『降霊会 ―血塗られた女子寮―』:2021、アメリカ

全寮制の女子校であるエデルヴァイン高校。アリスは仲間のベサニー、イヴォンヌ、ロズと共に、寮生のケリーを浴室に誘った。アリスが主導して、ベサニーたちは自殺した生徒の悪霊を呼び出す儀式を執り行った。すると浴槽から女性が出現し、ケリーは悲鳴を上げて自分の部屋へ逃げ帰った。浴室にいたのは悪霊ではなく、アリスの仲間のレノラが化けていた。アリスはベサニー、レノラと結託し、ケリーを脅かす計画を実行したのだ。イヴォンヌとロズは何も知らされておらず、腹を立てた。ケリーの部屋のドアが開き、仮面を被った何者かが覗き込んだ。大きな物音を耳にしたアリスたちが部屋に駆け付けると、ケリーは窓の外に落下して死亡していた。
カミールはランドリー校長と会い、以前から転入を希望していたことを確認された。ランドリーは既に新学期が始まっていることを懸念し、「ウチのような名門は学内の競争が激しい」と忠告した。カミールは欠員が出て転入が認められており、「生徒が亡くなったんですか」と尋ねる。ランドリーは彼女に、「不幸な事故だった。足を滑らせて窓から落ちたの」と説明した。
カミールはヘレナという生徒の案内で、ケリーが使っていた部屋に案内された。ヘレナは空きが無いのだと言い、「学科の説明をするから、荷物を整理したら自習室へ来て」と告げた。カミールが自習室で席に座っていると、イヴォンヌとレノラが来て「私たちのテーブルから移動して」と要求した。カミールが拒否すると、イヴォンヌは脅すような態度を取った。ヘレナが来て移動を促しても、カミールは譲ろうとしなかった。
そこへアリスがベサニーとロズを伴って現れ、カミールに嫌がらせをして席から退かそうとする。カミールはパンチを浴びせ、すぐに反撃を食らった。ランドリーが来て関与した全員を叱責し、校長室へ呼び出した。喧嘩の理由を問われたカミールは、「些細な誤解です」と嘘をついた。彼女が部屋に戻ると、電気が点滅した。カミールは部屋の隅に立っている女性に気付くが、次の点滅で姿を消した。翌朝、彼女が修理を要請すると雑用係のトレヴァーが訪問し、ランドリーの息子だと自己紹介した。トレヴァーが確認すると、電気に異常は無かった。しかし目の前で点滅が起き、彼は「また幽霊だ。ここは呪われてる」と述べた。
文学の授業で、教師のダンカンは「先学期に皆で応募した小論文コンクールで、ベサニーが1位になった。報奨金は25万ドル」と発表した。前日の喧嘩の罰として、カミールたちはランドリーから図書室の蔵書を整理するよう命じられた。ロズとレノラはカミールを怪奇現象の悪戯で脅かし、馬鹿にして笑った。ヘレナはカミールに、「1年の時はケリーと親しかった。表向きは事故死だけど、両親は再捜査を要求してるらしい」と語った。
カミールが「どう思う?」と訊くと、ヘレナは「私には確かめようがない」と答える。その会話を聞いていたアリスは「あるわよ」と言い、ベサニーがネットで降霊会の儀式を見つけたことを話す。既にベサニーたちは集まっており、アリスはカミールとヘレナにも参加を促す。カミールはレノラがいないことに気付き、ヘレナに「隅に誰かいる。脅かす気よ」と耳打ちした。全員は筆記具のプランシットに触れ、降霊会が始まった。アリスたちの質問でプラシットは動き、「霊は本物」「ケリー」「殺す」などと文字を示した。
蝋燭が倒れて真っ暗になる中、カミールは一瞬だけ仮面の人物を目撃した。その時、レノラは全く違う場所にいた。ランドリーが来たので、降霊会は中止された。アリスはカミールとヘレナに脅かす計画だったが予定と異なる出来事が起きたと話す。ロズはケリーの前で霊を呼び出した時と同じだと言い、ヘレナはカミールに「寮で自殺した生徒がいて、呼び出した者は死ぬ噂がある」と説明した。レノラは皆と別れ、ネットで親しくなった男子に送るための写真撮影に行くが、仮面の人物に腹を刺されて死亡した。
カミールはバレエの授業に参加するが、動きは鈍かった。ランドリーから「ブライトンでバレエを習ってたのよね?」と言われた彼女は、寝不足と生理痛のせいだと弁明した。ランドリーはカミールたちを呼び、レノラがいなくなったことを話す。ロズは彼女と携帯が繋がらず、部屋には鍵が掛かっていたことを語った。ランドリーは「職員が確認すると、所持品の大半が消えていた。両親によると、ネットで悪い男と交際していたみたい」と言い、知っていることがあれば教えるよう要求した。
カミールは合鍵を持っているトレヴァーを呼び出し、レノラの部屋のドアを開けてもらった。カミールたちはレノラの部屋に入り、ベッドに謎の血文字を発見した。報告を受けたランドリーは、「警察に調べてもらう。この件は口外しないように」と告げた。ベサニーは図書館のパソコンを使い、1998年にアリシア・ケインという生徒が死んでいるという情報をカミールたちに知らせる。ネットに詳細な情報は掲載されていなかったが、ヘレナは当時のアルバムを発見した。アリシアが付けているネックレスは、ベッドの血文字と同じ形だった。ロズはシャワー中に浴室で殺害され、カミールが遺体を発見した。
ロズの死は転倒による事故として処理されるが、カミールやヘレナたちは納得しなかった。ベサニーが部屋に戻ると、仮面の人物が目の前に現れた。悲鳴を聞き付けたカミールやヘレナたちは、ベサニーの部屋に走った。しかし部屋を調べても誰もおらず、ベサニーから説明を聞いたランドリーは全く信じなかった。翌日、アリスはカミールたちを自習室へ集め、ロズの霊を呼び出す降霊会を開いた。「カミールに殺された」という文字をプランシットが示したため、アリスはカミールを殴り付けた。カミールが濡れ衣だと主張しても、アリスは聞く耳を貸さなかった。
イヴォンヌはアリスたちと別れた後、仮面の犯人に殺された。犯人はイヴォンヌのスマホを使ってアリスにメールを送り、寮の外へ呼び出した。カミールはアリスが外出するのを目撃し、気になって尾行しようとする。そこへ仮面の人物が現れ、カミールを殴って昏倒させた。一方、アリスも仮面の人物に殴られて意識を失った。カミールが目を覚ますと、図書室で椅子に縛られていた。彼女の隣には、気絶したアリスが拘束されていた。そこに犯人のベサニーとトレヴァーが現れ、仮面を外した…。

