遅れるから迎えに来なくてもいいわ」と言う。近くの電話では、タイラーがフランと話していた。「酷いストレスだ。1人で飛行機に乗ったのは失敗だったかも」と彼が言うので、フランは「付き添いの人を用意するわ。だけど大丈夫だと思ったから許可したのよ。1時間後に連絡して」と告げた。タイラーは周囲の女性たちに欲情し、必死で抑えていた。
ローラはレストランでジョンを待っていたが、そこはタイラーが荷物を置いてあったテーブルだった。ローラは謝って移動しようとするが、注文したワインが運ばれてきた。「友達が来たら移動するから、それまでいい?」と彼女は言い、ワインを飲み始めた。ローラは彼に幾つもの質問を投げ掛け、そして饒舌に喋った。フランは空港の警官に電話を入れ、タイラーが危険を及ぼす可能性を説明して監視するよう依頼した。ローラは「一緒に飲みましょう」とタイラーを誘い、レストランから連れ出した。
空港の警官はオフィシャルに連絡を入れ、タイラーを案内所へ呼び出すようアナウンスさせた。ジョンがレストランへ行くと、ローラから預かったメモをウェイトレスが渡した。ローラは航空会社が用意した部屋にタイラーを招き入れた。ジョンはローラを呼び出すようオフィシャルに頼むが、冷たく断られた。タイラーは「もう行くよ」と言い、すぐに部屋を去ろうとした。するとローラは立ちはだかり、「どうして、みんな私の元を去るの?私のせい?」と涙目で訴えた。
タイラーが「違うよ、君は問題ない」と告げると、ローラは「証明して。キスして」と求める。「出来ない。君は酔ってる」とタイラーが去ろうとすると、ローラは「嫌いなのね。どこが悪いのか言ってよ」と絡む。タイラーは彼女を引き離し、急いで浴室に飛び込んだ。彼はシャワーを浴びて必死に自分を抑制し、便器に座って自慰行為で性欲を解消しようと試みた。タイラーが浴室を出ると、ローラはベッドで無防備に眠っていた。
翌朝、ジョンは空港でローラを見つけ、声を掛けた。2人は軽く会話を交わし、そして別れた。空港に駆け付けたフランは、タイラーに「電話してくれたのは正しい判断だったわ。また連絡して」と言い、搭乗手続きを済ませる彼を見送った。ジョンはフェニックスに到着し、遺体安置所で遺体を確認するが、娘ではなかった。彼はアルコール依存症患者の集団セラピーに参加し、「娘が連絡してこないのなら、死んでいるのだろう。私も歩き出す時だ」と語った。
そのセラピーには、姉に会うために渡米したヴァレンティーナも参加していた。彼女はロシア人の夫と結婚していること、3年前に禁酒して別の仕事に就いたこと、夫は悪い仲間たちと悪事に手を染めていること、彼にも変わってほしいと願っていることを語った。さらに彼女は、仕事の上司に好意を抱いていること、過去を知らない彼が自分を純潔な女だと思い込んでいることを明かした。帰宅した彼女は、夫のセルゲイに「バラバラの生活なんて結婚とは言えない。離婚しましょう」と切り出した…。

監督はフェルナンド・メイレレス、脚本はピーター・モーガン、製作はアンドリュー・イートン&デヴィッド・リンド&エマニュエル・マイケル&ダニー・クラウス&クリス・ハンレイ&オリヴィエ・デルボス&マルク・ミソニエ、共同製作はアンディー・ステッビング、製作総指揮はクリスティン・ランガン&クラウス・リンチンジャー&ピーター・モーガン&フェルナンド・メイレレス&ジョーダン・ガートナー&ポール・ブレット&ティム・スミス&デヴィッド・フェイゲンブラム&グレアム・ブラッドストリート&マイケル・ウィンターボトム&スティーヴン・ギャニオン&ニヒル・シャーマ&クリス・コントグーリス、撮影はアドリアーノ・ゴールドマン、編集はダニエル・レゼンデ、美術はジョン・ポール・ケリー、衣装はモニカ・バッティンガー、音楽コンサルタントはチカ・メイレレス。
出演はルチア・シポシーヴァ、ガブリエラ・マルチンコワ、ヨハネス・クリシュ、ジュード・ロウ、モーリッツ・ブライブトロイ、ジャメル・ドゥブーズ、ディナーラ・ドルカーロワ、ヴラディミール・ヴドヴィチェンコフ、レイチェル・ワイズ、ジュリアーノ・カザヘー、マリア・フロール、ベン・フォスター、マリアンヌ・ジャン=バプティスト、アンソニー・ホプキンス、マーク・イヴァニール、ピーター・モーガン、パティー・ハンコック、マーティン・マクドゥーガル、ダニカ・ユルコヴァ他。


