『16ブロック』:2006、アメリカ&ドイツ

ニューヨーク市警の刑事ジャック・モーズリーは事故で足を負傷して以来、捜査の一線から離れてからは酒に溺れる日々を送っている。 あるアパートにカノヴァ巡査らが突入すると、そこには他殺体があった。外にいたジャックはカノヴァに呼ばれ、「制服組が来るまで死体 のお守りをしてくれ」と頼まれた。引き受けたジャックは、部屋にあった酒を飲み始めた。
署に戻ったジャックは、婦警からキンケイド警部補が呼んでいることを告げられた。それを無視して、ジャックは夜勤を終えて帰宅しよう とする。しかし階段でキンケイドに呼び止められ、「留置所から一人、10時までに大陪審に護送してくれ」と頼まれた。グルーバー分署長 からの命令だという。わずか16区画離れた裁判所へ連れて行くだけの仕事だが、ジャックは渋った。制服組の誰かに頼むよう告げると、 「キーナンに頼むはずが、事故の渋滞でまだ帰っていない」とキンケイドは言う。
仕方なく引き受けたジャックは留置所に行き、囚人エディー・バンカーと会った。エディーは「1時間後にスーツが届くんだ」と言うが、 ジャックは無視して連れ出した。車に乗せても、エディーは饒舌に喋り続けた。道路は渋滞しており、なかなか前に進まなかった。 ジャックは車を停め、酒を買うためにリカーショップへと入った。その間に、ロシア人の男が車に近付き、エディーに銃を構えた。だが、 そこへジャックが戻り、背後からロシア人を射殺した。
近くにいたロシア人の仲間も銃撃した来たため、ジャックはエディーを連れて逃走した。ジャックはエディーを車から降ろし、路地裏に あるドミニクのバーへ避難した。ジャックは電話を掛け、応援を要請した。それからグラスに酒を注ぎ、一気に飲み干した。すぐに14分署 のフランクやマルヴィー、トーレスたちがやって来た。フランクは、かつてジャックの相棒だった男だ。
フランクはジャックに「後は任せろ」と告げ、護送任務を引き継ごうとする。フランクの仲間ジェリーを見た途端、エディーの顔色が 変わった。フランクはジャックの耳元に顔を近付け、「エディーはジェリーに不利な証言をする。マズい現場を見られた。ジェリーは俺たち ほど肝が据わっていないから、起訴されたらすぐに口を割る。阻止しないと芋づる式にやられる」と告げた。
フランクはエディーがジャックの射殺を狙ったように偽装工作を施し、始末しようとする。ジェリーがエディーに向かって銃を構えるが、 ジャックが脚を撃って阻止した。ジャックはフランクに銃を向けて脅し、エディーを連れて店から逃亡した。エディーは、ジェリーが子供 の口に銃を突っ込み、「証言すれば親を殺す」と脅す現場を目撃したことを打ち明けた。
フランクを始めとする14分署の面々だけでなく、111分署の刑事トゥーヒーとケラー、66分署の刑事オーティズとマルドナードがジャック とエディーを追い掛けた。その連中は不正行為に関与している仲間だ。フランクはグルーバー分署長に、事件が漏れないよう時間稼ぎを 頼んだ。グルーバーも悪徳刑事の一味だ。フランクは、「場合によってはジャックも始末する」と口にした。
ジャックは足を引きずりながら移動し、少し走っただけで息切れがした。そんな様子を見たエディーは、「アンタ、この仕事、向いてない と思うよ」と不安そうに言う。フランクはトーレスに電話を掛け、「あの家はどうだ?」と告げた。ジャックはエディーを連れてアパート へ行き、部屋に侵入して拳銃を入手した。ジャックはトーレスが来るのを察知して待ち受け、手錠で柱に拘束した。だが、その間に エディーが逃げ出してしまう。
アパートを飛び出したジャックは、地下鉄の駅にいるエディーを発見した。そこへトゥーヒーとケラーが来たため、ジャックはエディーを 連れて地上へと逃げた。フランクは通信部に連絡し、ジャックの携帯電話の位置を割り出すよう指示した。ジャックがチャイナタウンを 徒歩で移動していることは、すぐに判明した。ジャックは、エディーが大切にしているノートのことを尋ねた。エディーは、「妹のいる シアトルに行ってケーキ屋を始める」と語った。ノートには、ケーキのレシピが書かれているのだ。
チャイナタウンで包囲されていることに気付いたジャックは、携帯電話を捨ててビルに入った。屋上で右手を撃たれたジャックは、地下道 へと逃げた。そこにも追っ手が現れ、ジャックはエディーと共に物陰へと隠れた。そこにフランクが現れ、エディーを引き渡すよう説得を 試みた。しかしジャックは応じず、エディーと共にエレベーターでアパートへと上昇した。
アパートの住人サムに匿ってもらったジャックは、マクドナルド検事補に電話を入れた。ジャックは刑事に狙われていること、検事補の 周辺からも情報が漏れていることを伝えた。マクドナルドは「迎えに行く」と告げてジャックの居場所を聞き、部下を呼び寄せた。その 直後、フランクの元に「ジャック達は5−Eの部屋にいる」という連絡が入った。マルヴィーたちは5−Eに突入するが、そこにジャックたち の姿は無かった。ジャックはマクドナルドの周辺から情報が漏れることを想定し、嘘の部屋番号を伝えたのだ。
ジャックとエディーは部屋を抜け出し、下の階で待機していたフランクから銃を奪ってアパートの外へ出た。ジャックはバスに乗り込み、 運転手を脅して発進させた。しかし一味にタイヤを撃たれ、建築現場に突っ込んで停車した。ジャックは乗客に、「窓の近くに立って体を ピッタリとガラスに付けてくれ」と要求した。狙撃されないよう、乗客を盾にしたのだ。ジャックは乗客に、新聞紙で窓を塞ぐよう指示 した。一方、フランクはグルーバーを呼び寄せ、事情を説明した。
現場にはワグナー副本部長や交渉人のマイク・シーハンもやって来た。フランクとグルーバーは、シーハンに「ジャックが錯乱した」と嘘 の説明をした。かつてジャックと組んだことのあるシーハンは、バスに近付いて交渉を試みた。ジャックはシーハンに、「マクドナルドと 法廷速記者とTVリポーターを呼べ。宣誓供述書を取ってもらったら人質を解放する」と要求した。だが、彼は5分もすれば狙撃チームが 突入してくると分かっていた。彼は人質を解放し、乗客のスーツを着せたエディーを紛れさせて脱出させるが…。

