『コウノトリ大作戦!』:2016、アメリカ

遥か昔、コウノトリはコウノトリ山から人間界へと赤ん坊を運んでいた。その仕事は誇りであり、生き甲斐でもあった。しかし現在の彼らは宅配便会社「コーナーストア」で働いており、もう赤ん坊は運んでいない。百万個の宅配を達成したジュニアは祝賀会を開こうとするが、仲間たちは用事で忙しかった。社長のハンターに呼ばれたジュニアは、期待感を膨らませて社長室へ赴いた。18年前、ハンターは赤ん坊の配達を取り止めて荷物の宅配専門に切り替え、会社を大成功させていた。
ハンターは来週月曜に開かれるコウノトリ大会で会長に昇進することをジュニアに話し、次の社長に指名した。喜ぶジュニアに、ハンターは「厄介なのはチューリップだ」と告げた。ハンターの会社では、人間の少女であるチューリップが働いていた。ハンターはジュニアに、赤ん坊の宅配を中止した理由を明かす。18年前、社員のジャスパーは赤ん坊のチューリップを手元に置こうと目論み、仲間と争いになった。その際に親ナビが壊れ、チューリップの届け先が分からなくなった。チューリップを奪還されたジャスパーは、その場から逃亡した。この事件がきっかけで、ハンターは赤ん坊の宅配を中止したのだ。
ハンターは「チューリップが18歳になったので、人間の世界へ戻せる」と言い、クビを通告するようジュニアに命じた。チューリップは会社にとって、迷惑を掛けるだけの存在だった。その日も彼女は空飛ぶ機械を使って張り切るが、会社で火事を起こしてしまった。しかしジュニアはチューリップから「誕生日のお祝いを言いに来てくれたのね」と言われてクビを切り出せなくなり、「今日から手紙仕分け部の責任者に任命する」と咄嗟に告げた。手紙仕分け部はチューリップしかいない部署で、ジュニアは部屋から出ないよう命じた。張り切って仕事をしようとするチューリップだが、注文の手紙は全く来なかった。チューリップは1人遊びで、退屈を紛らわせた。
人間界では、少年のネイトが1人遊びに興じていた。夫婦で不動産会社を営む父のヘンリーと母のサラは仕事で忙しく、ネイトはなかなか構ってもらえなかった。弟が欲しくなったネイトは両親に告げるが、「お前がいれば充分だよ」と言われてしまう。屋根裏部屋に入ったネイトは、古い冊子を発見した。それは注文の手紙を送ればコウノトリが赤ん坊を運んでくることを説明した冊子で、ネイトは興奮する。彼は両親を装い、赤ん坊を注文する手紙を書いた。
ネイトは手紙を投函し、それはチューリップの元に届いた。チューリップは仕分け部の部屋を出て赤ちゃん工場へ行き、機械に手紙を差し込んだ。慌てて止めに来たジュニアは、手紙を入れる場所が間違っていることを指摘する。ジュニアは緊急停止ボタンを押すが、その場所に手を伸ばす際に右の翼が折れてしまった。機械は停止するが、既に赤ん坊は誕生した後だった。社長になりたいジュニアは、月曜までに赤ん坊を届ければハンターに気付かれずに済むと考えた。
ジュニアは赤ん坊を届けようとするが、翼が折れているので飛べなかった。チューリップが発明した飛行機の存在を知った彼は、それを使うことにした。ジュニアとチューリップは赤ん坊の入ったカプセルを飛行機に積み、会社を出発した。ハトのトーディーはジュニアたちが出掛けたことを知り、不審を抱いて後を追った。赤ん坊が泣き叫ぶと、チューリップは操縦桿を離して様子を見に行く。飛行機は雪山に墜落し、ジュニアはチューリップに呆れる。彼らは赤ん坊の笑顔を見ると、一瞬で魅了された。
ジュニアはチューリップに「飛行機が無いから君も要らない。赤ん坊は俺が届ける」と言い、カプセルを持って雪山を歩き始めた。しかし吹雪の中で狼の群れに包囲され、頭を殴られて気絶した。ジュニアが目を覚ますと、狼の住処ではチューリップも捕まっていた。狼たちは赤ん坊をカプセルから出し、食べてしまおうとする。しかしリーダー争いをしていたアルファとベータは赤ん坊の笑顔を見てデレデレし、仲間に加えると宣言した。
チューリップは狼たちを騙して拘束を解いてもらい、ジュニアと共に赤ん坊を奪還して逃亡する。飛行機の元へ向かう際、彼女は「修理しておいた」と告げる。チューリップが氷河の裂け目に落ちそうになったため、ジュニアは戻って救助した。ジュニアが飛行機を飛ばそうとすると、チューリップは「実は飛ばない。落ちるだけ」と明かした。飛行機はゴムボートに変形し、川を進んだ。ジュニアはゴムボートに穴を開け、「今夜はここで野宿だ」と告げて岸に上がった。
トーディーはジュニアとチューリップが赤ん坊と一緒にいる様子を目撃し、出世のチャンスだと考えてハンターに報告した。ハンターは「あの赤ん坊を届けさせてはいけない」と言うが、行き先が分からないので別の案を思い付いた。彼はトーディーに命じ、親ナビの届け先を変更した。ジュニアたちは船に乗るため港へ行くが、待ち受けていた狼の群れに襲われる。そこへジャスパーが現れ、ジュニアたちを救って船まで運んだ。ジャスパーはチューリップの配達に失敗して親ナビが壊れたこと、18年前からカケラを集めていたことを語る。彼が最後の1つだけ見つけられずにいることを話すと、チューリップはそれが自分の下げているネックレスに付いていると気付く…。

