『金星怪人ゾンターの襲撃』:1966、アメリカ

アメリカの軌道ロケット基地「ゾーン6」では、レーザー通信衛星の打ち上げが迫っていた。主任のカート・テイラー博士が部下のジョンやルイーズたちの作業を見守る中、訪問者が現れた。カートの友人である科学者のキース・リッチーが、打ち上げ中止の要請に来たのだ。カートは計画を中止する気など全く無いが、キースは真剣な表情で「ずっと反対してきた。地球が危機に瀕しているんだ」と訴えた。
キースはカートに、詳しくは言えないが、この前、通信衛星を打ち上げただろ?しかし原因不明の爆発を起こした。あれは他の惑星からの侵略するなという警告だ。それを無視するべきじゃない。あと3年は待つべきだ。地球外知的生命体が監視しているんだ。我々の宇宙進出は時期尚早だと考えている」と説明する。しかし「君たちを守るために来たんだ」と彼が言った直後、衛星ロケットは発射された。
3ヶ月後。リッチー邸ではキースと妻のマーサがカートと妻のアンを招いて会食をする。衛星に何の問題も起きていないことをカートが指摘すると、キースは隠していた秘密を打ち明けようとする。マーサが止めに入ると、キースは「これは自分一人では重すぎるんだよ。誰も分かってくれなくても、カートなら分かってくれるさ」と言う。彼はカートを奥の部屋に案内し、通信機器を見せた。それを作動させたキースは、「この音が何だかわかるか。金星人とレーザー通信しているんだ」と述べた。
信じようとしないカートに、キースは「耳を澄ましてくれ。言葉が聞こえて来るはずだ」と告げる。カートが「もし言葉だとしても、理解不能だ」と言うと、キースは「僕は2ヶ月間も金星と交信しているんだ。なぜ彼らの言葉が理解できるのか、自分でも分からない」と真剣な眼差しで話す。カートは軽く笑いながら「分かったよ。金星に友人がいるんだな。何か要求はあったか?名前は?」と問い掛けた。
キースは馬鹿にされていると感じながらも、「彼には確固たる要求があり、それを手に入れるために動き出そうとしているんだ。彼の名前は地球上のどんな言語にも該当しないが、響きだけで言うなら、ゾンターだ」と語った。そこへ基地から電話が入り、カートは衛星が消滅したことを聞かされる。カートとアンが去った後、キースは「ゾンターが衛星を宇宙船に流用する気だ。すぐに来るぞ」と呟いた。
基地でジョンたちが調査を行っていると、ヤング将軍がやって来た。ルイーズは彼に、「全ては正常に作動しています。衛星消滅の理由は全く分かりません」と告げた。カートも駆け付けて原因究明に当たる中、突如として衛星が復活した。カートはジョンに、「ペンタゴンに連絡しろ。検査のために衛星を回収したい」と告げた。一方、キースはゾンターと交信し、「分かりました。私は貴方の友人です。誰も貴方の存在を信じませんが、すぐに信じるでしょう」と述べた。
キースはマーサに、「ゾンターは地球へ向かっている。金星に衛星を引き寄せて乗り込んだ。わずか1時間でやり遂げたんだ。すぐ近くまで来ている。我々を救うためにね。偉大なる歴史の始まりだ」と語った。夫が幻想の中にいると考えているマーサは、ゆっくり眠るよう促した。するとキースは、「これは幻想なんかじゃない。しかも悪ではなく正義なんだ。今夜は通信機器の近くにいる。着陸の時に僕がいないと駄目なんだ」と熱く語った。
ヤングはペンタゴンからの連絡を受け、ジョンたちに衛星回収の指示を出した。しかし作業を開始すると、衛星は誘導に従わず、まるで意思を持っているかのように動き出す。ヤングは苛立つがジョンたちにもコントロールは出来ず、しばらくして衛星との通信は途絶えた。キースはゾンターと交信した後、興奮した様子でマーサに「ついにゾンターが到着したんだ。この星は長きに渡って、戦争などの悪行を繰り返してきた。それも終わりだ。地球に平和が訪れる」と述べた。
キースがカートに連絡を入れようと考えると、マーサは「やめて。こんな馬鹿げたこと、誰にも離さないで」と反対した。再びゾンターと交信したキースは、金星の環境に似ている洞窟の場所を教えた。カートがアンを乗せてドライブしていると、ガソリンは満タンなのに急に停まってしまった。アンは時計が動かなくなっているのに気付いた。基地では停電でもないのに機械が全て停止し、電話も通じなくなった。カートはアンを連れて、近くにあるキースの家を目指すことにした。他の車も停止し、ラジオやテレビも動かなくなっていた。
キースはゾンターと交信し、自分が住むジャクソン市の有力者の名を教えね。彼は「市長のシドニー・パーカーと警察署長のブラッド・クレンショーは街を制圧するのに必要です。ゾーン6責任者のヤング将軍、衛星ロケット責任者のカート・テイラー博士、それぞれの妻を合わせて8人です。彼らを抑えれば街をコントロールできます」と説明した。「それでコントロール装置も8つあるんですね」と確認した後、キースは8人の居場所をゾンターに教えた。
全ての生活インフラがストップしたため、街では混乱が起きていた。キースは買い物に出ていたマーサを迎えに行き、「車はこっちだ」と告げる。「でも車は動かない」とマーサが告げると、彼は「僕のは大丈夫だ」と述べた。カートとアンが田舎道を歩いていると、未知の飛行生物が現れた。マーサは気味悪さを訴え、カートは棒を投げて追い払った。帰宅したキースは「なぜ貴方の車は平気なの」と訊かれ、「ゾンターが全てのエネルギーを止めたんだ。しかし我が家だけは大丈夫だ」と告げた。
