『キャプテン・ウルフ』:2005、アメリカ&カナダ

アメリカ海軍特殊部隊のキャプテン・ウルフは、セルビアのテロリスト集団に拉致されたハワード・プラマー博士を救助するミッションを 遂行することになった。彼は厳しい口調で部下たちに指示を出し、テロリスト集団のいる船へ潜水で向かう。ウルフたちは一味を蹴散らし 、ハワードの救出に成功した。しかしウルフが待機させていたヘリに乗り込もうとすると、操縦士が殺されていた。まだ敵がいたのだ。 ウルフは撃たれて負傷し、ハワードは殺された。
それから2ヶ月後、ウルフは上官のピル・フォーセットに呼ばれ、処分が決まったことを告げられる。ウルフは解任を覚悟していたが、 そうではなかった。フォーセットは彼に、ハワードがゴーストと呼ばれるウイルス・プログラムを開発していたことを話す。それは 軍事衛星の機能を麻痺させるプログラムだが、発見できていない。しかしスイスの銀行にハワードの貸金庫があることが分かり、彼の妻 ジュリーが行くことになった。そこでフォーセットはウルフに対し、プラマー家へ赴いて子供たちの警護を担当するよう命じた。
ジュリーは2日で戻ってくると告げ、子供たちをウルフに任せてスイスへと旅立った。ジュリーの子供は、長女のゾーイ、長男のセス、 次女のルル、次男のピーター、そして赤ん坊のタイラーという5人だ。タイラーの面倒は、家政婦のヘルガが見ている。子供たちの生活が 弛んでいるのを見たウルフは、軍隊調の教育を施そうと決めた。彼は日曜の朝6時に子供たちを叩き起こし、「今後は俺のやり方に従って もらう」と鋭い口調で告げた。彼は子供たちに発信機を装着させ、コードネームで呼んだ。
反感を抱いたビーイとセスは階段に油を塗り、ウルフを転倒させようと企んだ。しかしウルフが踵を返したため、ヘルガが滑って階段から 転げ落ちた。一方、ジュリーはフォーセットと共にスイスの銀行を訪れるが、貸金庫を開けるにはパスワードが必要だと言われてしまう。 ジュリーは思い付いた言葉を口にするが、それは外れていた。ウルフはジュリーからの電話で、帰りが遅くなることを知らされる。さらに ヘルガが逃げ出してしまい、ウルフはタイラーの面倒まで見ることになった。
ウルフが子供たちを学校へ送り届けると、教頭のマーニーは見下すような態度を取り、ゾーイが落ちこぼれであることを説明した。そこへ 校長のクレアが現れ、仕事へ戻るようマーニーに指示した。ウルフはクレアの許可を貰い、校内で子供たちの様子を監視した。発信機の 1つが学校の外へ移動したので、ウルフはタイラーの世話をクレアに任せ、慌てて追跡する。下水道に飛び込むと、そこにはゾーイの 捨てた発信機があり、嘲笑うメッセージが付けられていた。
帰宅したウルフはシャワーを浴び、バスタオル一枚で浴室から出た。すると、ルルがガールスカウトの仲間たちを呼んでいた。クスクスと 笑われたウルフは、ルルに「解散させろ」と言う。しかしルルが「クッキーを売るの。キャンプに行く資金を作る」と説明すると、ウルフ は隊長となって指示を出した。ウルフはルルたちを連れて、コストコへ行く。ルルは店の外に売り場を設置するが、ウルフが買い物をして いる間にボーイスカウトの連中が来てクッキーを踏み潰す。ルルたちは脅しを受け、売り場から逃げ出した。
ウルフが家に戻ると、ゾーイが大勢の友達を呼んでパーティーを開いていた。ウルフはパーティーを中止させ、参加者に家を掃除するよう 命令した。ウルフは「ゴースト」と書かれたディスクを発見し、その様子を窓の外から覆面2人組が覗いていた。パーティ参加者が去った 後、覆面2人組はプラマー家を襲撃するが、ウルフが戦うと退散した。ウルフはディスクを再生するが、それは映画『ゴースト』のDVD だった。ウルフはゾーイたちに、 「襲われたのは事実だ。これからは一致団結しよう」と持ち掛けた。
ゾーイは学校の運転練習で大失敗し、教官が車から投げ出される事故を起こした。ウルフはマーニーからゾーイのことで叱責され、セスの ロッカーにナチスの腕章があったことも指摘される。ウルフはクレアから、子供たちのパパになってあげてほしいと頼まれた。セスが部屋 から抜け出したので、ウルフは尾行した。すると、セスはアマチュア劇団の芝居『サウンド・オブ・ミュージック』に参加していた。そこ でナチスの服装が使われていたのだ。しかし来週が開演なのに、みんな芝居が下手なので、演出家は呆れて投げ出してしまう。ウルフは 劇団員を集め、監督を買って出た。
夜、ウルフはルルを寝かし付けるため、物語を聞かせた。ようやくルルは寝てくれるが、ピーターは騒がしいままだ。するとセスが、 「パンダ・ダンスをやればいい。パパがいつもやってた」と言い、ウルフに歌とダンスを教えた。次の日、ウルフは子供たちを学校へ送る 際、ゾーイに運転を任せて練習をさせた。レスリング部顧問のマーニーは部員のセスをウルフの前に連れて来て、ダンスばかりしている彼 をバカにした。ウルフは「俺が相手になろう。戦いたいんだろ」と提案し、マーニーは自信満々で対決を承諾した。生徒たちが見物する中 で、ウルフはマーニーを軽く捻じ伏せた。
ウルフはルルとガールスカウトに格闘技を教え、ゾーイの運転練習に付き合い、ピーターと劇団員には芝居の指導をした。パンダ・ダンス を覚えたウルフは、ピーターの前で披露した。するとピーターは「おやすみ、ダディー」と機嫌良く眠ってくれた。ルルたちがコストコの 前でクッキーを売ろうとしていると、ボーイスカウトがやって来た。そこでルルたちは、ウルフから教わった武術で撃退した。
2週間後か経過し、ようやくジュリーはパスワードを思い付いた。それは指輪に刻まれていた「マイエンジェル」という言葉だった。彼女 が貸金庫を開けると、鍵が入っていた。ジュリーが戻ってくるという連絡を受け、子供たちは大喜びした。ウルフはガレージの地下に部屋 があることに気付いた。彼はフォーセットに連絡し、地下に金庫があるが、鍵が無いことを説明した。ジュリーが帰宅し、子供たちは部屋 を掃除して迎えた。ウルフはフォーセットをガレージへ案内するが、そこに覆面2人組が現れる。それは隣人のチャン夫妻だった。ウルフ は2人を撃退しようとするが、背後からフォーセットに殴られて昏倒する…。

