『ゴースト・ハウス』:2007、アメリカ

女子高校生のジェスは、父のロイ、母のデニース、幼い弟のベンと共に、シカゴからノースダコタの農園へ引っ越した。かなり手を加えて修繕する必要のある場所だったが、ロイは田舎での新生活に前向きだった。引っ越したのが自分のせいだと考えているジェスに、ロイは「みんなのために引っ越したんだ」と優しく声を掛けた。次の日、ロイがヒマワリ栽培を始めるために農地を開墾していると、銀行員のプライスがやって来た。彼は高額で農地を買いたいと申し込んで来た人間がいることを説明し、資料を手渡した。
デニースはベンの部屋の壁にある染みが気になり、拭き掃除をする。言葉が話せない3歳のベンは、天井の一角を見上げていた。夜、ロイは眠ったはずのベンが笑いながら部屋を歩き回るのを目撃した。ロイが部屋に入って「もう寝たと思っていたよ」と言うと、ベンは天井の一角を見上げた。翌朝、デニースは消したはずの染みが復活しているのに気付いた。ジェスはロイと出掛けるため、車の鍵を掴んだ。それを見たデニースはジェスが運転すると思い込み、「鍵を返して」と険しい表情で告げた。勘違いに気付いたデニースに、ロイは「過敏に反応し過ぎだよ」と述べた。
ベンは天井を移動する幽霊に気付き、後を追った。床に引っ掻き傷の付いている部屋の前に辿り着いたベンは、ドアの鍵穴から中を覗いた。中では何かが動いている気配がして、ドアノブがガチャガチャと回された。ベンがドアノブに手を伸ばそうとすると、デニースが来て彼を抱き上げた。ジェスはロイが買い物をしている間、付近を散策する。彼女は仲間と3オン3で遊んでいるボビーに声を掛けられる。ロイが迎えに来たので、ジェスは立ち去った。ロイはジェスに、デニースと話し合うよう促した。
ロイは再訪したプライスから物件譲渡について持ち掛けられ、「断る。ここに住む」と告げた。ジェスは廊下の箱を地下室に運ぼうとするが、ドアには鍵が掛かっていた。しかしジェスが箱を下ろすと、ドアは勝手に開いた。ロイは車で持ち帰ったヒマワリの種をカラスの群れに食われ、怒って石を投げ付けた。地下室に入ったジェスは、ペンダントが落ちているのを見つけた。
一度は飛び去ったカラスの群れは、戻って来てロイに襲い掛かった。そこへジョン・バーウェルという男が現れ、持っていたショットガンを威嚇発砲して追い払った。バーウェルはロイに、仕事を見つけるために町へ向かう途中だったことを語る。農園を見回したバーウェルが「人手不足か?」と問い掛けると、ロイは「確かに人手は不足しているが、収穫が終わるまで報酬は払えない。用意できるのは食事と納屋の寝床だけだ」と語った。
ロイはバーウェルを雇うことに決め、デニースは昼食に誘った。独り身だというバーウェルを、ベンは気に入った様子だった。バーウェルの協力で作業は順調に進み、ヒマワリは見事に育った。そんな中、ロイがトラクターで手を怪我してしまい、デニースは車で病院まで送ることにした。留守番を任されたジェスは、屋根の上にいるカラスの群れを見て不気味に感じる。夕食の準備に取り掛かろうとした彼女は、階段や調度品が激しく動いたり壊れたりするポルターガイスト現象に見舞われる。ジェスが慌てて警察に電話を掛けている間に、ベンはオモチャのトラクターに導かれて歩き出した。
ジェスがベンを追い掛けると、地下室の扉が開いており、トラクターのオモチャが階段を下りていった。ジェスが振り向くと、廊下の向こうにベンがいた。直後、ジェスは地下室から出現した複数の腕に体を掴まれた。幽霊によって地下室に引きずり込まれそうになった彼女は慌てて抜け出し、ベンを連れて逃走を図る。気付いたバーウェルに窓の外へ連れ出してもらったジェスは、屋内が元通りになっているのを目にした。ジェスは警察や両親に事情を説明するが、まるで信じてもらえなかった。
ベンには幽霊が見えていると確信したジェスは、「どこにいるの?」と尋ねる。ジェスはベンが指差す方向を見てみるが、何もいなかった。バーウェルも幽霊は見ておらず、「混乱してるだけさ」とジェスに言う。町に出たジェスはボビーと会い、自分たちの前に農園で生活していた家族について尋ねてみた。ボビーはロリンズという一家が住んでいたこと、5〜6年前の凶作で町を離れたことを話す。空き家になっていた期間が長いこともあり、呪われているといった噂もあったらしい。
帰宅したジェスは地下室を調べ、マイケルという名の幼児が描いたと思われる絵を発見した。その直後、ジェスは幽霊を目撃し、慌てて逃げ出そうとする。階段を上がろうとしたジェスは、幽霊に足を掴まれる。しかし床に転落すると、幽霊は姿を消した。外に出たジェスはバーウェルに声を掛けられ、「地下室で女の子の幽霊を見た。彼女は何かがあって逃げようとしてたのよ。怯えて死にそうな顔をしてた」と話した。「私って異常なの?」と訊くジェスに、ジョンは穏やかな口調で「この土地には何かあるんだよ」と告げた。
ジェはヒマワリ畑で何かが動くのを目撃し、近付こうとする。人影を追い掛けて納屋に入った彼女は、「そこにいるの?私に何か用?」と呼び掛けた。納屋の隅で背中を丸めて座り込んでいる少年の幽霊を発見したジェスは、静かに歩み寄って声を掛ける。しかし振り向いた幽霊の形相が恐ろしかったので、ジェスは顔を引きつらせた。幽霊が足元にしがみ付き、ジェスは悲鳴を上げる。病院に運ばれた彼女は、軽傷を負っただけだった。その左脚には、幽霊に掴まれたアザがハッキリと残っていた…。