『ナイロビの蜂』『ブラインドネス』のフェルナンド・メイレレスが監督を務めた作品。
脚本は『フロスト×ニクソン』『ヒア アフター』のピーター・モーガン。
ジョンをアンソニー・ホプキンス、マイケルをジュード・ロウ、ローズをレイチェル・ワイズ、タイラーをベン・フォスター、フランをマリアンヌ・ジャン=バプティスト、アルジェリア人の歯科医をジャメル・ドゥブーズ、ドイツ人のセールスマンをモーリッツ・ブライブトロイが演じている。

表記は無いが、1920年に初演されたアルトゥール・シュニッツラーの戯曲『輪舞』が原作である。
同戯曲は1950年にマックス・オフュルス監督、1964年にロジェ・ヴァディム監督、1973年にオットー・シェンク監督が映画化している。
変わったところでは、1988年に小沼勝監督が日活ロマンポルノとして映画化している。
原作は「女Aが男Aとセックスして、男Aは女Bとセックスして、女Bは男Bとセックスして」という風に次々とカップルの片側が入れ替わり、最後に登場した男が最初に登場した女Aとセックスして、「輪舞」が完成するという構成になっている。

一言で説明するならば、「だから何?」という映画である。1つ1つのエピソードに関しても、トータルで考えても、全く同じ言葉が頭に浮かぶ。
まず1つ1つのエピソードに関して言えば、例えばマイケルはミルカを買おうとするが、妨害があって断念し、ミルカを買ったセールスマンに脅される。そこでマイケル&ミルカの話は終了だ。
「だから何?」である。
そもそも2人は会話さえ交わしていない。何の関係性も結ばれていない。
マイケルがセールスマンに脅される展開にしても、そこで終わっており、それからどうなったのかは描かれない。
そこで感じるのは、「簡単に客のことを他の客に喋るミルカは娼婦として失格」「セールスマンは醜悪な奴」ってことぐらいだが、そういう事柄に関しても、「だから何?」って感じだ。

タイラーは無防備すぎるローラにムラムラし、必死に我慢する。タイラーが周囲の女性たちに欲情することで緊張感が生じるが、しかし彼は眠り込んだローラに手を出すことも無い。
その後、タイラーがローラと話すことも無く、その関係性に変化が生じることも無い。翌朝には、それぞれが別の飛行機で出発し、それで終わりだ。
ジョンはローラと親しくなり、失踪した娘を捜していることを話すが、翌朝には別れる。それで2人の関係は終わりだ。
それらのエピソードもまた、「だから何?」である。
マイケルとローズの夫婦関係なんかは、「互いに浮気しており、愛は冷めているのに、それを隠して接している」というところに面白くなる気配は感じるが、話が膨らまずに終わってしまうので、やっぱり「だから何?」ってことになってしまう。

歯科医のエピソードに関しては、彼のターンでは、モスクの師に相談して「神に委ねろ。善良な人間になれ」と諭されて終わっているが、後でヴァレンティーナのターンに入り、歯科医との関係にスポットが当てられている。
ただし、そもそも歯科医のエピソードでは彼がヴァレンティーナと全く絡んでいないので、「あるエピソードで描かれた男女関係が、後になって再び出て来る」という形とは言い難い。
歯科医は恋心を断ち切ることを決め、別の診療所に移ってくれと言われたヴァレンティーナはショックを受けるが、悲哀を感じるような余韻は与えてくれず、さっさと次の話に移る。
後で「やっぱり歯科医は思いが断ち切れず」という展開も無い。

