『ゲットバック』:2012、アメリカ

ニューオリンズ、午前4時。FBI捜査官のハーランドやフレッチャーたちは、強盗のウィル・モンゴメリーたちがダイヤ取引所を襲撃するという情報を掴んで張り込んでいた。ウィルは仲間のヴィンセント、ライリーと共に車で待機し、いつものようにCCRの曲を聴いていた。それは6年前からウィルが続けているゲン担ぎなのだが、ヴィンセントは苛立ちを示した。幼い娘のアリソンから電話が掛かり、ウィルは嬉しそうに話した。その様子を、ヴィンセントは冷めた様子で見ていた。もう1人の仲間であるホイトの連絡が遅いので、ウィルは計画中止を考える。しかしヴィンセントは、「デカい金が手に入るんだぞ。捕まりゃしねえって」と反対した。
ホイトはウィルたちに連絡を入れ、火災警報器や監視カメラを止めたことを報告した。無線を傍受していたハーランドは、特殊部隊を出動させる。ウィルとヴィンセントは取引所の隣にある玩具店へ侵入し、壁に穴を開ける。ライリーはホイトと合流し、車で待機した。ウィルとヴィンセントは金庫に辿り着き、扉の破壊に取り掛かる。特殊部隊はダイヤ取引所の金庫室に突入するが、ウィルたちの姿は無かった。ウィルとヴィンセントはダイヤ取引所ではなく、銀行に侵入していたのだ。
ウィルたちの動きに気付いたハーランドは、急いで部隊を銀行へ向かわせる。しかしウィルとヴィンセントは金庫の1000万ドルを手に入れ、裏口から脱出していた。たまたま外にいた男をヴィンセントは殴り倒し、「顔を見られた」と言って射殺しようとする。ウィルが制止するが、ヴィンセントは耳を貸さない。ウィルが止めようとして揉み合っていると、弾丸がヴィンセントの右脚を撃ち抜いた。ウィルは「自分で撃った」と言うが、ヴィンセントは彼に撃たれたと考えた。
ウィルはヴィンセントを車に運び、金の入ったバッグを取りに戻った。しかしパトカーが駆け付けたため、ホイトは彼を置き去りにして車を発進させた。ウィルは警官を殴り倒し、パトカーを奪って逃走を図る。ハーランドやフレッチャーたちに追跡されたウィルは、激しいカーチェイスを繰り広げた。しかし倉庫に追い詰められたウィルは、逃げ切れないと観念して投降した。ハーランドはバッグを開けるが、中身は空っぽだった。
8年後、ウィルが連邦刑務所を出ると、ハーランドとフレッチャーが待ち受けていた。彼らはウィルが隠した1000万ドルの回収に向かうと確信しており、そのことを追及する。しかしウィルは、「金は無い」と告げる。ハーランドは彼に、「お前が捕まってヴィンセントは苦労してた。ヤミ金に手を出して死んだ」と話す。ハーランドたちと別れた後、ウィルはアリソンの元へ向かう。アリソンはウィルに、今朝届いたという封筒を渡した。
ウィルはアリソンにヌイグルミをプレゼントし、「パパは悪いことをしてきたが、8年掛けて生まれ変わった」と告げる。しかしアリソンはヌイグルミを突き返し、「これからカウンセリングなの。心に問題があるみたい。誰のせいかな」と冷たく言い、タクシーに乗り込んだ。ウィルはタクシーを見送った後、ライリーが営むバーを訪れた。ライリーはウィルが自分たちを売らなかったことを感謝していた。ウィルが「誰がヴィンセントを殺した?」と訊くと、彼女は「分からない。ヤバい連中とつるんでいたから」と述べた。
封筒から音が鳴ったのでウィルが中を確かめると、携帯電話が入っていた。ウィルが電話に出ると、相手はヴィンセントだった。ウィルは「生きていたのか」と喜ぶが、ヴィンセントは咳き込みながら「死人も同然だ」と言う。彼は「借金取りやFBIに追われて大変だった。お前は俺の人生をぶち壊した」と言い、8年前に撃たれた右脚のことで恨みをぶつける。「俺の分け前を寄越せ」と言われたウィルは、「金は捕まる前に燃やした」と告げる。するとヴィンセントは、アリソンを人質に取っていることを教えた。アリソンが乗ったタクシーの運転手は、ヴィンセントだったのだ。
ヴィンセントに「娘がどうなるかは、お前次第だ」と告げられたウィルは、「金は手元に無い。弁護士がタスカルーサの信託銀行に預けてある。時間をくれ」と言う。ヴィンセントは「12時間やる。その形態は追跡されてる。着信音が8回鳴るまでに出ろ」と述べて、電話を切った。フレッチャーたちの追跡を撒いたウィルは、新しい携帯電話を購入する。彼は携帯の送信手続きを済ませた上で、タスカルーサ行きの列車内に置いた。
ウィルはFBI支局を訪れてハーランドに事情を説明し、娘を救出するための協力を求めた。しかしハーランドは「金が無いと見せ掛けるために、ヴィンセントが生きていて娘が誘拐されたという話をデッチ上げた」と決め付け、ヴィンセントが死んでいる証拠を提示した。ある死体の指紋を調べたところ、ヴィンセントと合致したというのだ。ハーランドはフレッチャーたちに、外までウィルを送るよう指示した。ウィルはフレッチャーたちをエレベーターで昏倒させ、手錠で拘束してIDパスを奪った。彼はパソコンを使ってFBIのデータにアクセスし、ホイトの情報を調べた。
ヴィンセントはアリソンをタクシーのトランクに閉じ込め、街を移動していた。ピートという若者が乗り込んで来るが、ヴィンセントは彼を引きずり出して暴行した。ウィルはホイトのアパートに乗り込み、拳銃を突き付けた。脅迫されたホイトは、ヴィンセントに頼まれてアリソンを偵察したり携帯を届けたりしたことを白状した。娘の居場所を吐くようウィルが要求すると、ホイトはヴィンセントがタクシーのトランクにアリソンを閉じ込めて移動していることを明かした。
ハーランドが特殊部隊を率いてアパートに到着し、それにヴィンセントが気を取られた隙にホイトが襲い掛かった。ホイトはショットガンを手に取るが、部屋に辿り着いたハーランドたちの銃撃を受けて死亡した。ウィルは窓から逃亡し、タクシー運転手のバートランドを銃で脅して車内に乗り込んだ。アリソンはトランクに穴を開けて手を突っ込み、ピートが車内に残した携帯電話を使って警察に連絡しようと試みた。だが、あと少しというところで、携帯電話が座席から滑り落ちてしまった。
ヴィンセントは白バイ警官から、ブレーキランプの故障で停止を命じられた。警官は去ろうとするが、アリソンがトランクを激しく叩いて助けを求めた。物音に気付いた警官は、トランクを開けるようヴィンセントに命じた。ヴィンセントはトランクを開けると見せ掛け、警官を銃殺した。その隙にアリソンは逃げ出すが、すぐに捕まって連れ戻された。ウィルはバートランドを脅し、会社のボスであるルフルールに無線連絡を入れさせた。ウィルはバートランドに指図し、ヴィンセントが使っているタクシーの位置と車両番号を聞き出した。
ウィルは聞き出した車両番号のタクシーを発見するが、運転手はヴィンセントではなかった。その車は本来の異なる車両番号を貼っていただけだったのだ。ウィルは駆け付けたFBI捜査官に捕まり、連行されることになった。しかしウィルは車をクラッシュに追い込み、その場から逃亡した。スペイン語でライリーと連絡を取ったウィルは、彼女を呼び出した。ウィルは8年前の銀行にあった金塊を奪って身代金にしようと目論み、強盗の手伝いをライリーに要請した…。