脚本&監督はニコラス・ストーラー、監督はダグ・スウィートランド、製作はブラッド・ルイス&ニコラス・ストーラー、製作総指揮はグレン・フィカーラ&フィル・ロード&クリストファー・ミラー&ジョン・レクア&ジャレッド・スターン&スティーヴン・ムニューチン、製作協力はジョン・クレイドマン、編集はジョン・ヴェンゾン、ヘッド・オブ・ストーリーはクレイグ・ベリー&マット・フリン、プロダクション・デザイナーはポール・ラセイン、撮影監督はサイモン・ダンズドン、視覚効果監修はデヴィッド・アレクサンダー・スミス、アニメーション監修はジョシュア・ベヴァリッジ、音楽はマイケル・ダナ&ジェフ・ダナ。
声の出演はアンディー・サムバーグ、ケイティー・クラウン、ケルシー・グラマー、ジェニファー・アニストン、タイ・バーレル、アントン・スタークマン、キーガン=マイケル・キー、ジョーダン・ピール、ダニー・トレホ、スティーヴン・クラマー・グリックマン、クリス・スミス、オークワフィナ、アイク・バリンホルツ、ヨーマ・タコンヌ、アマンド・ランド他。


『寝取られ男のラブ♂バカンス』『ネイバーズ』のニコラス・ストーラーが脚本&監督を務めたワーナー・ブラザーズの長編アニメ映画。
共同で監督を務めたのは『ウォーリー』と同時上映の掌編アニメ『マジシャン・プレスト』を手掛けたダグ・スウィートランドで、これが長編デビュー作。
ジュニアの声をアンディー・サムバーグ、チューリップをケイティー・クラウン、ハンターをケルシー・グラマー、サラをジェニファー・アニストン、ヘンリーをタイ・バーレル、ネイトをアントン・スタークマン、アルファをキーガン=マイケル・キー、ベータをジョーダン・ピール、ジャスパーをダニー・トレホ、トーディーをスティーヴン・クラマー・グリックマンが担当している。
日本語吹替版では、アンジャッシュの渡部建がジュニア、児嶋一哉がトーディーを担当している。

ハンターの会社はコウノトリの宅配便会社のはずなのに、なぜかハトやエミュー、ニワトリやウズラも働いている。
「内勤には他の種類の鳥もいる」ってことなんだろうけど、その存在意義は乏しい。
「見た目でハッキリと区別するため」という意味合いが百%なんだろうと思われるし、だから役割の大きいトーディーだけなら大して気にならなかっただろう。
しかし、チューリップの仲間としてエミューたちも登場させておいて、そいつらの存在意義はゼロなので、無駄な引っ掛かりだけを生むことになる。

チューリップは会社から全く外へ出ることなく成長しているようだが、「外へ出たい」という意識は湧かなかったのか。両親を探したいという目的で飛行機を作っていたようだが、「ずっと外の世界を見たかった」という意識が全く見えないのは気になる。
もっと気になるのは、「どうやって育ったのか」ってことだ。
そもそも誰が育てたのかも気になるが、少なくとも「コウノトリの誰か」であることは間違いない。
そうなった時、チューリップは自分がコウノトリだと思って育ったりしないのか。

ハンターはチューリップについて、「18歳になったから人間の世界に戻せる」と言っている。
だが、どういう理屈なのか全く分からない。
「18歳だったら、もう放り出しても1人で生きていけるだろう」ってことなのか。そうだとしても、ちゃんと台詞で説明しなきゃダメだろ。
っていうか、腑に落ちる理屈とは言い難いけどさ。
あと、それってジュニアとハンターの会話シーンで軽く触れるだけでいいことでしょ。そういうトコを雑にスルーしちゃうから、余計な引っ掛かりが生まれるのよ。

根本的な問題として、18歳になるまで会社で育てていたら、それって立派な誘拐&監禁罪だろ。本来なら、赤ん坊の時に両親の元へ届くはずだったんだからさ。
そして18年前に届くはずの赤ん坊が届かなかったのなら、人間界では大きな問題になっているはず。
チューリップの両親は必死になるだろうし、ハンターの会社に抗議も届くだろう。間違いなく警察だって動くはずだ。
でも、そういうことが起きた様子は全く見られない。