ようやくリッチー邸に到着したカートは、キースに「車が壊れたんだ。送ってくれないか」と頼む。するとキースは「出掛ける意味は無いと思うよ」と言い、家に立ち寄るよう勧めた。同じ頃、ヤングは徒歩で基地へ向かっていたが、カートも目撃した飛行生物を発見して発砲する。飛行生物はヤングの頭に激突し、動かなくなった。ヤングは亡骸を土に埋め、再び歩き出した。一方、カートはキースから説明を受けるが、まるで信じなかった。
カートが「ゾンターという金星人が来て全てのエネルギーを中和し、人類を統制するという話が真実だとして、なぜ君だけは特別扱いを受けているんだ?」と質問すると、キースは得意げに「知的生命体であるゾンターを最初に見つけたのが僕で、協力しているからだろう」と語る。「僕が馬鹿にされる日も、もう終わりだ」とキースが言うと、「人類を守ってくれるって、何からだ?」とカートが尋ねると、彼は「人類からさ。我々自身からだよ」と声を荒らげた。
カートはキースに、車で家まで送ってほしいと頼んだ。カートたちが部屋を出て行った後、カートはゾンターと交信して「彼らを送ります。インジェクト・ポッドに追跡させて下さい」と告げた。基地へ戻ったヤングは、警備兵2名に「ワシントンからの重要事項だ。この辺りは戦争状態になり、全ては私の指揮下に入る。準備が必要だ。ここを早急に放棄しろ。全ての危機を含んで撤退できるよう、急いで支度をするんだ」と命じた。
「1時間ごとに報告書を送れ」と指示するヤングに、警備兵が「時計が動かないのに、どうやって時間を知るんです?」と訊く。ヤングは自分の腕時計を外し、「これを使え。動いている」と告げた。ヤングの首の後ろには、小さな針のような物が刺さっていた。彼は基地に入り、ジョンたちに「コミュニストの暴動が起きて、一帯のエネルギーと通信が遮断された。緊急事態が終息するまで、ここに留まれという最高司令部の命令だ。ここから一歩も出てはならない」と告げた。
帰宅したカートは、電話が通じないことを知る。キースはゾンターと交信し、「カートを家まで送りました。もし上手く行かなければ、他の作戦で」と告げる。ゾンターの言葉を受けて、彼は「あの装置を8つ作るのに、もう12時間掛かるんですね。予想以上に早く使ってしまって残念です。次にカートと会う時に何とかします。大統領は難しいですが、ホットラインを遮断すれば上手く行くと思います」と語った。キースはゾンターから、「ジャクソン市から全員が退避するまで待機せよ」という指令を受け取った。
カートとアンは、人々がパニックに陥っている様子を目撃した。カートはアンを家に残し、一人の男に「どうしたんだ」と声を掛けた。しかし男は「行くんだ」と荒々しくカートの腕を振りほどき、走り去ってしまった。カートは自転車を使い、基地へ向かう。クレンショーは飛行生物に襲われ、首の後ろに針が突き刺さった。彼は記者のレッドフォードを訪ね、避難を要求した。レッドフォードが「ここに留まる」と拒否すると、クレンショーは「新聞は不必要だ」と告げて射殺した。
それを目撃したカートは驚き、クレンショーに「何をするんだ」と詰め寄る。クレンショーが「ゾンターの命令だ」と口にするので、カッとなったカートはパンチを浴びせる。クレンショーはカートに拳銃を向け、「君も仲間に入るんだ。もう行っていい」と告げた。一方、キースはマーサに、「ゾンターはインジェクト・ポッドについて教えてくれた。鳥のような形状で、狙った人物の元へ向かう。その生物は自分の一部を抽出した液体を運び、人間の首に埋め込む。するとゾンターと同じ心を持つようになる」と説明していた。
基地に到着したカートは、閉鎖されていることに困惑する。そこへヤングが現れ、「急な命令で、警備兵は全て出動した」と告げた。彼は「街まで行くなら送りますよ。これは試作品だから動く」と言い、カートをジープに乗せた。ヤングが操られていると気付いたカートは、彼を昏倒させてジープを奪った。カートはキースの家へ行き、「分かった。君を信じよう。しかし、あれは殺人の道具だ」と告げた。
キースはカートに、「ゾンターのために、友達として何でもしようと思っている。あの衛星が最後の望みだったんだ。あれがあったからゾンターは地球に来ることが出来た。彼らは金星で高度な文明を築いていたが、大災害が起きた。彼らは自分の意思を反映し、動いてくれる宿主を必要としている。災害によって金星における宿主が絶命したため、彼らは数を減らしていった」と語った。
カートが「宿主になる地球人も減っていくということか」と訊くと、キースは「ゾンターは地球人に悪いことはしない。人類にとって必要な存在だ」と話す。「ゾンターの命令に従った奴が、人を殺したのを見たぞ」とカートが言うと、キースは平然とした態度で「新しい時代に犠牲は付き物だ」と言い放った。カートは激怒し、「君は裏切り者だ」と告げて立ち去った。キースはゾンターと交信し、新たな命令を受け取って「必ずカートをコントロールします」と約束する。一方、カートが帰宅すると、アンがゾンターによって操られていた…。