監督はリチャード・ドナー、脚本はリチャード・ウェンク、製作はジム・ヴァン・ウィック&ジョン・トンプソン&アーノルド・リフキン &アヴィ・ラーナー&ランドール・エメット、共同製作はデレク・ホフマン&ブライアン・リード&ヨッヘン・カムラー、製作協力は スティーヴン・イーズ&アイリス・ロイトリンガー&トッド・ギルバート、製作総指揮は アンドレアス・ティースマイヤー、共同製作総指揮はゲルト・ケクラン&マンフレッド・ハイト、 &ジョセフ・ローテンシュレイガー&ダニー・ディムボート&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン&ジョージ・ファーラ& ハディール・レーダ、撮影はグレン・マクファーソン、編集はスティーヴ・ミルコヴィッチ、美術はアーヴ・グレイウォル、 衣装はヴィッキー・グレイフ、音楽はクラウス・バデルト、音楽監修はアシュリー・ミラー。
出演はブルース・ウィリス、モス・デフ、デヴィッド・モース、デヴィッド・ザヤス、ケイシー・サンダー、ジェナ・スターン、シルク・ コザート、リチャード・ロバート・ラッキー、サーシャ・ロイズ、コンラッド・プラ、ヘクター・ウバリー、ピーター・マクロビー、マイク・キーナン、ロバート ・クロヘシー、ジェス・マル・ギボンズ、ティグ・フォン、ブレンダ・プレスリー、カーメン・ロペス、スコット・マッコード他。 フィッツパトリック、パトリック・ギャロウ、キム・チャン他。