監督はアダム・シャンクマン、脚本はトーマス・レノン&ロバート・ベン・ガラント、製作はロジャー・バーンバウム&ゲイリー・ バーバー&ジョナサン・グリックマン、製作総指揮はアダム・シャンクマン&ジェニファー・ギブゴット&デレク・エヴァンス& ギャレット・グラント&ジョージ・ザック、撮影はピーター・ジェームズ、編集はクリストファー・グリーンバリー、美術はリンダ・ デシーナ、衣装はキルストン・マン、音楽はジョン・デブニー。
主演はヴィン・ディーゼル、ローレン・グレアム、フェイス・フォード、ブラッド・ギャレット、キャロル・ケイン、ブリタニー・スノウ 、マックス・シエリオット、クリス・ポッター、モーガン・ヨーク、スコット・トンプソン、 キーガン・フーヴァー、ローガン・フーヴァー、ボー・ヴィンク、ルーク・ヴィンク、テイト・ドノヴァン、デニス・アキヤマ、ツイ・ ムンリン、ケイド・コートニー、アン・フレッチャー、アリソン・リン、ガブリエル・アントナッチ、メアリー・ピット他。


『ウェディング・プランナー』『ウォーク・トゥ・リメンバー』のアダム・シャンクマンが監督を務めた作品。
脚本は『TAXI NY』『ハービー/機械じかけのキューピッド』のトーマス・レノン&ロバート・ベン・ガラント。
ウルフをヴィン・ディーゼル、クレアをローレン・グレアム、ジュリーをフェイス・フォード、マーニーをブラッド・ギャレット、ヘルガ をキャロル・ケイン、ゾーイをブリタニー・スノウ、セスをマックス・シエリオット、フォーセットをクリス・ポッター、ルルをモーガン ・ヨーク、劇団の演出家をスコット・トンプソンが演じている。