監督はラリー・ブキャナン、脚本はヒルマン・テイラー&ラリー・ブキャナン、製作協力はエドウィン・トボロウスキー、撮影はロバート・B・オルコット、美術はロバート・ドラカップ。
主演はジョン・エイガー、共演はスーザン・ビューマン、アンソニー・ヒューストン、パトリシア・デラニー、ニール・フレッチャー、ウォーレン・ハマック、コリーン・カー、ジェフ・アレクサンダー、ビル・サーマン、アンドリュー・トライスター、ジョナサン・レッドフォード、ジョージ・エドグレー、キャロル・ギリー、バーサ・ホームズ他。


B級映画の帝王、ロジャー・コーマンが1956年に監督した『金星人地球を征服』をリメイクしたテレビ映画。
監督のラリー・ブキャナンは1965年から1967年に掛けて本作品を含めた6本のテレビ映画を手掛けているのだが、全てB級SFのリメイク。
『The Eye Creatures』が『暗闇の悪魔・大頭人の襲来』(1957)、『呪いの沼』が『恐怖のワニ人間』(1959)、『火星人大来襲』が『パジャマ・パーティ』(1964)、『原子怪人の復讐』が『原子怪獣と裸女』(1956)、『悪魔の呪い』が『怪物の女性/海獣の霊を呼ぶ女』(1964)のリメイク。
決して評価が高いとは言えないB級SF映画を数年後にリメイクし、さらにチープな仕上がりにするのが、この人の得意技だ。

