『コール』:2002、アメリカ&ドイツ

ジョー・ヒッキーは車を停めて助手席に主婦メアリーを乗せ、連絡を待っていた。従弟のマーヴィンから電話が入り、ジョーは「金は 数えたか?」と確認した。メアリーが「ピーターはどこ?」と息子の居場所を尋ねるので、ジョーは「この24時間、楽しかったよ。アッチ の方もね」と、いやらしく笑った。彼は今回の出来事を誰にも喋らないよう約束させ、「子供は後ろの遊び場だ」と教えて解放した。 メアリーがピーターを見つけた後、ジョーはマーヴィンと合流した。
半年後、オレゴン州ポートランド。麻酔医ウィル・ジェニングスが妻カレンと6歳の娘アビーを残し、水上飛行機でシアトルへ出張した。 家に戻ったカレンは、アビーに洗濯物を取りに行くよう頼んだ。だが、侵入していたジョーとマーヴィンが彼女を捕まえ、眠らせた。 マーヴィンがアビーを連れて立ち去った後、ジョーはカレンの前に姿を現した。
ジョーは「アビーは安全だ、俺が助けてやる」と告げた。カレンが銃を向けると、「アビーは従弟のマーヴィンと一緒だ。30分毎に連絡 しないと、彼が娘を殺す」とジョーは言う。余裕の態度で、彼は「これは身代金目的の完璧な誘拐だ。今まで4人を誘拐して、一度も失敗 は無い。今までの奴らは金の受け渡しで失敗している。だから俺は関わらない」と告げた。
ジョーが「24時間で終わる。25万ドルの稼ぎだ」と言うと、カレンは強張った顔で「娘は酷い喘息なの、いつ発作が起きるか」と訴えた。 本気にしなかったジョーだが、喘息薬を見せられ、カレンの言葉が真実だと知った。彼は焦った様子でマーヴィンに電話を掛けた。カレン は携帯電話に向かって、「カフェインが効くから、何かあったらコーヒーを飲ませて」と叫んだ。ジョーは「娘を助けるために態度で示せ」 と告げ、暗にセックスを要求した。
新薬についての講演を終えたウィルは、ホテルの廊下でジョーの妻シェリルに銃を突き付けられ、「娘を誘拐した。言う通りにして」と 脅された。彼女は「明朝、奥さんが銀行に25万ドルを送金し、アンタが引き出す。それを頂いたら、奥さんと娘は返す」と告げた。同じ頃 、アビーは監禁されている山小屋で毛布のホコリに苦しんでいた。マーヴィンは慌ててコーヒーを飲ませた。
ジョーを喘息薬を届けるため、カレンを車に乗せた。彼はカレンに目隠しをさせて、山小屋の近くまで行く。予定には無い行動だったが、 一時的にカレンとアビーを合わせることになった。薬を渡すと、すぐにジョーは母娘を引き離し、カレンの家へ戻った。カレンの親友 ジョアンが訪れたため、ジョーは浮気相手を装った。カレンも脅されて芝居に付き合った。
カレンはジョーの言葉から、彼が自分とウィルのいた北部病院のことを知っていると気付いた。カレンはジョーから性的関係を要求され、 洗面所に向かった。PDAを発見した彼女は、ウィルに「彼は北部病院のことを知っている。娘が殺される」とメッセージを送った。メス を忍ばせて寝室へ向かったカレンは、それをジョーの股間に突き付け、マーヴィンに電話をするよう要求した。
ジョーはマーヴィンに連絡しようとするが、留守番電話になっていた。アビーが隙を見て逃亡したため、マーヴィンは捜索に出ていたのだ。 カレンはジョーに蹴り飛ばされるが、その弾みで彼の右腕をメスが滑り、傷を負わせた。洗面所に駆け込んだカレンの元に、アビーから 電話が入った。カレンは車を見つけて警察に電話するよう指示するが、アビーはマーヴィンに捕まってしまった。ジョーはマーヴィンに 「銃声を聞いたら娘を殺せ」と指示し、銃を向けるカレンをおとなしくさせた。
ウィルはカレンからのメッセージを受け取り、シェリルに筋弛緩剤を注射して娘の居場所を教えるよう脅した。するとシェリルは、娘の ケイティーが病院で死んでいることを打ち明けた。彼女は執刀医から、ウィルのミスで死んだと聞かされていた。それを恨んで、ジョーたち は今回の事件を起こしたのだ。ウィルはシェリルに、「執刀医が大動脈を切ってしまったのに、自分のミスを隠した」と説明する。彼は 携帯電話会社の副社長である友人ハンクに連絡し、携帯電話を逆探知してアビーの居場所を突き止めるよう依頼した…。

監督はルイス・マンドーキ、原作&脚本はグレッグ・アイルズ、製作はミミ・ポーク・ギトリン&ルイス・マンドーキ、共同製作は カーステン・ロレンツ&ネイサン・カヘイン&マイケル・マクドネル、製作協力はクリストファー・ボーグマン&ブライアン・ ゴールドスミス&タナ・トンプソン、製作総指揮はマーク・キャントン&ハンノ・ヒュース&ニール・キャントン&グレン・バラード& リック・ヘス、撮影はフレデリック・エルムズ&ピョートル・ソボチンスキー、編集はジェリー・グリーンバーグ、美術はリチャード・ シルバート、衣装はマイケル・キャプラン、音楽はジョン・オットマン。
出演はシャーリーズ・セロン、コートニー・ラヴ、スチュアート・タウンゼント、ケヴィン・ベーコン、プルイット・テイラー・ヴィンス、 ダコタ・ファニング、スティーヴ・ランキン、ゲイリー・チョーク、ジョディー・マーケル、マット・コビー、ジェリー・ベッカー、アンドリュー・エアリー、 ランディー・リン、コリーン・キャンプ、J・B・ビヴェンズ、ジョン・スコット他。


