『ギャザリング』:2003、イギリス

イギリス南西部、グラストンベリー。祭りに来ていた若者のブレットは、眺めの良い丘へ恋人のジャニーを連れて行く。しかしジェニーが振り向くと、後ろにいたはずのブレットは姿を消していた。ブレットを捜そうとしたジャニーは、ポッカリと開いていた穴に落下した。真っ暗な中でライターを付けると、壁には顔の石像が幾つも掘られていた。視線を移動させた彼女は、串刺しになって死んでいるブレットを発見した。1週間後にジャニーは発見されるが、すぐに死亡した。
ブレットたちが落下した場所は、地中に埋まっていた教会だった。ルーク司祭から調査依頼を受けた美術専門家のサイモン・カークマンが教会に下りると、祭壇には通常と反対向きに置かれたキリストの処刑像があった。一方、サイモンの妻であるマリオンは、息子のマイケルを乗せて車を走らせていた。マイケルを注意しようと脇見をした彼女は、道路に飛び出してきた女性をはねてしまった。強い衝撃があったにも関わらず、病院に運び込まれた少女は軽傷で済んでいた。
担当医のバイワースはマリオンに、少女が記憶障害を起こしていること、キャシー・グラントという名前であることを告げた。マイケルが眠っているキャシーのベッドに近付くと、目を開けた彼女は微笑を浮かべて「マイケル」と呼び掛けた。ルークに呼ばれて教会関係者と会ったカークは、当面は修復を1人でやってほしいと頼まれる。外部の人間を入れたくないというのだ。マリオンはキャシーへの罪滅ぼしとして、彼女を家に泊めることにした。キャシーは自分がグラストンベリーへ来た目的も覚えていなかった。
マリオンの車が家に到着すると、マイケルの姉であるエマが出て来た。カークマン邸はキャシーが驚くほど立派な屋敷で、カークが後妻であるマリオンと結婚した1年前に購入したものだ。まだ改装の最中だが、キャシーには屋内が全て美術館のように感じられた。カークが帰宅すると、マリオンが事情を説明して「彼女、荷物も無くしてるのよ。しばらく、ここで泊まってもらうわ」と告げた。「マイケルの病院には?」と尋ねるカークに、マリオンは「先生が言うには、まだショック状態から抜けていないみたい。しばらく時間が掛かるって」と述べた。医師から薬物治療を勧められたことを彼女が話すと、カークは「駄目だ。時間が解決するよ」と口にした。キャシーは古い建物の夢を見て、深夜に目を覚ました。
翌朝、マリオンが目を覚ますと、キャシーは子供たちのために朝食を作っていた。しかも彼女は、マリオンが用事でオックスフォードまで出掛けなければいけないと知ると、子供たちを学校へ送り届けることも申し出た。学校から去ろうとしたキャシーは、男性とぶつかった。カークは石像を修復しながら、「キリストが突かれた槍を持ってイギリスに渡ったアリマタヤのヨセフが、1世紀に建てたローマ方式の教会が、この場所である」という説をルークに語った。ルークも、その推測に同意した。「壁の石像は何だろう」と言うカークに、彼は「キリストの処刑を見ていた者の記憶だろう」と述べた。
キャシーが学校へ子供たちを迎えに行くと、通りの反対側で静かに見つめている老夫婦の姿があった。気になったキャシーの脳裏に、背中から誰かが撃たれる映像がよぎった。彼女が視線を移動させている間に、夫婦は消えてしまった。バイワースの診察を受けたキャシーは、「町で見覚えのある人を見掛けたんです。あっちは知ってるみたいだったけど、誰か全然分からない」と語った。洗面所で手を洗うバイワースの姿が鏡に映ると、彼は恐ろしい形相で血を吐いていた。だが、振り返ると、何の異常も無かった。
夜、キャシーはカークとマリオンから、マイケルが4歳の時に母親が病死したことを聞く。彼女は前夜と同じように古い建物の夢を見るが、今回は誰かが廊下を走りながら姿を消す様子が見えた。窓の外を見ると、犬がやかましく吠えていた。翌日、町を散歩したキャシーは、痩せた老人が尾行しているのに気付いた。走って老人を撒いたキャシーは、今度はバイクの男2人に絡まれる。近くには3人の老女がいたが、ただ眺めているだけだった。
その場から逃げ出したキャシーは、パブに飛び込んだ。そこには学校の外で出会った男の姿があった。彼はダンという名前だった。事故に遭ったことやカークマン邸にいることをキャシーが話すと、ダンは「前にどこかで会った気がする」と口にした。車で家まで送ることを申し出たダンは、今は知人の別荘を管理していること、この町に住もうかと考えていることを話した。一方、カークはルークに、教会が建てられた1200年後に塩分の強い土が運ばれたこと、ペストが流行した頃に教会が埋められたことを語った。
「なぜ司教たちは教会の存在を隠そうとするんだ?」というカークに質問に、ルークは「我々にも分からないことか多くある。ただ、この教会が埋められたのなら、何か理由があるはずだ」と告げた。その夜、キャシーは犬の吠える声を聞くが、庭を見ても犬の姿は無い。直後、男の子の叫び声がして、彼女は古い建物に迷い込む。廊下にはパジャマ姿のマイケルがいて、その場から走り去った。後を追ってドアを開けると現実の世界に舞い戻り、キャシーはマイケルの寝室に足を踏み入れた。ベッドには犬の絵があり、「貴方も犬の声を聞いたのね」と訊くとマイケルはうなずいた。「男の子の声も聞いたの?」とキャシーが尋ねると、マイケルは彼女に抱き付いた。