主人公のカートを演じたのは、ジョン・エイガー。
『半魚人の逆襲』『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』『モグラ人間の叛乱』『S.F.第7惑星の謎』などに主演し、B級映画マニアには良く知られた存在だ。
決して良い意味ではなく、「最悪の男優」候補になるような俳優としての認知度が高いということだ。
他に、アンをスーザン・ビューマン、キースをアンソニー・ヒューストン、マーサをパトリシア・デラニー、ヤングをニール・フレッチャーが演じている。
『金星人地球を征服』では、まだ当時は知名度の低かったピーター・グレイヴスとリー・ヴァン・クリーフがメインの科学者2名を演じていたが、こちらの方は、この時点で知名度の高かった役者もいなければ、後に有名になった役者もいない。

冒頭、ルイーズとジョンが「予定軌道上に未確認飛行物体が確認されました」「そんなのは20分前に解決されてしかるべきだ」「針路が少しズレているようです」とう会話を交わす。
もう打ち上げの数分前になって、まだそんなことを言っている。
カートが「打ち上げを待たせろ」と言うと、別の研究員が「発射までには何とか」と口にして発射のカウントダウンを始める。
「何とかしますよ、5千万ドルのプロジェクトだ」とジョンが言い、研究員が「5千万ドルじゃ簡単に失敗は出来ないな」と語るが、それだけの予算が投入されている計画なら、むしろ無理に発射して失敗するリスクは避けるべきじゃないのか。

カウントダウンに入ってから面会希望者が来たことを知らされたカートは「今はダメだ」と言っておきながら、そこを離れてキースに会いに行ってしまう。
今は打ち上げの方が大切だろ。なんで簡単に離れるかね。面会なんて後回しにしろよ。
で、ロケットの打ち上げがあってオープニング・クレジットが処理された後、会食シーンがある。
あれだけ不穏な空気になったのに会食するなんて物分かりがいいのか、よっぽどの親友なのかと思っていたら、カートが「あれから3ヶ月が経過した」と口にする。
そうなのかよ。まるで時間経過が伝わって来なかったわ。

キースは真剣な眼差しで「僕は2ヶ月間も金星と交信しているんだ」と言うのだが、ロケット打ち上げから3ヶ月が経過したはずだよね。
その時点でキースはゾンターと交信していたから、打ち上げに反対したんじゃないのかよ。まだゾンターとは交信していないのに反対していたとしたら、その理由は何だったんだよ。
で、通信機器から葉ピーガーピーガーという音しか聞こえていないのに、彼は「ゾンターと交信している」と主張するのだが、それについては「なぜ彼らの言葉が理解できるのか、自分でも分からない。たぶん催眠術みたいなものだろう。だが、自分が理解してるのは理解できる」と説明する。
そういう人を一般的には、キチガイと呼ぶ。

実際にゾンターは存在しているので、キースの証言は間違っているわけではないが、しかしキチガイであることに変わりは無い。
何しろキースは、「ゾンターが地球を支配すれば平和が訪れる」と思い込んでいるのだ。
しかしながら、なぜ平和になると思えるのか、それは全く説明してくれないんだよな。
たぶん、「自分でも分からない。だが、自分が理解してるのは理解できる」ということなんだろう。