グレッグ・アイルズのミステリー小説『24時間』を、彼自身の脚本によって映画化した作品。
監督は『メッセージ・イン・ア・ボトル』『エンジェル・アイズ』のルイス・マンドーキ。
撮影中に亡くなった撮影監督ピョートル・ソボチンスキーに捧げられている。
カレンをシャーリーズ・セロン、シェリルをコートニー・ラヴ、ウィルをスチュアート・タウンゼント、ジョーをケヴィン・ベーコン、 マーヴィンをプルイット・テイラー・ヴィンス、アビーをダコタ・ファニングが演じている。

ジョーがジェニングス邸に侵入した時、マーヴィンにアビーだけを連れて立ち去らせ、自分はカレンの前に姿を現して脅しを掛ける意味が サッパリ分からない。
その場でアビーを人質にして要求を出せばいいんじゃないのか。
っていうか、わざわざ夫と妻と子供が3箇所に離れた状態で身代金誘拐計画を進めることに、何のメリットがあるんだろうか。

ジョーは得意げな様子で、カレンに「これは完璧な計画だ」と言うが、どこが完璧なんだか。
アビーが喘息持ちなのも事前に調べていなかったくせに、どこが完璧なんだよ。
「今まで4人誘拐して失敗は一度も無い」と自慢するが、たまたま今までは上手くいっただけだよ。穴ボコだらけの杜撰な計画だよ。
ジョーが「この計画は完璧だ」と自慢する度に、逆にアホさが伝わって来る。
殺さずに解放する計画なのに、素顔をさらして本名を名乗っている時点でアホ。子供を解放した後、親が約束を破って警察に訴え出る 可能性が無いとは言い切れないんだぞ。

ジョーは誘拐した子供の母親とセックスしたがるが、そこに計画をスムーズに進行させるための理由は何も無い。
一応、「肉体関係を持っておけば、それが公になることを嫌って警察に言わないはずだ」という考えに基づいてやっているのかなあと、 そんなことも想像してみたが、たぶん違うな。
ジョーはそんな理由じゃなくて、ただ単にヤリたいだけだよ。

アビーが酷い喘息持ちだという設定は、困ったことに、「娘が死ぬかもしれない」というカレンやウィルの恐怖や危機感ではなく、ジョー が焦る、パニクるという部分において作用してしまう。
それはスリルのポイントがズレている。
ジョーが子供を殺さないことが最初の内に明らかとなっているが、それもスリルを薄めるだけ。
途中、何度か「アビーが殺されるかも」というところでスリルを煽ろうとするが、見ている側からすると、「絶対に殺さないよ、ブラフ だよ」と余裕を持ってしまう。

とにかく犯人グループがアホすぎるし、一方でカレンとウィルがタフすぎる。だから、緊迫感が一向に高まっていかない。
「カレンたちがどんどん精神的&肉体的に追い込まれていき、だけど娘を助けたい一心で、窮鼠猫を噛むの如きに反撃する」というのじゃ なくて、もう最初から犯人に立ち向かう気マンマンなのよね。
犯人が絶対的優位に立っているという印象が弱い。
大体さ、犯人は「金さえ支払えば娘は殺さない」と言っているんだし、アビーに薬を渡した後は喘息の発作で死ぬ心配も低くなるし、 抵抗して娘を助け出そうとするより、おとなしく金を渡した方が賢明なんじゃないのかと思ったりするんだよね。
何しろ、こっちは冒頭のシーンで、ジョー達が約束を守り、ちゃんと人質を解放してくれるということが分かっているだけに、カレンたち が強硬に立ち向かおうとする行動に、違和感を覚えてしまうんだよな。

ケイティーの医療ミスによる死が明らかになった時、ウィルは「執刀医がミスをしたのに自分のせいにした」と釈明するが、それは彼の 主張に過ぎず、実際はどうだったのか、それは分からない。
もしかしたら、ウィルの説明は嘘かもしれない。
なのに、娘を医療ミスで殺されたシェリルが、簡単にウィルの言葉を信じるのは不可解。
何の証拠も提示されていないのに。

ケイティーの一件が明らかになると同時に、ジョーたちが娘を殺された復讐として今回の計画を実行していることが明らかにされる。
でも、だったら今までの4件の誘拐は何だったんだよ。
あと、復讐が目的なら、金を要求したりセックスを要求したりするんじゃなくて、アビーを殺せばいいんじゃないの。
大体さ、ウィルに脅されたからシェリルが誘拐の真の理由を明らかにしているけど、それが無かったら、最後まで言わなかったはずで、 だったら復讐になってるのか、それって。

終盤に入ると、なぜか派手なアクションシーンに突入する。
ウィルは水上飛行機を飛ばし、「ホテルの部屋にいると見せ掛けてジョーと電話で話すから、その間はエンジンを切らなきゃいけない」と いうことで、エンジン停止で飛行機が落ちていくというスリルを作ろうとする。
でも、なんかギャグみたいに見えてしまう。
ムリヤリに放り込んだサスペンスという印象が否めないし。

その後、ウィルは娘を助けるために飛行機でハイウェイに着陸し、走っていた車は玉突き事故を起こす。
娘のためなら、無関係な大勢の人々が犠牲になっても構わないのだ。
カレンがジョーを撃ち殺すのも、それは違うんじゃないかと思ってしまう。
アビーが助かって家族3人が抱き合っても、全く「良かったね」という気持ちになれない。
なんか犯人一味が哀れに思えてしまう。

(観賞日:2009年12月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会