『リーサル・ウェポン4』『タイムライン』のリチャード・ドナーが監督を務めた作品。
いつの間にかA級ランクの俳優も出演するようになっていたミレニアム・フィルムズが製作している。
ジャックをブルース・ウィリス、エディーをモス・デフ、フランクをデヴィッド・モース、ジャックの妹ダイアンをジェナ・スターン、 グルーバーをケイシー・サンダーが演じている。
他に、マルヴィーをシルク・コザート、トーレスをデヴィッド・ザヤス、ジェリーをロバート・ラッキー、トゥーヒーをパトリック・ ギャロウ、ケラーをサーシャ・ロイズ、オーティズをコンラッド・プラ、マルドナードをヘクター・ウバリー、ワグナーをリチャード・ フィッツパトリック、シーハンをピーター・マクロビーが演じている。

エディーは「黒人の囚人は良く喋る。そんでホントは善人」という、見事なぐらいのスタレオタイプなキャラになっている。
ジャックの相棒をベラベラと饒舌に喋り続けるキャラにしたのが大失敗。
このジャージャー・ビンクスのお喋りは、緊張感を削ぐのに充分すぎるほどの貢献を果たしてくれる。
刑事と囚人のバディー・ムービー的な色合いも意識しているのかもしれないが、そんなに結び付きを感じない。
それより、ジャックとフランクの友情と苦悩を軸にした方が良かったんじゃないか。

ちょっとクリント・イーストウッドの『ガントレット』を思わせる大枠だが、主人公のキャラクター造形は全く違う。
正義感や使命感に溢れたベン・ショックリーと違い、ジャックは仕事への意欲を見せず、酒に溺れている。
そんな彼が、なぜエディーのために命懸けで昔の仲間と戦うようになったのか、その心情が良く分からない。
そのモチベーションは、どこから沸いたんだろう。

バーにフランクが訪れた時点で、すぐに彼らがエディーを始末しようとする理由を明かしている。
ミステリーとしての要素はスッパリと削除する。
潔いっちゃあ潔いけど、ちょっと勿体無い気もする。
あと、ジャックが仲間だったこともバラしている(フランクの「ジェリーは“俺達”ほど肝が据わっていない」というセリフで明らかだ)。
だから、終盤にジャックが「俺も奴らの仲間だ」と白状してエディーが驚く場面が訪れても、「いや、とっくに知っていたよ」とクールに 思ってしまう。
それとも、ひょっとすると、そこまでは観客に明かしていないつもりだったんだろうか。

「ジャックが侵入したのは彼の家で、救急車で駆け付けたのは彼の妻」というミスリードは、全く意味の無い仕掛けだ。
別に侵入したのがジャックの部屋だろうが無かろうが、どうでもいい。
駆け付けたのが妻であろうと妹であろうと、どっちでもいい。
ダイアンの部屋に侵入する段階で、明らかに「そこはジャックの家」という風にミスリードしているが、何の狙いがあるんだろうか。

トーレスがアパートに来るのを察知し、作戦を仕掛けて拘束する辺り、急にジャックが頭のキレる刑事になっている。
でも、そうかと思うと、トーレスを拘束している間にエディーには逃げられてしまう。
キレ者なのかドジなのか、どっちなんだよ。
一応、バスに篭城したりエディーを逃がしたりする時の行動からすると、「何かに目覚めてキレ者に戻った」ということみたいだけど。
でも、なぜか用も無いのにフランクに電話を掛けて、そのせいでエディーに逃げられたことを気付かれたりしてるんだよな。
それはマヌケだろ。

バスから脱出したエディーがジャックを心配して戻って来るシーンは、感動を誘う狙いがあるのかもしれないが、「せっかくのジャックの 作戦をフイにしやがって、バカだろ、エディー」としか感じない。
終盤に来てダイアンが協力者として登場するが、せっかく孤独な戦い(2人だから孤独とは言わないか)が続いていたのに、今さら味方は 要らないなあと思ってしまう。
最終的に、ジャックはエディーを逃がして、自分が法廷へ行って証言することに決めるが、それは土台の部分を思い切り壊しているような モンじゃないのか。
「エディーを10時までに大陪審へ連れて行く」という目的に向かって命懸けで戦ってきたのに、その目的を最後に来て捨てるなよ。
あと、「10時まで」っていうタイムリミットが、サスペンスの仕掛けとして全く機能してないぞ。
タイトルの『16ブロック』っていうのも、意味を感じない。
っていうか、日本人だと16ブロックって言われても距離感が分からないし。

(観賞日:2009年11月26日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も腹立たしい言葉づかい(男性)】部門[モス・デフ]

 

*ポンコツ映画愛護協会