『96時間』:2008、フランス&アメリカ&イギリス

元CIA工作員のブライアン・ミルズは、引退した現在はカリフォルニアで暮らしている。彼は妻レノーアと離婚しており、17歳の一人娘キムは彼女が引き取っている。レノーアは資産家のスチュアートと再婚し、幸せに暮らしている。ブライアンはキムと仲良くしたいのだが、なかなか会うことも出来ない。キムの誕生日、彼はプレゼントにカラオケセットを購入し、パーティーが行われているスチュアートの豪邸に赴いた。レノーアは訪問を嫌がるが、キムはブライアンを見つけて笑顔を見せた。ブライアンはキムにプレゼントを渡し、喜んでもらえた。だが、スチュアートがプレゼントに用意していた馬を連れて来ると、キムの関心はそちらに移った。
ブライアンは仲間のサム、ケイシー、バーニーから、有名歌手のシーラを警護する仕事を持ち掛けられた。シーラのコンサート会場に赴いたブライアンは、娘が歌手志望であることを彼女に話してアドバイスを求めた。シーラは「他の道を探すべき」と告げる。ブライアンはキムからの電話で、翌日に食事をすることになった。コンサート終了後、シーラは暴漢の襲撃を受けるが、ブライアンが軽く片付けた。シーラは彼に感謝し、ボイス・トレーナーとマネージャーの電話番号を書いた名刺を渡した。
次の日、ブライアンがレストランで待っていると、キムとレノーアと一緒に現れた。キムは友人のアマンダと一緒にパリ旅行へ行こうとしているが、まだ未成年なので同意書にブライアンのサインが必要なのだ。ブライアンが「危険だ」と強く反対すると、キムは泣き出してしまい、レノーアは激怒した。結局、ブライアンは同意書へのサインを承諾した。キムを空港まで送ったブライアンは、美術館巡りだと聞かされていた旅行の目的がU2のツアーだったことを知る。しかし、今さら同意を取り消すことも出来なかった。
パリに到着したキムとアマンダは、タクシー乗り場でピーターという男に声を掛けられた。ピーターはキムたちが滞在するアパルトマンまでタクシーに相乗りし、仲間に住所を伝えた。ブライアンはキムの携帯に電話を掛けるが、アマンダが大音量で音楽を掛けたため、呼び出し音が聞こえない。ようやくキムが気付き、バスルームに移動してブライアンと話す。窓の外を見た彼女は、アマンダが乱入した一味に拉致される現場を目撃した。
キムからアマンダが連行されたことを聞いたブライアンは、ベッドの下に潜り込むよう促した。彼はICレコーダーをセットし、「お前も誘拐される。連れ去られるまでの10秒間で、一味の特徴を大声で叫べ」と指示した。キムはブライアンに言われた通り、携帯をベッドの外に向けて置いた。一味が去ったと思って安堵した直後、彼女は一味に引きずり出された。ブライアンが携帯を聞いている一味に向かって宣戦布告すると、「グッドラック」という男の声が聞こえた。
ブライアンはサムに連絡を入れ、ICレコーダーで録音した音声の分析を依頼した。ブライアンはレノーアにキムが誘拐されたことを説明し、スチュアートにプライベート・ジェットを用意させる。サムからの電話を受けたブライアンは、一味がアルバニア系の人身売買組織であること、ボスがマルコという男であること、事件の発生から96時間が過ぎると拉致された人間の救出が絶望的になることを聞かされる。プライベートジェットでパリヘ向かったブライアンは、ICレコーダーの音声を改めてチェックした。
パリに到着したブライアンは、アパルトマンに侵入する。彼はICレコーダーを再生し、そこで起きた出来事を推測する。部屋を調べたブライアンは、割れた鏡に付着していた毛髪と、壊されたキムの携帯に残っていたメモリカードを回収した。アパルトマンを出た彼は、メモリカードに入っていた画像を確認する。空港でピーターを見つけた彼は捕まえようとするが、逃げられてしまう。ブライアンは追跡するが、ピーターは車にひかれて死んでしまった。
ブライアンは旧知の仲である国土福祉局の副所長ジャン=クロードと会い、組織の縄張りを聞き出した。ジャン=クロードは部下に命じ、彼をを尾行させた。ブライアンは売春が行なわれている建設現場を発見し、足を踏み入れた。そこでは麻薬漬けにされた少女たちが男の相手をさせられていた。キムのデニムジャケットを持っている少女を見つけたブライアンは、彼女を追及する。だが、少女は麻薬のせいで意識が朦朧としていた。見張りの男たちに気付かれたため、ブライアンは娼婦を車に乗せて逃走した。
刑事たちの尾行を撒いたブライアンは、少女を連れて馴染みのホテルに入った。彼はジャン=クロードからの電話で、公園へ出て来るよう要求される。ブライアンは公園へ出向かず、彼に電話を掛ける。ジャン=クロードはブライアンに、強制送還を通告する。その間に部下が逆探知を行い、発信場所を特定する。しかしブライアンは無線機を携帯に繋げて細工していたため、その場所に彼はいなかった。
ホテルに戻ったブライアンは、麻薬を抜いた少女に尋問し、デニムジャケットを貰った場所がパラディー通りにある赤いドアの家であることを聞き出した。ブライアンは赤いドアの家へ行き、見張りの男にジャン=クロードの名刺を見せた。一味と接触したブライアンは、「目こぼし料の交渉に来た」と持ち掛けた。交渉が終わった後、ブライアンはアルバニア語のメモを見せて、翻訳を頼んだ。一人の男の「グッドラック」という言葉で、ブライアンはそれがマルコだと確信する。
ブライアンはマルコを叩きのめし、他の連中を始末する。彼が奥を調べると、各部屋で少女が麻薬漬けにされていた。その中にはアマンダの姿もあったが、彼女は既に麻薬中毒で死んでいた。ブライアンはマルコを拷問し、キムの居場所を吐くよう脅した。するとマルコは、キムが処女だったために高く売れること、パトリス・サンクレアという男に引き渡したことを白状した。ブライアンはジャン=クロードの家へ行き、彼の妻イザベラが同席する前で、その悪事を指摘した。ブライアンはジャン=クロードに拳銃を向けられるが、全く動じない。彼はイザベラの左腕を撃ってジャン=クロードを脅し、パトリス・サンクレアの情報を聞き出した…。

