『キャッシュトラック』:2021、アメリカ&イギリス

カリフォルニア州ロサンゼルス。フォーティコ・セキュリティーの現金輸送車が覆面の武装強盗団に襲われ、警備員は殺害された。

[Dark Spirit(悪霊)]
パトリック・ヒルはフォーティコ・セキュリティーの入社面接を受け、マネージャーのテリーから「我が社は現金輸送車の武装警備が専門で、何億ドルも動かしているので悪い連中に狙われやすい。危険だから訓練もするし、給料もいい」と説明を受けた。ヒルの履歴書には、倒産したオレンジ・デルタ警備の経歴が書かれていた。試験官を務めるブレットはヒルを「H」と呼び、「事前訓練を受けてもらう。7割が合格ラインだ」と話す。ヒルは射撃でも運転でも今一つの結果だったが、ギリギリで合格した。
ブレットはHをロッカーへ案内し、警備員のデイヴやボブたちに紹介した。デイヴは相棒がジョンからHに交代すると聞き、不快感を示す。Hの初仕事にはブレットも同行し、現金を受け取るため銀行に向かう。デイヴはHに、「殺された警備員のことは聞いたか。あの車は俺が運転するはずだった。病欠だったが、FBIに調べられた」と語った。Hは仕事を奪われたジョンから敵対心を向けられるが、まるで相手にしなかった。
Hが2度目の仕事に赴いた時、覆面の武装強盗団がブレットを人質に取って車内の金を引き渡すよう要求した。デイヴは焦るが、Hは冷静に「落ち着け。とにかく俺は彼を助ける」と述べた。車を降りた彼は強盗団の命令に従わず、現金の袋を地面に投げ捨てた。強盗団が激怒すると、Hは次々に射殺する。彼は逃げた強盗を追い詰め、「黒幕は誰だ」と尋問する。犯人が返答せずに反抗的な態度を取ったので、Hは殺害した。彼は強盗団の覆面を剥がし、素顔を確認した。
会社に戻ったHは、FBI捜査官のハバードとオーケイから事情聴取を受けた。ハバードたちは以前の襲撃の映像を見せ、今回の強盗と関連があるかどうか尋ねる。Hは何かに気付くが、「関連は無い」と答えた。テリーは「PTSDを考慮し、しばらく内勤にする」とHに告げるが、オーナーのブレイク・ホールズは「元に戻せ。いい宣伝になってる」と述べた。ハバードたちは上司のキングに連絡し、HはFBIが25年も追っている相手だったと報告する。今後の対応を問われたキングは、「奴の目的は金じゃない。最優先すべきことを考えろ。画家に絵を描かせるんだ」と告げた。Hはカースティーの元を訪れ、フォーティコ・セキュリティーの従業員の資料、警備員のデイナの家族写真、ダギー・ハーグリーヴスの検視報告書を受け取った。
3ヶ月後、Hとブレットが現金輸送車で移動していると、覆面強盗団が襲撃してきた。しかし強盗団のボスのマイクは、Hの顔を見て撤退した。ブレットはデイヴに、「奴らは悪霊でも見たかのように、Hを見て驚いてた」と話す。Hはデイナに誘われ、彼女の家で肉体関係を持った。Hはデイナが隠していた大金を発見し、拳銃で脅して説明を要求した。デイナが「受け取りの担当者が見逃したのを盗んだ。年金代わりよ」と語ると、彼は「仲間はいるのか」と質問する。「いない」とデイナが答えると、Hは「金は取っておけ。ただし隠し事をしたと分かったら、ただじゃ済まない」と言う。彼はデイナの両親の写真を見せ、「家も家族も分かってる」と言い放った。