翌朝、キャシーはお手伝いのグローヴス夫人に、近所で犬を飼っている人がいるかどうか質問した。犬の特徴を告げると、「昔、そんな犬を見た気がしますけど」と夫人は言うものの、あまり良く知らない様子だった。マイケルの母親についてキャシーが訊くと、彼女は「いい奥さんでしたよ。言いたくありませんが、旦那様も、あんなに早く再婚するなんて随分ですよ。しかも、こんな場所に住むなんて。曰く付きの家なのに」と不満を漏らした。
子供たちを呼びに行こうとしたキャシーがドアを開けると、マイケルとエマが完成させたジグゾーパズルにぶつかってしまった。パズルが落ちるのを目にしたキャシーの脳裏に、何かが爆発する映像がよぎる。マイケルが激しく叫んだので、キャシーは抱き締めて落ち着かせた。記者が教会の存在を嗅ぎ付けたため、カークは情報漏洩を疑われた。かつてカークは、聖なる木切れとされていた物が単なる流木であることを公表し、教会関係者から攻撃対象となったことがあった。
ルークはカークに、地下教会のキリスト像が単なる十字架像でないことを告げる。1世紀の司教が記した手紙が残されており、そこには「人々は見に来た。東から、西から。町から、荒野から。主を崇めるためではなく、欲望を満たすために彼らはやって来た」という言葉があったからだ。そしてルークは手紙に書かれている「彼ら」こそが壁の石像なのだと語り、「人の苦悩をこぞって見ようとする人間は、どんな時代にも必ずいる。あの教会が意味するのは、キリストでも十字架でもない。処刑を見に来た人々だ」と述べた。
町で買い物をしていたキャシーは、右目の潰れた老人から挨拶された。そんな彼女の様子を、痩せた老人やバイクの男たちなど、複数の人々が観察していた。キャシーが子供たちを学校へ迎えに行った時、マイケルは車の中にいる猛犬に怯えた。キャシーが「大丈夫よ」と告げて子供たちを連れ帰る様子を、車に戻って来た運転手の男が凝視した。帰宅したマイケルの顔が血だらけになっている幻覚を見たキャシーは、「何があっても私が守ってあげるわ」と彼を抱き締めた。
ダンと会ったキャシーは、数日前から恐ろしい幻覚を見ていること、後になっても現実のように思えてしまうことを話す。ひょっとしたら予知かもしれないと、彼女は言う。不安で泣き出す彼女を、ダンは抱き締めた。「君は一人じゃないよ」とダンは告げ、彼女と肌を重ねた。キャシーは夜になると庭へ来て吠える犬がいること、その犬を車に乗せている男を見たことを話す。飼い主らしき男を探す協力を彼女が求めると、ダンは快く承諾した。
翌日、キャシーとダンは、犬が乗せられていた車を修理工場の前で発見した。工場の主人が出て来ると、キャシーは彼の胸から血が出ている幻覚を見た。キャシーとダンは、主人に車の持ち主の居場所を尋ねる。持ち主はアーガイルという男で、町外れの古い家に住んでいた。キャシーたちが家に行くと、犬は鎖に繋がれていたが、アーガイルは留守のようだった。2人が忍び込むと、室内は散らかし放題だった。壁にはバイワースや町で観察していた人々など、キャシーが知っている人々の写真や記事が貼られていた。
机の上にあるスクラップ・ブックを開くと、そこにはカークマン邸になっている建物の記事があった。そこは1960年代は教会傘下の施設であり、児童虐待で訴えられていた。そして、その虐待に関わった施設の職員たちは、みんなキャシーが予知で見た人々だった。釈放された牧師が飼っていた犬は、アーガイルの猛犬と酷似していた。他のページも調べたキャシーは、幼い頃のアーガイルが施設にいたことを知る。さらに別のページには、幼いアーガイルの顔写真を重ねたマイケルの写真が貼られていた。
アーガイルが戻る前に家を抜け出したキャシーは、ダンに「あの男はおかしい。警察に訴える」と言う。「幼い自分にマイケルを重ねて、過去を葬る気なのよ。顔の半分を吹き飛ばされるマイケルを予知で見た」とキャシーは話すが、「それを警察が信じると思うのか」とダンは告げる。狼狽するキャシーに、ダンは「もう少し調べよう。通報するのは、それからだ」と述べた。キャシーとダンはグローヴス夫人から、虐待事件で施設が閉鎖されたこと、それをカークが買い取って改装したことを聞いた。
「ここにいた牧師さんを知ってる?何があったか真相を知ってる人がいるはずよ」とキャシーが言うと、グローヴス夫人は「当時も、何も証明されなかった。過ぎたことよ」と告げた。キャシーは警察にアーガイルのことを訴えるが、まるで相手にしてもらえなかった。ルークは独自の調査を進め、19世紀の絵画に描かれている人々と石像の顔が一致すること、彼らが悲劇的な史実の現場に何度も出現していることを突き止めた。報告を受けた司教は、「彼らの存在には、歴代の聖職者も気付いていた。ただし重要なのは、あの教会が葬られたということだ。恐らく、この町の人々を守るためだったのだろう」と述べ、教会を埋めるべきだと告げた…。