監督はサイモン・ウェスト、脚本はデヴィッド・グッゲンハイム、製作はレネ・ベッソン&ジェシー・ケネディー&マシュー・ジョインズ、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&ダニー・ディムボート&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン&ジョン・トンプソン&クリスティーナ・ドゥービン&ジブ・ポルヘマス&カシアン・エルウィズ&ジョセフ・マクギンティー&メアリー・ヴィオラ、撮影はジェームズ・ウィテカー、編集はグレン・スキャントルベリー、美術はジェームズ・ヒンクル、衣装はクリストファー・ローレンス、音楽はマーク・アイシャム。
主演はニコラス・ケイジ、共演はジョシュ・ルーカス、ダニー・ヒューストン、マリン・アッカーマン、サミ・ゲイル、マーク・ヴァレー、M・C・ゲイニー、エドリック・ブラウン、バリー・シャバカ・ヘンリー、JD・エヴァモア、ギャレット・ハインズ、ケヴィン・フォスター、タンク・シャーデー、ダン・ブレイヴァーマン、ジョン・アイズ、マーカス・ライル・ブラウン、マット・ノーラン、タイラー・フォレスト、シャンナ・フォレスタール、ブライアン・キニー、ジョー・ニン・ウィリアムズ、デレク・シュレック、ティム・ベル、カイル・ラッセル・クレメンツ、ムスタファ・ハリス他。