[Scorched Earth(しらみつぶし)]
5ヶ月前。Hは久々に帰郷し、息子のダギーと会っていた。そこへマイクから電話が入り、「問題が発生したので車を見張ってほしい」と言われる。「お前の仕事だろ」とHが告げると、マイクは「担当のブレンダンが事故に遭って、事情聴取を受けてる。俺は間に合わないし、モギーは監視中だ」と話す。現金輸送車が曲がる方向だけでも確認してほしいと頼まれたHはダギーを車に乗せ、現場へ向かった。彼はブリトーを買いに行く名目で、ダギーを車に残して外へ出た。
Hはゲートを出て来た現金輸送車を確認し、曲がった方向を仲間に知らせた。その直後に強盗団が輸送車を襲撃し、ダギーは巻き込まれて射殺された。駆け付けたHも、発砲を受けて倒れた。意識を失う寸前、彼は自分とダギーを撃った犯人の顔を見た。手術を受けたHは一命を取り留め、妻から息子の死について責められた。キングはHと接触し、リストを渡した。犯人への復讐心を燃やすHに、彼は「リストの連中なら好きにしろ」と告げた。
Hの指示を受けたマイクたちは手荒な方法で犯人を見つけ出そうとするが、る手掛かりさえ得られなかった。しかしHは納得せず、リストの連中を徹底的に調べるよう命じた。マイクたちはジェロームという男を捕まえ、拷問して情報を聞き出そうとする。ジェロームが何も知らないと判断するマイクたちだが、Hは受け入れなかった。彼はジェロームの恋人を人質に取って脅しを掛け、ガシ兄弟の名前を告白させた。Hはガシ兄弟のアジトを襲うが、息子を殺した犯人ではなかった。Hは兄弟を始末し、アジトを去った。マイクに「もう終わりにしましょう。やり方を変えないと。内部の犯行ですよ」と言われたHは、「そうだな。巻き込んで悪かった」と告げる。彼はカースティーに偽の身分証や拳銃の携帯許可証を用意してもらい、フォーティコ・セキュリティーの入社面接を受けた。

[Bad Animals, Bad(野獣ども)]
元軍人のジャクソンは、部隊で一緒だったジャン、カルロス、サム、ブラッド、トムと帰国後も付き合っていた。ブラッドは今の暮らしが退屈だと愚痴を漏らし、部隊に戻りたいと話す。カルロスはアフガニスタン人の屋敷で警護を担当しているが、待遇の悪さに不満を覚えていた。彼が「奴らのお宝を奪ってやりたい」と言うと、ジャンは「やれよ。取り立てだ」と告げた。リーダーのジャクソンが承諾し、彼らはアフガニスタン人の屋敷を襲って金品を奪った。しかし金を洗浄して盗品を売り捌くと、儲けは少なかった。
ジャクソンは「間に入る奴を減らせばいい」と言い、現金輸送車を襲うことにした。彼は内通者から情報を得て、イースタン警備の輸送車から現金を奪った。次の仕事で彼らが狙ったのが、フォーティコの輸送車だった。ジャンは抵抗を試みた警備員と相棒を射殺し、ダギーを殺してHにも発砲した。5ヶ月後、ジャクソンはブラック・フライデーに1億5000万円が集まるフォーティコの車庫を襲う計画を立てた。彼は内通者から情報を得て、準備を進める…。

監督はガイ・リッチー、原作はニコラ・ブークリエフ&エリック・ベナール、脚本はガイ・リッチー&アイヴァン・アトキンソン&マーン・デイヴィス、製作はガイ・リッチー&アイヴァン・アトキンソン&ビル・ブロック、製作総指揮はルイーズ・キラン&ジョシュア・スローン&スティーヴン・チャスマン&アンドリュー・ゴロフ、共同製作はマックス・キーン、撮影はアラン・スチュワート、美術はマーティン・ジョン、編集はジェームズ・ハーバート、衣装はステファニー・コリー、音楽はクリストファー・ベンステッド。
主演はジェイソン・ステイサム、共演はホルト・マッキャラニー、スコット・イーストウッド、エディー・マーサン、ジェフリー・ドノヴァン、ジョシュ・ハートネット、ラズ・アロンソ、ラウル・カスティーロ、デオビア・オパレイ、ダレル・デシルヴァ、バブス・オルサンモクン、クリス・ライリー、ロッシ・ウィリアムズ、アンディー・ガルシア、ニーアム・アルガー、タイグ・マーフィー、アレッサンドロ・ババローラ、マーク・アーノルド、ジェラルド・タイラー、アレックス・ファーンズ、ジョシュ・カウデリー、ジェイソン・ウォン、ロブ・デラニー、イーライ・ブラウン、ケリー・シェイル、キャメロン・ジャック他。


2004年のフランス映画『ブルー・レクイエム』をリメイクした作品。
監督は『アラジン』『ジェントルメン』のガイ・リッチー。
脚本はガイ・リッチーと『ジェントルメン』の原案を務めたアイヴァン・アトキンソン&マーン・デイヴィスによる共同。
Hをジェイソン・ステイサム、ブレットをホルト・マッキャラニー、ジャンをスコット・イーストウッド、テリーをエディー・マーサン、ジャクソンをジェフリー・ドノヴァン、デイヴをジョシュ・ハートネット、カルロスをラズ・アロンソ、サムをラウル・カスティーロ、ブラッドをデオビア・オパレイ、マイクをダレル・デシルヴァ、モギーをバブス・オルサンモクンが演じている。

