『ゲット・ア・チャンス!』:2000、アメリカ&ドイツ
老人ホームの看護婦キャロルは、工場の夜勤勤務の夫ウェインと暮らしている。2人は高校時代にプロムのクイーンとキングだったが、今では平凡な日々を過ごすばかり。キャロルは冴えない日々に辟易し、人生に輝きを取り戻したいと思っている。
ある日、老人ホームに車椅子の老人ヘンリーが運ばれて来た。かつて凄腕の銀行強盗だった彼も、今は植物人間の状態となっていた。だが、キャロルはヘンリーが植物人間のフリをしているだけだと確信し、何とかボロを出させようと画策する。
キャロルはヘンリーをピクニックに連れ出し、湖に車椅子ごと放り込んだ。ヘンリーは自分の力で湖から這い上がり、キャロルを睨み付けた。ヘンリーは「何が望みだ、脅迫して金を奪うつもりか」と尋ねるが、キャロルは彼の嘘を暴くことだけが目的だった。
ヘンリーは元相棒の息子に電話を掛け、老人ホームから連れ出すよう指示する。だが、深夜に老人ホームに現れた息子は、自分に近付いたら警察に連絡すると脅して立ち去った。幼い頃に可愛がってやった相手に、ヘンリーは冷たく裏切られたのだ。そんな様子を覗き見ていたキャロルは、何か出来ることは無いかとヘンリーに尋ねる。
逃亡資金が必要だと口にしたヘンリーに、キャロルは銀行強盗の話を持ち掛けた。相手にしないヘンリーだが、キャロルは銀行に入って景品のトースターを脅し取る。ヘンリーとキャロルは、現金輸送車を襲って警備員に成り済まし、金を奪う計画を立てた。キャロルはウェインを仲間に引き入れ、ヘンリーと共に計画を実行に移す…。監督はマレク・カニエフスカ、原案はE・マックス・フライ、脚本はE・マックス・フライ&トッパー・リリエン&キャロル・カートライト、製作はリドリー・スコット&チャールズ・ウェインストック&クリス・ザーパス&クリストファー・ドール、共同製作はボー・E・L・マークス&ロバート・E・ノートン、製作協力はヒラリー・ループ・ベンツ、製作総指揮はトニー・スコット&ガイ・イースト&クリス・ジーヴァニッヒ&モリッツ・ボーマン、撮影はトーマス・バースティン、編集はガース・クレイヴン&サミュエル・クレイヴン&ダン・レベンタル&美術はアンドレ・チャンバーランド、衣装はフランチェスカ・チャンバーランド、音楽はマーク・アイシャム。
出演はポール・ニューマン、リンダ・フィオレンティーノ、ダーモット・マルロニー、スーザン・バーンズ、ブルース・マックヴィッティー、アン・ピトニアック、イルマ・セント・ポール、フランキー・フェイゾン、ダイアン・エイモス、ロッド・マクラフリン、ミシェル・ペロン、ドロシー・ゴードン、リタ・タケット、ドーン・フォード、T・J・ケニーリー、ビル・コーディー、ゴードン・マッコール他。
御年75歳となったポール・ニューマンの主演作。
『アナザー・カントリー』のマレク・カニエフスカがメガホンを執っている。
ヘンリーをポール・ニューマン、キャロルをリンダ・フィオレンティーノ、ウェインをダーモット・マルロニーが演じている。序盤から、「どこを、どのように見せるか」という方法がズレているように感じられる。ポール・ニューマンがボケ老人として登場しても、実際に植物状態でないことは誰だって分かる。そこを映画では延々とキャロル視点で描き、「ヘンリーが実際に植物状態なのか」というミステリーを作ろうとしているようだが、全く意味が無いのだ。
それよりも、さっさとヘンリーが植物状態を演じていることを描き、観客に明かした方がいい。シリアスな話ではないのだし、早々にヘンリーの嘘を明かせば、「キャロルが怪しみ、ヘンリーがバレないように必死になる」というところで笑いも作れるだろう。キャロルが色気で誘惑し、ヘンリーにボロを出させようとするシーンがある。しかし、前述のようにヘンリーの演技は観客にも秘密のままで進められるので、その後のリアクション(キャロルが去った後で、興奮を静めようとするとか)は描かれない。