監督はピエール・モレル、脚本はリュック・ベッソン&ロバート・マーク・ケイメン、製作はリュック・ベッソン、製作総指揮はディディエ・オアロ、撮影はミシェル・アブラモヴィッチ、編集はフレデリック・トラヴァル、美術はユーグ・ティサンディエ、衣装はオリヴィエ・ベリオ、音楽はナサニエル・メカリー。
出演はリーアム・ニーソン、マギー・グレイス、リーランド・オーサー、ファムケ・ヤンセン、ジョン・グリース、デヴィッド・ウォーショフスキー、ホリー・ヴァランス、ケイティ・キャシディー、ザンダー・バークレイ、オリヴィエ・ラブルダン、ジェラール・ワトキンス、マルク・アミヨ、アルベン・バジュラクタラジ、ラシャ・ブコヴィッチ、マチュー・ブッソン、ミシェル・フラッシュ、ニコラ・ジロー、ルーベンス・ハイカ、カミーユ・ジャピ、ヴァレンティン・カラジ、ファニ・コラロワ、ゴラン・コスティッチ他。


リュック・ベッソンの創設したヨーロッパ・コープが製作し、北米で大ヒットを記録した作品。
監督は『アルティメット』のピエール・モレル。脚本はいつものように、ベッソンとロバート・マーク・ケイメンのコンビ。
ブライアンをリーアム・ニーソン、キムをマギー・グレイス、サムをリーランド・オーサー、レノーアをファムケ・ヤンセン、ケイシーをジョン・グリース、バーニーをデヴィッド・ウォーショフスキー、シーラをホリー・ヴァランス、アマンダをケイティ・キャシディー、スチュアートをザンダー・バークレイ、ジャン=クロードをオリヴィエ・ラブルダン、サンクレアをジェラール・ワトキンスが演じている。

邦題の『96時間』というのは、劇中で語られる「拉致されてから96時間以内に見つけないと、人質を救うことは無理」ということから取っている。
ただ、劇中で96時間というタイムリミットが正確に設定されているわけではないし、ブライアンがタイムリミットを意識して行動している様子も無い。
っていうか、そもそも96時間が経過するより前に、アマンダが殺されちゃってるんだよね。
一応、96時間という具体的な時間を提示したんだから、そこまでに人質を殺すのはダメだろ。
そういう「自分で用意した設定を忘れたかのような筋書きにしてしまう」というのは、いかにもリュック・ベッソンらしい。