『ストレンジャー・コール』『メカニック』のサイモン・ウェストが、監督デビュー作である『コン・エアー』から15年ぶりにニコラス・ケイジと再タッグを組んだ作品。
脚本は『デンジャラス・ラン』のデヴィッド・グッゲンハイム。
ウィルをニコラス・ケイジ、ヴィンセントをジョシュ・ルーカス、ティムをダニー・ヒューストン、ライリーをマリン・アッカーマン、アリソンをサミ・ゲイル、フレッチャーをマーク・ヴァレー、ホイトをM・C・ゲイニーが演じている。

「ウィルたちが狙っていたのがダイヤ取引所ではなく別の場所」ってのは、彼らが金庫を壊して中に入ろうとする様子と、金庫室へ向かう特殊部隊の様子をカットバックで描いているので、特殊部隊が扉を開ける前の段階で何となく予想できる。
とは言え、そこがベタな見せ方になっているのは別に構わない。
だけど、位置関係が良く分からないので、どうやってウィルたちが銀行まで移動したのかという疑問が残ってしまう。
そのせいもあって、「主人公がFBIを出し抜いた」というところでの爽快感は弱い。

銀行の外にいた男をヴィンセントが殴り倒すと、ウィルは「なぜ殴った」と非難する。
でも、そもそも素顔をさらしている時点で、「目撃した奴は始末する」という考えの方が真っ当じゃないかと思ってしまう。目撃者を消したくないのなら、なんで覆面を被らないのかと。
「監視カメラを止めたから大丈夫」ってことで安心しきっているのかもしれんが、念のために顔は隠しておけよ。それで6年間も捕まらずにいたのが不思議に思えるぐらい不用心で警戒心が足りない。
あと、そこでヴィンセントを「なぜ殴った」と非難したウィルが直後に警官を殴り倒しているので、「お前も殴ってるじゃねえか」と言いたくなるぞ。「それは逃げるために仕方なく」という言い訳をしたとしても、ヴィンセントの方も「顔を見られたから」という、ちゃんとした理由があるわけだし。

ウィルはパトカーを奪って逃走を図り、ハーランドたちと激しいカーチェイスを繰り広げる。でも倉庫に追い詰められ、観念して投降する。
結果的に捕まるのなら、そんなカーチェイスなんて要らないわ。
導入部にアクションシーンを用意して観客を引き付けたいという狙いがあったのかもしれないけど、警官を殴るというウィルの荒っぽさを無駄にアピールしちゃってるし、マイナスに働いている。
「ひとまず逃亡しないと金を隠す時間が無い」という事情はあるんだけど、警官を殴ってパトカーを奪う行動は無い方がいいわ。

ウィルが投降した時点では「バッグの中に金が無い」ということだけを見せており、盗んだ金がどうなったのかという明確な描写は無い。
ヴィンセントやハーランドはウィルが隠していると確信しており、それに対してウィルは「金は捕まる前に燃やした」と説明するのだが、燃やした証拠が無い。燃やしたことを導入部で明示していないので、「実はどこかに隠しているんじゃないか」というのを匂わせたままで物語が進行していくのだが、最後まで「実は隠していて」という真相が明かされることは無い。
つまり、ホントにウィルは燃やしていたということになるのだが、だったら燃やしたことを導入部で描かなかった意味は何なのかと。
そこにミステリーを作っても、何の得も無い。むしろ、もう盗んだ金が無いことを明確にした上で話を進めた方が、「ホントに金は無いのに、隠していると誤解されてFBIに追われたりヴィンセントに脅されたりする」というウィルの状況がハッキリして、サスペンスとしても締まりが出るんじゃないかと。

ウィルが携帯をタスカルーサ行きの列車内に置いているのが、全く無意味な行動になっている。それでFBIの捜査が混乱するようなことは無いし、ヴィンセントを騙すことに繋がっているわけでもない。
ウィルがハーランドの元へ行く直前、ハーランドはフレッチャーから「ウィルを見失った」という電話報告を受けているが、携帯を列車に置いた行動がそこに影響しているとしても、ウィルは自らハーランドの元へ赴いて居場所を明らかにしちゃうわけだし、やはり意味が無いと感じる。
後から「実はあの時の行動が」という伏線の回収が待っているのかと思っていたが、結局は何も無いままで終わってしまった。
ありゃ一体、何のための行動だったのかと。

ハーランドはヴィンセントの死体が発見されたことをウィルに教えているが、「そのトリックをヴィンセントはどうやったのか」と思っていると、逃げ出したアリソンを捕まえた時にヴィンセントが「似ている死体を掘り起こし、自分の切断した指を混ぜた」と説明する。
そのトリックは、ウィルかハーランドが解明する形にすべきだろうに。
なんでヴィンセント本人が、そんなタイミングで自ら喋ってんのよ。
安い2時間サスペンスの犯人じゃあるまいし、自分からトリックをバラすなよ。