監督はダニー・パン&オキサイド・パン、原案はトッド・ファーマー、脚本はマーク・ウィートン、製作はサム・ライミ&ロブ・タパート&ウィリアム・シェラック&ジェイソン・シューマン、共同製作はJ・R・ヤング&ケリー・コノップ&ジム・ミラー&ルー・アーコフ、製作総指揮はネイサン・カヘイン&ジョー・ドレイク、撮影はデヴィッド・ゲッデス、美術はアリシア・キーワン、編集はジョン・アクセルラッド&アーメン・ミナシアン、衣装はメアリー・ハイド=カー、音楽はジョセフ・ロドゥカ。
出演はクリステン・スチュワート、ディラン・マクダーモット、ペネロープ・アン・ミラー、ジョン・コーベット、ダスティン・ミリガン、ウィリアム・B・デイヴィス、エヴァン・ターナー、セオドア・ターナー、ブレント・ブリスコー、ジョデル・フェルランド、マイケル・デインジャーフィールド、タチアナ・マスラニー、シャーリー・マックイーン、アンナ・ヘイガン、ブレイニー・ハート、グレアム・ベル、ケイトリン・マクミラン、ピーター・スカウラー他。


『the EYE 【アイ】』で注目を集めたパン兄弟がハリウッドに招かれて手掛けたホラー映画。
サム・ライミの設立したホラー映画専門レーベル「ゴースト・ハウス・ピクチャーズ」が製作している。
ジェスをクリステン・スチュワート、ロイをディラン・マクダーモット、デニースをペネロープ・アン・ミラー、バーウェルをジョン・コーベット、ボビーをダスティン・ミリガン、プライスをウィリアム・B・デイヴィスが演じている。

『ゴースト・ハウス』という邦題は完全にネタバレしており、「ってことは、ジェスたちの引っ越した家に幽霊が出るんだな」ってことは見る前から分かる。
ただし、どうせ映画を見ていれば早い段階でそんなことは分かるし、そこを隠しても意味が無いので、幽霊が出ることを邦題で明かそうと、大した問題ではない。
むしろ原題の『The Messengers』の方が問題があって、「ってことは、出て来る幽霊は何かを伝えようとしているんだな」と推測できるし、「ってことは殺すつもりは無いだろうから安心だな」ということになってしまう。
それは大きなマイナスだろう。

一家が引っ越してジェスが屋内を探索すると、すぐに「ジェスが窓から外を覗いていると何かがぶつかる」とか、「手を伸ばしてオモチャのトラクターを取ろうとしたら急に動き出す」とか、そういうショッカー描写がある。
どうせ最初に家族が襲われる過去の映像が描かれているし、その現場が引っ越した家ってのも分かり切っている。
だから、もちろん「そこで何か怖いことが起きる」ってのも容易に予測できるけど、それにしても不安を煽るのが早いのね。「平穏な時間」ってのを全く与えないのね。
次の日になっても、「納屋に吊り下げている農機具がロイの背後で揺れる」とか、「ロイの背後に現れたプライスが急に声を掛ける」とか、そういうショッカー描写が次々に登場する。
地下室でカラスの死骸を発見したジェスが恐る恐る歩み寄って棒で触ろうとした時なんかは、「どうせカラスが急に動くんでしょ」と思っていたら、その通りだった。