また、18年前に赤ん坊の宅配を中止したのなら、それ以降は人間界で赤ん坊が産まれなくなっているはず。
それもまた大きな問題のはずだが、社会問題になっている気配は無い。そもそも、ネイトが産まれているから整合性が取れていないし。
明確に年齢が示されるシーンは無いけど、どう見たってネイトは18歳に達していないでしょ。だったら、こいつはどうやって産まれたんだよ。コウノトリが運ぶのとは別に、妊娠による出産もあるってことなのか。
その辺りのディティールが適当過ぎる。

かつて赤ん坊の宅配をやっていた時のシステムは、「赤ん坊を運ぶ」という仕事だけをコウノトリが担当していたのかと思ったら、「冊子が配布されており、それを見た人間が手紙で注文したら届く」という形だったことが明らかになる。
それって、いわゆる人身売買に近いモノがあるだろ。会社としてやっているんだから、そこに金銭が発生している可能性は高いし。
あと、ネイトが両親を装って手紙を出したように(だからサラとヘンリーが全く気付いていないのに、赤ん坊が急にやって来るという珍妙な現象が起きてしまう)、「子供が欲しい夫婦」を偽れば誰でも簡単に赤ん坊を注文できるわけで、ものすごく怖い商売だ。
「コウノトリが赤ん坊を運ぶ」という伝説を使って物語を作りたかったのは分かるけど、それを整合性の取れた世界観に取り込むための作業が雑すぎる。

トーディーは登場した時、ジュニアと仲良くやっているような様子だった。ジュニアがトーディーを馬鹿にしたり、酷い目に遭わせたりしているようなことも無い。
つまりトーディーが個人的に恨みを抱くようなことは無かったはず。
また、彼には野心があるようにも全く見えなかった。
なので、彼がジュニアたちの行動を取り、ハンターに密告するってのは違和感が強い。
そもそも下っ端に見えていたので、「それで社長に出世できる」と思っているのも違和感が強いし。

ハンターはトーディーからジュニアたちの行動について報告を受けると、「あの赤ん坊を配達させてはならん」と言う。
しかし、なぜダメなのかが良く分からない。
手紙が届いた以上、注文があることは事実だ。だったら、むしろ無事に配達した方がいいんじゃないのか。
もし配達されなかった場合、それは会社の落ち度ってことになるはずでしょ。客が注文した荷物を届けないってのは、会社にとって重大なミスってことになるでしょうに。

ハンターはトーディーから「行き先が分からない」と言われると、「こちらへ来させればいい」と笑みを浮かべる。
そして彼はヘリに搭乗して出発するので、目的を果たすためにどこかへ向かったのかと思ったら、違うんだよね。翌朝のシーンで、彼はトーディーに命じて機械で親ナビの届け先を変更させているんだよね。
だったら、前日にヘリで飛び立ったのは、どういう意味があったのかと。
その辺りの描写は、どういうことなのか全く分からないぞ。

終盤、ジュニアは溜まっていた手紙を全て赤ちゃん工場に投入し、大勢の赤ん坊が誕生する。その赤ん坊をコウノトリたちが配達することになるが、これを「素晴らしいこと」のように描いている。
「赤ん坊が誕生する」という出来事だけを捉えれば、それを好意的に描くのは何の問題も無い。
しかし、今まで溜まっていた注文が一気に稼働し、大量の赤ん坊が同時に配達されるってのは、素晴らしいことじゃないでしょ。その年の同じ日だけ爆発的に人口が増加するわけで、かなりの社会問題になるぞ。
「そんなことをマジに捉えちゃダメ」ということかもしれんが、いや気になるだろ。

ラスト、チューリップが緊張しながら「親ナビで指定された家」へ行くと、そこで暮らしている面々は彼女を「家族」として迎え入れる。
18歳の少女が唐突に訪ねて来たのに、良く歓迎できたな。
そもそも、なぜ住人はチューリップが自分たちの家族だと分かるのか。それが認識できるってことは、「本来なら18年前に来るはずだった娘」の存在を知っていたってことになるぞ。
そうなると、18年も会えない状態だったのに、コウノトリを非難しないのは変だろ。

私は自分がガチガチのモラリストだとは思っちゃいないし、むしろネジ曲がった部分も多いクソ野郎だ。
しかし、この映画の倫理観は全く受け付けない。ある種のグロテスクさえ感じるほど、不愉快極まりない。
それを普通に「不愉快なモノ」として描いているなら、何の文句も無い。だが、それをハートウォーミングで美しい物語として描いているのだ。
なので、「どういうセンスをしているのか」とツッコミを入れたくなってしまう。

(観賞日:2018年11月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会