監督はブライアン・ギルバート、脚本はアンソニー・ホロヴィッツ、製作はマーク・サミュエルソン&ピーター・サミュエルソン&ピッパ・クロス、製作協力はレイチェル・クーパーマン、製作総指揮はスティーヴ・クリスチャン&ジェローム・ゲイリー&アンソニー・ホロヴィッツ&パトリック・マッケンナ&ダンカン・リード、撮影はマーティン・フューラー、編集はマサヒロ・ヒラクボ、美術はキャロライン・エイミーズ、衣装はニック・イーデ、音楽はアン・ダッドリー。
主演はクリスティーナ・リッチ、共演はヨアン・グリフィズ、スティーヴン・ディレイン、ケリー・フォックス、サイモン・ラッセル・ビール、ロバート・ハーディー、ハリー・フォレスター、ジェシカ・マン、ピーター・マクマナラ、マーク・バグナル、クレア・ブルーマー、マッケンジー・クルック、リチャード・エヴァンス、ロイ・エヴァンス、ポール・ハミルトン、ジェイソン・モレル、フェネラ・ノーマン、ロバート・パスカルJr.、ダイアナ・ペイアン、ジャクリーン・フィリップス、ユージーン・ウォーカー、アナトール・ユセフ他。


『愛しすぎて/詩人の妻』『オスカー・ワイルド』のブライアン・ギルバートが監督を務めたイギリス映画。
小説家であり、TVシリーズ『名探偵エルキュール・ポアロ』や『バーナビー警部』にも携わったアンソニー・ホロヴィッツが、脚本を執筆している。
キャシーをクリスティーナ・リッチ、ダンをヨアン・グリフィズ、サイモンをスティーヴン・ディレイン、マリオンをケリー・フォックス、ルークをサイモン・ラッセル・ビール、司教をロバート・ハーディー、マイケルをハリー・フォレスターが演じている。

冒頭シーンで2人の若者が地下教会に落下し、男は串刺しで即死、女は1週間後に助け出されるが死亡する。
それが単なる「不幸な事故」ではなく、何かオカルト的な力が作用して2人を穴に落下させ、死に至らしめたのかと思ったら、ホントに単なる事故だった。
地下教会が発見されるきっかけとして若者たちの落下事故を使うだけなら、2人を死なせる必要性が無い。
むしろ、変に勘繰りを入れたくなるので、邪魔になってしまう。

「男が串刺しになって死ぬ」というショッキングなシーンで観客の不安を煽りたかったのかもしれないが、そういう不安は本来なら、壁の石像や反対向きのキリスト像で煽るべきなのだ。
それを出来ていない分、本筋とは何の関係も無い串刺しの死体に頼っているというのは、かなり不格好ではないか。
ようするに、雰囲気を醸し出す作業が不足しているのだ。そもそも監督が、そういうセンスに欠けていないんじゃないかと思う。
と言うのも、それ以降も、不安や恐怖を煽るための雰囲気作りが全く足りていないと感じるので。