「元CIA工作員が、誘拐された娘を救い出すため、犯罪組織と戦う」という、とてもシンプルで分かりやすいアクション映画だ。
何の捻りも無く、とにかく次から次へとアクションを用意して観客の御機嫌を窺おうという作りになっている。
複雑な人間関係とか、裏に隠されている真相とか、そういうのは全く無い。
一応、「実は組織とグルでした」と後半になって明かされるキャラはいるけど、そいつが悪党だってのは早い内からバレバレになっている。

「主人公が圧倒的に強い」ということも含めて、まるでスティーヴン・セガールが主演する低予算B級映画のような作品なのだが、それをB級アクション俳優ではないリーアム・ニーソンにやらせることによって、格上げさせている。
それと、格の問題は抜きにしても、これにセガールが主演していたら、映画の面白さという意味でも、かなり質が落ちたと思う。
というのも、もはやセガールって『沈黙の艦隊』の頃のような動きが出来なくなっちゃってるからだ。だから、この映画でセガールが主演したとしても、アクションシーンが鈍重なモノになってしまう可能性が高いと思うのだ。
あと、演技力という部分でも、リーアム・ニーソンとは雲泥の差だしね。

この映画が他のB級アクション映画と大きく違うのは、「主人公がイカれてる」ということだ。
「身内を救うために戦う」という大枠を持ったアクション映画の場合、もちろん主人公は拉致された相手を救うことを何より優先するのだが、そこには「正義感」であったり、「倫理観」であったり、いわゆる「ヒーロー」的な要素を持っていることが多い。だから、無関係な人は基本的に巻き込まないし、身内を救う過程で他にも救うべき対象に突き当たったら、その人物も助けようとする。
しかし本作品の場合、ブライアンは娘のことしか考えていない。それは徹底していて、「娘を助けられたら、他はどうでもいい」という具合だ。
だから、途中でアマンダの死体を見つけても、ブライアンは何とも思わない。娘じゃないので、無残に殺されようが、どうでもいいのだ。
他にも拉致された女たちがいるが、それも無視する。
彼にとっては、娘さえ助けたら、他の女はどうでもいいのだ。

娘を助けるためなら、ブライアンは何だってやる。
ジャン=クロードの口を割らせるためなら、何も知らない彼の妻イザベラを撃って怪我を負わせる。
まずジャン=クロードを撃って脅し、それでも口を割らなかったら「奥さんを撃つぞ」と脅迫し、脅迫にも屈しなかったらホントに撃つとか、そういう手順は踏まない。
娘を救うためには、余計な時間など掛けていられない。だから、いきなりイザベラを撃つ。
相手が犯罪とは無関係であっても、娘を救うためなら、平気で巻き添えにするのだ。

ブライアンが娘のことしか見ていないというだけでなく、映画のスタンスとしても、「ブライアンは娘を救うために行動する」というところしか見ていない。
だからブライアンがキムを救い出すと、それをハッピーエンドとして描いている。
キムの大切な親友は無残に殺されたのに、そんなのは悲劇でも何でもないという感じだ。
っていうか、アマンダのことなんて、すっかり忘れ去られている。
彼女のことなど忘れ、無慈悲にもハッピーエンドにしてしまう辺りは、さすがリュック・ベッソンだね。

ブライアンは圧倒的な戦闘能力や分析能力を見せているのに、オークション会場で背後から一味に殴られて昏倒し、捕まってしまう。
その展開は、無理を感じるなあ。
そりゃあプライアンをピンチに陥れて、スリリングな空気を出したかったんだろうってのは分かるよ。だけど、そこまで来たら、もう最後までブライアンは無敵の強さを見せ付けたままで終わっても良かったんじゃないかと。
捕まるにしても、キムの居場所を特定するために、わざと捕まるという形にすれば良かったんじゃないかと。
外見はリーアム・ニーソンだけど、基本的にはスティーヴン・セガールなんだし、無敵でもいいんじゃないかと(その表現は、なんか違う気もするが)。

(観賞日:2013年3月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会