あと、キースはゾンターが地球に来ることを望んでいるはずなのに、なぜか冒頭で衛星の打ち上げは中止要請するんだね。ゾンターは衛星を流用して地球へ来るのなら、むしろ打ち上げた方がゾンターにとって都合がいいはずでしょうに。
ああ、そうか。交信開始は2ヶ月前なので、まだ打ち上げに反対した時は知り合っていないんだよね。
で、「じゃあ反対した理由は?」という疑問があるわけだが、それは最後まで謎のままだ。
あと、衛星って地球の軌道上を周回するんじゃないのか。それをわざわざ金星に引き寄せて宇宙船に流用するぐらいなら、自分たちで宇宙船を作った方がいいんじゃないのか、ゾンターさんよ。
衛星を引き寄せて宇宙船に流用するほどの科学力があるなら、自前の宇宙船も作れるだろ。

カートは衛星が復活した後、ペンタゴンに連絡して検査のために回収しようとする。
でも、存在が確認できたんだから、そのまま衛星を使い続けた方がプロジェクトとしてはいいんじゃないのか。回収するってことは、プロジェクトが一時休止になるってことだから、予算を考えるとマズいんじゃないのか。
それと、基地のリーダーはずっとカートにしておけばいいのに、なぜかシーンによってはヤングと交代するのね。で、ヤングはいるけどカートがいなかったりするのね。
そこの不自然なキャラの出し入れは、どういうつもりなのかサッパリ分からない。大事な時でも基地を離れていることが妙に多いカートだが、その理由は説明されない。

キースはゾンターと交信し、自分が住んでいるジャクソン市の有力者の名を教える。
でも街を制圧するのに、ロケット基地の面々はあまり関係が無いように思えるぞ。
少なくとも、市長&警察署長&ヤング&カートだけでいいでしょ。なんで奥さんまでコントロールしようとするのかサッパリ分からないぞ。
あと、根本的な問題だけど、「テメエ一人だけで地球の侵略と支配を狙っていたのかよ。なんで仲間を連れて来ないんだよ」と言いたくなるわな。

全ての生活インフラがストップして、街で混乱が起きるのは分かる。
でも、その混乱を表現するのに、「大勢の人々が荷物も持たずに走り回っている」という表現は理解不能。
例えば怪獣が襲って来るなら、逃げ出そうとしてパニックになるのは分かるけど、そうじゃないんだから。
インフラが全て遮断されたからって、なぜ全員が「急いで逃げなきゃ」という考えになるのか、まるで理解できないぞ。

「何か知ってるのか」と言うカートにキースが「時間はたっぷりある」と告げた後、下着の女がポーズを取っている写真が突如として挿入され、カットが切り替わって基地を警備している兵士たちが写し出される。
ジョンが出て来る中で警護兵2名が「ジープが動かないので将軍は歩いて本部へ向かいましたよ。歩き方を知っているなんてね」と笑ったり、相棒が「全ての機械だけでなく、ウチのカミさんも動かなくなってくれたらいいのに」とジョークを飛ばしたりと、まるで不必要なコメディー・リリーフの役回りを担当し、また下着女の同じ写真。
で、今度はヤングが歩いている様子になる。
その下着女の写真で挟まれている箇所は、何の意味があるんだろう。

ヤングは徒歩で本部へ向かう途中で飛行生物を見つけると、いきなり発砲する。
攻撃を受けたわけでもないのに撃ち落とそうとした理由は、サッパリ分からない。
で、その後に飛行生物がヤングを襲うが、すげえ静かに、ゆっくりと襲って来るので、迫力や緊迫感はゼロ。
あと、その攻撃で飛行生物は死んじゃうんだよな。コントロール装置を取り付けるのが目的とはいえ、なんかカッコ悪い描写だなあ。

帰宅したカートは、電話が通じないことを知る。
彼が「電気は?」と言うとアンが照明器具のスイッチを入れるが、「付かないわ」という返事が無いので答えは分からない。でも全てのエネルギーが止まっているんだから、付かないはずだ。
しかし、太陽の光が入って来ているわけでもないのに、カートやアンの背後には影が出来ている。どうなっているのか。
もしも「照明は付いた」ということだとすれば、それはそれで「なぜカートの家だけは電気が付くのか」という謎が生じるし。