マッチョなアクションスターがコメディーに挑戦するってのは、ハリウッドでは良くあるケースだ。
かつてはシルヴェスター・スタローンも、アーノルド・シュワルツェネッガーも、ある時期になってコメディーに挑戦した。
その中で、シュワルツェネッガーは初コメディーの『ツインズ』がヒットし、その後も何本かのコメディー映画の出演に出演した。
一方のスタローンは、アクションスターとして売れる前はコメディーに出演していたにも関わらず、芳しい結果が出せなかった。

で、本作品だが、これまで『ピッチブラック』『ワイルド・スピード』『トリプルX』と、着実にアクションスターへの階段を上がって 来たヴィン・ディーゼルが、いよいよコメディーに足を踏み入れた作品である。
まあ一言で行ってしまえば、ものすごく分かりやすい、アーノルド・シュワルツェネッガー主演作『キンダガートン・コップ』の亜流作品 だよね。
何しろウォルト・ディズニー・ピクチャーズの製作なので、ファミリー向け映画なのだ。
ヴィン・ディーゼルとファミリー向け映画って、「混ぜるなキケン」みたいな組み合わせに思えてしまうんだけどね。

ヴィン・ディーゼルのイメージを考えると、無理にコメディー演技をさせる必要は無かったと思うんだよね。
取っ付きにくい仏頂面なワイルド・ガイという演技をやらせて、周囲の反応やいじり方によって笑いを生み出せばいい。
例えば、プラマー家に行くシーンで庭に落ちていた人形を踏んでしまうとか、スプリンクラーが作動して濡れてしまうとか、カモの ゲーリーに噛まれるとか、そういうマヌケな行動を描いているが、そういうのは要らない。
ウルフの情けないサマで笑いを取りに行っているのだとしても、半端だし。

むしろ逆に、子供たちが軽いノリでイタズラを仕掛けても、ウルフは全て察知してクールに回避するとか、そういう描写を盛り込めば 良かったのでは。
実際、ジュリーがスイスへ旅立った後は、子供たちに厳格な態度で軍隊式の行動を要求しているんだし。
ただし、そこが笑いに繋がっているかというと、それも無いんだよね。
ウルフが子供たちにも海兵隊スタイルを要求する、というところは、笑いに繋げることの出来るモノだと思うんだけど、ただ単に厳しく しているというだけ。

で、ウルフは軍隊式に厳しくやろうとするんだけど、セスがトイレに行っただけなのに、部屋に入って自分を無視していると思い込み、 ドア蹴破ってしまうというヘマをやらかす。
それをセスに怒られて、オタオタする。
だけど、ヴィン・ディーゼルがオタオタしている様子を見せても、それが笑いに繋がらないんだよなあ。
しかも、そんな風に彼がヘマをやらかしてオタオタするとか、子供たちに振り回されるとか、そういうのを見せて笑いを取っていくのかと 思ったら、そうでもないんだよね。

そのヘマの後、ゾーイとセスが階段に油を塗り、ウルフを転倒させようとする。しかしウルフは廊下を戻ってしまい、ヘルガが転倒する。
その前に「ウルフがヘマしてオタオタする」というところで笑いを取りに行っていたのに、今度は別の方向で笑いを取ろうとする。
しかも、そこはウルフがイタズラに気付いて回避したわけじゃなく、たまたま廊下を戻っただけ。
で、そうかと思えば、電話している間にヘルガが逃げ出そうとするので、ウルフは慌てて引き留めようとするが、噛まれて逃げられる、と いうシーンがあったりする。
っていうか、ただの家政婦に噛まれただけで、なんで簡単に逃げられてるんだよ。

どういう味付けでコメディーを作ろうとしているのか、ものすごくボンヤリしている。
ウルフをどういうキャラとして見せたいのか、フワフワしているのね。
そんなに多くのヘマをやらかしたり、苦労したりという様子が多いわけではない。しかし全て完璧にこなすのかというと、たまにミスも する。
子供たちに振り回されてアタフタするのかというと、むしろ海兵隊のやり方で厳しく指示を出している。だが、ヘマをして責められ、 アタフタすることもゼロではない。
大仰な行動ばかりを取るわけじゃないが、学校へ出掛ける時の準備は「大げさでやりすぎている」というところで笑いを取りに行こうと している。