脚本&監督はサイモン・バレット、製作はジョン・ショーンフェルダー&ラッセル・アッカーマン&トーマス・“ダッチ”・デッカジ&アレックス・メイス&マシュー・ベイカー&アイザック・クレメンツ、製作総指揮はダリル・カッツ&クロエ・カッツ&ハル・サドフ&ピーター・ワトソン&マリー=ガブリエル・スチュワート&アンドレア・スカルソ&ダニエル・ネグレ&アダム・ウィンガード&フィリス・レイング&デヴァン・タワーズ&コンスタンス・L・ホイ、共同製作はジャスティン・ケリー&ケリー・ギャラガー、撮影はカリム・ハッセン、美術はマース・フィーヘリー、編集はジェームズ・ヴァンデウォーター、衣装はレスリー・カヴァナフ、音楽はシッカー・マン(Tobias Vethake)。
出演はスキ・ウォーターハウス、エラ=レイ・スミス、マリナ・スティーヴンソン・カー、マディセン・ベイティー、イナンナ・サーキス、シーマス・パターソン、ステファニー・シー、ジュリエット・アマラ、ジェイド・マイケル、メーガン・ベスト、クリフ・サムター、コリーン・ファーラン、レア・ミッチェル他。


ダーク・キャッスル・エンターテインメントが製作したホラー映画。
脚本&監督は『V/H/S ネクストレベル』のサイモン・バレット。
カミールを『ジョナサン -ふたつの顔の男-』『フューチャーワールド』のスキ・ウォーターハウス、ヘリナをTVドラマ『バッドランド〜最強の戦士〜』のエラ=レイ・スミスが演じている。
他に、ランドリーをマリナ・スティーヴンソン・カー、ベサニーをマディセン・ベイティー、アリスをイナンナ・サーキス、トレヴァーをシーマス・パターソン、イヴォンヌをステファニー・シー、ロザリンドをジュリエット・アマラ、レノラをジェイド・マイケル、ケリーをメーガン・ベストが演じている。

冒頭、アリスたちが脅かすために心霊現象の悪戯を仕掛けると、部屋に戻ったケリーが不審な死を遂げる。
アリスたちがカミールを脅かすための儀式を執り行うと、予定とは異なる怪奇現象が起きる。
そういう描写が続くんだから、普通に考えれば「実際に悪霊が現れ、次々に生徒たちを殺害していく」という風に思わせるべきだろう。
それが事実かどうかは問題じゃなくて、とにかく観客には「悪霊の仕業だ」と思わせるべきなのだ。

ところが、この映画は冒頭の段階で、「仮面を被った人物」を登場させてしまう。
図書室のシーンでも、やはり仮面の人物を登場させる。
そして止めを刺すように、仮面の人物がレノラを襲うシーンまで描いてしまう。
これによって、悪霊による怪奇現象ではなく人間の犯行であることがバレバレになってしまう。
「悪霊による犯行」としてのミスリードを狙っているはずのストーリーなのに、演出との間に大きなズレがあるのよ。