ルイーズが目を覚ますと、ジョンと仲間の研究者がインジェクト・ポッドで操られている。
おいおい、そいつらも操る対象になったのかよ。なんでだよ。
そんなところで無駄にインジェクト・ポッドを使ってるから、「インジェクト・ポッドが無くなったので、ゾンターはカートを殺すようキースに命令する」という展開になっちゃうのよ。
で、ゾンターはヤングにブリーフケース一杯の爆薬を持たせ、大統領と会わせて爆死させようと目論んでいるんだけど、だったら科学者を操る必要なんかないだろ。

アンはカートが帰宅すると飛行生物を投げて飛ばすけど、もう彼女がゾンターに操縦されているなら、そんな方法を取らず、液体の一部を何かに入れてカートの首にでも突き刺した方が確実だと思うぞ。
飛行生物を飛ばした時点で警戒されるけど、アンがやれば向こうも油断しているはずなんだから。
っていうか、そういう目的さえ無いのなら、ホントに何のためにアンを操ったのかサッパリ分からんぞ。
あと、「カートがキースの家を訪れて議論する」→「カートが帰宅するとアンが操られているので射殺」→「キースの呼び出しを受けたカートが彼の元へ向かう」という風に、短いスパンでカートがキースの家を二度も訪れるのは、無駄な手間にしか思えないぞ。

兵士たちがインジェクト・ポッドを目撃するシーンや、休憩しながら喋るシーン、考え込んでいた兵士が「腹が減った」と言い出すシーン、洞窟に入った兵士がゾンターを目撃して逃げ出すシーン、全員で行ってみるけどゾンターに遭遇して逃げ出すシーンなどが途中で挿入されるが、ストーリー上は全く意味が無いし、必要性も無い。
明らかに尺を稼ぐためのモノでしかない。
長編としては80分と短めの上映時間だけど、すげえダラダラしているので、それだけ中身が薄いってことだ。

オリジナル版である『金星人地球を征服』は、そもそもロジャー・コーマン監督作品ということで何となく分かるかもしれないが、決して一般的な評価が高かったとか、全米で人気を博したとか、そういう作品ではない。
ただ、「金星カニ」と呼ばれる宇宙人の造形が一部のB級SFマニアに受けて、カルト的な人気を集めただけだ。
そういう映画をリメイクする時点でどうかと思うのだが、何をトチ狂ったのか、オリジナル版で唯一の評価ポイントだった金星カニを全くの別物に変更するという理解不能なことをやらかしている。
例えるならば、『SFレーザーブラスト』をリメイクして、ストップモーション・アニメーションのトカゲ型宇宙人を登場させずにハリボテのキグルミを登場させるようなものだ(その例えは分かりにくいだろ)。

「全く同じことをやるだけなら、リメイクする意味が無いでしょ」と思った人もいるかもしれない。
確かに、その通りである。
だが、この映画、金星カニの部分を除くと、全く同じことをやっているのである。
しかも、あまりにも金星カニが有名(マニアの間で有名なだけだが)だから変更したいと気持ちがあったとしても、だったらオリジナル版よりも質を高めるか、もしくはオリジナル版とは違うデザインの魅力的なモンスターを用意すべきなのだ。

オリジナル版の金星カニは、特撮としてはお世辞にも質が高いとは言えないモノだった。ハリボテ感たっぷりで、そのデザインも怖さは皆無だった。ただ、クレクレタコラの仲間みたいなユーモラスな造形が、妙に人を惹き付ける力を持っていたのだ。
それに対して本作品で登場するのは、中途半端にグロテスクな3つ目の翼付き怪人。
オリジナル版と同様に怖さは無いし(動きもオリジナル版と同じくモッサリしているし)、おバカなキャラとしての魅力も全く無いのだ。
で、翼はあるけど飛ばないハリボテ宇宙人は、キースが終盤になって唐突に「銃は効果が無いが、君も見たことが無い武器がある。これを使えばゾンターを破壊できる」と言って取り出すプルトニウムの入った銃で退治される。
そんな武器を急に登場させちゃう辺りが、ラリー・ブキャナンという人のセンスである。

(観賞日:2014年6月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会