車を見つけたら迷わずにドアをこじ開けようとしたり、アーガイルの家に行ったら勝手に忍び込もうとしたりするキャシーの行動には、かなりの違和感がある。
それは、まるで最初から「アーガイルは何か隠している」「そこに犯罪の匂いがする」と確信しているかのようだ。
でも、その時点では、まだ「アーガイルの猛犬が庭に来て吠える」というだけだ。その犬が庭に来て吠えることと、キャシーの幻覚や観察する人々との関連性が明らかになっているわけでもない。だから、それは行き過ぎた行動にしか見えないのだ。
まずはアーガイルと真っ当な形で接触し、事情を説明して犬を繋いでおくよう頼むのが筋だろう。それでアーガイルが無視したり、怪しげな行動を取ったりしたら、その後で家に侵入するってのは手順として分からないでもないけど、そうじゃないから不自然な行動に見える。
結果としては、侵入して調べたことで様々な情報が明らかになるけど、それを観客に提示するための方法が不細工になっている。

冒頭で地下教会が発見され、それをカークが調査するストーリーが展開していく。一方、記憶を失ったキャシーがカークの家で世話になり、幻覚を見たり複数の人々に観察されたりするストーリーも進行する。
当然のことながら、この2つの話は関連性があるんだろうと観客は考えるし、実際に関連性はある。
しかし、その2つのストーリーは、なかなか絡み合わない。
一番の問題は、カーク&ルークが調査を進める中で、キャシーの存在に行き当たらないということだ。
そのため、終盤までは2つの話がバラバラのままで進んでいくという印象になってしまう。それは構成として上手くない。

終盤まで2つのストーリーを合流させず、平行線のままで進めるとしても、どこかに関連性を感じさせるような作業は用意しておくべきだ。
それが無いと、こっちの集中が散漫になってしまう。
石像が「キリストの処刑を見に来た人々」を彫った物であることが分かった時点で、キャシーを観察している人々も同様に「人の苦悩をこぞって見ようとする人々」なんじゃないかという予想は付く。そういう意味では、前半の内に関連性は見えている。
しかし、それ以外の部分で、この映画は問題を抱えている。

キャシーを観察している人々が「人の苦悩をこぞって見ようとする人々」だとして、では何を見ようとしているのか、という疑問が生じる。
また、キャシーが何度も見る幻覚は何なのか、本当に予知だとすると何を予知しているのか、という疑問も残されている。
で、やがてアーガイルという男が関わっているんじゃないかということが明らかになってくるのだが、彼が絡んでくるタイミングが遅すぎやしないか。
完全ネタバレだが、「実はアーガイルが連続殺人を企てており、それをキャシーが予知し、ギャザリングが見物に来ている」ということなんだから、もっと早い段階でアーガイルの存在は観客にアピールしておくべきじゃないかと。

っていうか、そうなると他の要素を描写する時間が削られて来るし、序盤からアーガイルを怪しげなキャラとして登場させておくと、それはそれで色んなことを捌くのが大変になってくるだろう。
そういう諸々を考えると、そもそも欲張り過ぎているんじゃないかという気もする。
ちょっと考えたんだけど、実は地下教会の謎を解くストーリーって外しちゃってもいいんじゃないかな。
そしてキャシーが調査する過程でギャザリングの真実に辿り着く内容にすれば、もうちょっとスッキリしたように思えるぞ。

ただ、アーガイルが登場すると、今度は「過去に施設で何があったのか」「アーガイルは何を企んでいるのか」という謎が生じるんだよな。
まだ教会の謎も、観察している人々の謎も、予知や幻覚の謎も全く解き明かされていないわけで、さらに謎を増やしてどうすんのかと思ってしまう。
これもまた、欲張り過ぎているんじゃないかと。
ギャザリングの部分を何よりも重視するのであれば、キャシーが予知し、ギャザリングが見物に来る出来事に関しては、もうちょっとシンプルに判明する形にしておいた方がいい。

「キャシーが予知夢を見る。調べた結果、アーガイルの連続殺人を予知していることが判明し、彼女は阻止しようとする」というだけでも、充分に1本の映画として成立してしまうんだよな。
一方、ギャザリングの話だけでも1本の映画、教会の謎を解くというだけでも1本の映画が成立するわけで、そりゃあ盛り込み過ぎだと言わざるを得ないだろう。
それを全て上手く絡ませ、綺麗に消化できているなら何も問題は無い。
だけど、それはものすごく難しいだろうし、実際、てんでダメだからねえ。

しかも、色んな話が盛り込まれている中で、最優先で外すべきだと思うのが、実はギャザリングの部分なんだよね。
まず、じっと見つめているだけのギャザリングの様子が、どうにもマヌケに見えちゃうという問題がある。
それと、歴史に残るような大きな事件を幾つも見学してきたギャザリングが、今回は「小さな町で起きる連続殺人」という、歴史上の事件にならないような出来事を見学に来るってのも、設定としていかがなものかと思うし。
たぶん同じ時期に、別の場所ではもっとデカい事件が起きていると思うんだけど。

(観賞日:2014年6月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会