どのエピソードも「それで終わりなの?」と感じるような、中途半端なところでピリオドが打たれている(歯科医とヴァレンティーナは最もマシなパターンである)。
費やされている時間そのものも短いし、中身が濃いわけでもない。
そのエピソードで何を描きたいのか、何を伝えたいのかがサッパリ見えて来ない。
あえて言うなら、見せたいのは「様々な男女の関係」ってことかもしれないが、男女の恋愛劇や人間ドラマとして、まるで面白味が感じられない。どの人物も魅力的ではなく、誰にも感情移入できない。

例えばルイとローラの関係なんかは、「浮気した男が女に振られた」ってだけだ。
ルイには同情の余地なんか無いから、「そりゃローラが彼の元を去るのは当然だろ」としか感じない。
そんなエピソードに、どんな面白さを見出せというのか。
ミルカや歯科医といった個々のキャラクターが抱える背景にしても、ルイ&ローズやマイケル&ローズといった男女の関係にしても、そこに魅力的なドラマがあるのかもしれないが、劇中で描かれる内容は薄いし、その向こうにある濃密なドラマを想像して脳内補完することも出来ない。

何よりも問題なのは、人々の関係が「輪舞」として成立していないってことだ。
まずマイケルとミルカが接触しないまま終わっている時点で違和感は強いが、それでも一応は互いの存在に気付いているし、会おうとしているので、まあOKとしておこう。
問題はその次で、本来なら、マイケルが他の女と会う展開に移らなきゃならないはずだ。
ところがマイケルがセールスマンに脅された後、舞台がパリに移り、アルジェリア人歯科医とヴァレンティーナのエピソードに入る。
この時点で、早くも「輪舞」は崩れてしまう。

さらに、そのエピソードが終わると、今度はローラやルイのエピソードだ。「人々が繋がっていく」ということが、まるで無い。
もはや「輪舞」を描く気なんて、全く無いんだな。
そりゃあ原作表記は無いし、原題も『La Ronde』や『Rondo』じゃないから、輪舞である必要は無いのかもしれない。ただ、『360』なんだから、やっぱり「登場人物が繋がって円になる」という着地は必要なのではないか。
この映画だと、最後にセルゲイのボスとミルカが繋がっても、途中の図形描写で破綻しているから、円が完成しないでしょ。
いや、かなり無理に解釈すれば、完成していると言えなくも無いけど、その輪郭線は、かなり薄い。

っていうか、相関関係を図にしてみた時に、「ミルカ〜マイケル〜ローズ〜ルイ〜ローラ〜タイラー」まで来たところで、そこで途切れてしまう。
ローラからの線をジョンに向けて伸ばしたとしても、ジョンのところで途切れる。
同じセラピーにヴァレンティーナが参加しているけど、それで2人が知り合ったと解釈するのは無理があるし(それぞれの告白をしただけであり、会話も交わしていない)。
それでも、あえて「ジョン〜ヴァレンティーナ」というラインを引いたとして、そうなると「ヴァレンティーナ〜セルゲイ〜アンナ」というところまでは到達するが、今度はアンナのところで途切れる。

ホントならセルゲイはミルカと繋がるべきだと思うのだが、彼女と繋がるのはセルゲイのボスだ。
それに、そこが繋がったとしても、タイラーと歯科医が浮いちゃってるという問題は残るし。
歯科医はヴァレンティーナとの関係を除外すると、他の女性との関係性が無いんだよな。心理療法士は女性だが、彼女が他の男性キャラと繋がっていないので、そこでまた途切れちゃうし。
だから、やっぱり輪舞でもなければ、360度の円でもないんだよな。

(観賞日:2013年9月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会