何しろHを演じているのがジェイソン・ステイサムなので、ただの警備員じゃないことは最初から明らかだ。ところがHは射撃訓練で的の中心から外しまくり、運転訓練も上手くない。
そんなはずはないので、何か理由があって実力を隠しているんだろうってのは何となく予想できる。
中盤辺りで[Scorched Earth(しらみつぶし)]に入ると、Hの素性や目的が明かされる。でも[Dark Spirit(悪霊)]の段階でヒントは出ているので、Hが復讐を企んでいるのは容易に予想できる。身分を詐称しているのも、マイクが強盗仲間なのも同じく。
同じ出来事をチャプター形式で違うサイドから描き、そこで新たな事実が判明する構成にするのなら、[Dark Spirit(悪霊)]でのヒントは、もっと少なくしてもいい。

[Scorched Earth(しらみつぶし)]に入っても、カースティーが何者なのか、Hとはどういう関係なのか、なぜHに協力するのか、どうやって偽造身分証を用意したり検視報告書を盗み出したりしているのかは分からない。
このキャラが他の作業で関与してくることは全く無いので、ただ話を進めるためだけに用意された「都合のいい女」になっている。
いや極端に言えば、そんなキャラがいても構わないのよ。
ただ、それでも「何者なのか」という立ち位置は明確にしておくべきでしょ。

[Scorched Earth(しらみつぶし)]のチャプターでHがフォーティコの面接を受ける序盤のシーンに戻ったら、もう彼が犯人を見つけ出すために潜入したことは伝わる。
だから、すぐに次のチャプターへ移ればいいはずだ。
ところが、その後にHが従業員の身分証を確認したり、バーでジョンと話したり、カースティーから検視報告書を受け取ったりするシーンを再び見せている。
そんなの、ただダラダラしているだけで、何の得も無いでしょ。

[Bad Animals, Bad(野獣ども)]に入ると、ジャクソンたちのサイドから物語が描かれる。
ここは今まで描いて来た出来事を別角度から描いていると言うよりも、完全に別のパートという感じだ。
ただ、たっぷりと時間を割いて犯人グループを丁寧に掘り下げても、それで得られる物は少ないと思うのよ。
犯人グループに感情移入させる狙いがあったのなら、ある程度は成功していると言えるのかもしれない。
でも、そうすることの意味が分からない。

Hも犯罪者で大勢の人間を殺しているので勧善懲悪の復讐劇ではなく、「悪党どもの争い」という話ではある。
だけど、だからって復讐される側に「こんな事情があって、こんな背景を抱えていて」ってのを描いたところで、その戦いの魅力が増すことなんて無いよ。
単に復讐劇としての図式がボヤけているだけだよ。
あと、上手く物語を構成できず、仕方が無いので犯人サイドから描いて話を進めているようにも感じるし。

[Bad Animals, Bad(野獣ども)]でジャクソンたちが車庫を襲う準備を始めると、最後のチャプター「Liver, Lungs, Spleen & Hearts(肝臓 肺 脾臓 心臓)」に入る。
ネタバレだが、ここでブレットが一味と結託する内通者であることが明らかにされる。
このチャプターでは一味が車庫を襲撃するシーンを描きながら、事前にジャクソンが計画を説明している様子が何度も挿入される。そうすることによって、「ジャクソンたちの計画は無事に成功するのか」という見せ方になっている。
だけど、そんな見せ方をする意味が分からない。
どうせHが復讐を果たすんだから、失敗に終わるのは分かり切っているし。

あと、車庫でHが一味を倒して復讐を果たすのかと思ったら、そうじゃないんだよね。ダメージを受けて倒れ込み、ジャクソンたちが車で逃亡するのを見送るのだ。
で、最後は金を独占するために仲間を始末したジャンがアジトに戻るとHが待ち受けており、ダギーが銃弾を浴びた肝臓と肺と脾臓と心臓を撃って殺害する。
でも、車庫で話を片付けようぜ。
どうせHが死なないのも復讐を果たすのも明らかだし、アジトで彼が現れても「よっ、待ってました」みたいな気持ちは沸かないよ。ただ間延びしていると感じるだけだよ。

ブレットに脅されて協力を要求され、捕まっていたHは、強盗計画が進む中で反撃を開始する。
でも、ここの見せ方が下手なので、復讐劇としても逆転劇としてもカタルシスに欠ける。
根本的に構成を作り替えないと、かなり厳しいんじゃないかな。
具体的な改正案を挙げるとすれば、次のような感じだ。
まず、ジャクソンたちのパートは、必要最低限に留めておく。Hの素性や目的を明かすのは、ブレットから協力を要求され、反撃するタイミングまで待つ。そんな感じかな。

(観賞日:2023年3月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会