どうやら、そのシーンはユーモラスなシーンとして表現しようとしている向きがある。しかしながら、キャロルが誘惑する様子だけでは笑いは生まれない。彼女の誘惑に対して、ヘンリーが我慢していることを観客に知らしめてこそ、笑いは生まれるのである。キャロルというヒロインに、全く共感できないのが厳しい。ホントに相手が植物状態かもしれないのに、ヘンリーが嘘をついていると確信し、湖に突き落とす。酷い女であるる。そこは、他にも色々とやり方はあるだろうに。キャロルが突き落とすのではなく、何か偶然によってヘンリーの嘘がバレてしまうという形にしておけば済むことだろう。
そこをクリアしたとしても、やはりキャロルには共感できない。「率先して強盗をやらかし、最後はヘンリーと逃げる」という行動に付いていけないのだ。退屈な日常に辟易していたのも、冒険心に溢れていたのもいいだろう。しかし、最後の展開だけは、どうしても受け入れられない。なぜ夫を捨てて、ヘンリーの元へ走るのか。そもそも冒険心に溢れていたとしても、いきなり「銀行強盗をやりましょう」というのは、付いていけない。「人生に自信を取り戻したいから」とキャロルは言うが、だから強盗をするってのは、思考回路として変だろう。キャロルは「かつて銀行強盗として輝いていた」わけでもないし、ヘンリーの過去の輝きも記事の中で軽く触れられるだけなのだから。
「田舎での平凡な暮らしはイヤなので強盗で人生をエンジョイすることにしました」という考え方を良しとして、そのまま話を終わらせて欲しくなかった。別に私は、犯罪映画を全否定するようなガチガチの愚か者ではないが、キャロルの場合は違うだろうと。キャロルは魅力的な犯罪者ではなく、愚かで軽薄な女にしか見えないのだ。そんな女が、自分の欲望のために夫を巻き込んでおいて(まあ強盗計画に加担するウェインもバカだが)、最後は夫を捨ててテメエはヘンリーと逃げるって、そりゃ無いだろう。
そもそも、キャロルが強盗を始めてから輝いているのかというと、ちっとも輝いていないのだ。ハシャギまくっているだけで、ただの阿呆にしか見えない。それに強盗が始まると、キャロルではなくヘンリーが完全に中心のポジションを奪っているし。終盤に関しては、「キャロルの行動選択がどうなのか」という以前に、ストーリーに問題があると思う。終盤は、ヘンリーが警察病院に戻されることになり、「手の出しようがない」とウェインが言うのに、キャロルは彼を助けるために無茶をやらかす。
そうなると、キャロルが拳銃で運転手を脅すという行動を取っているので、後は警察に捕まるか逃亡するか、この2つしか選択肢が無くなってしまう。そこでキャロルに「ウェインと残って警察に捕まるか、ヘンリーに同行して逃げるか」という選択を迫る話にするのは、どうなのか。そういうストーリー展開にすること自体が、違うと思うのだ。ウェインは、暴力を振るうわけでもないし、浮気をしているわけでもない。結婚生活は凡庸だったかもしれないが、ウェインは真面目に働いているし、キャロルを愛している。終盤に警察を呼ぶのもキャロルのためだから、裏切り行為として責める気になれない。
夫に魅力が足りないから、他の男に惹かれるのだという責め方は出来るだろう。だから、一時の浮気心なら許せる。だが、キャロルは最終的に、警察に捕まったウェインを置き去りにしてヘンリーと逃亡する。キャロルの行為は、ウェインではなく彼女に非があるとしか受け取れないのだ。キャロルがワガママで酷い女にしか見えないのだ。キャロルは失われた過去の栄光を取り戻そうと考えて不毛な女にしか見えないので、「青い鳥を追い求め続けることにしました」としか受け取れない結末は、どうにも納得いかない。いつも彼女の無茶の尻拭いを、ウェインがしてやっていたのに。
それは個人的な趣味嗜好に過ぎないと言われればそれまでだが、最終的にはヘンリーが強盗稼業にカムバックするとしても、キャロルはウェインとの生活に戻って欲しかった。「最初からキャロルはウェインとは合わない女だった、結婚生活に向かない女だった」という見方も出来るだろうが、そんな結論は映画としてイヤすぎる。