ウィルは身代金を工面するために再び銀行を襲撃すると決めるのだが、ライリーに「8年間温めて来た計画だ」と言っている。
そりゃあ急に思い付いて強盗を実行したら失敗するのは目に見えているし、成功確率を上げることだけを考えれば綿密な計画や念入りな準備はあった方がいいと思うよ。だけどテメエはアリソンに「8年掛けて生まれ変わった」と言っておきながら、刑務所で金塊を盗む計画を練っていたってことになるじゃねえか。やっぱり、まるで足を洗う気なんて無かったってことじゃねえか。
それと、そこまでは「アリソンを救い出す」という目的に向かってウィルを動かしていたのに、「金塊を銀行から盗み出す」というトコロに目的が移ってしまうってのは、構成として上手くない。
それは娘を救うための「手段」ではあるんだけど、「娘を救うために銀行から金塊を盗み出す」という行動をウィルに取らせるのなら、そこを大きく扱う構成にすべきだわ。
後半に入ってから急に「金塊を奪う」と言い出し、ものすごく短時間で簡単に成功させちゃうような雑な処理で済ませるぐらいなら、「金があると見せ掛けて取引現場へ向かう」という形でもいいと思ってしまうわ。

ハーランドたちはルフルールと会って話を聞いた段階で、ヴィンセントが生きていたことを知る。
しかし、そこからヴィンセントの捜索が開始されることは無くて、相変わらずウィルを捕まえることだけに集中している。
だけどヴィンセントの生存が分かった段階で、ウィルの言っていた「娘がヴィンセントに拉致された」という言葉が真実である可能性が出て来たわけで、そっち側の捜査や行動が全く発生しないのは違和感がある。
何の行動にも繋がらないのなら、彼らがヴィンセントの生存を知る展開の意味が無くなっちゃうわ。

ウィルが金塊を入れたスーツケースを持って指定の場所へ行くと、ヴィンセントは中身を確認もせずに「8年の恨みを晴らしてやる」ということでアリソンを焼き殺そうとする。
そうなると、やっぱり「金があると見せ掛けて取引現場へ向かう」ってことでも良かったじゃねえか。
いや、それ以前の問題だわ。
ヴィンセントが「金塊なんて関係ねえ、恨みを晴らすためにウィルの娘を殺す」ってことだけで行動しちゃったら、今までの話は何だったのかと。アリソンは殺そうとするのはいいけど、その前に金塊を手に入れようとしろよ。

ウィルとアリソンの父娘関係を軸に据えて、8年後に飛んでからは「娘を助けるために」という動機でウィルを動かしていくんだけど、そこは上手く描写できていない。まず、「テメエが悪いことをしていたんだから、娘に嫌われるのは当然だろ」と感じるので、ウィルがアリソンに冷たくされても全く同情心が沸かない。ウィルに情状酌量の余地が無い。
娘に対して申し訳ない気持ちを持っているとか、足を洗おうとしているとか、そういう設定が無いんだよね。
「本当はあまり積極的ではないが、仕方なく強盗に加担している」とか、「娘のために心を入れ替えて足を洗おうとしている」とか、そういった言い訳が用意されていればともかく、自分がリーダーとして強盗稼業を6年前からずっと続けているわけで、そりゃあ「テメエが悪いからだろ」ってことになるでしょ。
出所してから「8年掛けて生まれ変わった」と言っているが、それじゃあ遅いのよ。8年前の段階で、罪悪感や後ろめたさ、生まれ変わろうという気持ちを見せておかないと、後から改心をアピールしても取り戻せないのよ。

それと、親子関係を軸にして物語を進めるにしては、アリソンが拉致されるまでにウィルと彼女の親子関係の描写が薄すぎる。
冒頭シーンではウィルがアリソンと電話で話す様子だけだし、アリソンの声は聞こえて来ない。8年後になっても、アリソンはウィルと少し喋っただけで、すぐに拉致されてしまう。
単純な親子ではなく、「ウィルが強盗だと知ったことでアリソンと不和になっている」という複雑な関係性があるんだから、余計に親子の描写をやっておかないとキツいでしょ。
拉致された後から親子の相手に対する心情描写を入れるというのも、やり方次第では出来ないことも無い。ただ、それもやっていないし。
そんで最終的にアリソンはウィルを受け入れて仲良くなっちゃってるけど、すんげえ安易な着地だなあ。

(観賞日:2014年9月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会