急に何かが動いたり、急に誰かが背後から現れたりしたら、驚くのは当たり前のことだ。ぶっちゃけ、演出する人間のセンスや技術が乏しくても、相手を簡単に怖がらせることが出来る方法である。
ある意味では「いかにもハリウッド的な恐怖演出」と言えるが、それをアジアから招聘されたパン兄弟がやっているのはどうなのよ、とは思うぞ。
そういうのをメインにして恐怖を煽るなら、アメリカの監督でもいいんじゃないかと。
「デニースがベッドのシーツを上げたら人間の足が見える」とか(デニースは気付かない)、「ロイがベンをベッドに戻して出て行った後の部屋では天井からブラーンと垂れ下がる人間の足が見える」とか(ロイは気付かない)、そういった類の恐怖演出も用意されている。
「そういうのって、モロに『呪怨』っぽくね?」と思ったが、何しろサム・ライミの会社で製作している映画なので、たぶん意図的に『呪怨』テイストを持ち込んでいるのだろう。

『呪怨』だけでなく、『リング』『仄暗い水の底から』といったJホラー、さらにはアルフレッド・ヒッチコックの『鳥』やスタンリー・キューブリックの『シャイニング』など、過去のホラー映画やサスペンス映画から色々な要素を拝借し、それを盛り込んでいるように見受けられる。
過去のヒット作から恐怖演出を頂戴しているのだから、間違いないっちゃあ間違いない。
ただし裏を返せば、「借り物ばっかり」ってことだ。
誰しも過去の作品から影響を受けることはあるし、完全なるオリジナリティーなんて世の中には存在しないけど、「それにしてもなあ」とは思っちゃうぞ。
ミックスしたり加工したりして変化させるのではなく、そのまんまだからね。

最初に邸内の幽霊を発見するのはベンなのだが、その時に登場する幽霊ってのが、カクカクした動きで壁から天井へと這い上がるのよね。
まるでストップモーション・アニメーションのような動きで、どうにも違和感が否めない。
納屋では四足歩行の動物のように手足を使って素早く走るし、幽霊としての動きが奇妙だ。
変な動きで印象付けたい、個性的な幽霊としてアピールしたいっていう意識があったのかもしれないけど、化け物じゃなくてメッセージを伝えようとしている人間の幽霊なんだから、そういうのは変だよ。

バーウェルが雇われると、「作業が順調に進みました」というダイジェスト処理があって、ヒマワリが見事に咲き誇る様子が描かれる。
つまり、ヒマワリが育つまでの時間経過があったということになる。
そうなると、「引っ越して間もない頃に奇妙な現象が幾つか起きたが、それ以降は何も起きていない。もしくは誰も気付いていない」ってことになる。
それはあまりにも不可解だ。
幽霊たちはメッセージを伝えるために行動していたのに、その間は長い眠りにでも就いていたのかよ。

もう一つ引っ掛かるのは、「なぜ幽霊たちはバーウェルが戻って来たのに、彼に対して何の行動も起こさないのか」ってことだ。
完全ネタバレだが、冒頭で描かれる家族惨殺を実行したジョン・ロリンズとは、バーウェルのことなのだ。だったら、さっさと彼に復讐すればいいでしょ。最終的に彼を冥府へ引きずり込むんだし。
あと、どうやらバーウェルは記憶を失っていたようだが、今までどこにいたのか。なぜ今になって戻って来たのか。彼が起こした事件はどう処理されたのか。今まで明るみになっていなかったのか。
その辺りは、まるで分からないんだけど。

この映画は、幽霊の見せ方において大きな過ちを犯している。
ジェスたちが引っ越して来た段階で幽霊たちが果たそうとしていた目的は、劇中でハッキリと明かされるわけではないが、たぶん「この家で起きた出来事を知らせる」ということにある。だから、ベンを事件の起きた部屋に導こうとしたり、ジェスを地下室に引っ張り込もうとしたりしているのだろう。
それは別に構わない。
ただし問題は、「幽霊の目的がジェスたちの殺害ではない」ってのが分かってしまうということだ。

ベンは幽霊を見ても、まるで怖がる様子は無い。それどころか、幽霊が近付いて来たら自分から手を伸ばすほどで、むしろ懐いていると言ってもいい。
幽霊の方も「ベンを襲う」という行動は取らない。ベンを殺そうとしていないことは、早い段階で何となく分かる。ジェスは幽霊に襲われて怯えるが、「幽霊が何かを恐れている」と感じ、話を聞こうと試みて自分から歩み寄る。
彼女が幽霊に殺されないのも分かってしまう。
「ベンが幽霊に狙われていると感じたジェスが弟を守ろうとする」とか、「ジェスが幽霊に殺されると感じて怯える」という形で観客の恐怖を喚起できないってのは、かなりの痛手じゃないかと思うのよね。

幽霊家族がバーウェルを始末し、ジェスは「これで静かになる」と口にするけど、まだ全てが解決したわけじゃないよね。
「バーウェルを始末した幽霊家族が目的を果たして成仏した」という明確な描写があるわけじゃないから、まだ家に留まっているかもしれない。
それに、仮に幽霊が成仏したとしても、そんな事件があった農園で、その後も暮らし続けるつもりなのかよ。
どういう神経をしてるんだよ。

(観賞日:2014年2月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会