何度も仮面の人物を登場させるなら、オカルト方面でのミスリードなんて要らんよ。屁のツッパリにもならんよ。
最初から、悪霊じゃなくシリアルキラーに関する噂や言い伝えに言及して、そっち方面でのミスリードを狙った方がいいでしょ。
そこのやり方を間違えたせいで、仮面の人物が謎の連続殺人鬼だと誤解させることにさえ失敗している。
かなり早い段階で、「主要メンバーの中に犯人がいるんだろうな」ってことが読めてしまう。

そして「主要メンバーの中に犯人がいる」ってことが読めると、勘のいい人なら犯人まで辿り着くことも、そんなに難しくない。
まず電気が点滅した時にカミールの部屋に出現する女性の正体。
眼鏡を掛けており、一応は「ケリーの霊」だと思わせようとしている。でも悪霊は関係ないことが露呈しているので、そうなると同じく眼鏡を掛けているベサニーに疑いの目が向く。
ただし図書室で現れる仮面はベサニーじゃ無理だが、もっと怪しさの濃い人物がいる。
それはトレヴァーで、そこから「じゃあ共犯かな」という推理も成り立つ。

前述したように、レノラは仮面の人物にハッキリとした形で殺されている。それなのに、その後には「アリシアの悪霊による仕業かも」というミスリードまで狙いに行くので、バカバカしいとしか思えない。
劇中では仮面の犯人が何度も登場しているのに、それを生徒たちが「エデルヴァインの霊」として捉えている設定なんだけど、そこは無理があるのよ。
犯人が悪霊だったら、仮面で顔を隠す必要なんか無いだろうに。
そこを成立させたいのなら、せめて「アリシアが仮面で顔を隠す理由」を用意しないとダメでしょ。

カミールがオカルト的な悪夢を見て、怖がって目を覚ます描写が何度かある。オカルト・ホラー系の映画であれば、何も間違った演出ではない。表面的にはオカルト映画を装っているので、そういう意味でも間違いではない。
だけど、やっぱり間違いと言わざるを得ないのだ。
完全ネタバレになるが、カミールはカミールではない。彼女はケリーの幼馴染で、犯人捜索のためにカミールの素性を偽って潜入したのだ。
そんな設定であるなら、「ケリーを殺した犯人は学園の中にいる」と確信しているべきじゃないかと。
彼女が「悪霊の仕業かも」と不安を覚えるようなことになるのは、キャラの動かし方として大いに疑問を覚える。

ベサニーが部屋で仮面の人物を目撃し、悲鳴を上げるのは、アンフェアなミスリードになっている。
粗筋の最後に触れたように、ベサニーは犯人の1人なのだ。だから彼女の部屋に現れたのは、もちろんトレヴァーだ。
でも、トレヴァーが仮面でベサニーを脅かす意味なんて全く無いわけで。もしもベサニーが「自分が疑われないように、仮面の霊に狙われたと周囲の人間に思い込ませる」という狙いがあったとしても、実際にトレヴァーが仮面姿で部屋に出現する必要は無いし。
だから、そこは観客を欺くためだけに用意されたシーンであり、全く整合性が取れていない。

早い段階で「悪霊の仕業」というミスリードは完全に破綻しているが、そういう方向で話を進めている以上、そこを徹底するしか無いはずだ。
ところが、ロズを呼び出す降霊会ではプロシェットが「カミールに殺された」という文字を書く。
これによって、「その降霊会に参加している生徒の中に、プロシェットを動かしている人物がいる」ってことはバレバレになってしまう。そうなると、おのずと「そいつが犯人」ってこともバレバレになるでしょ。
ミステリーとしてもホラーとしても、方針がブレブレでグダグダだぞ。

カミールが何の手掛かりも得られないまま、観客に謎解きの手順も与えないまま、ベサニーとトレヴァーは犯人としての本性を現す。
2人は積極的に犯行の経緯や動機をベラベラと喋り、安っぽい2時間サスペンスドラマのような終盤になっている。
ちなみに、動機はベサニーが「ケリーの論文を盗作した証拠隠滅のため」で、トレヴァーは「イカれた快楽殺人鬼」ってことになっている。
この両名がカップルで、楽しく殺人を重ねていたという設定だ。

で、最後は一応、カミールによる復讐劇になっている。ただ、復讐劇としても中途半端だ。
捕まったカミールは余裕のある態度を示すが、何か逆転の作戦を用意しているのかと思ったら、都合良く駆け付けたヘレナにピンチを救ってもらうだけ。
そこからは一気にベサニーとトレヴァーを始末するまで畳み掛ければいいのに、「瓦礫が頭に命中して失神」という手順を挟む。変なタイミングで、要らないギャグが入るのだ。
それは「恐怖と笑いは紙一重」ってのとは、まるで別の問題だぞ。
最初から最後まで徹底してホラー・コメディーに振り切っているならともかく、そういうことでもないんだし。

(観賞日:2023年3月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会