慣れない仕事をやる時も、あくまでもウルフはクールに振る舞って、それで笑いを作っていった方が良かったんじゃないかなあ。
例えば『ハード・ウェイ』のジェームズ・ウッズみたいにさ。
本人は大真面目に家政婦の仕事に取り組んでいるんだけど、周囲から見るとピントがズレていたり、やり過ぎだったりするという方向で 笑いの味付けをするのもいいだろう。
どうであれ、ヴィン・ディーゼルには、あまり変に喜劇を意識した芝居をさせない方が良かったと思うのよ。
子供たちに対しては常に仏頂面に徹してもいいのに、たまに御機嫌取りで微笑みかけたりするんだよな。

ウルフと子供たちとの関係描写も上手くない。
ゾーイとセスは一度だけイタズラを仕掛けようとして、それに失敗したら二度とやらない。
ルルは、最初はウルフの言葉を真似するという反発っぽいこともするが、だからってゾーイたちのように嫌っている様子を見せるわけでは ない。
タイラーの世話でウルフが困っていても全く協力しようとはしないが、その夜には自分から積極的に話し掛けて来る。
なんで急に興味を持ち出したのか、サッパリ分からんし、その後の彼女の立ち位置もボンヤリしている。

ボーイスカウトがルルたちのクッキーを踏み付けたり脅して追い払ったりするシーンがあるが、そこはそのままスルーされる。ウルフは 全く介入しない。
後半に入り、ウルフがガールスカウトに格闘技を教えるシーンが短く描写されるけど、そこへの流れが全く無いんだよね。
そこで教え始めるのなら、ボーイスカウトたちが売り場を荒らしているんだから、その場で何かしておくべきでしょ。
っていうか、格闘技を教えるタイミングも遅いし。
ルルたちがイジメを受けたら、すぐに教えてあげた方がいい。

開始から45分ぐらい経過したところで、ウルフが「敵に襲われたから一致団結しよう」と持ち掛けると、ゾーイたちの反発がパタリと 消える。
反発していた子供たちが次第に懐いてくるとか、ウルフの行動がきっかけで態度が変化するとか、そういう展開は用意されておらず、「外 に敵がいるから、こっちの敵とは味方になる」ということで、ゾーイたちの反発が消えるのだ。
ウルフが子供たちの心を掴むための行動が何も無かったわけで、それは物語として難を感じる。
せめて、「ウルフが守ってくれたから子供たちの印象が変わった」とか、「戦う姿がカッコ良かったから気持ちが変わった」とか、そう いうことならまだしも。

後半、ダイジェスト処理によって、ウルフがルルたちに格闘技を教える様子も、ゾーイの運転連出に付き合う様子も、演劇指導をする様子 も、一気に描いているけど、そこは1つずつ処理した方がスッキリした構成になったんじゃないかな。
少なくとも、格闘技を教えるのは、ボーイスカウトがルルたちをイジメた直後がいい。ゾーイに運転を教えるのも、彼女が大失敗した直後 が望ましい。
だから、そのことでウルフがマーニーから注意された時、セスの持っていたナチスの腕章のことが持ち出されるのは、構成として上手く ない。まずは運転のことを片付けてから、セスのエピソードに移った方がいい。
っていうか、演劇練習に関しては、上手く物語の流れに乗っておらず、上演シーンも付け足しに近いものがあるので、要らないのでは。
そもそも、海兵隊員が演劇を指導して大成功するって、そりゃ変でしょ。そういうことにするのなら、そこだけを膨らませて1本の映画に した方がいいし。

まあ色々と問題の多い映画だが、ともかく「製作サイドはヴィン・ディーゼルを第二のアーノルド・シュワルツェネッガーに 仕立て上げようとしたんだろうなあ」ってことが、何となく感じられる作品だ。
だけどシュワルツェネッガーとヴィン・ディーゼルって、役者としてのタイプが違うんだよなあ。
ヴィン・ディーゼルって、むしろシルヴェスター・スタローンに近いんじゃないかと。

(観賞日:2013年2月9日)


第28回スティンカーズ最悪映画賞(2005年)

ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
ノミネート:【最悪の助演女優】部門[キャロル・ケイン]
ノミネート:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[マックス・シエリオット]
ノミネート:【最悪な子供の集団】部門
ノミネート:【不愉快極まりないファミリー映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会